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残響魔術(エコー・コード)  作者: 天音シオン
第二部 特異点と教団

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第39章 実験体たちの怒り

第39章 実験体たちの怒り



始まりの島での激闘から数日後。

対魔局本部の地下にある特別医療区画では、第零研究所から救出された「実験体」たちの治療とリハビリが続けられていた。


「……彼らの容態は、どうだ?」


蓮が、ガラス越しに病室を見つめながら、担当医に尋ねる。


「……肉体的なダメージは、魔法治療でほぼ回復しています。……しかし、精神的なトラウマが深く、未だに誰一人として言葉を発しません」


担当医が、カルテを見ながら答える。


「……そうか。……無理もない。……無能力者として拉致され、強制的に魔法を発現させられるなんて、想像を絶する苦痛だったはずだ」


蓮が、拳を握りしめる。


「……ええ。……彼らの脳波を測定したところ、常に極度の恐怖と怒りを感じている状態です。……このままでは、精神が崩壊してしまうかもしれません」


担当医が、深刻な表情で言う。


「……何か、俺たちにできることはないのか?」


蓮が、尋ねる。


「……彼らの心を開くためには、彼らと同じ痛みを理解し、共感できる存在が必要です。……しかし、我々には彼らの痛みを完全に理解することはできません」


担当医が、首を横に振る。


「……共感……」


蓮が、呟く。


その時、蓮の脳裏に、自身の魔法「残響」の特性が浮かんだ。


(……俺の『残響』は、他者の魔法を模倣するだけじゃない。……その魔法に込められた『想い』や『記憶』にも共鳴することができる。……なら、彼らの心に直接アクセスできるかもしれない)


蓮が、決断する。


「……先生。……俺に、彼らと直接接触させてください」


蓮が、担当医を見る。


「……危険です! ……彼らの精神状態は極めて不安定です。……もし、彼らの怒りや恐怖が暴走すれば、蓮さん自身も精神的なダメージを受ける可能性があります!」


担当医が、止める。


「……分かっています。……でも、このまま彼らを見殺しにはできない。……俺が、彼らの痛みを引き受けます」


蓮が、力強く言う。


「……蓮さん……」


担当医が、蓮の覚悟に圧倒される。


「……分かりました。……ただし、少しでも異常を感じたら、すぐに中止しますよ」


担当医が、渋々許可を出す。


蓮は、防護服を着て、実験体たちが収容されている大部屋へと入った。


部屋の中には、数十人の実験体たちが、ベッドの上で虚ろな目をしていた。

彼らの体からは、微弱だが不安定な魔力が漏れ出している。


「……みんな、聞こえるか?」


蓮が、静かに語りかける。


しかし、誰も反応しない。


「……俺は、神代蓮。……君たちを、第零研究所から助け出した者だ」


蓮が、ゆっくりと近づく。


一人の少女が、蓮の言葉に反応して、怯えたように身を縮めた。


「……大丈夫だ。……もう、誰も君たちを傷つけない。……ここは安全だ」


蓮が、少女の前にしゃがみ込む。


少女は、震えながら蓮を見つめている。


「……君たちの痛み、俺に教えてくれないか?」


蓮が、少女の手にそっと触れる。


「……『残響』――精神共鳴マインド・リンク


蓮が、自身の魔力を極限まで抑え、少女の魔力と波長を合わせる。


その瞬間、蓮の脳内に、少女の記憶が濁流のように流れ込んできた。



『……やめて! ……お母さん! ……助けて!』


暗い部屋。

冷たい手術台。

緑色の液体。

そして、白衣を着た研究者たちの無機質な目。


『……実験体ナンバー〇七三、魔法適性なし。……強制発現プロトコルを開始します』


『……いやぁぁぁぁぁっ!』


全身を駆け巡る、引き裂かれるような激痛。

細胞が作り変えられ、精神が崩壊していく感覚。


『……なぜ、私たちがこんな目に……!』

『……痛い……苦しい……殺して……!』

『……許さない……! ……政府も、調律者も、魔法使いも……! ……全員、死ね!』


少女の記憶だけでなく、部屋にいる全ての実験体たちの怒り、悲しみ、絶望が、蓮の精神に直接流れ込んでくる。


「……ぐぁぁぁぁぁっ!」


蓮が、頭を抱えて床に倒れ込む。


「……蓮さん!」


ガラス越しに見ていた担当医が、慌てて部屋に入ろうとする。


「……来るな! ……まだ、終わってない!」


蓮が、片手を上げて制止する。


(……これが、彼らの痛み……。こんな地獄を、彼らは何ヶ月も味わってきたのか……!)


蓮の心に、彼らの怒りが同調していく。


『……世界を壊してやる……! ……私たちを苦しめた、この世界を……!』


実験体たちの魔力が暴走し始め、部屋の空気が震える。


「……駄目だ! ……その怒りに飲まれるな!」


蓮が、必死に呼びかける。


『……うるさい! ……お前も、魔法使いだろう! ……私たちの痛みが、分かるはずがない!』


実験体たちの思念が、蓮を攻撃する。


「……分かるさ! ……俺も、大切な人を奪われた! ……理不尽な力に、何度も絶望した!」


蓮が、自身の記憶を彼らに送り返す。


父・誠一の死。

桐島の死。

使徒との絶望的な戦い。

そして、原初の式での天野博士との別れ。


蓮の記憶が、実験体たちの心に流れ込む。


『……これは……』

『……お前も、苦しんでいたのか……』


実験体たちの怒りが、少しだけ和らぐ。


「……俺たちは、同じだ。……理不尽な世界に翻弄され、傷つけられた。……でも、だからって、世界を憎んで壊そうとしたら、奴らと同じになってしまう!」


蓮が、立ち上がる。


「……俺は、調律者を絶対に許さない。……君たちをこんな目に遭わせた奴らを、必ず叩き潰す。……だから、俺に力を貸してくれ。……君たちの怒りを、俺が剣に変える!」


蓮が、実験体たちに向かって手を差し伸べる。


部屋に、静寂が訪れた。


暴走していた魔力が、徐々に落ち着きを取り戻していく。


そして、蓮の手を握っていた少女が、ポツリと呟いた。


「……本当に……倒してくれるの……?」


少女の目から、涙がこぼれ落ちる。


「……ああ。……約束する。……俺が、必ず終わらせる」


蓮が、少女の涙を指で拭う。


「……お願い……。私たちの、仇を……」


少女が、蓮の胸に顔を埋めて泣きじゃくる。


他の実験体たちも、次々と涙を流し始めた。

彼らの心に溜まっていた怒りと絶望が、涙となって浄化されていく。


蓮は、彼らの涙を受け止めながら、心の中で固く誓った。

調律者を、絶対に許さないと。



実験体たちとの精神共鳴を終えた蓮は、執務室に戻り、ソファに深く腰掛けた。


「……蓮、大丈夫?」


結月が、コーヒーを持って入ってくる。


「……ああ、なんとか。……でも、彼らの痛みは、想像以上だったよ」


蓮が、コーヒーを受け取る。


「……シロから聞いたわ。……蓮が、彼らの心を開いたって。……すごいわね」


結月が、蓮の隣に座る。


「……すごくなんかない。……俺は、彼らの怒りを利用しただけだ。……彼らの怒りを、俺の力に変えるために」


蓮が、自嘲気味に笑う。


「……そんなことない。……蓮が彼らの痛みに寄り添ってくれたから、彼らは救われたのよ。……蓮は、本当に優しい人ね」


結月が、蓮の肩に頭を乗せる。


「……結月……」


蓮が、結月の手を握る。


その時、執務室のドアがノックされ、凛音と透が入ってきた。


「……蓮、休んでるところ悪いんだけど、シロから緊急の報告があるって」


凛音が、タブレットを差し出す。


「……緊急の報告? ……何だ?」


蓮が、タブレットを受け取る。


「……第零研究所のメインフレームから回収したデータの、最終解析が完了しました。……そこに、調律者の『本体』に関する情報が含まれていました」


シロの声が、通信機から響く。


「……調律者の本体だと!?」


蓮が、身を乗り出す。


「……はい。……データによれば、調律者は単一の存在ではありません。……彼らは、世界中のネットワークに分散して存在する、一種の『集合的無意識』のようなシステムです」


シロが、説明する。


「……集合的無意識……? ……じゃあ、どうやって倒せばいいんだ?」


アランが、眉をひそめる。


「……彼らには、システムを統括する『中枢』が存在します。……その中枢を破壊すれば、調律者のシステム全体を停止させることができます」


透が、補足する。


「……その中枢は、どこにあるんだ?」


蓮が、尋ねる。


「……それが……。データに記されていた座標は、日本政府の中枢……『国会議事堂』の地下深くです」


シロの報告に、全員が息を呑んだ。


「……国会議事堂の地下……。つまり、日本政府そのものが、調律者に乗っ取られているってことか」


蓮が、拳を握りしめる。


「……第零研究所の存在や、桐島教官の件を考えれば、辻褄は合います。……政府の上層部は、すでに調律者の傀儡となっているのでしょう」


透が、冷静に分析する。


「……ふざけるな……。国民を守るべき政府が、国民を実験動物にして、世界を滅ぼそうとしてるなんて……!」


凛音が、怒りで声を荒らげる。


「……蓮。……どうするの?」


結月が、蓮を見る。


「……決まってる。……国会議事堂の地下に乗り込んで、調律者の中枢を破壊する。……これが、本当の最終決戦だ」


蓮が、立ち上がる。


「……でも、相手は日本政府よ。……正面から乗り込めば、国家反逆罪で対魔局全体が敵に回るわ」


凛音が、懸念を口にする。


「……俺たちは、すでに政府から目をつけられている。……査問委員会の呼び出しを無視し続けているしな。……どのみち、衝突は避けられない」


蓮が、言い切る。


「……なら、やるしかないですね。……僕たち特務部隊で、政府の中枢を強襲しましょう」


透が、眼鏡を押し上げる。


「……俺も、最後まで付き合うぜ」


アランが、大剣の柄を叩く。


「……私も、蓮と一緒に行くわ」


結月が、蓮の手を握る。


「……みんな、ありがとう。……シロ、国会議事堂の地下構造と、警備システムの解析を急いでくれ。……明日の夜、作戦を決行する」


蓮が、指示を出す。


「……了解しました。……全力でサポートします」


シロが、答える。


特務部隊のメンバーが退室した後、蓮は一人で執務室に残った。


窓の外には、東京の夜景が広がっている。

この平和な景色の裏で、調律者という巨大な悪意が世界を支配しようとしている。


「……父さん。……天野博士。……そして、実験体のみんな。……俺は、必ず終わらせる。……この狂った世界を、俺の手で」


蓮は、共鳴剣を握りしめ、静かに決意を固めた。



翌朝、対魔局の訓練場では、実験体たちの一部が自主的にリハビリを始めていた。


昨日まで虚ろな目をしていた少女——名前は「美咲みさき」と言った——が、ぎこちなく魔法を発動させようとしている。


「……美咲、焦らなくていいぞ。……魔法は、無理に使おうとすると暴走する」


蓮が、隣に立って声をかける。


「……でも、早く強くなって、あなたたちの役に立ちたいの。……あなたが言ったでしょ。……私たちの怒りを剣に変えるって」


美咲が、蓮を見上げる。


「……ああ、言った。……でも、それは君たちを戦わせるためじゃない。……君たちの怒りを、俺が代わりに晴らすってことだ」


蓮が、美咲の目を見る。


「……でも、私も戦いたい。……あの研究所の人たちを、自分の手で……!」


美咲の目に、強い意志が宿る。


「……美咲の気持ちは分かる。……でも、今の君には、まだ戦う力がない。……まず、自分の魔法を制御することを覚えてくれ。……それができたら、一緒に戦う方法を考えよう」


蓮が、美咲の頭に手を置く。


「…………分かった。……じゃあ、教えてくれる? ……魔法の使い方」


美咲が、少し照れながら言う。


「……ああ、もちろんだ」


蓮が、微笑む。


美咲の魔法は「念動力テレキネシス」だった。

物体を意志の力で動かす魔法だが、感情が乱れると制御が効かなくなる。


「……まず、深呼吸して。……魔法は、感情と連動している。……怒りや恐怖が強いと、魔法も暴走する」


蓮が、指導する。


美咲が、目を閉じて深呼吸する。


「……次に、動かしたいものに意識を集中して。……力で動かそうとするんじゃなく、自分の手の延長として感じるんだ」


蓮が、訓練場に置かれた石を指差す。


美咲が、石に向かって手を伸ばす。


石が、ゆっくりと浮き上がった。


「……動いた……!」


美咲が、目を輝かせる。


「……よし、その調子だ。……もっと高く上げてみろ」


蓮が、励ます。


石が、さらに高く浮き上がる。


「……すごい! ……私、魔法が使えてる……!」


美咲が、嬉しそうに笑う。


その笑顔を見て、蓮は胸が締め付けられた。

こんな笑顔を、研究所の奴らは奪おうとしていたのだ。


「……美咲、一つ聞いていいか?」


蓮が、真剣な表情で尋ねる。


「……なに?」


「……研究所に連れて行かれる前、君はどんな生活をしていた?」


美咲の表情が、曇る。


「……普通の、中学生だったわ。……友達もいて、好きな人もいて……。でも、ある日突然、黒いバンに乗せられて……。気づいたら、あの研究所にいた」


美咲の声が、震える。


「……家族は?」


「……お父さんとお母さんが、いた。……今も、どこかで私のことを探してるかもしれない」


美咲の目から、涙がこぼれ落ちる。


「……必ず、家族の元に帰してやる。……それも、俺の約束だ」


蓮が、美咲の肩に手を置く。


「……ありがとう、蓮。……あなたのこと、信じるわ」


美咲が、涙を拭い、笑顔を見せる。


訓練場の周囲では、他の実験体たちも、それぞれのペースで魔法の練習を始めていた。

昨日まで絶望の淵にいた彼らが、少しずつ希望を取り戻していく。


(……これが、俺が守りたいものだ。……この笑顔のために、俺は戦う)


蓮は、訓練場を見渡しながら、改めて決意を固めた。



午後、蓮は作戦会議のために作戦室に戻った。

シロが、国会議事堂の地下構造の解析結果をモニターに表示している。


「……国会議事堂の地下構造の解析が完了しました。……地下十五階に、調律者の中枢が存在すると思われる空間があります」


シロが、モニターの地図を拡大する。


「……地下十五階……。……そこまでのルートは?」


蓮が、地図を見る。


「……地下一階から十階までは、政府の機密設備が密集しています。……十一階から十四階は、強力な魔法結界で覆われており、小細工な侵入は不可能です」


シロが、説明する。


「……山穋みの魔法結界か。……どうやって突破する?」


アランが、腐る。


「……地下十階までは、正規のエレベーターを使うことができます。……そこから先は、魔法で結界を破るしかありません」


透が、地図を指さしながら語る。


「……地下十階に入るまでに、政府の魔法兵器と機巧兵の部隊を突破する必要があります。……相当の激戦になるでしょう」


シロが、冷静に分析する。


「……やるしかない。……作戦は二段階だ。……まず、透が地下十階までテレポートで先行し、結界の解析データを取得する。……その後、信たちが地下一階から順番に突破していく」


蓮が、作戦を説明する。


「……分かりました。……結界の解析は、僕に任せてください」


透が、自信満々に答える。


「……もう一つ、注意事項があります」


シロが、語る。


「……国会議事堂の地下には、調律者の中枢だけでなく、政府に洗脳された高官たちもいる可能性があります。……彼らは、調律者の意志に従って、信たちを死に物にしようとするでしょう」


「……つまり、人間とも戦わなきゃいけないってことか」


凛音が、腐る。


「……洗脳された人間は、調律者の側から見れば『彼らの意志』で動いている。……必要ならば、魔法で無力化するしかない」


蓮が、言い切る。


「……死なせないようにしながら、か」


結月が、蓮の言葉を車座りにする。


「……ああ。……洗脳は、中枢を破壊すれば解けるはずだ。……まずは中枢の破壊を優先する」


蓮が、全員を見回す。


「……作戦開始は、明日の午前零時。……全員、最後の準備を整えておけ」


作戦会議が終わり、各自が部屋に戻っていく。


蓮が一人残った作戦室で、シロが静かに近づいてきた。


「……蓮さん。……一つ、お伝えしたいことがあります」


シロが、珍しげに言う。


「……なんだ?」


「……実は、私の魔力解析の結果、調律者の中枢が破壊されると、世界中の魔法システムに大きな変動が起きる可能性があります」


シロが、深刻な表情で語る。


「……大きな変動とは?」


「……調律者は、魔法の流れを制御することで、魔法使いたちの力を制限しています。……中枢が破壊されれば、その制限が解け、魔法使いたちの力が一時的に暴走する可能性があります」


「……つまり、実験体たちの魔法も」


「……はい。……彼らの魔法が暴走する可能性があります。……それを防ぐために、中枢破壊の前に、彼らの魔法を安定させる必要があります」


シロが、蓮を見る。


「……それは、信の『残響』でしかできません。……中枢破壊と同時に、蓮さんが実験体たちの魔法に共鳴して安定させる必要があります」


「……中枢破壊と同時に、全実験体の魔法に共鳴する……? ……それは、相当な負担だな」


蓮が、思案する。


「……でも、彼らを守るために、それしか方法がないなら、やるしかない」


蓮が、決断する。


「……蓮さん……」


シロが、心配そうに蓮を見る。


「……大丈夫だ。……信の『残響』は、そのためにあるんだからな」


蓮が、微笑む。


「……お会いできて、良かったです、蓮さん」


シロが、珍しげに笑う。


「……信もだ。……よし、就寢する。……明日に備えて、体力を準備しておく」


蓮が、作戦室を出る。



その夜、蓮は一人で屋上に上がり、東京の夜景を見下ろしていた。


「……一人で考え事か?」


後ろから、凛音の声がした。


「……凛音か。……どうした?」


蓮が、振り返る。


「……蓮が一人でいると、つい心配になってね。……昔からそうだったじゃない」


凛音が、蓮の隣に立つ。


「……そうだったな。……訓練所でも、よく一人で屋上にいたっけ」


蓮が、懐かしそうに笑う。


「……あの頃は、まさかこんなことになるとは思ってなかったわ。……世界の命運を懸けた戦いに、私たちが巻き込まれるなんて」


凛音が、夜景を見つめる。


「……でも、後悔はしてないか?」


蓮が、尋ねる。


「……してないわ。……蓮と一緒に戦えて、良かったと思ってる。……たとえ、どんな結末になっても」


凛音が、静かに答える。


「……凛音……」


「……蓮、一つだけ聞かせて。……明日の作戦、本当に大丈夫なの? ……国会議事堂の地下に乗り込むなんて、無謀じゃない?」


凛音が、真剣な目で蓮を見る。


「……無謀かもしれない。……でも、これしかないんだ。……調律者の中枢を破壊しなければ、世界は終わる。……俺たちが動かなければ、誰が動く?」


蓮が、答える。


「……そうね。……じゃあ、私も全力でサポートするわ。……蓮を、絶対に死なせない」


凛音が、レールガンを構えるポーズをとる。


「……ありがとう、凛音。……お前がいてくれると、百人力だ」


蓮が、凛音の頭をポンポンと叩く。


「……子ども扱いしないでよ!」


凛音が、蓮の手を払いのける。


二人は、しばらく黙って夜景を眺めた。


「……蓮、一つだけ言わせて」


凛音が、小さな声で言う。


「……なんだ?」


「……結月のこと、大切にしてあげてね。……あの子、本当に蓮のことが好きなんだから」


凛音が、少し寂しそうに笑う。


「……凛音……」


「……私は大丈夫よ。……蓮の幸せが、私の幸せだから。……それに、私には私の戦い方があるしね」


凛音が、強がって笑う。


「……凛音は、本当に強いな」


蓮が、凛音の肩に手を置く。


「……当たり前よ。……私は、蓮の幼馴染だもの」


凛音が、胸を張る。


二人は、再び夜景を眺めた。

明日、最終決戦の幕が上がる。


蓮は、東京の灯りを見つめながら、守るべき人々の顔を一人一人思い浮かべた。

結月、凛音、アラン、透、シロ、美咲、そして実験体たちの笑顔。


「……絶対に、守ってみせる。……この世界を、この笑顔を」


蓮が、静かに呟いた。





【第39章終了】





【第39章登場魔法・用語解説】


精神共鳴マインド・リンク」:蓮の「残響」の応用技。他者の魔力と波長を合わせることで、その魔法に込められた想いや記憶に直接アクセスし、精神的な繋がりを持つことができる。


「調律者の中枢」:世界中のネットワークに分散して存在する調律者のシステムを統括するコア。日本政府の中枢である国会議事堂の地下深くに隠されていることが判明した。



ここまで読んでくれてありがとうございました!


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