第43章 教団本部への潜入
第43章 教団本部への潜入
一
日本アルプス。
険しい山々に囲まれたその地下深くには、かつて政府が極秘に建設した巨大な地下シェルターが存在していた。
現在は黒の教団の本部として使用されているその施設に、蓮たち特務部隊は潜入を試みていた。
「……シロ、現在の状況は?」
蓮が、通信機越しにシロに尋ねる。
「……施設の外部センサーは、すべて私のハッキングで無効化しました。……現在、第一ゲートから第三ゲートまでのロックを解除中です」
対魔局本部からサポートを行うシロが、冷静に答える。
「……よし。……各員、警戒を怠るな。……教団の本部だ、どんな罠が仕掛けられているか分からない」
蓮が、共鳴剣を構えながら、暗い通路を進む。
「……蓮さん、僕の空間探知によると、この先に多数の魔力反応があります。……おそらく、教団の防衛部隊です」
透が、目を閉じて空間の歪みを感じ取りながら言う。
「……正面突破は避けたいところね。……アリス、何かいい方法はない?」
凛音が、アリスに尋ねる。
「……うん。……『創造』――光学迷彩!」
アリスが、魔法を発動する。
すると、蓮たち全員の姿が、周囲の景色に溶け込むように透明になった。
「……すごい。……完全に姿が消えた」
結月が、自分の手を見ながら驚く。
「……これなら、敵に見つからずに進めるな。……アリス、よくやった」
蓮が、アリスを褒める。
「……えへへ。……でも、魔力の消費が激しいから、あまり長くは持たないかも……」
アリスが、少し息を切らしながら言う。
「……分かった。……急ごう」
蓮たちは、光学迷彩で姿を隠したまま、教団の防衛部隊の横を通り抜け、施設の奥へと進んでいった。
二
地下シェルターの内部は、想像以上に広大だった。
居住区、研究施設、訓練場など、一つの街が丸ごと地下に存在しているかのようだった。
「……こんな巨大な施設を、教団はどうやって手に入れたんだ?」
アランが、周囲を見渡しながら呟く。
「……おそらく、政府内部に教団の協力者がいるのでしょう。……あるいは、教団の長である天野博士が、かつてのコネクションを利用したか……」
シロが、通信機越しに推測する。
「……天野博士……。……奴は、一体何を企んでいるんだ」
蓮が、奥歯を噛み締める。
その時、透が立ち止まった。
「……蓮さん、待ってください。……この先の空間が、不自然に歪んでいます」
透が、前方を指差す。
「……罠か?」
蓮が、警戒する。
「……いえ、これは……結界です。……非常に強力な、空間を隔離する結界……」
透が、結界に触れようとする。
「……待って、透お兄ちゃん! ……その結界、触っちゃダメ!」
アリスが、透の手を止める。
「……どうしたの、アリスちゃん?」
「……この結界、ただの結界じゃない。……『虚無』の魔力が混ざってる……」
アリスが、結界を見つめながら言う。
「……『虚無』……? ……使徒の力か!」
蓮が、驚愕する。
「……始まりの島で、使徒は死んだはずじゃなかったのか?」
凛音が、顔をしかめる。
「……朔が言っていた通りだ。……天野博士は生きている。……そして、使徒としての力も健在だということだ」
蓮が、結界を睨みつける。
「……この結界を破らなければ、先には進めません。……でも、『虚無』の結界をどうやって……」
透が、思案する。
「……俺がやる。……『残響』なら、虚無の波長にも共鳴できるはずだ」
蓮が、共鳴剣を結界に突き立てる。
「……『残響』――全式共鳴・虚無相殺!」
蓮の魔力が、結界の虚無の魔力と衝突し、激しい火花を散らす。
「……くっ……! ……なんて重い魔力だ……!」
蓮が、歯を食いしばる。
「……蓮さん、僕も手伝います! ……『空間』――空間断裂!」
透が、結界の一部に空間の亀裂を入れる。
「……私も! ……『創造』――魔力中和!」
アリスが、結界の魔力を中和する魔法を放つ。
三人の力が合わさり、ついに結界にヒビが入った。
パリンッ!
ガラスが割れるような音と共に、虚無の結界が崩れ去る。
「……やった……!」
アリスが、歓声を上げる。
「……油断するな。……結界が破られたことで、敵に気づかれたはずだ」
蓮が、共鳴剣を構え直す。
結界の先には、巨大な扉があった。
その扉の向こうから、圧倒的な魔力が漏れ出している。
「……この奥に、天野博士がいる……」
蓮が、扉を見据える。
「……行きましょう。……全ての決着をつけるために」
透が、頷く。
蓮が、巨大な扉を押し開けた。
三
扉の向こうは、広大な研究室だった。
無数のモニターと、巨大なカプセル型の装置が並んでいる。
そして、その中央に、一人の男が立っていた。
「……よく来たね、蓮君。……そして、特務部隊の諸君」
白衣を着た男——天野博士が、ゆっくりと振り返る。
「……天野博士……!」
蓮が、共鳴剣を天野博士に向ける。
「……始まりの島では、随分と派手にやってくれたね。……おかげで、私の計画は少し遅れてしまったよ」
天野博士が、微笑む。
「……計画だと? ……無能力者を排除し、魔法使いだけの世界を作ることが、あんたの計画なのか!」
蓮が、怒りを露わにする。
「……ああ、そうだ。……それが、調律者の実験を終わらせる唯一の方法だからね」
天野博士が、淡々と答える。
「……ふざけるな! ……そんなことのために、どれだけの人が犠牲になると思っているんだ!」
「……犠牲は必要だ。……一七二三もの世界が滅ぼされてきたんだ。……この世界を救うためには、少数の犠牲は避けられない」
天野博士の目に、狂気が宿る。
「……あんたは狂ってる。……父さんが命を懸けて守ろうとした世界を、あんたは壊そうとしているんだぞ!」
蓮が、叫ぶ。
「……誠一君か……。……彼は優秀だったが、甘すぎた。……調律者という絶対的な存在を前にして、誰も犠牲にせずに世界を救おうなどと、夢物語に過ぎない」
天野博士が、冷笑する。
「……父さんの想いを、愚弄するな!」
蓮が、天野博士に向かって斬りかかる。
「……『虚無』――絶対防御!」
天野博士の周囲に、虚無の結界が展開される。
蓮の共鳴剣が結界に弾かれ、蓮は後方に吹き飛ばされる。
「……くっ……!」
「……無駄だよ、蓮君。……私の『虚無』は、あらゆる魔法を無に帰す。……君の『残響』でも、完全に相殺することはできない」
天野博士が、見下ろすように言う。
「……なら、僕がやります! ……『空間』――空間圧縮!」
透が、天野博士の周囲の空間を圧縮し、押し潰そうとする。
「……『虚無』――空間消去!」
天野博士が、透の空間魔法そのものを消し去る。
「……なっ……!?」
透が、驚愕する。
「……私の『虚無』は、空間すらも無に帰すことができる。……特異点の力とはいえ、まだ未熟だね」
天野博士が、透に向かって虚無の弾を放つ。
「……危ない! ……『氷結』――絶対零度・氷の盾!」
結月が、氷の盾を展開して透を守る。
しかし、虚無の弾は氷の盾を容易く貫通し、結月と透を吹き飛ばした。
「……結月! 透!」
蓮が、二人に駆け寄る。
「……圧倒的すぎる……。……これが、使徒の真の力……」
アランが、冷や汗を流す。
「……どうすればいいの……。……どんな魔法も効かないなんて……」
凛音が、絶望的な表情を浮かべる。
「……絶望するにはまだ早いよ。……君たちには、まだ見せていないものがある」
天野博士が、研究室の奥にある巨大なカプセル型の装置を指差す。
「……あれは……?」
蓮が、装置を見る。
「……あれは、私が開発した『人工特異点発生装置』だ。……そして、その中には……」
天野博士が、装置のスイッチを入れる。
カプセルの中の液体が抜け、中から一人の少年が現れた。
「……朔……!」
透が、少年の名前を呼ぶ。
朔は、目を閉じたまま、無表情で立っていた。
その体からは、以前とは比べ物にならないほどの、禍々しい魔力が放出されていた。
「……朔に、何をした!」
透が、天野博士に怒鳴る。
「……彼の特異点としての力を、極限まで引き出したのさ。……これで、彼は私の完全な操り人形となった。……さあ、朔。……彼らを排除しなさい」
天野博士が、命令を下す。
朔が、ゆっくりと目を開ける。
その瞳は、完全に虚無に染まっていた。
「……『時間』――時間停止」
朔の無機質な声と共に、研究室内の時間が完全に停止した。
蓮たちの動きが、ピタリと止まる。
「……さあ、絶望の始まりだ」
天野博士が、狂気を含んだ笑い声を上げた。
四
時間が停止した空間。
動けるのは、天野博士と、特異点である朔、そして同じく特異点である透だけだった。
「……朔! ……目を覚ませ!」
透が、朔に向かって叫ぶ。
しかし、朔は無反応のまま、透に向かって手を向ける。
「……『時間』――時間加速・老化」
朔の手から放たれた魔法が、透を襲う。
「……『空間』――空間歪曲!」
透が、咄嗟に空間を歪めて魔法を逸らす。
「……無駄だよ、透君。……今の朔は、以前の彼とは違う。……人工的に魔力を増幅された彼は、特異点としての限界を超えている」
天野博士が、余裕の笑みを浮かべる。
「……くっ……! ……朔、お願いだ、僕の声を聞いてくれ!」
透が、必死に呼びかけるが、朔の攻撃は止まらない。
「……『時間』――時間逆行・空間圧縮!」
朔が、透の空間魔法を逆行させ、逆に透を空間の狭間に閉じ込めようとする。
「……うぁぁぁっ!」
透が、見えない力に押し潰されそうになる。
(……このままじゃ、透がやられる……!)
時間が停止した中で、蓮は必死に意識を保っていた。
体は動かないが、魔力はまだ練ることができる。
(……「残響」で、朔の魔法に共鳴するんだ……! ……前と同じように……!)
蓮が、朔の魔力波長を探る。
しかし、朔の魔力は以前とは比べ物にならないほど強大で、しかも天野博士の「虚無」の魔力が混ざり合っていた。
(……波長が、複雑すぎる……! ……これじゃ、共鳴できない……!)
蓮が、焦りを感じる。
その時、蓮の脳裏に、イヴの言葉が蘇った。
『三人の特異点の力を一つに合わせるのよ。……空間、創造、そして時間。……この三つの力が完全に共鳴した時、世界の外側へと通じる扉が開かれるわ』
(……三人の特異点の力……。……そうだ、俺一人で共鳴しようとするからダメなんだ。……透とアリスの力を借りて、三人の力を繋ぐんだ!)
蓮が、自身の魔力を透とアリスに向ける。
(……透、アリス! ……俺の魔力に同調してくれ!)
蓮が、心の中で叫ぶ。
すると、停止した時間の中で、透とアリスの魔力が蓮の「残響」に応えた。
「……蓮さん……!」
「……蓮お兄ちゃん……!」
二人の意識が、蓮と繋がる。
(……いくぞ! ……三人の力を、一つに!)
蓮が、透の「空間」とアリスの「創造」の魔力を、自身の「残響」を通して朔の「時間」の魔力にぶつける。
「……『残響』――特異点共鳴・三位一体!」
蓮の体から、三色の魔力が混ざり合った、眩い光が放たれる。
その光は、朔の時間停止の結界を内側から打ち破り、研究室全体を包み込んだ。
「……なに!? ……時間停止が破られただと!?」
天野博士が、驚愕の声を上げる。
時間が再び動き出し、蓮たちが自由を取り戻す。
「……今だ! ……朔を止めるぞ!」
蓮が、共鳴剣を構えて朔に向かって突進する。
「……させないよ! ……『虚無』――絶対消去!」
天野博士が、蓮に向かって虚無の魔法を放つ。
「……『創造』――概念固定!」
アリスが、天野博士の虚無魔法の概念そのものを固定し、無効化する。
「……馬鹿な! ……私の『虚無』が防がれるだと!?」
天野博士が、信じられないという表情を浮かべる。
「……透!」
蓮が、透に合図を送る。
「……はい! ……『空間』――空間断裂・拘束!」
透が、朔の周囲の空間を切り取り、朔の動きを完全に封じ込める。
「……朔、ごめんな。……少し痛いかもしれないけど、我慢してくれ!」
蓮が、共鳴剣の峰で、朔の首筋を強く打ち据える。
「……がっ……!」
朔が、短い呻き声を上げ、その場に崩れ落ちる。
「……朔!」
透が、朔に駆け寄り、抱き起こす。
朔は気を失っていたが、その顔からは虚無の表情が消え、穏やかな寝顔に戻っていた。
「……よかった……。……魔力の暴走は止まったみたいだ」
蓮が、安堵の息を吐く。
「……おのれ……! ……私の計画を、ここまで邪魔するとは……!」
天野博士が、怒りに顔を歪める。
「……天野博士、あんたの負けだ。……大人しく投降しろ」
蓮が、天野博士に共鳴剣を向ける。
「……負け? ……私が? ……冗談じゃない。……私は、調律者を倒すために、全てを犠牲にしてきたんだ。……ここで終わるわけにはいかない!」
天野博士の体から、黒いオーラのような魔力が噴き出す。
「……『虚無』の暴走……!? ……自爆する気か!」
凛音が、叫ぶ。
「……道連れにしてやる……! ……お前たちも、この施設も、全て無に帰してやる!」
天野博士が、狂ったように笑う。
「……させない! ……『残響』――全式共鳴・限界突破!」
蓮が、自身の魔力を限界まで引き上げ、天野博士に向かって突っ込む。
「……消えろぉぉぉっ!」
天野博士が、全魔力を込めた虚無の塊を蓮に放つ。
「……うぉぉぉぉっ!」
蓮が、共鳴剣で虚無の塊を真っ向から切り裂く。
激しい光と衝撃波が研究室を包み込み、蓮と天野博士の姿が光の中に消えた。
五
光が収まった後、研究室は半壊状態になっていた。
「……蓮さん!」
透が、瓦礫の山に向かって叫ぶ。
瓦礫の中から、蓮がゆっくりと立ち上がる。
その手には、折れた共鳴剣が握られていた。
「……蓮! ……無事なの!?」
結月が、蓮に駆け寄る。
「……ああ。……なんとか、な」
蓮が、息を切らしながら答える。
蓮の足元には、天野博士が倒れていた。
彼の体からは魔力が完全に消え失せ、ただの老人のように見えた。
「……なぜ……私を殺さなかった……」
天野博士が、虚ろな目で蓮を見る。
「……あんたを殺しても、何も解決しない。……それに、父さんは、あんたを殺すことなんて望んでいないはずだ」
蓮が、静かに言う。
「……誠一君……」
天野博士の目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……あんたの知識は、調律者を倒すために必要だ。……生きて、罪を償え」
蓮が、天野博士を見下ろす。
「……調律者を……倒す……。……君たちに、それができるのか……?」
「……ああ。……俺たちには、三人の特異点がいる。……必ず、調律者を倒して、この世界を守ってみせる」
蓮が、力強く宣言する。
天野博士は、蓮の目を見つめ、やがて静かに目を閉じた。
「……シロ、聞こえるか? ……天野博士を確保した。……朔も無事だ」
蓮が、通信機でシロに報告する。
「……了解しました。……すぐに追加の部隊を派遣します」
シロの声が、安堵に満ちていた。
教団本部の制圧は完了した。
天野博士の野望は阻止され、三人目の特異点である朔も奪還することができた。
六
数日後、対魔局本部の特別医療区画。
朔は、ベッドの上で静かに目を覚ました。
「……ここは……?」
朔が、周囲を見渡す。
「……朔! ……気がついたか!」
ベッドの傍らに座っていた透が、朔の手を握る。
「……兄さん……。……僕は……」
朔が、混乱した表情を浮かべる。
「……ここは対魔局の医療区画だ。……お前は、天野博士に操られていたんだ。……でも、もう大丈夫だ」
透が、優しく微笑む。
「……天野博士……。……そうだ、あの人は僕を……」
朔が、頭を押さえる。
「……無理に思い出さなくていい。……今は、ゆっくり休め」
透が、朔の頭を撫でる。
その時、病室のドアが開き、蓮が入ってきた。
「……目が覚めたようだな、朔」
蓮が、ベッドに近づく。
「……蓮さん……。……僕は、あなたたちを殺そうとした……。……なのに、なぜ助けたんですか?」
朔が、蓮を見上げる。
「……お前が、透の弟だからだ。……それに、お前は天野博士に利用されていただけで、本当は世界を壊したいわけじゃないだろ?」
蓮が、朔の目を見て言う。
「……僕は……。……僕はただ、無能力者から迫害される魔法使いを救いたかっただけだ……。……でも、天野博士のやり方は間違っていた……」
朔が、俯く。
「……ああ。……だから、俺たちと一緒に戦ってくれ。……調律者を倒し、誰もが平和に暮らせる世界を作るために」
蓮が、朔に手を差し伸べる。
朔は、蓮の手を見つめ、やがてゆっくりとその手を握り返した。
「……分かりました。……僕の力、あなたたちのために使います」
朔が、力強く頷く。
「……ありがとう、朔」
透が、涙ぐみながら朔を抱きしめる。
「……これで、三人の特異点が揃ったな」
蓮が、二人を見守りながら呟く。
「……ええ。……でも、どうやって『扉』を開くんですか?」
透が、蓮に尋ねる。
「……天野博士の尋問から、いくつか手がかりが得られた。……調律者の中枢星に繋がる『扉』は、この世界のどこかに隠されているらしい。……そして、その扉を開く鍵が、三人の特異点の共鳴だ」
蓮が、説明する。
「……世界のどこか……。……それは、どこなんですか?」
朔が、尋ねる。
「……まだ分からない。……シロが、天野博士のデータと、調律者の記録を照らし合わせて解析中だ。……結果が出るまで、俺たちは特異点の共鳴の精度を高める訓練をする」
蓮が、二人に言う。
「……分かりました。……僕も、全力で協力します」
朔が、真剣な目で答える。
「……頼むぞ。……俺たちの戦いは、これからが本番だ」
蓮が、病室の窓から外を見る。
青く澄み渡った空が広がっていた。
しかし、その空の向こうには、調律者という強大な敵が待ち受けている。
蓮は、折れた共鳴剣の代わりに新しく支給された剣の柄を握りしめ、次なる戦いへの決意を新たにした。
七
その日の午後、対魔局の地下深くにある特別尋問室。
そこには、魔力を封じる特殊な手錠をかけられた天野博士が座っていた。
蓮と紗綾局長が、マジックミラー越しにその様子を見つめている。
「……彼の口から、何か新しい情報は得られたか?」
蓮が、紗綾局長に尋ねる。
「……ええ。……彼が教団を率いてやろうとしていたことの全貌が、ようやく見えてきたわ」
紗綾局長が、手元の資料に目を落とす。
「……全貌?」
「……彼は、この世界を『魔法使いだけの世界』にすることで、調律者の実験を終わらせようとしていた。……でも、それだけじゃなかったの」
紗綾局長が、蓮を見る。
「……どういうことだ?」
「……彼は、調律者の中枢星に繋がる『扉』の場所を知っていた。……そして、その扉を開くために、三人の特異点の力を利用しようとしていたのよ」
「……扉の場所を……知っていた?」
蓮が、驚愕する。
「……ええ。……彼が言うには、その扉は『世界のへそ』と呼ばれる場所にあるらしいわ」
「……世界のへそ……?」
「……かつて、第一番目の世界が存在した場所。……そして、全ての魔法の起源となった場所よ。……彼は、教団の力を使ってそこを制圧し、特異点の力で扉を開け、自らが中枢星に乗り込んで調律者を破壊するつもりだったの」
紗綾局長が、説明する。
「……自分一人で、調律者を倒すつもりだったのか……」
蓮が、尋問室の天野博士を見つめる。
「……彼のやり方は間違っていたけれど、調律者を倒すという目的だけは、私たちと同じだった。……皮肉なものね」
紗綾局長が、ため息をつく。
「……局長、その『世界のへそ』の正確な場所は?」
蓮が、尋ねる。
「……シロが今、彼の記憶データから座標を抽出しているところよ。……おそらく、明日には判明するわ」
「……明日か……」
蓮が、拳を握りしめる。
「……蓮、覚悟はできている?」
紗綾局長が、蓮の目を見る。
「……ああ。……三人の特異点が揃った今、俺たちに迷いはない。……必ず、扉を開いて、調律者を倒す」
蓮が、力強く答える。
「……頼もしいわね。……でも、気をつけて。……調律者も、私たちが扉を開こうとしていることに気づいているはずよ。……中枢星への道は、決して平坦ではないわ」
紗綾局長が、忠告する。
「……分かっている。……どんな困難が待ち受けていようと、俺たちは乗り越えてみせる」
蓮が、尋問室を後にする。
いよいよ、最終決戦の時が近づいていた。
世界のへそ、そして中枢星。
蓮たちの戦いは、ついに世界の外側へと舞台を移そうとしていた。
【第43章終了】
【第43章登場魔法・用語解説】
「光学迷彩」:アリスの創造魔法。光の屈折率を操作し、対象の姿を完全に透明にする。魔力消費が激しいため、長時間の使用は困難。
「特異点共鳴・三位一体」:蓮の「残響」を介して、透の「空間」、アリスの「創造」、朔の「時間」の三つの特異点の力を完全に同調させる究極の共鳴魔法。世界の法則すらも書き換えるほどの力を持つ。
「概念固定」:アリスの創造魔法の応用。対象の魔法の「概念」そのものを固定し、発動を無効化する。天野博士の「虚無」すらも防ぐことができる。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
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