第40章 調律者の影
第40章 調律者の影
一
午前零時。
東京の中心、国会議事堂。
普段は厳重な警備が敷かれているこの場所も、深夜には静寂に包まれている。
しかし、その地下深くでは、世界の命運を懸けた戦いが始まろうとしていた。
「……透、準備はいいか?」
議事堂から少し離れたビルの屋上で、蓮が通信機越しに尋ねる。
「……はい。……いつでも行けます」
透の声が、静かに響く。
「……よし。……作戦開始だ」
蓮が、合図を出す。
「……『空間』――空間転移!」
透が、自身の魔法を発動させる。
次の瞬間、透の姿が屋上から消え、国会議事堂の地下十階へと転移した。
地下十階は、政府の機密データサーバーが立ち並ぶ広大な空間だった。
透が着地した瞬間、警報が鳴り響き、赤いランプが点滅し始めた。
「……侵入者発見! ……直ちに排除せよ!」
機械的な音声と共に、無数の機巧兵が通路の奥から現れた。
「……予想通りですね。……でも、僕の目的は君たちじゃない」
透が、眼鏡を押し上げる。
「……『空間』――空間断裂!」
透が、空間そのものを切り裂き、機巧兵の群れを分断する。
機巧兵たちは、見えない刃によって次々と破壊されていく。
「……シロさん、結界の解析データを送ります」
透が、タブレットを操作し、地下十一階への入り口を塞いでいる魔法結界のデータをシロに送信する。
「……データ受信しました。……解析を開始します。……約三分で突破口を開けます」
シロの声が、通信機から聞こえる。
「……三分ですね。……分かりました」
透が、再び迫り来る機巧兵たちに向き直る。
その時、機巧兵の群れを掻き分けて、一人の男が現れた。
黒いスーツを着た、冷酷な目つきの男だった。
「……ネズミが一匹紛れ込んだと思えば、対魔局の特務部隊か。……私は、政府特務機関『猟犬』の隊長、黒崎だ」
男が、名乗る。
「……猟犬……。桐島教官を死に追いやった部隊ですね」
透の目に、静かな怒りが宿る。
「……ああ、あの裏切り者か。……彼には、政府の犬としての誇りが足りなかった。……お前たちも、ここで同じ運命を辿らせてやる」
黒崎が、両手を前に突き出す。
「……『重力』――重力崩壊!」
黒崎の魔法が発動し、透の周囲の重力が異常なまでに増大する。
「……くっ……!」
透が、膝をつく。
「……どうした? ……空間魔法の使い手も、重力の前では無力か?」
黒崎が、冷笑する。
「……舐めないでください。……『空間』――空間歪曲!」
透が、自身の周囲の空間を歪め、重力の影響を逸らす。
「……ほう。……なかなかやるな。……だが、これならどうだ?」
黒崎が、さらに魔力を高める。
「……『重力』――ブラックホール!」
黒崎の手のひらに、光すらも吸い込む漆黒の球体が生成される。
それが放たれれば、周囲の全てが消滅する。
「……させません! ……『空間』――空間転移!」
透が、ブラックホールが放たれる直前に、黒崎の背後へとテレポートする。
「……なに!?」
黒崎が、驚愕して振り返る。
「……『空間』――空間断裂!」
透の空間の刃が、黒崎の背中を切り裂く。
「……ぐぁぁぁぁっ!」
黒崎が、血を吐いて倒れ込む。
「……シロさん、結界の解析は?」
透が、通信機に向かって尋ねる。
「……完了しました! ……結界の周波数を送信します。……蓮さん、突入してください!」
シロの声が響く。
「……了解だ。……行くぞ、みんな!」
蓮の声と共に、地下一階から特務部隊のメンバーが突入を開始した。
二
蓮、結月、凛音、アランの四人は、地下一階から十階までのルートを、凄まじい勢いで突破していった。
政府の警備部隊や機巧兵たちは、特務部隊の圧倒的な力の前に、次々と無力化されていく。
「……『雷撃』――超電磁砲!」
凛音が、通路を塞ぐ分厚い防爆扉を吹き飛ばす。
「……『重力』――重力圧殺!」
アランが、待ち構えていた機巧兵の部隊を地面に押し潰す。
「……『氷結』――絶対零度・氷槍雨!」
結月が、無数の氷の槍で、遠距離から攻撃してくる魔法兵器を破壊する。
「……『残響』――全式共鳴・一刀両断!」
蓮が、共鳴剣で残りの敵を切り伏せる。
四人の連携は完璧だった。
わずか数分で、彼らは地下十階へと到達し、透と合流した。
「……透、無事か?」
蓮が、透に駆け寄る。
「……はい。……結界の突破口は、すでに開いています」
透が、地下十一階へと続く階段を指差す。
「……よし。……ここから先は、未知の領域だ。……気を引き締めていくぞ」
蓮が、先頭に立って階段を降りていく。
地下十一階から十四階までは、異様な空間だった。
壁や床には、見たこともない複雑な魔法陣がびっしりと描かれており、空気が重く淀んでいる。
「……なんだ、この魔法陣は……。……見たことがない形式だ」
結月が、壁の魔法陣を観察しながら呟く。
「……これは、調律者の『式』の一部です。……この空間全体が、中枢を守るための巨大な防衛システムになっています」
シロが、通信機越しに解説する。
「……防衛システムって、具体的に何が来るんだ?」
アランが、大剣を構える。
その時、空間全体が微かに振動し、壁の魔法陣が赤く発光し始めた。
「……来ます! ……魔法陣から、高密度の魔力エネルギーが放出されます!」
シロが、警告する。
「……『氷結』――絶対零度・氷の盾!」
結月が、咄嗟に全員の前に分厚い氷の盾を生成する。
直後、壁の魔法陣から無数の赤い光線が放たれ、氷の盾に直撃した。
ガガガガガガッ!
激しい衝撃音が響き、氷の盾に亀裂が入る。
「……くっ……! ……すごい威力……!」
結月が、魔力を振り絞って盾を維持する。
「……このままじゃ、ジリ貧だ! ……俺が突破口を開く!」
蓮が、氷の盾の前に出る。
「……『残響』――全式共鳴・反射!」
蓮が、第零研究所で九条から模倣した『反射』の魔法を発動させる。
赤い光線が蓮の周囲に展開された反射壁に当たり、そのまま魔法陣へと跳ね返っていく。
ドォォォォォォン!
跳ね返った光線が魔法陣を破壊し、防衛システムの一部が沈黙する。
「……よし、今のうちに進むぞ!」
蓮が、叫ぶ。
特務部隊は、蓮の『反射』と結月の『氷の盾』で防衛システムの攻撃を凌ぎながら、地下十四階まで一気に駆け抜けた。
三
地下十五階。
そこは、巨大なドーム状の空間だった。
中央には、青白く発光する巨大な球体が浮遊している。
それが、調律者の中枢だった。
「……あれが、調律者の中枢……」
蓮が、球体を見上げる。
「……はい。……あの球体の中に、調律者のシステムを統括するコアが存在します。……それを破壊すれば、全てが終わります」
シロが、報告する。
「……よし。……一気に決めるぞ!」
蓮が、共鳴剣を構え、球体に向かって走り出す。
しかし、その時。
「……そこまでだ、特異点の器よ」
球体の前から、一人の男が姿を現した。
白髪交じりの、初老の男だった。
「……お前は……!」
蓮が、立ち止まる。
「……私は、内閣総理大臣の東郷だ。……この国の最高権力者であり、調律者の意志を代行する者だ」
男が、傲慢な態度で名乗る。
「……総理大臣……。あんたが、全ての黒幕だったのか!」
蓮が、怒りで声を震わせる。
「……黒幕などという人聞きの悪い言葉は使わないでくれたまえ。……私は、この国を、いや、この世界を正しく導くために、調律者の力を利用しているだけだ」
東郷が、冷笑する。
「……正しく導く? ……無能力者を拉致して人体実験を繰り返し、世界を滅ぼそうとすることが、正しい導きだと言うのか!」
蓮が、叫ぶ。
「……犠牲は、進化のための必然だ。……調律者の『計画』が完了すれば、この世界はより完全な形へと生まれ変わる。……そのための些細な犠牲など、気にする必要はない」
東郷の言葉に、特務部隊の全員が怒りを露わにする。
「……ふざけるな! ……あんたは、ただ自分の権力欲を満たしたいだけだ!」
凛音が、レールガンを構える。
「……愚かな子供たちだ。……調律者の圧倒的な力を前に、自分たちの無力さを思い知るがいい」
東郷が、両手を広げる。
「……『支配』――絶対服従!」
東郷の魔法が発動し、空間全体に強力な精神波が放たれる。
「……ぐっ……!」
蓮たちが、頭を押さえて膝をつく。
「……私の『支配』の魔法は、調律者の中枢から無限の魔力を供給されている。……お前たちの意志など、簡単に書き換えることができる」
東郷が、勝ち誇ったように笑う。
「……蓮……! ……意識が……!」
結月が、苦悶の表情を浮かべる。
「……くそっ……! ……体が、動かない……!」
アランが、大剣を落とす。
「……さあ、特異点の器よ。……私に服従し、その力を調律者のために捧げよ」
東郷が、蓮に向かって歩み寄る。
(……このままじゃ……全員、洗脳されてしまう……!)
蓮の意識が、徐々に薄れていく。
その時、蓮の脳裏に、美咲たち実験体の顔が浮かんだ。
『……お願い……。私たちの、仇を……』
(……そうだ……。俺は、約束したんだ……。彼らの怒りを、俺が晴らすって……!)
蓮が、最後の力を振り絞って顔を上げる。
「……俺は……絶対に……屈しない……!」
蓮が、自身の魔力を極限まで引き上げる。
「……『残響』――全式共鳴・限界突破!」
蓮の体から、凄まじい魔力が放出され、東郷の精神波を弾き飛ばす。
「……なに!? ……私の『支配』を破っただと!?」
東郷が、驚愕する。
「……みんな、今のうちだ!」
蓮が、叫ぶ。
精神波から解放された特務部隊のメンバーが、一斉に立ち上がる。
「……よくもやってくれたわね! ……『雷撃』――超電磁砲・最大出力!」
凛音が、東郷に向かってレールガンを放つ。
「……『重力』――超重力圧殺!」
アランが、東郷に莫大な重力をかける。
「……『空間』――空間圧縮!」
透が、東郷の周囲の空間を圧縮する。
「……『氷結』――絶対零度・氷結牢!」
結月が、東郷の動きを完全に封じ込める。
「……ぐぁぁぁぁっ! ……ば、馬鹿な……! ……私が、こんな子供たちに……!」
東郷が、絶望的な声を上げる。
「……これで、終わりだ!」
蓮が、共鳴剣を振り上げ、東郷に向かって突進する。
「……『残響』――全式共鳴・一刀両断!」
蓮の剣が、東郷の体を切り裂く。
東郷は、崩れ落ち、そのまま意識を失った。
「……やった……。総理大臣を、倒した……」
凛音が、安堵の息を吐く。
「……まだだ。……本命は、あの中枢だ」
蓮が、青白く発光する球体を見上げる。
「……シロ、実験体たちの魔法の安定化は、準備できているか?」
蓮が、通信機に向かって尋ねる。
「……はい。……いつでもいけます。……蓮さんが中枢を破壊する瞬間に、私が実験体たちの魔力波長を蓮さんにリンクさせます」
シロが、答える。
「……分かった。……行くぞ!」
蓮が、球体に向かって跳躍する。
「……『残響』――全式共鳴・限界突破!」
蓮が、自身の全ての魔力を共鳴剣に込める。
「……シロ、今だ!」
蓮が、叫ぶ。
「……リンク、開始!」
シロの操作により、実験体たちの魔力波長が蓮に流れ込んでくる。
蓮は、彼らの魔力を自身の魔力と共鳴させ、一つの巨大な力へと昇華させる。
「……うおおおおぉぉぉぉっ!」
蓮が、共鳴剣を球体に突き立てる。
ピキッ……ピキピキッ……。
球体に亀裂が入り、眩い光が空間全体を包み込んだ。
パリンッ!
球体が完全に砕け散り、調律者の中枢が崩壊した。
その瞬間、世界中の魔法システムに激震が走り、全ての魔法使いたちが、自分たちの力が解放されたのを感じ取った。
「……終わった……」
蓮が、地面に着地し、静かに呟く。
特務部隊のメンバーが、蓮の元に駆け寄る。
「……蓮、やったわね!」
結月が、蓮に抱きつく。
「……ああ。……これで、調律者の計画は完全に阻止された」
蓮が、結月を抱きしめ返す。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
調律者の中枢が破壊されたことで、世界に新たな「歪み」が生まれようとしていることを。
四
中枢が崩壊した後、ドーム内の空気が変わった。
重く淡んでいた魔力の気配が消え、山を彼方に感じていた圧迫感が一気に軽くなる。
「……中枢が破壊されました。……実験体たちの魔力も、安定しています」
シロが、歓喜の声で報告する。
「……良かった。……これで、実験体たちの魔法が暴走する必要はなくなった」
蓮が、安堵の息を吸く。
「……でも、中枢が崩壊したなら、山穋みの魔法結界も解けてるはずです。……地下からの脱出ルートが開けました」
透が、タブレットを操作する。
「……待ってくれ。……この部屋に、何か残っている」
蓮が、崩壊した中枢の残骸の近くに、一枚のクリスタルパネルが落ちているのを発見する。
「……これは……データストレージか?」
結月が、パネルを拾い上げる。
「……シロ、これのデータを解析できるか?」
蓮が、パネルをシロに送信する。
「……少々お待ちください。……解析中です」
シロの声が、通信機から返ってくる。
少しの間、蓮たちは地下十五階の広場で待機した。
「……解析完了しました。……これは、調律者の『記録』です」
シロの声が、重く鳴り渡る。
「……調律者の記録!?」
蓮が、身を乗り出す。
「……はい。……内容を読み上げます」
シロが、パネルのデータを解析し、内容を読み上げる。
「……『この世界は、我々調律者の第一七二四実験場である。これまでの実験は失敗と判断し、実験場をリセットすることとする。しかし、『特異点』の存在により、リセットの完全な実行が困難な状況である。よって、次のフェーズに移行することとする。次フェーズでは、『特異点』を直接回収し、新たな実験場を構築する』」
シロが、調律者の記録を読み上げる。
屋内が、沈黙に包まれた。
「……この世界は、調律者の実験場だったのか……」
結月が、青ざめた声で呼びかける。
「……次フェーズでは、『特異点を直接回収する』と記されている。……つまり、調律者の本体はまだ存在するということか」
蓮が、冷静に分析する。
「……しかも、『特異点を直接回収する』ということは、信さんやアリスちゃんのことを、彼らはまだ狙っているのです」
シロが、小声で言う。
「……」
蓮が、拳を振り上げる。
「……やれやれ。……中枢を破壊しただけじゃ、まだ終わってないってことか」
凛音が、腐る。
「……調律者の本体は、この世界の外側に存在する可能性が高いです。……彼らの実体に追いつくためには、まず『特異点』の力を完全に解放する必要があります」
シロが、分析を続ける。
「……『特異点』の力を完全に解放する……。……それは、信とアリスの力をさらに引き出すということか」
蓮が、思案する。
「……蓮さん、記録の続きを読みます」
シロが、パネルのデータをさらに解析する。
「……『特異点の力が完全に解放された時、世界の法則そのものが書き換わる。その力を利用することで、我々調律者はこの世界を超越し、次の実験場へと移行することができる』」
シロが、調律者の記録を読み上げる。
「……世界の法則を書き換える……!?」
結月が、目を大きく開く。
「……つまり、調律者の目的は、単に世界をリセットするだけじゃなかったのか。……『特異点』の力を使って、完全に別の世界へ移行することが目的だったのか……」
透が、青ざめた声で言う。
「……調律者の本体がこの世界の外側にいるなら、中枢を破壊しただけでは彼らを止められない。……信たちの戦いは、まだ終わっていない」
蓮が、山を彼方に決意を固める。
「……調律者の本体に追いつくためには、信とアリスの『特異点』の力を完全に解放する必要がある。……でも、その前にやるべきことがある」
蓮が、全員を見回す。
「……まず、実験体たちを安全な場所に避難させる。……そして、調律者の本体に追いつく方法を調査する」
「……了解しました」
シロが、素早く返事する。
「……蓮、もう一つだけ言わせて」
凛音が、小声で言う。
「……なんだ?」
「……調律者の記録に、『特異点』の数が記されていた。……『特異点は、全世界に三人存在する』と」
凛音が、小声で言う。
「……三人?」
蓮が、小声で尋ねる。
「……はい。……信さんとアリスちゃんの他に、もう一人『特異点』がいると記されています」
シロが、重大な事実を告げる。
「……三人目の特異点……。……それは一体、誰なんだ?」
蓮が、シロに尋ねる。
「……記録には、名前は記されていません。……ただ、『第三の特異点は、調律者の計画に気づいていない』と」
シロが、読み上げる。
「……調律者の計画に気づいていない特異点……」
蓮が、思案する。
「……もしかして、その人は、信たちの味方になるかもしれない」
結月が、小声で言う。
「……あるいは、調律者が最後に利用しようとしている骒札かもしれない」
凛音が、冷静に分析する。
「……どちらにせよ、まず安全な場所に戻ろう。……そして、第三の特異点の存在を調査する」
蓮が、全員に指示を出す。
「……了解しました」
全員が、脱出の準備を整える。
蓮は、崩壊した中枢の残骸を最後に振り返った。
「……調律者よ。……必ず、お前たちの実験を終わらせてやる」
蓮が、静かに呼びかけた。
その声は、認める者のいない空洞に消えていった。
五
対魔局本部に帰還した蓮たちを、実験体たちが出迎えた。
美咲が、蓮の姿を見つけて駆け寄ってくる。
「……蓮! ……無事だったのね!」
美咲が、蓮に抱きつく。
「……ああ、ただいま。……みんなも無事か?」
蓮が、美咲の頭を撫でながら、他の実験体たちを見回す。
「……はい。……魔法の暴走も、ありませんでした。……蓮さんのおかげです」
美咲が、涙目で答える。
「……よかった。……本当に、よかった」
蓮が、安堵の息を吐く。
「……蓮、調律者の記録のことを、実験体たちに話すか?」
結月が、蓮に小声で尋ねる。
「……ああ。……隠すことじゃない。……全員に知る権利がある」
蓮が、実験体たちに向き直る。
「……みんな、聞いてくれ。……調律者の中枢は破壊した。……でも、戦いはまだ終わっていない」
蓮が、実験体たちに調律者の記録の内容を話す。
この世界が実験場であること。調律者の本体がまだ存在すること。そして、三人目の特異点が存在すること。
実験体たちは、静かに蓮の話を聞いていた。
「……つまり、私たちはまだ、調律者に狙われているということ?」
美咲が、不安そうに尋ねる。
「……ああ。……でも、俺が必ず守る。……約束する」
蓮が、美咲の目を見て答える。
「……信じるわ。……あなたのことを、信じる」
美咲が、蓮の言葉を受け止め、頷く。
その夜、作戦室では緊急会議が開かれた。
「……三人目の特異点の存在について、何か手がかりはあるか?」
蓮が、シロに尋ねる。
「……現在、全世界の魔力反応データを解析中です。……特異点特有の魔力波長を持つ人物を探しています」
シロが、モニターを操作しながら答える。
「……どれくらい時間がかかる?」
「……おそらく、二十四時間以内には絞り込めると思います」
「……分かった。……それまでの間、全員休息を取れ。……特に、今日の戦闘で消耗した者は、しっかり回復しておくように」
蓮が、全員に指示を出す。
会議が終わり、各自が部屋に戻っていく中、蓮は一人作戦室に残った。
「……蓮さん」
シロが、蓮の隣に立つ。
「……シロ、一つ聞いていいか?」
蓮が、シロに向き直る。
「……はい、なんでしょう?」
「……調律者の記録に、この世界が第一七二四番目の実験場だと書いてあった。……つまり、これまでに一七二三の世界が、調律者によって滅ぼされてきたということか?」
蓮が、重い声で尋ねる。
シロが、静かに答える。
「……おそらく、そうだと思います。……調律者は、無数の世界を実験場として利用し、その度に失敗と判断してリセットしてきた。……この世界も、その一つに過ぎなかった」
「……そんな……。……一七二三もの世界が……」
蓮が、言葉を失う。
「……でも、蓮さん。……これまでの一七二三の世界では、特異点が調律者に抵抗することができなかった。……でも、この世界では、蓮さんたちが中枢を破壊した。……それは、初めてのことかもしれません」
シロが、蓮を励ます。
「……初めて……か。……だったら、俺たちが初めて調律者を倒す世界を作ってやる」
蓮が、決意を新たにする。
「……はい。……私も、全力でサポートします」
シロが、珍しく笑顔を見せる。
蓮は、窓の外の夜空を見上げた。
星が、静かに輝いている。
この星の光は、遥か遠くの宇宙から届いたものだ。
調律者がいる「世界の外側」も、あの星々の彼方にあるのかもしれない。
「……必ず、終わらせる。……この戦いを、俺の手で」
蓮が、静かに呟いた。
【第40章終了】
【第40章登場魔法・用語解説】
「支配(絶対服従)」:東郷総理大臣の魔法。空間全体に精神波を放ち、範囲内の全ての存在の意志を書き換えることができる。調律者の中枢から無限の魔力を供給されていたため、通常よりも数倍強力だった。
「調律者の記録」:調律者の中枢に保管されていたデータストレージ。この世界が調律者の第一七二四番目の実験場であること、『特異点』が三人存在すること、そして調律者の本体がこの世界の外側に存在することが記されていた。
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