無言の跳躍27
無言の跳躍・観測者たちの海編
無数の視線が[レグルス]を見ていた
ユナは動けなかった
恐怖ではない
規模が違いすぎて感覚そのものが追い付かない
まるで、自分たちが初めて物語の内側だと気づいてしまったみたいだった
暗黒宇宙の彼方
そこには無数の巨大な存在が漂っていた
形は定まらない
星雲のようなもの
光の海
数学式そのものに見える存在
共通しているのは一つ
宇宙を見ている
それだけで多宇宙構造が微かに揺れていた
[レグルス]艦内で警報が鳴り響く
[現実固定率低下]
[存在境界不安定]
乗組員たちの輪郭が揺らぎ始める
観測される側として認識されたことで逆に自分たちの観測優位が崩れ始めている
直哉が歯を食いしばる
「こっちが観測されてる!」
最初の観測者が静かに頷く
[彼らは外側の存在だ]
ユナが震える声で聞く
「外側って…」
[我々の宇宙群すべてを一つの減少として観測している]
つまり、自分たちにとって宇宙が、彼らにとっては水槽のようなもの
ユナの背筋が寒くなる
その時、一つの視線が[レグナス]に向けられた
ユナの意識が引き剝がされる
彼女は別の場所に立っていた
白い空間、床も天井もない
そこに一つの存在がいる
人型に近い、だが輪郭は星々でできている
その存在は静かにユナを見る
[小さな観測者]
声ですらない
でも不思議と怖くなかった
ユナは恐る恐る聞く
「あなたたちは何なんですか」
存在は少し沈黙した後、答えた
[我々は可能性の観測者]
ユナには難しかった
存在は続ける
[宇宙は無限に生まれる]
周囲に無限の宇宙像が広がる
[だが多くは孤立し、閉じ、死ぬ]
共有観測が成立しなかった宇宙たち
ユナは息を呑む
[お前たちの宇宙は極めて稀だ]
存在の視線が文明リンクに向く
[孤独を越え始めている]
ユナは少し迷ってから聞いた
「監視してるんですか?」
存在は否定しなかった
[見届けている]
「なんで?」
長い沈黙の後
[興味]
直哉は「最悪な理由だな」と言いそうだった
ユナは少し笑いそうになる
その時、存在の周囲で一つの宇宙が崩壊した
泡のように弾ける
ユナの顔色が変わる
存在は静かに言う
[観測不足]
「助けないんですか」
[干渉は可能性を固定する]
ユナは理解する
彼らは観測者、だが共有観測者ではない
距離をとることで多宇宙全体の可能性を守っている
だから直接は救わない
ユナは文明リンクを思い出す
誰かが誰かを支えていた光
玲奈たちが繋いだ宇宙
彼女はゆっくり言った
「でも、見てるだけじゃ届かない未来もあります」
存在の星々が微かに揺れる
ユナは続ける
「私たち何回も失敗しました」
虚無潮
宇宙崩壊
文明消失
「でも、一緒に悩んだからここまで来れた」
文明リンクが彼女に背後で輝く
存在は長く沈黙した
その時、多宇宙全域に異常波が走った
最初に観測者の声が響く
[ユナ、戻れ!]
白い空間が揺れる
存在が空を見上げる
[来る]
ユナが振り返る
そこには何もなかった
いや、何もないことそのものが迫ってきていた
完全空白、虚無ですらない
観測不可能
存在不可能
多宇宙規模の無
存在の星々が初めて強く揺らぐ
[外側の終焉]
ユナの血が凍る
宇宙の終わりではない
多宇宙そのものの終わり
可能性全体の消失
文明リンクが激しく明減する
[レグルス]からの直哉の声
「ユナ!」
無数の文明たちの声
暖かい
確かな繋がり
その光を見て観測者存在が静かに呟く
[…なるほど]
ユナは顔を上げる
存在は文明リンクを見つめていた
[孤立しない観測]
その声には初めて微かな感情が混じっていた
驚き、あるいは羨望
そして無数の外側の観測者たちが一斉に文明リンクへ視線を向ける
多宇宙が震える
ユナは息を呑む
最初の観測者が遠くで静かに言った
[始まるぞ]
「何が?」
[初めての外宇宙との共有観測が]




