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無言の跳躍18


 無言の跳躍・深宇宙連盟編


人類が[エリュシオン]と接触してから七年

宇宙は想像していたよりもずっと騒がしかった

文明は無数に存在していた

機械へ完全移行した種族

海洋だけで進化した集合知性

夢を媒体に通信する文明

恒星内部に住む発光生命

そして彼らの多くが、同じ問題に直面していた

[観測容量限界]

宇宙が、未来を保持しきれなくなり始めている


共有観測局は今や[深宇宙共有連盟]に変わっていた

加盟文明は二十三

中心拠点は土星軌道上に建造された巨大観測都市[カシオペア]

直径三百キロ

都市そのものが観測増幅装置となっている

玲奈はその中心区画[星海議場]を歩いていた

周囲には異性文明たち

重力場で会話する種族

液体生命

光の群体

昔の自分なら卒倒していた

今はほんの少しだけ慣れた


「顔疲れてますよ」


玲奈が振り向く


アシュレイが立っていた

相変わらず人型だが、以前より体の透明度が増している

害宇宙航行者特有の観測希薄化

長距離観測航行を繰り返すほど、存在が現実から薄れていく


玲奈は苦笑した

「宇宙規模の会議は胃に悪い」


「胃あるんですね」


「失礼だな」


二人は少し笑う


その様子を見ていた汐里が呆れた顔をする

「人類代表と異星代表の雑談に見えないんだけど」


議場中央では、巨大な星図が展開されていた

銀河群、その一部が黒く欠けている

観測喪失領域

以前より拡大していた

玲奈は表情を引き締める

「増えてる」


アシュレイも頷く

「三十七文明が消失しました」


数字が重い

文明単位の死

星ごと、歴史が消えている


その時、議場全体に低い震動が走った


全員が顔を上げる


直人が静かに呟く

「来る」


空間が裂ける

だが今までの観測扉とは違う

裂けめの向こうに何もない

星も

光も

時間も

ただの空白

見ているだけで脳が拒絶する

複数文明代表が苦しみ始める

観測不能領域


玲奈の背筋が凍る


「あれが…」

アシュレイが低く言った


[虚無潮]


空白の奥から声が響く

いや、音ですらない

存在否定そのもの


[観測過多]


宇宙が軋む


[可能性過剰]


星図の一部が一瞬で文明ごと消える

議場が凍りつく


[現実保持限界]


玲奈は歯を食いしばる

これは敵ではない

宇宙そのものの防衛反応

観測が増えすぎたことで、現実が自己圧縮を始めている


汐里が震える声で言う

「どうすればいいの」


誰も答えられない


固定文明化すれば可能性は減る

だが自由は死ぬ

完全自由化すれば宇宙が壊れる


その時、直人が静かに前へ出た


玲奈が顔を上げる

「直人?」


彼の輪郭は以前よりさらに薄い

もう半分以上、観測層側に移行している

直人は虚無潮を見つめる

そして言った

「方法は一つだけある」


全員が彼を見る


「宇宙全体を共有観測化する」


しばらくの沈黙


玲奈が絶句する

「…正気?」


アシュレイすら目を見開いている


共有観測は人類規模でも奇跡的に成立した技術だ

それを全宇宙で?

文明数は兆単位、不可能だ


だが直人は静かだった

「固定でも自由でも限界が来る」


空白がさらに広がる

[削減開始]

遠くの銀河が消える


玲奈の胸が痛む


直人は続ける

「なら、繋がるしかない」


汐里が呟く

「文明同士を…?」


「観測を共有する」

直人の瞳の時計盤が静かに回転する

「互いを現実として支えあう」


玲奈は理解し始める

単一文明では宇宙を支えきれない

なら、文明同士が互いを観測しあえばいい

孤立した現実ではなく、連結された現実網


アシュレイが震える声で言った

「そんなことが可能なら…」


直人は少し笑う

「前例はある」


全員の視線が玲奈に向く


玲奈は目を丸くする

「また人類?」


「お前たちが最初だ」


玲奈が頭を抱える

「ほんと迷惑な種族」


汐里が笑う

「今さら?」


虚無潮が迫る

星々が消える

時間が削れていく


玲奈は空白を見つめた

怖い、宇宙規模の未知

でも、人類はずっとそうだった

火を恐れながら使った

海を恐れながら渡った

宇宙を恐れながら飛び出した

なら、今度は宇宙そのものへ手を伸ばす番だ

玲奈はゆっくりと前に出る

「やろう」


議場が静まる


玲奈は異星文明たちを見回した

「失敗するかもしれない」

空白が軋む

「でも、誰かを消すよりはいい」


アシュレイが笑う

「人類らしい答えですね」


玲奈は苦笑する

「誉め言葉として受け取っとく」


そして、人類と異星文明たちは

宇宙そのものを繋ぐための前代未聞の計画を開始した

後にそれは、こう呼ばれる

[星海共有計画]

宇宙史上初めて、文明たちが一緒に未来を見ることを選んだ



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