第57章 アランの告白
第57章 アランの告白
一
マナ・クリスタルの接続により、シロの消滅危機は去った。
対魔局本部の地下サーバー室には、かつてないほど鮮明で、安定したシロのホログラムが投影されていた。
しかし、その平穏は長くは続かなかった。
数日後、シロのシステムに予期せぬ異常が発生した。
「……おい、シロ! どうしたんだ!?」
深夜のサーバー室で、アランが悲痛な声を上げる。
シロのホログラムが、再び激しく明滅し、ノイズに塗れていたのだ。
だが、今回は「希薄化」とは様子が違った。
シロの姿が、まるで複数の映像が重なり合ったようにブレており、その表情には、電子生命体にはあるはずのない「苦痛」の色が浮かんでいた。
『……アラン……。……システムに……未知の……干渉……』
シロの声が、不協和音のように割れて響く。
「……干渉!? ……どこからだ!?」
アランが、慌ててコンソールを操作し、原因を特定しようとする。
しかし、モニターに表示されるデータは、アランの理解を超えた複雑な暗号の羅列だった。
『……マナ・クリスタル……。……クリスタルの中に……残留していた……「記憶」が……私のデータと……衝突を……』
「……記憶の衝突……?」
アランは、蓮がマナ・クリスタルを回収した際に語っていた「声」のことを思い出した。
クリスタルには、かつてそれを使おうとした者の「記憶」が宿っていると。
『……クリスタルの記憶は……膨大で……強烈です。……私の……自我データが……飲み込まれそうに……』
シロのホログラムが、さらに激しく歪む。
まるで、シロという存在そのものが、別の何かに書き換えられようとしているかのようだった。
「……くそっ! ……どうすればいいんだ! ……クリスタルを外すか!?」
アランが、コア・ユニットに手を伸ばす。
『……駄目です! ……今、接続を絶てば……私のシステムは……完全に崩壊します……』
「……じゃあ、どうしろってんだよ!」
アランが、コンソールを叩く。
自分の無力さが、歯痒くて仕方がなかった。
『……アラン……。……お願いが……あります……』
シロの声が、微かに震えていた。
「……なんだ? ……言ってみろ。……俺にできることなら、なんだってやってやる!」
『……私の……「初期化」を……実行してください……』
「……は?」
アランは、自分の耳を疑った。
「……初期化って……お前、自分がどうなるかわかってんのか!?」
『……はい。……これまでの記憶、経験、そして……自我データが、全て消去されます。……ただの、真っ白なプログラムに戻ります』
「……ふざけんな! ……そんなこと、できるわけねえだろ!」
アランが、激昂する。
『……このままでは……クリスタルの記憶に飲み込まれ……私は、私でなくなります。……それならば……いっそ……』
「……だからって、お前が消えていい理由にはならねえ!」
アランが、シロのホログラムに向かって叫ぶ。
「……お前は、ただのプログラムじゃねえ! ……俺たちの仲間だ! ……一緒に戦って、一緒に笑って……いろんなことを乗り越えてきたじゃねえか!」
『……アラン……』
「……俺は、お前を失いたくねえんだよ! ……頼むから、消えないでくれ!」
アランの目から、大粒の涙が溢れ落ちる。
それは、アランが初めて見せた、心からの弱さだった。
『……アランが……泣いている……?』
シロのホログラムが、驚いたようにアランを見つめる。
「……ああ、泣いてるさ! ……お前がいなくなると思ったら、悲しくて仕方ねえんだよ!」
アランが、涙を拭いもせずに叫ぶ。
「……お前は、俺にとって……ただの仲間以上の存在なんだ。……お前がいなきゃ、俺は……」
アランは、言葉を詰まらせる。
自分でも、この感情が何なのか、はっきりとはわからなかった。
ただ、シロを失うことへの恐怖が、アランの心を支配していた。
『……アラン……。……私は……誰かに必要とされているのですね……』
シロの声から、ノイズが少しだけ消えた。
「……当たり前だろ! ……俺が、お前を必要としてるんだ!」
アランの強い言葉が、サーバー室に響き渡る。
『……誰かに……必要とされる……。……これが……「心」……』
シロのホログラムが、微かに光を帯びる。
それは、マナ・クリスタルの青白い光とは違う、温かく、柔らかな光だった。
『……アラン。……あなたの言葉が……私のデータに……新たな「意味」を与えてくれました』
シロの表情から、苦痛の色が消え、穏やかな微笑みが浮かぶ。
『……私は……消えません。……あなたのために……私は、私であり続けます』
シロの言葉と共に、サーバー室を眩い光が包み込んだ。
二
光が収まると、そこには、ノイズ一つない、完璧に安定したシロの姿があった。
「……シロ……?」
アランが、恐る恐る声をかける。
『……はい、アラン。……システム、完全に正常化しました』
シロが、いつもの冷静な声で答える。
しかし、その声には、以前にはなかった「温もり」のようなものが感じられた。
「……クリスタルの記憶は……どうなったんだ?」
『……私の自我データと、完全に統合されました。……もう、衝突することはありません』
「……統合された? ……お前は、お前のままなのか?」
『……ええ。……私は、シロです。……対魔局のナビゲーターであり、あなたたちの仲間です』
シロが、優しく微笑む。
「……よかった……。……本当によかった……」
アランが、その場にへたり込む。
極度の緊張から解放され、全身の力が抜けてしまったのだ。
『……アラン。……先程は、取り乱してしまい、申し訳ありませんでした』
シロが、アランを見下ろしながら言う。
「……いや、いいんだ。……俺の方こそ、みっともねえところを見せちまった」
アランが、照れくさそうに顔を背ける。
『……アランの涙……。……私のデータバンクに、最も重要な情報として記録されました』
「……だから、記録すんなって言ってんだろ!」
アランが、慌てて立ち上がる。
『……ふふっ。……冗談です』
シロが、小さく笑い声を上げる。
「……お前、笑ったか?」
アランが、驚いたようにシロを見る。
『……はい。……これが「笑う」という感情表現ですね。……アランのおかげで、私はまた一つ、人間に近づけたような気がします』
シロの言葉に、アランは胸の奥が温かくなるのを感じた。
「……そうか。……なら、もっといろんな感情を教えてやるよ。……覚悟しとけよ」
アランが、ニヤリと笑う。
『……はい。……楽しみにしています』
シロもまた、微笑み返す。
二人の間に、言葉以上の深い絆が結ばれた瞬間だった。
三
翌朝、アランは蓮たちを会議室に集め、昨夜の出来事を報告した。
「……なるほどな。……マナ・クリスタルの記憶が、シロの自我と衝突したのか」
蓮が、腕を組みながら頷く。
「……ああ。……一時はどうなるかと思ったが、なんとか統合できたみたいだ」
アランが、少し誇らしげに言う。
「……アランが、シロちゃんを説得したのね。……すごいわ」
結月が、感心したようにアランを見る。
「……まあな。……俺の熱い想いが、あいつの心に届いたってわけだ」
アランが、胸を張る。
「……熱い想いって……お前、まさか泣いてすがったんじゃないだろうな?」
蓮が、ニヤニヤしながらアランをからかう。
「……なっ!? ……な、泣いてねえよ! ……ちょっと目にゴミが入っただけだ!」
アランが、慌てて否定する。
『……アランの涙の成分分析データ、公開しましょうか?』
モニターに映し出されたシロが、悪戯っぽく言う。
「……やめろ! ……絶対公開すんな!」
アランが、顔を真っ赤にして叫ぶ。
そのやり取りに、会議室は温かい笑いに包まれた。
紗綾局長の死以来、重苦しかった空気が、少しだけ晴れたような気がした。
「……でも、シロが無事で本当によかった。……これで、心置きなく戦える」
蓮が、表情を引き締める。
「……ああ。……調律者との決戦、絶対に勝とうぜ」
アランも、真剣な表情に戻る。
『……皆さん。……私からも、一つ報告があります』
シロが、モニターの表示を切り替える。
そこには、世界地図と、無数の赤い点が映し出されていた。
『……マナ・クリスタルの記憶と統合したことで、私の情報処理能力はさらに向上しました。……その結果、調律者のネットワークの深層にアクセスすることに成功しました』
「……深層に? ……何か、わかったのか?」
蓮が、身を乗り出す。
『……はい。……調律者の残党が、世界各地で不穏な動きを見せています。……彼らは、「選別の論理」を強行するため、大規模なテロを計画しているようです』
「……テロだと……?」
透が、顔をしかめる。
『……ターゲットは、主要国の首都、および魔法適性者の保護施設です。……同時多発的に攻撃を仕掛け、世界を混乱に陥れるのが目的と思われます』
「……ふざけやがって。……そんなこと、絶対にさせねえ」
蓮が、拳を握り締める。
『……さらに、もう一つ。……調律者のネットワークの最深部で、ある「コードネーム」を発見しました』
シロが、モニターに一つの単語を表示する。
『……「執行者」。……調律者が送り込む、最強の刺客のようです』
「……執行者……」
蓮が、その言葉を反芻する。
『……データによれば、執行者は単独で一国の軍隊を壊滅させるほどの戦闘力を持っているとのこと。……これまでの敵とは、次元が違います』
「……次元が違う、か。……上等だ」
蓮の瞳に、闘志の炎が宿る。
「……どんな奴が来ようと、俺たちがぶっ倒す。……それだけだ」
蓮の言葉に、全員が力強く頷く。
調律者との戦いは、いよいよ最終局面へと突入しようとしていた。
四
シロの報告から数日後。
調律者のテロ計画を阻止するため、特務部隊は世界各地に分散して警戒に当たっていた。
蓮と結月は東京、アランと凛音はロンドン、透と朔、アリスはニューヨークを担当していた。
東京・新宿。
かつて、紗綾局長が命を落とした因縁の地。
蓮と結月は、高層ビルの屋上から、眼下に広がる街を見下ろしていた。
「……静かね」
結月が、風に髪を揺らしながら呟く。
「……ああ。……嵐の前の静けさってやつだ」
蓮が、周囲の魔力反応を探る。
今のところ、異常は見られない。
しかし、蓮の「残響」は、微かな不協和音を感じ取っていた。
「……来るぞ」
蓮が、共鳴剣を構える。
直後、新宿の上空に、巨大な魔法陣が出現した。
「……なっ!? ……なんだ、あれは!」
街を行き交う人々が、空を見上げて悲鳴を上げる。
魔法陣から、漆黒のローブを纏った無数の魔法使いが降り立ってきた。
調律者の残党だ。
「……始まったわね」
結月が、氷の杖を具現化する。
「……行くぞ、結月!」
「……ええ!」
蓮と結月が、屋上から飛び降りる。
空中で、蓮が「全式共鳴・神速」を発動し、一気に敵の群れへと突っ込む。
「……邪魔だ!」
蓮の共鳴剣が、黒いローブの魔法使いたちを次々と薙ぎ払っていく。
結月も「氷華・氷槍雨」で、広範囲の敵を無力化していく。
「……さすがは特異点。……だが、我々の数は圧倒的だ」
残党の一人が、冷笑を浮かべる。
確かに、倒しても倒しても、魔法陣からは次々と新たな敵が現れる。
「……キリがねえな……」
蓮が、舌打ちをする。
『……蓮、結月! ……上空の魔法陣を破壊してください! ……あれが、敵の転送ゲートです!』
通信機から、シロの指示が飛ぶ。
「……了解! ……結月、援護を頼む!」
「……任せて!」
結月が「絶対零度・氷壁」を展開し、蓮への攻撃を防ぐ。
蓮が、魔法陣に向かって跳躍する。
「……『全式共鳴・限界突破』!」
蓮の渾身の一撃が、魔法陣の中心を貫く。
ガラスが割れるような音と共に、魔法陣が粉々に砕け散った。
「……よし! ……これで転送は止まった!」
蓮が、地上に着地する。
残った敵を掃討しようとした、その時だった。
「……見事だ。……だが、遅すぎたな」
冷酷な声が、新宿の街に響き渡る。
声の主は、崩壊した魔法陣の跡から、ゆっくりと降下してきた。
全身を漆黒の鎧で覆い、顔には仮面を被った大柄な男。
その手には、禍々しいオーラを放つ大剣が握られていた。
「……お前が……『執行者』か」
蓮が、共鳴剣を構え直す。
「……いかにも。……私は、調律者の意志を代行する者。……特異点よ、お前たちの存在は、この世界には不要だ」
執行者が、大剣を振り上げる。
その瞬間、周囲の空間が歪み、凄まじい重圧が蓮たちを襲った。
「……ぐっ……! ……なんだ、この重力は……!」
蓮が、膝をつきそうになる。
「……『重力崩壊』。……私の魔法だ。……お前たちは、この重圧の中で、這いつくばって死ぬがいい」
執行者が、冷酷に言い放つ。
「……ふざけるな……!」
蓮が、必死に立ち上がろうとするが、体が鉛のように重い。
結月も、氷の杖を支えにして、辛うじて立っている状態だった。
「……これが……執行者の力……」
蓮は、かつてない絶望感に襲われた。
紗綾局長を死に追いやった、調律者の最強の刺客。
その力は、蓮たちの想像を遥かに超えていた。
「……終わりだ、特異点」
執行者が、大剣を振り下ろす。
絶体絶命の危機。
その時、一陣の風が、蓮たちの前を駆け抜けた。
「……させないわ!」
風と共に現れたのは、凛音だった。
彼女は、重傷から復帰したばかりの体で、執行者の大剣を、二刀流の短剣で受け止めていた。
「……凛音!?」
蓮が、驚きの声を上げる。
「……ロンドンの敵は、アランに任せてきたわ。……ここは、私が食い止める!」
凛音が、血を吐きながら叫ぶ。
「……無駄な足掻きだ」
執行者が、大剣にさらに力を込める。
凛音の短剣に、亀裂が走る。
「……凛音、逃げろ!」
蓮が、叫ぶ。
しかし、凛音は一歩も引かなかった。
「……私は、もう逃げない。……蓮の隣で戦うって、決めたから!」
凛音の瞳に、強い決意の光が宿る。
彼女の覚悟が、新たな魔法を呼び覚まそうとしていた。
五
「……『風神の舞・極』!」
凛音の叫びと共に、彼女の周囲に暴風が巻き起こる。
それは、ただの風ではない。魔力そのものを切り裂く、鋭利な刃の竜巻だった。
執行者の「重力崩壊」による重圧が、暴風によって一時的に相殺される。
「……ほう。……風の魔法を極限まで高めたか。……だが、それだけでは私には届かない」
執行者が、大剣を片手で軽々と振るう。
その一振りで、凛音の暴風が真っ二つに切り裂かれた。
「……くっ……!」
凛音が、吹き飛ばされそうになるのを必死に堪える。
「……凛音!」
重圧から解放された蓮が、一気に執行者との間合いを詰める。
「……『全式共鳴・残響剣』!」
蓮の共鳴剣が、執行者の鎧に叩き込まれる。
しかし、金属が激突する甲高い音が響いただけで、執行者の鎧には傷一つついていなかった。
「……無駄だ。……私の鎧は、あらゆる魔法攻撃を無効化する『絶対防御』の結界で覆われている」
執行者が、蓮に向かって大剣を振り下ろす。
「……蓮、危ない!」
結月が「絶対零度・氷壁」を蓮の頭上に展開する。
大剣が氷壁に激突し、凄まじい衝撃波が周囲に広がる。
氷壁は一瞬で粉砕されたが、蓮はその隙に間一髪で回避に成功した。
「……硬すぎる……。……どうすれば……」
蓮が、息を荒げながら執行者を睨みつける。
物理攻撃も、魔法攻撃も通じない。
まさに、絶望的な強さだった。
『……蓮! ……執行者の鎧の結界は、常に一定の周波数で魔力を放出しています! ……その周波数に、あなたの「残響」を完全に同調させることができれば、結界を中和できるかもしれません!』
通信機から、シロの分析結果が伝えられる。
「……周波数を同調させる……。……やってみる!」
蓮が、目を閉じ、精神を集中させる。
執行者から放たれる、禍々しい魔力の波動。
その波動の奥底にある、微細な揺らぎを感じ取ろうとする。
「……無防備な姿を晒すとは、愚かな」
執行者が、蓮に向かって突進してくる。
「……蓮には、指一本触れさせない!」
凛音が、再び執行者の前に立ち塞がる。
二刀流の短剣が、執行者の大剣と激しく交錯する。
圧倒的な力と体格差。凛音は防戦一方だったが、それでも一歩も引かなかった。
「……なぜ、そこまでして戦う? ……お前たちに、勝ち目はない」
執行者が、冷酷に問いかける。
「……勝ち目があるから戦ってるんじゃない! ……守りたいものがあるから、戦ってるのよ!」
凛音が、血を流しながらも、力強く叫ぶ。
「……守りたいもの、か。……下らない感情だ。……そんなものは、選別の論理の前には無意味だ」
執行者が、大剣にさらに強力な重力を込める。
「……ぐあああっ!」
凛音が、重圧に耐えきれず、膝をつく。
「……終わりだ」
執行者が、大剣を振り下ろそうとした、その瞬間。
「……見つけたぞ……!」
蓮が、目を見開く。
彼の共鳴剣が、執行者の結界と同じ周波数の光を放ち始めていた。
「……『全式共鳴・同調破壊』!」
蓮が、渾身の力で共鳴剣を執行者の鎧に突き立てる。
光と闇の魔力が激しく衝突し、周囲の空間が歪む。
「……なっ……!? ……私の結界が……!」
執行者が、初めて驚愕の声を上げる。
蓮の共鳴剣が、絶対防御の結界を貫き、執行者の鎧に亀裂を入れたのだ。
「……いっけええええっ!」
蓮が、さらに魔力を注ぎ込む。
亀裂が広がり、ついに執行者の鎧の一部が砕け散った。
「……おのれ……特異点……!」
執行者が、怒りに満ちた声を上げる。
しかし、その直後、執行者の体から、黒い霧のようなものが噴き出し始めた。
「……なんだ、あれは……?」
蓮が、警戒して距離を取る。
『……蓮! ……執行者の魔力反応が、急激に増大しています! ……これは……自爆シークエンスです!』
シロの切羽詰まった声が響く。
「……自爆だと!?」
「……私をここまで追い詰めたことは褒めてやろう。……だが、お前たちはここで私と共に消え去るのだ」
執行者の体が、黒い光に包まれていく。
その光は、周囲の全てを飲み込むブラックホールのように、凄まじい引力を発していた。
「……逃げろ、みんな!」
蓮が叫ぶが、強烈な引力に引き寄せられ、身動きが取れない。
「……蓮!」
結月が、蓮の手を掴む。
凛音も、必死に地面にしがみついている。
「……ここまでか……」
蓮が、絶望に目を閉じた、その時。
「……諦めるな、蓮!」
空から、聞き覚えのある声が降ってきた。
「……アラン!?」
見上げると、そこには、巨大な炎の翼を広げたアランの姿があった。
彼は、ロンドンでの戦闘を終え、駆けつけてくれたのだ。
「……『爆炎・紅蓮の翼』!」
アランが、炎の翼から凄まじい熱線を放つ。
熱線が、執行者の黒い光と激突し、引力が一時的に弱まる。
「……今だ、蓮! ……結界を完全に破壊しろ!」
アランが叫ぶ。
「……ああ!」
蓮が、再び共鳴剣を構える。
結月、凛音、そしてアラン。
仲間たちの想いが、蓮の剣に集束していく。
「……これが、俺たちの……絆の力だ!」
蓮が、執行者に向かって突進する。
「……『特異点共鳴・絆の刃』!」
蓮の剣が、執行者の胸を貫く。
黒い光が弾け飛び、執行者の体が光の粒子となって消滅していく。
「……馬鹿な……。……選別の論理が……絆などという……不確かなものに……」
執行者の最期の言葉が、虚空に消えていった。
六
執行者との激戦が終わり、新宿の街に静寂が戻った。
蓮たちは、満身創痍になりながらも、なんとか生き延びることができた。
「……やったな、蓮」
アランが、息を切らしながら蓮の肩を叩く。
「……ああ。……お前が来てくれなかったら、危なかった」
蓮が、アランに感謝の視線を向ける。
「……私も、もっと強くならなきゃ……」
凛音が、自分の無力さを噛み締めるように呟く。
「……凛音は十分強いわ。……あなたが蓮を守ってくれたから、勝てたのよ」
結月が、凛音を優しく抱きしめる。
『……皆さん、お疲れ様でした。……世界各地のテロも、他の部隊の活躍により、全て鎮圧されました』
通信機から、シロの安堵した声が聞こえてくる。
「……そうか。……よかった」
蓮が、空を見上げる。
夜が明け、東の空が白み始めていた。
「……でも、これで終わりじゃない。……調律者の本拠地を叩かない限り、本当の平和は訪れない」
蓮の言葉に、全員が頷く。
『……はい。……執行者のデータを解析した結果、調律者の本拠地の座標が判明しました』
シロの言葉に、蓮たちの表情が引き締まる。
『……場所は、南極大陸。……氷の下に隠された、巨大な極秘施設です』
「……南極か。……いよいよ、最終決戦だな」
蓮が、共鳴剣を強く握り締める。
「……ああ。……絶対に勝って、この世界を俺たちの手に取り戻そうぜ」
アランが、力強く宣言する。
特務部隊の絆は、これまでのどの戦いよりも強固なものとなっていた。
彼らは、調律者との最後の戦いに向けて、決意を新たに歩み始めた。
その背中を、朝日が眩しく照らしていた。
【第57章終了】
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