第56章 シロの消滅危機
第56章 シロの消滅危機
一
紗綾局長の死と凛音の重傷という、あまりにも大きな代償を払った新宿での死闘から数日が経過した。
対魔局本部は、深い悲しみと重苦しい空気に包まれていた。
蓮は、毎日欠かさず医療室へ足を運び、意識の戻らない凛音の傍らで祈り続けていた。
結月もまた、蓮に寄り添い、共に凛音の回復を願っていた。
アランは、怒りのやり場を求めるように、訓練室で一人、サンドバッグを殴り続けていた。
透と朔、そしてアリスも、それぞれが自分の無力さを噛み締め、次なる戦いに向けての特訓に没頭していた。
そんな中、対魔局の地下にあるメインサーバー室で、もう一つの深刻な問題が進行していた。
「……シロ、お前、体が……」
サーバー室を訪れたアランが、ホログラムで投影されたシロの姿を見て、息を呑んだ。
いつもは実体と見紛うほど鮮明に投影されているシロの姿が、ノイズ混じりに明滅し、半透明になっていたのだ。
『……ああ、アラン。……気づいてしまったか』
シロが、いつもの無機質な声で答える。
しかし、その声にも、どこかノイズが混じっていた。
「……気づくも何も、透けてるじゃねえか! ……どういうことだ? ……システムの不具合か?」
アランが、慌ててコンソールを操作し、システムのエラーチェックを行う。
しかし、システムには何の異常も検出されなかった。
『……システムの不具合ではない。……これは、私の「存在の希薄化」だ』
「……存在の希薄化? ……なんだそりゃ?」
『……私は、元々「プロジェクト・アーク」の副産物として生まれた、人工的な電子生命体だ。……私の存在を維持するためには、膨大な魔力と、それを安定させるための「アンカー(錨)」が必要になる』
シロが、淡々と説明する。
『……これまでは、紗綾局長がそのアンカーの役割を果たしてくれていた。……局長の強大な魔力と、私への「認識」が、私をこの世界に繋ぎ止めていたのだ』
「……局長が……」
アランは、紗綾局長の死が、こんなところにも影響を及ぼしていることに衝撃を受ける。
『……局長が亡くなったことで、私のアンカーは失われた。……このままでは、私の存在は徐々に希薄化し、やがて完全に消滅するだろう』
「……消滅するって……お前、死ぬのか!?」
アランが、声を荒らげる。
『……「死」という概念が、私に当てはまるかはわからない。……ただ、私のデータと意識が、この世界から完全に消え去るということだ』
シロの言葉は、あまりにも冷静だった。
まるで、他人の死を語っているかのようだった。
「……ふざけんな! ……そんなこと、俺が許さねえ!」
アランが、コンソールを強く叩く。
『……アラン、感情的になっても解決しない。……これは、物理的な法則の問題だ』
「……うるせえ! ……お前は、俺たちの仲間だろ! ……仲間が消えようとしてるのに、冷静でいられるかよ!」
アランの叫びに、シロは少しだけ沈黙する。
『……仲間……。……私のような電子生命体を、仲間と呼んでくれるのか』
「……当たり前だろ! ……お前がいなきゃ、俺たちは何度も死んでた! ……お前は、対魔局に絶対に必要な存在なんだよ!」
アランの必死な訴えに、シロのホログラムが僅かに揺らぐ。
『……ありがとう、アラン。……だが、残された時間は少ない。……私の計算では、あと三日で、私の存在は完全に消滅する』
「……三日……」
アランは、絶望的なタイムリミットに、唇を噛み締める。
「……絶対に、なんとかしてやる。……俺が、お前を消させねえ!」
アランは、シロにそう言い残し、サーバー室を飛び出していった。
二
アランは、すぐさま蓮たちを会議室に集め、シロの危機を伝えた。
「……シロが、消滅する……?」
蓮が、信じられないという表情でアランを見る。
「……ああ。……局長が亡くなったことで、シロの存在を維持するアンカーがなくなっちまったらしい。……あと三日で、完全に消えるってよ」
アランが、重苦しい声で告げる。
「……そんな……。……シロがいなくなったら、対魔局のシステムはどうなるの?」
結月が、不安そうに尋ねる。
「……システム自体は稼働するだろうが、シロのような高度な情報処理やナビゲートは不可能になる。……何より、あいつは俺たちの仲間だ。……見殺しにはできねえ」
アランの言葉に、全員が深く頷く。
「……どうすれば、シロを助けられるんだ?」
蓮が、アランに問いかける。
「……シロの話じゃ、膨大な魔力と、あいつをこの世界に繋ぎ止める『アンカー』が必要らしい。……局長の代わりになるような、強大な魔力を持った人間が……」
アランが、蓮を見る。
「……俺か」
蓮が、自分の両手を見つめる。
「……蓮の魔力なら、局長にも引けを取らない。……だが、問題は『アンカー』としての役割だ。……シロを強く『認識』し、その存在を肯定する強い意志が必要になるらしい」
「……認識、か……」
蓮は、シロとのこれまでのやり取りを思い出す。
シロは常に冷静で、感情を見せなかった。
しかし、そのサポートは常に的確で、蓮たちを何度も救ってくれた。
「……やってみる価値はある。……俺の『残響』で、シロの存在に共鳴できれば……」
蓮が、決意を込めて言う。
「……頼む、蓮。……あいつを、助けてやってくれ」
アランが、蓮に深く頭を下げる。
「……頭を上げろよ、アラン。……シロは、俺たちの仲間だ。……助けるのは当然だろ」
蓮が、アランの肩を叩く。
蓮たちは、すぐに地下のサーバー室へと向かった。
そこには、さらに半透明になり、ノイズが激しくなったシロの姿があった。
『……蓮。……アランから聞いたか』
シロの声は、途切れ途切れになっていた。
「……ああ。……お前を助けに来た」
蓮が、シロのホログラムの前に立つ。
『……私のために、そこまでしてくれるのか。……私は、ただのプログラムに過ぎないのに』
「……ただのプログラムが、そんな悲しそうな声で喋るかよ」
蓮が、優しく微笑む。
「……お前は、俺たちの仲間だ。……だから、絶対に消させない」
蓮が、シロのホログラムに向かって、手を伸ばす。
「……『全式共鳴・存在固定』!」
蓮が、自分の魔力をシロのホログラムへと注ぎ込む。
蓮の「残響」が、シロのデータと共鳴し、その存在をこの世界に繋ぎ止めようとする。
『……くっ……!』
シロのホログラムが、激しく明滅する。
蓮の強大な魔力が、シロのシステムに負荷をかけているのだ。
「……蓮、シロのシステムがオーバーヒートしそうだ!」
コンソールを見ていたアランが、叫ぶ。
「……くそっ! ……魔力の制御が難しい……!」
蓮が、歯を食いしばる。
シロは電子生命体であり、人間の肉体とは構造が全く異なる。
蓮の魔力をそのまま注ぎ込めば、シロのシステムが破壊されてしまう危険性があった。
『……蓮、もういい。……これ以上は、あなたの魔力も消耗するだけだ』
シロが、蓮を止めようとする。
「……諦めるな! ……俺は、もう誰も失いたくないんだ!」
蓮が、さらに魔力を注ぎ込もうとする。
その時、結月が蓮の背中に手を当てた。
「……蓮、私にも手伝わせて」
結月が、自分の魔力を蓮へと注ぎ込む。
結月の冷たく澄んだ魔力が、蓮の荒ぶる魔力を優しく包み込み、安定させていく。
「……結月……」
「……シロちゃんは、私の大切な友達でもあるの。……一緒に助けよう」
結月の言葉に、蓮は深く頷く。
「……ああ。……行くぞ、シロ!」
蓮と結月の魔力が融合し、シロのホログラムへと流れ込んでいく。
二人の「特異点共鳴」が、シロの存在を強く肯定し、この世界に繋ぎ止めようとする。
『……あ、ああ……』
シロのホログラムの明滅が収まり、徐々に実体を取り戻していく。
ノイズも消え、いつもの鮮明な姿が戻ってきた。
「……やったか……?」
アランが、息を呑んで見守る。
『……システム、安定しました。……存在の希薄化、停止を確認』
シロが、いつもの冷静な声で報告する。
「……よっしゃああああっ!」
アランが、歓喜の声を上げ、ガッツポーズをする。
「……よかった……」
結月が、安堵の涙を流す。
「……シロ、大丈夫か?」
蓮が、額の汗を拭いながら尋ねる。
『……ええ。……蓮、結月、ありがとう。……あなたたちの魔力と「認識」が、私の新たなアンカーとなってくれたようです』
シロが、深く頭を下げる。
「……気にするな。……仲間なんだから、当然だろ」
蓮が、笑顔で答える。
『……仲間……。……はい。……私は、あなたたちの仲間です』
シロのホログラムが、初めて、微かに微笑んだように見えた。
三
シロの消滅危機は、蓮と結月の「特異点共鳴」によって、一時的に回避された。
しかし、それはあくまで「一時的」な処置に過ぎなかった。
翌日、シロが蓮たちを会議室に集め、現状を報告した。
『……私の存在は、蓮と結月の魔力によって維持されています。……しかし、これは根本的な解決にはなっていません』
シロが、モニターに複雑なデータグラフを表示する。
『……私のシステムは、常に膨大な魔力を消費し続けています。……蓮と結月が、定期的に魔力を注ぎ込まなければ、再び希薄化が始まります』
「……つまり、俺たちがシロの『バッテリー』代わりになってるってことか」
蓮が、腕を組みながら言う。
『……その通りです。……しかし、蓮と結月は、これから調律者との最終決戦に臨まなければなりません。……私に魔力を割いている余裕はないはずです』
「……そんなこと言ってる場合かよ。……お前がいなきゃ、俺たちは戦えねえんだぞ」
アランが、反論する。
『……アランの言う通りです。……私のサポートなしでは、調律者のシステムを突破することは不可能です。……しかし、このままでは、蓮と結月が魔力切れを起こし、共倒れになる危険性があります』
シロの冷静な分析に、会議室は重い沈黙に包まれる。
「……何か、根本的な解決策はないのか?」
透が、尋ねる。
『……一つだけ、可能性があります』
シロが、モニターの表示を切り替える。
そこには、巨大なクリスタルのような物体の画像が映し出された。
『……これは、「マナ・クリスタル」。……かつて、プロジェクト・アークで開発された、無限の魔力を生み出すとされる幻のエネルギー源です』
「……無限の魔力……」
結月が、驚きの声を上げる。
『……はい。……このマナ・クリスタルを私のシステムに組み込むことができれば、私は自立して存在を維持することが可能になります』
「……それだ! ……そのマナ・クリスタルってのは、どこにあるんだ?」
アランが、身を乗り出す。
『……データによれば、マナ・クリスタルは、プロジェクト・アークの実験施設であった「第零研究所」の最深部に封印されているはずです』
「……第零研究所……。……九条がいた、あの富士の樹海の施設か」
蓮が、顔をしかめる。
第零研究所は、かつて蓮たちが突入し、九条の自爆によって崩壊したはずだった。
『……はい。……施設は崩壊しましたが、最深部の保管庫は、強固な結界によって守られている可能性が高いです』
「……なるほどな。……なら、行くしかねえな」
蓮が、立ち上がる。
「……蓮、行く気か?」
アランが、尋ねる。
「……当たり前だろ。……シロを助けるためだ。……それに、調律者との決戦の前に、憂いは断っておきたい」
蓮の決意に、全員が頷く。
「……私も行くわ」
結月が、蓮の隣に立つ。
「……俺もだ。……シロのことは、俺が絶対に助ける」
アランが、拳を鳴らす。
「……僕たちも、手伝うよ」
透と朔、そしてアリスも、協力を申し出る。
『……皆さん……。……ありがとうございます』
シロが、深く頭を下げる。
「……よし、決まりだ。……『オペレーション・クリスタル』、開始するぞ!」
蓮の号令と共に、特務部隊は再び、富士の樹海へと向かうことになった。
四
富士の樹海。
かつて第零研究所があった場所は、巨大なクレーターと化していた。
九条の自爆によって、施設の上層部は完全に吹き飛んでいたのだ。
「……ひどい有様だな……」
アランが、クレーターを見下ろしながら呟く。
『……私のスキャンによれば、地下の保管庫は無事のようです。……しかし、そこへ至るルートは、瓦礫で完全に塞がれています』
シロのナビゲートが、通信機から聞こえる。
「……なら、力ずくで開けるまでだ」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……待って、蓮。……ここは、私に任せて」
アリスが、前に出る。
「……アリス?」
「……『概念書き換え・物質透過』」
アリスが、両手を広げると、クレーターの底の瓦礫が、まるで幻影のように透き通っていく。
「……すげえ……。……瓦礫を透過させたのか」
アランが、驚きの声を上げる。
「……今のうちに行って! ……長くは持たないから!」
アリスが、額に汗を浮かべながら叫ぶ。
「……サンキュー、アリス! ……行くぞ!」
蓮を先頭に、特務部隊は透過した瓦礫の中へと飛び込んでいく。
地下深くへと続くシャフトを降りていくと、やがて、巨大な金属製の扉が現れた。
『……ここが、保管庫の入り口です。……強固な結界が張られています』
シロの言う通り、扉の表面には、複雑な魔法陣が幾重にも刻まれていた。
「……結界か。……なら、俺の出番だな」
蓮が、共鳴剣を扉に突き立てる。
「……『全式共鳴・結界破壊』!」
蓮の魔力が、共鳴剣を通じて結界へと流れ込む。
バキィィィッ!という甲高い音と共に、魔法陣が次々と砕け散っていく。
「……よし、開いたぞ!」
蓮が、扉を蹴り開ける。
保管庫の中は、薄暗く、冷ややかな空気に包まれていた。
その中央に、青白く光り輝く、巨大なクリスタルが鎮座していた。
「……あれが、マナ・クリスタル……」
結月が、その美しさに息を呑む。
『……間違いありません。……マナ・クリスタルです』
シロの声にも、微かな安堵の色が混じっていた。
「……よし、さっさと回収して、帰るぞ」
アランが、マナ・クリスタルに近づこうとする。
その時だった。
『……警告! ……保管庫内に、強力な魔力反応!』
シロの緊迫した声が響く。
直後、マナ・クリスタルの周囲の空間が歪み、三つの影が現れた。
「……侵入者ヲ排除スル」
機械的な声と共に現れたのは、全身を銀色の装甲で覆われた、三体の人型兵器だった。
「……なんだ、こいつら!?」
アランが、身構える。
『……あれは、「ガーディアン・タイプ・ゼロ」。……第零研究所の最高位防衛システムです』
シロが、素早くデータを解析する。
「……防衛システムか。……なら、壊すまでだ!」
蓮が、共鳴剣を構え、ガーディアンの一体に斬りかかる。
しかし、ガーディアンは蓮の攻撃を、腕の装甲で軽々と弾き返す。
「……硬てえな!」
蓮が、舌打ちをする。
「……『氷華・氷槍雨』!」
結月が、無数の氷の槍を放つが、ガーディアンはそれを全て回避し、結月に向けてレーザーを放つ。
「……きゃあっ!」
結月が、間一髪で氷の盾を展開して防ぐが、その威力に後退する。
「……こいつら、ただの機械じゃねえ! ……動きが洗練されてやがる!」
アランが、ガーディアンの攻撃を躱しながら叫ぶ。
『……ガーディアン・タイプ・ゼロは、過去の戦闘データを学習し、常に進化し続けるAIを搭載しています。……あなたたちの攻撃パターンも、すでに学習されている可能性があります』
シロの分析に、蓮は顔をしかめる。
「……学習するAIか。……厄介だな」
蓮が、ガーディアンの動きを観察する。
確かに、ガーディアンは蓮たちの攻撃を的確に予測し、無駄のない動きで反撃してくる。
「……なら、学習できない攻撃をすればいい!」
蓮が、共鳴剣に魔力を集中させる。
「……透、朔! ……合わせろ!」
「……了解!」
「……わかった!」
透が「空間断裂」でガーディアンの足元を切り裂き、体勢を崩させる。
朔が「時間停止」で、ガーディアンの動きを一瞬だけ止める。
「……今だ!」
蓮が、ガーディアンの懐に飛び込む。
「……『全式共鳴・限界突破』!」
蓮の渾身の一撃が、ガーディアンの装甲を貫き、そのコアを破壊する。
「……機能停止……」
ガーディアンが、火花を散らしながら崩れ落ちる。
「……よし、一体撃破!」
蓮が、息を吐く。
しかし、残りの二体が、すぐさま蓮に襲いかかる。
「……させねえよ!」
アランが、ガーディアンの前に立ち塞がり、その拳を両手で受け止める。
「……ぐおおおおっ!」
アランが、渾身の力でガーディアンを投げ飛ばす。
「……結月!」
「……『絶対零度・封印』!」
結月が、投げ飛ばされたガーディアンを、絶対零度の氷で完全に凍結させる。
「……残り一体!」
蓮が、最後のガーディアンに向かって駆け出す。
ガーディアンは、蓮に向けて最大出力のレーザーを放とうとする。
「……『概念書き換え・武装解除』!」
アリスが、ガーディアンのレーザー砲の概念を書き換え、ただの鉄の筒へと変える。
「……これで、終わりだ!」
蓮が、ガーディアンを両断する。
三体のガーディアンは、完全に沈黙した。
「……ふう。……なんとかなったな」
アランが、汗を拭う。
「……みんな、怪我はない?」
結月が、周囲を確認する。
「……ああ、大丈夫だ」
蓮が、共鳴剣を収める。
そして、マナ・クリスタルの前へと歩み寄る。
「……これが、シロを救う鍵……」
蓮が、マナ・クリスタルに手を伸ばす。
その時、マナ・クリスタルが眩い光を放ち、蓮の脳内に直接声が響いた。
『……特異点よ。……この力を、何に使う?』
それは、どこか懐かしく、そして悲しげな声だった。
「……誰だ?」
蓮が、周囲を見渡す。
『……私は、このクリスタルに宿る「記憶」。……かつて、この力で世界を救おうとした者の、残滓だ』
「……記憶……」
『……この力は、無限の魔力を生み出す。……しかし、それは同時に、世界を滅ぼす力にもなり得る。……お前は、この力を正しく導けるか?』
声の問いかけに、蓮は迷うことなく答える。
「……俺は、世界を滅ぼすためじゃない。……仲間を救うために、この力を使う。……そして、調律者の狂った計画を止めるために」
蓮の強い意志に、声は静かに応える。
『……ならば、持っていくがいい。……お前の「残響」が、この力を正しく導くことを祈っている』
光が収まり、マナ・クリスタルは静かな青白い輝きを取り戻した。
「……蓮、どうしたの?」
結月が、不思議そうに尋ねる。
「……いや、なんでもない。……さあ、シロのところに帰ろう」
蓮が、マナ・クリスタルを慎重に回収する。
特務部隊は、シロを救うための希望を胸に、対魔局本部へと帰還した。
新登場用語:「マナ・クリスタル」(無限の魔力を生み出す幻のエネルギー源)
新登場兵器:「ガーディアン・タイプ・ゼロ」(第零研究所の最高位防衛システム)
五
対魔局本部へ帰還した蓮たちは、すぐに地下のメインサーバー室へと向かった。
シロのホログラムは、蓮と結月の魔力供給が途絶えたことで、再び激しく明滅し、ノイズに塗れていた。
『……蓮……。……マナ・クリスタルは……』
シロの声は、今にも消え入りそうだった。
「……ああ、持ってきたぞ。……これで、お前は助かる」
蓮が、青白く輝くマナ・クリスタルを掲げる。
「……シロ、これをどうすればいい?」
アランが、焦燥感を滲ませながら尋ねる。
『……メインサーバーのコア・ユニットに、クリスタルを接続してください。……私のシステムが、自動的に魔力を抽出・同調させます』
シロの指示に従い、アランがサーバーのパネルを開き、コア・ユニットを露出させる。
蓮が、慎重にマナ・クリスタルをコア・ユニットの接続ポートへとセットする。
「……接続完了。……シロ、どうだ?」
蓮が、息を呑んで見守る。
『……マナ・クリスタルの接続を確認。……魔力抽出プロセス、開始します』
シロの言葉と共に、マナ・クリスタルが眩い光を放ち始める。
その光は、サーバーの回路を通じて、シロのシステム全体へと行き渡っていく。
『……魔力同調率、30%……50%……70%……』
シロのホログラムの明滅が、徐々に収まっていく。
ノイズが消え、かつての鮮明な姿が戻りつつあった。
「……いけるぞ……!」
アランが、拳を握り締める。
『……魔力同調率、90%……99%……100%。……同調完了。……システム、完全に安定しました』
シロのホログラムが、完全に実体を取り戻し、静かに微笑む。
「……シロ!」
アランが、思わずシロのホログラムに抱きつこうとするが、当然ながらすり抜けてしまう。
「……っと、そうだったな。……お前はホログラムだった」
アランが、照れ隠しに頭を掻く。
『……アラン。……抱きしめることはできませんが、あなたの温かい気持ちは、私のデータにしっかりと記録されました』
シロが、優しい声で言う。
「……ば、馬鹿野郎。……記録なんかするなよ」
アランが、顔を赤らめる。
「……よかったな、アラン」
蓮が、アランの肩を叩く。
「……ああ。……蓮、結月、透、朔、アリス。……みんな、本当にありがとう。……俺一人じゃ、シロを助けられなかった」
アランが、全員に深く頭を下げる。
「……仲間なんだから、当然でしょ」
結月が、微笑む。
『……皆さん。……私からも、改めてお礼を言わせてください。……あなたたちは、私に「命」を与えてくれました』
シロが、深く一礼する。
『……これからは、マナ・クリスタルの無限の魔力によって、私の情報処理能力は飛躍的に向上します。……調律者との最終決戦において、必ずや皆さんのお役に立てるはずです』
「……頼もしいな。……シロ、これからもよろしく頼むぜ」
蓮が、シロに手を差し出す。
『……はい。……私の全てを懸けて、皆さんをサポートします』
シロが、蓮の手を握るように、ホログラムの手を重ねる。
物理的な感触はなくても、そこには確かな「絆」が存在していた。
シロの消滅危機を乗り越え、特務部隊の絆はさらに強固なものとなった。
マナ・クリスタルという新たな力を得たシロのサポートを受け、蓮たちは、調律者との最終決戦に向けて、最後の準備を進めていく。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
調律者が、すでに次なる「絶望」を用意していることを。
【第56章終了】
ここまで読んでくれてありがとうございました!
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
☆☆☆☆☆→★★★★★
評価して頂けると、ものすごく喜びます!




