無言の跳躍25
無言の跳躍・外宇宙門編
それが目を開いた瞬間
宇宙そのものが一度だけ静止した
時間ではない
観測が止まったのだ
文明リンクが沈黙する
星々の瞬きが消える
ユナは息ができなかった
見てはいけない
本能が叫んでいる
だが視線を外せない
暗黒の向こう
目だけが存在していた
恒星より巨大
銀河より深い黒
その周囲では物理法則そのものが崩れている
空間が打つ側へ折れ曲がり時間が液体みたいに滴っていた
直哉が膝をつく
「なんだ…あれは…」
最初の観測者は静かだった
だがその声に初めて緊張が混じる
[外宇宙存在]
ユナが震える声で聞く
「外宇宙…?」
[我々の宇宙、その外側から観測している存在]
ユナの脳が理解を拒否する
宇宙の外から宇宙を観測している
その時目がこちらを見た
そしてユナの意識へ膨大な映像が流れ込む
生まれては消える宇宙群
無数のビックバン
滅びる法則
死んでいく時間
そして、数えきれない失敗した宇宙
ユナは悲鳴を上げそうになる
あれは文明ではない
もっと根源的な何か
宇宙を試行している存在
[観測確認]
声が響く、いや概念そのものが脳に刻まれる
[共有観測宇宙]
最初の観測者が前に出る
[干渉を拒否する]
目が瞬く
[理由]
最初の観測者が静かに答えた
[この宇宙は自ら未来を選び始めた]
ユナは息を呑む
外宇宙存在はしばらく沈黙した後
[不安定]
直哉が苦笑する
「それ、よく言われるな」
ユナも少し笑いそうになる
不思議だった恐怖で震えているのに
誰かと一緒だと怖さが少しだけ減る
だが次の瞬間
目の周囲で無数の宇宙が砕け散った
ユナの顔色が変わる
[不安定宇宙は高確率で崩壊する]
最初の観測者は黙る
反論できない
共有観測宇宙も何度となく崩壊しかけた
虚無潮
観測容量限界
文明戦争
偶然生き延びただけかもしれない
その時文明リンクが再び脈動した
遠い共有観測宇宙全域から光が流れ込む
人類
エリュシオン
無数の文明たち
ユナの端末へ膨大な回線が接続される
主任の声
「ユナ!生きてる!?」
汐里の子孫世代
「そっち何がいるの!?」
暖かい無数の声
ユナは涙が出そうになる
宇宙の果てでも自分は孤独じゃない
その光景を目が見ていた
[…奇妙]
最初の観測者が静かに言う
[それが共有観測だ]
[脆弱、非効率]
[そうだ、だが]
最初の観測者は文明リンクを見上げる
[一人では見られない未来がある]
ユナは胸が熱くなる
それは玲奈たちが何度も言ってきたこと
未来は一人で固定するものじゃない
繋がりながら選ぶもの
目が静かに瞬いた
すると暗黒宇宙の奥で巨大な門が開き始める
ユナが息を呑む
門の向こうにはさらに別の宇宙群が見えていた
泡のように漂う宇宙たち
外宇宙
最初の観測者が低く言う
[門を開けばこちら側へ干渉が始まる]
直哉が顔を青くする
「止められないのか」
[完全には不可能]
最初の観測者はユナを見る
[だが、選択はできる]
ユナは目を見開く
[閉じた宇宙として恐怖に震えるか]
門の向こうで無数の視線がこちらを見ている
未知、理解不能、ものすごく怖い
でも、ユナは文明リンクを見た
背後にいる無数の誰か
繋がり続ける光
彼女は深く息を吸った
そして笑う
「知りたいです」
直哉が苦笑する
「やっぱりそう言うか」
ユナは頷く
「怖いですけど」
彼女は門を見る
宇宙の外、さらにその先
「未来があるなら見てみたい」
しばらくの沈黙
そして、目がほんの少しだけ細められた気がした
まるで笑ったみたいに




