無言の跳躍26
無言の跳躍・多宇宙航路編
外宇宙門が開いてから三年
共有観測宇宙は新しい時代へ入っていた
[多宇宙航路時代]
門の向こうには無数の宇宙が存在していた
物理法則が異なる宇宙
時間が逆流する宇宙
生命が光として進化した宇宙
そして、すでに滅びた宇宙も
最初、共有観測連盟は門の封鎖を検討した
危険すぎるからだ
未知の法則
観測汚染
現実侵食
一歩間違えば宇宙そのものが崩壊しかねない
だが、結局人類と多くの文明は進むことを選んだ
いつものように
怖がりながら
失敗しながら
銀河中心[星海中央港]
ユナは巨大な多宇宙航行艦を見上げていた
艦名は[レグルス]
全長三十キロ
文明連盟初の多宇宙航路探査艦
艦体表面には無数の文明紋章が刻まれている
人類だけの船ではない
共有観測宇宙そのものの船だ
「顔が完全に遠足前だな」
直哉が隣で呆れる
ユナは笑う
「人生最大の遠足ですよ」
「宇宙の外に行く遠足なんて聞いたことがない」
「じゃあ初めてです」
そのやり取りを異星乗組員たちが興味深そうに見ている
最近では人類の軽口文化が微妙に広まり始めていた
特に悪影響として
出航前ブリーフィング
議場中央には多宇宙構造図が映し出される
泡状宇宙群
その外側にはさらに巨大な暗黒領域
ユナは息を呑む
「宇宙ってこんなにあるんだ」
最初の観測者が静かに言う
[これでも観測できている範囲だけだ]
会場が静まる
つまり外側はまだ続いている
どこまでも
アシュレイの子孫代表が口を開く
「今回の目的は探査だけではありません」
星図の一部が赤く染まる
[消失宇宙群]
ユナの顔色が変わる
そこでは宇宙祖者もが崩壊し続けていた
共有観測が成立しなかった宇宙たち
孤立し、固定化し、やがて可能性を失った宇宙
直哉が低く呟く
「墓場みたいだな」
その時、共有回線へ静かな波が広がる
ユナは振り返る
観測層からの接続
淡い光の人影
直人が立っていた
以前よりさらに輪郭が薄い
もう半分以上宇宙法則側の存在になっている
だが声は変わらない
[気をつけろ]
ユナは笑う
「はい」
[外宇宙は観測そのものが通用しない領域もある]
直哉が眉をひそめる
「観測できない?」
[存在しても存在として固定されない]
ユナは少し震える
つまり、自分が自分でなくなる可能性
だが直人は続けた
[だから一人で行くな]
文明リンクが艦内へ広がる
乗組員同士
文明同士
互いの存在を支えあう共有観測網
ユナはその暖かさを感じる
怖い、でも、孤独じゃない
そして出航
[レグルス]の巨大リングが回転を始める
門の向こう
外宇宙航路
未知の宇宙群
ユナは操縦席で深呼吸する
「準備完了」
各文明乗組員からの応答
「重力同期完了」
「夢位相接続正常」
「感情翻訳問題なし」
そして最後に直哉
「人類側いつでも無茶できる」
ユナは吹き出す
「それ報告としてどうなんですか」
[レグルス]が門へ突入する
宇宙が裏返った
色が反転し時間が波になる
ユナは叫びそうになった
だが文明リンクが彼女を支える
誰かの存在が自分を現実に固定している
その時、窓の外に別の宇宙が見えた
海だけの宇宙
結晶でできた銀河
音楽として存在する星々
ユナは涙が出そうになる
「綺麗」
だが、その宇宙群のさらに奥、暗黒の中で何かが動いた
比較にならないほど巨大
そして、文明リンクが一斉に警告を発する
[未定義観測反応]
最初の観測者の顔色が初めて変わった
[まさか…]
ユナが震える声で聞く
「なんですか」
最初の観測者は暗黒を見つめたまま静かに答えた
[観測する側だ]
次の瞬間、暗黒の向こうで無数の光が一斉にこちらを見た
まるで、人類たちの宇宙をずっと昔から眺めていた存在たちのように




