無言の跳躍24
無言の跳躍・未踏光域編
ユナの小型航行艇[リゲル]は銀河外縁を越えていた
ここから先は正式な航路すら存在しない
文明リンクも薄い
背後に見える銀河は巨大な光の渦となって遠ざかっていく
ユナは操縦席で静かに息を吐いた
「本当に来ちゃった」
通信席では直哉が呆れた顔をしている
「新人の初任務じゃないぞ、これ」
結局、彼も同行することになった
理由は単純
「古い時代の観測事故知識が役立つかもしれないから」
だがユナは知っている
本当は彼自身も未来を見たくなったのだ
[リゲル]内部は小さい
二人用
最低限の観測設備と共有リンク中継器だけ
でもユナはこの船が好きだった
窓の外に宇宙が近いから
文明中心部では星が多すぎる
ここは静かだ
孤独ですら美しい
数日後
異常が発生した
観測機器が存在しないはずの波形を検知する
ユナが眉をひそめる
「…え?」
直哉が振り返る
「どうした」
「文明リンク反応です」
「こんな場所に?」
ユナがゆっくり頷く
銀河外未踏領域
本来なら観測文明圏外
つまり誰も見ていないはずの宇宙
なのに、そこに光がある
二人は息を呑む
暗黒の宇宙の中
遠く微かに線が見える
文明リンク
しかも古い
共有観測宇宙成立以前に近い波形
直哉が青ざめる
「あり得ない」
ユナが静かに言った
「誰かがもっと前からいた?」
[リゲル]は慎重に接近する
やがて暗黒の向こうから構造物が姿を現した
巨大、惑星サイズ
黒いリングが幾重にも重なりその中心に白い恒星が封じ込められている
そして構造体全体に古い文明リンクが張り巡らされていた
まるで、宇宙の灯台
ユナは背筋が震える
「これ…観測施設?」
直哉が呆然と呟く
「いや…」
彼は記録映像を見たことがあった
旧TIME ZERO極秘資料
断片だけ残っていた失われた仮説
「[第一灯台]…」
ユナが振り返る
「知ってるんですか?」
直哉は震える声で答えた
「共有観測理論の原型だ」
その瞬間、構造体全体が発光した
通信
だが音声ではない
直接意識へ流れ込む
[到達確認]
ユナの視界に無数の記憶が流れる
古代宇宙
まだ文明がほとんど存在しない時代
孤独だった宇宙
その中で一つの文明が気付いた
孤立した現実は、やがて死ぬ
だから彼らは宇宙に灯台を建てた
誰かが誰かを観測できるように
未来が完全に消えないように
ユナは涙を浮かべる
「最初の共有観測文明」
直哉の言葉を失っている
彼らは人類より遥か昔に同じ結論にたどり着いていた
だが、最後の映像でその文明は消えていく
理由は分からない
ただ最後に一つの記録だけが残されていた
[次の文明に託す]
構造体中心が開く
白い光
そしてその奥に人影が立っていた
ユナの呼吸が止まる
黒いコート、静かな目
直人…ではない
もっと古い
でもどこか似ている
存在はゆっくり言った
[観測継承者を確認]
ユナは震える声で聞く
「あなたは誰?」
存在は少し沈黙した後、答える
[最初の観測者]
宇宙が静まり返る
直哉すら息を呑む
存在は続けた
[お前たちはよくここまで未来を繋いだ]
ユナは胸が熱くなる
褒められた気がした
遠い過去から
宇宙に始まり近くから
その時、構造体全体へ警報が響いた
白い恒星が揺れる
存在が空を見上げる
[来たか]
ユナが振り返る
暗黒宇宙の向こうで何かが動いている
銀河より大きい影
だが虚無ではない、もっと異質
そして文明リンクがその存在を認識できていない
ユナの前身が冷える
「観測できない?」
最初の観測者が静かに言った
[宇宙の外側だ]
ユナの思考が止まる
宇宙の、外
存在はゆっくりと振り返る
[未来はまだ先がある]
その瞬間、暗黒の彼方で何かが目を開いた




