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無言の跳躍29



 無言の跳躍・観測樹編(最終話)


新しい宇宙の種が生まれてから長い時間が流れた

どれほど経ったのか、もう正確に数える者はいない

共有観測が多宇宙規模に広がったことで時間そのものの意味が変わり始めていたからだ

ある宇宙では数億年

別の宇宙では数秒

それでも文明たちは繋がり続けていた


かつて泡のように孤立していた宇宙群は、今では巨大な光の構造体に変化している


[観測樹]


そう呼ばれていた

その中心には最初に共有観測宇宙が生んだ種宇宙

そこから枝分かれするように新しい宇宙が生まれ繋がり広がっていく

一本の樹木のように

そしてその根は外側まで伸び始めていた


ユナはその光景を見上げていた

彼女はもう人間ではなかった

多宇宙共有層へ長く接続し続けた存在は少しずつ現実構造へ溶け込んでいく

玲奈

直人

最初の観測者

彼らと同じように

ユナもまた境界存在になり始めていた

それでも彼女は自分をユナだと思っている

それが共有観測

誰かが覚えている限り自分は自分でいられる


観測樹の枝先では新しい宇宙が瞬いている

まだ幼い宇宙

法則が不安定で星も少ない

だが、一つ一つへ文明リンクが伸びていた

外観測者たちも今では接続している

完全な傍観者ではなくなった

少しだけ、ほんの少しだけ一緒に未来を見る存在に変わり始めていた


その時、観測樹全体に静かな揺れが走る


ユナは顔を上げる


遠く、枝の先端

まだ誰も到達したことがない領域

そこに暗闇があった

だが以前の終焉とは違う

もっと静か

もっと深い

そして、どこか懐かしい


ユナの隣に光の人影が現れる

直人

今の彼はもはや輪郭さえ曖昧だ

星々と区別がつかない

それでもユナには分かる

「あれ、なんだと思います?」


直人はしばらく黙っていた

やがて静かに言う

[まだ観測されていない未来だ]


ユナは少し笑う

「未来なのに暗いんですね」


[誰も見ていないからな]


昔なら怖かったかもしれない

未知

未観測

孤独

でも今のユナは、その暗闇を見て胸が高鳴っていた

「行ってみたい」


直人が彼女を見る

[危険だぞ]


「知ってます」


[戻れないかもしれない]


ユナは少し考える

そして笑った

「でも誰かが最初に見るんでしょ?」


直人がほんの少し笑った気がした

昔、玲奈へ向けた笑い方に似ていた


その時、文明リンク全域に小さな波が広がる

無数の文明たち

多宇宙

外側観測者

彼らがユナの視線の先を共有する

誰もまだ知らない暗闇

未観測未来領域

そこにはまだ何もない

あるのは、何かが待っている


ユナはゆっくり前に進む

観測樹の枝先

光が届かない境界

後ろでは無数の文明リンクが輝いている

暖かい

孤独じゃない

だから、彼女は恐れながらも未知へ手を伸ばせる


暗闇の奥で微かの何かが瞬いた

星ではない

宇宙でもない

もっと始まりに近い何か


ユナは息を呑む

そして小さく笑った

「…未来、増えるんだ」

背後で文明リンクが静かに脈動する

誰かが誰かを見ている光

その繋がりはもう、一つの宇宙だけでは終わらない


どこまでも


終わりなく


可能性の続くその先へ


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