無言の跳躍13
無言の跳躍・最終観測編
東京の夜空に開いた扉は、星空そのものを押し広げるように拡大していた
黒い、だが単なる闇ではない
その奥では無数の宇宙が脈動している
銀河
崩壊する世界
誕生する文明
そしてその全てを見下ろす巨大な光
観測評議会
玲奈は直感する
あれは国家ではない
文明ですらない
観測という概念そのものに近い存在群
[対象文明:人類]
声は空から響く
だが耳ではなく、世界そのものが振動している
[不安定共有観測文明]
[宇宙観測網へ重大な影響を確認]
世界中の人々が空を見上げていた
いや、地球だけではない
月
火星
軌道都市
人類圏全体へ、その声が届いている
汐里が震える声で言った
「最終観測審査って…」
直人が答える
「文明存続判定だ」
玲奈の背筋が凍る
「落第したら?」
直人は沈黙した、その沈黙が答えだった
扉の奥から巨大な構造物が現れた
それは生物にも機械にも見えなかった
都市ほどの巨大なリングが幾重にも回転し、その中心に目のような光が浮かぶ
そして周囲には、無数の観測者たち
固定された文明
機械化した文明
純粋情報生命体
様々な姿、だが共通していた
どの存在も迷いを捨てている
玲奈は苦しくなった
人間だけだ、こんなにも不完全なのは
[質問を開始]
世界が静止する
風が止まり、波が止まり、都市の光ですら固定される
評議会は人類そのものを見ている
[対象文明へ確認,何故固定を拒む]
しばらくの静寂
玲奈は空を見上げる
答えなけれなならない
人類代表として
でも、そんな資格が自分にあるのか
その時
世界共通回線へ無数の感情が流れ込んできた
誰かが回線を開いている
玲奈は気づく
汐里だった
「一人で背負わせない、共有観測者なんでしょ」
次々と回線がつながる
地球から
火星から
月から
軌道都市から
無数の人々
怒ってる人
泣いてる人
怖がってる人
そして、生きたいと思ってる人
玲奈は息を呑む
まただ、あの日と同じ、人類が互いを見始めている
評議会の声
[集団同期率上昇]
[危険性確認]
直人が小さく笑った
「相変わらず嫌われているな、人類」
玲奈も少し笑った
「面倒くさいもん」
そして彼女は空に向かって言った
「固定を拒む理由?」
玲奈は世界中から流れ込む感情を感じる
愛
怒り
嫉妬
希望
矛盾だらけ、でも
「私たち、完成してないから」
評議会が沈黙する
玲奈は続けた
「間違えるし、争うし、壊すこともある」
空の巨大な目が静かに玲奈を見ている
「でも」
玲奈は世界中の意識を感じながら言う
「誰かに完成形を決められたら、もう未来じゃない」
汐里が笑う
直人は目を閉じる
玲奈は空へ手を伸ばした
「不安定でも自分たちで変わりたい」
長い沈黙
宇宙そのものが考えているみたいだった
やがて評議会が告げる
[非効率]
玲奈が笑う
「知ってる」
[高確率で自壊]
「それでも」
[苦痛発生率増大]
「うん」
玲奈が涙を浮かべる
「でも、嬉しいこともあるから」
すると突然、世界共有回線の中から一つの感情が強く浮かび上がった
小さな子供
「明日が楽しみ」
その感情に世界中の人々の感情が重なる
帰りたい
生きたい
好きな人に会いたい
まだ終わりたくない
無数の願い
評議会の巨大リングが、ゆっくり回転を始める
[観測不能因子を確認]
直人が静かに呟く
「感情だ」
評議会は続ける
[対象文明:人類]
[分類更新]
宇宙が震える
[予測不能共有進化文明]
汐里が息を呑む
玲奈は空を見上げたまま動けない
そして、評議会は最後の勧告を下した
[継続観測対象として存続を許可]
世界中の人々が息を呑む
[ただし]
巨大な目が玲奈を見る
[人類へ観測責任を付与]
玲奈の瞳の時計盤が強く光る
[共有観測者・玲奈]
[文明代表観測核として登録]
玲奈は苦笑した
「責任重大すぎる」
直人が隣で笑う
「向いてないな」
「あなたもね」
そして、評議会の巨大扉が閉じ始める
宇宙の向こうへ去っていく観測文明群
最後に声だけが残った
[観測を続けよ]
夜空が元に戻る、静かな星空
世界中で人々がゆっくり空を見上げていた
未来はまだ決まってない
だからこそ
人類はまだ進める




