第34章 桐島の最期
第34章 桐島の最期
一
政府の地下要塞「パンデモニウム」の最下層、「審判の間」。
特務部隊の蓮たちは、恩師である桐島教官を奪還するため、政府の特殊魔法部隊「猟犬」と、無数の自動砲台に囲まれていた。
「……撃てぇぇぇぇっ!」
査問委員長の号令と共に、自動砲台から一斉に魔力弾が発射される。
同時に、猟犬部隊の魔法士たちが、炎や雷の魔法を放ってきた。
「……『氷結』――絶対零度・氷結城壁!」
結月が、両手を地面に突き立てる。
瞬時に巨大な氷の城壁がせり上がり、全方位からの攻撃を防ぐ。
激しい爆発音が響き渡り、氷の城壁が軋む。
「……くっ……! 攻撃が激しすぎます……!」
結月が、歯を食いしばる。
「……結月、無理するな! ……『雷撃』――超電磁砲・拡散雨!」
凛音が、氷の城壁の隙間からレールガンを乱射し、自動砲台を次々と破壊していく。
「……『事象の地平』――空間断裂!」
透が、空間を切り裂き、猟犬部隊の魔法を逸らす。
「……教官、怪我はないですか?」
蓮が、桐島を庇いながら尋ねる。
「……ああ。……だが、このままではジリ貧だ。……猟犬部隊は、政府の精鋭中の精鋭。……数も多すぎる」
桐島が、険しい表情で周囲を見回す。
「……突破口は、俺が開きます。……みんな、俺に続け!」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……『残響』――全式共鳴・限界突破!」
蓮が、自身の魔力を極限まで引き上げる。
代償である「記憶の消失」が進行し、頭に激痛が走るが、蓮はそれを気力でねじ伏せる。
「……行くぞぉぉぉぉっ!」
蓮が、氷の城壁を蹴って跳躍し、猟犬部隊の陣形に突っ込む。
「……馬鹿な! 単機で突っ込んでくるとは!」
猟犬のリーダーが、驚愕する。
「……全式共鳴・絶華・氷炎!」
蓮が、結月の冷気と自身の魔力を融合させた一撃を放つ。
青白いオーラと絶対零度の冷気が、猟犬部隊を薙ぎ払う。
「……ぐぁぁぁぁっ!」
猟犬たちが、次々と吹き飛ばされていく。
「……今だ! 突破するわよ!」
凛音が、蓮の開いた突破口に向かって走り出す。
結月、透、そして桐島も、それに続く。
「……逃がすか! ……追え! 奴らを絶対に逃がすな!」
査問委員長が、ヒステリックに叫ぶ。
蓮たちは、猟犬部隊の追撃を振り切りながら、パンデモニウムの迷路のような通路を駆け抜けていく。
「……シロ、脱出ルートは!?」
蓮が、通信機で尋ねる。
「……現在地から北へ五百メートル進んだところに、非常用の搬出エレベーターがあります! ……そこから地上へ出られます!」
シロの声が響く。
「……よし、北へ向かうぞ!」
蓮が、先頭を走る。
しかし、政府の要塞はそう簡単に彼らを逃がしてはくれなかった。
「……侵入者発見! 排除モードに移行します」
通路の天井から、無数の防衛ドローンが降下してくる。
「……次から次へと……! 鬱陶しいわね!」
凛音が、レールガンでドローンを撃ち落とす。
「……『事象の地平』――空間圧縮!」
透が、ドローンの群れを空間ごと圧縮して破壊する。
「……蓮、前方に強力な魔力反応!」
結月が、警告する。
通路の奥から、巨大な人影が現れた。
それは、全身を機械化されたサイボーグ魔法士だった。
「……あれは……『機巧兵』か。……政府が極秘に開発していた、対魔法士用の兵器だ」
桐島が、顔色を変える。
「……対魔法士用兵器……。上等だ!」
蓮が、共鳴剣を構えて機巧兵に斬りかかる。
ガキィィィィン!
共鳴剣が、機巧兵の装甲に弾き返される。
「……硬い……!」
蓮が、驚く。
「……目標確認。……排除を開始する」
機巧兵が、無機質な声で言い、腕に内蔵された魔力砲を蓮に向ける。
「……危ない!」
桐島が、蓮を突き飛ばす。
ドォォォォン!
魔力砲が発射され、蓮がいた場所の壁が大きく抉り取られる。
「……教官!」
蓮が、叫ぶ。
「……俺は大丈夫だ。……だが、こいつは厄介だぞ。……魔法に対する耐性が異常に高い」
桐島が、体勢を立て直す。
「……なら、物理で破壊するまでよ! ……『雷撃』――超電磁砲・最大出力!」
凛音が、レールガンを機巧兵の頭部に撃ち込む。
しかし、機巧兵は僅かに後退しただけで、すぐに体勢を立て直した。
「……ダメージが通っていない……!?」
凛音が、驚愕する。
「……私の『絶対零度』で、装甲を脆くします! ……蓮、その隙に!」
結月が、機巧兵の足元を凍らせる。
「……分かった! ……『残響』――全式共鳴・一刀両断!」
蓮が、凍りついた機巧兵の関節部分を狙って、共鳴剣を振り下ろす。
ガキィィィィン!
今度は、機巧兵の装甲に亀裂が入った。
「……よし、効いてる!」
蓮が、さらに追撃をかけようとする。
しかし、機巧兵は背中から無数のミサイルを発射した。
「……しまっ……!」
蓮が、回避しようとするが、間に合わない。
「……『事象の地平』――空間固定!」
透が、ミサイルの周囲の空間を固定し、爆発を防ぐ。
「……助かった、透!」
蓮が、安堵する。
「……油断しないでください! ……まだ来ます!」
透が、叫ぶ。
機巧兵は、損傷した装甲を自己修復しながら、再び魔力砲のチャージを始める。
「……自己修復機能まであるのか……。厄介すぎる」
蓮が、舌打ちをする。
「……蓮。……ここは俺に任せろ」
桐島が、蓮の前に出る。
「……教官? ……駄目です、教官は武器を持っていないじゃないですか!」
蓮が、止める。
「……武器なら、あるさ。……俺の『命』という名の武器がな」
桐島が、静かに言う。
「……え……?」
蓮が、桐島の言葉の意味を理解できず、呆然とする。
「……お前たちは、先に行け。……ここは俺が食い止める」
桐島が、振り返らずに言う。
「……何を言ってるんですか! ……一緒に帰るって約束したじゃないですか!」
蓮が、桐島の腕を掴む。
「……蓮。……俺は、もう長くは生きられない」
桐島が、悲しげな瞳で蓮を見る。
「……どういう……ことですか……?」
蓮が、息を呑む。
「……政府にスパイを強要された時、俺は『呪い』の魔法をかけられた。……政府を裏切れば、心臓が止まる呪いだ。……タルタロスを襲撃した時点で、俺の命は尽きかけている」
桐島が、胸を押さえる。
「……そんな……」
蓮が、絶望する。
「……だから、俺の命は、お前たちを守るために使わせてくれ。……それが、俺の最後の『誇り』だ」
桐島が、微笑む。
「……嫌だ……! ……そんなの、絶対に嫌だ!」
蓮が、涙を流して叫ぶ。
「……蓮。……お前は、俺の最高の教え子だ。……お前なら、この狂った世界を変えられる。……俺の分まで、生きてくれ」
桐島が、蓮の頭を優しく撫でる。
「……教官……!」
蓮が、泣き崩れる。
「……結月、凛音、透。……蓮を頼んだぞ」
桐島が、仲間たちに託す。
「……はい……。必ず……」
結月が、涙を堪えながら頷く。
「……教官の想い、無駄にはしません……!」
凛音が、唇を噛み締める。
「……僕たちに、任せてください……」
透が、深く頭を下げる。
「……よし。……行けぇぇぇぇっ!」
桐島が、叫ぶ。
蓮たちは、涙を拭い、非常用エレベーターに向かって走り出した。
「……さあ、来い。……政府の犬ども。……俺が、相手になってやる」
桐島が、機巧兵と、追いついてきた猟犬部隊の前に立ち塞がる。
「……死に損ないが。……やれ!」
猟犬のリーダーが、命令を下す。
機巧兵と猟犬部隊が、一斉に桐島に襲いかかる。
「……俺の魔法は『鋼体』。……どんな攻撃も弾き返す、絶対の防御だ。……だが、今回は防御じゃない。……攻撃に使う」
桐島が、自身の魔力を極限まで引き上げる。
「……『鋼体』――限界突破・自壊爆散!」
桐島の身体が、鋼のように硬化し、そして、眩い光を放ち始めた。
「……なっ……!? 自爆する気か!」
猟犬のリーダーが、驚愕する。
「……お前たちを道連れにな!」
桐島が、不敵に笑う。
ドォォォォォォォォン!
凄まじい爆発が、パンデモニウムの地下通路を吹き飛ばした。
機巧兵も、猟犬部隊も、桐島の命を懸けた一撃によって、完全に消滅した。
二
非常用エレベーターで地上へと向かう蓮たちは、地下から響いてきた爆発音を聞いた。
「……教官……」
蓮が、エレベーターの床に崩れ落ち、号泣する。
結月は、何も言わずに蓮の背中をさすり続けた。
凛音も、透も、ただ黙って涙を流していた。
地上に出た蓮たちは、シロが手配したステルス輸送機に乗り込み、対魔局本部へと帰還した。
帰還後、蓮たちは紗綾局長に事の顛末を報告した。
「……そうか。……桐島は、死んだか」
紗綾が、静かに目を閉じる。
「……俺のせいです。……俺が、もっと早く教官の苦しみに気づいていれば……」
蓮が、拳を握りしめ、自分を責める。
「……自分を責めるな、蓮。……桐島は、自分の意志で、お前たちを守ることを選んだんだ。……彼の死を無駄にするな」
紗綾が、蓮の肩に手を置く。
「……はい……」
蓮が、涙を拭う。
「……政府は、今回の件で完全に対魔局を敵視するだろう。……これからは、より厳しい戦いになる。……覚悟しておけ」
紗綾が、厳しい表情で言う。
「……分かっています。……俺たちは、絶対に負けません」
蓮が、決意を込めて頷く。
数日後。
対魔局の慰霊碑の前で、桐島の密やかな葬儀が行われた。
参列したのは、蓮たち特務部隊のメンバーと、紗綾局長、そして、救出された桐島の妻と娘だけだった。
「……パパ……」
桐島の娘が、慰霊碑に花を手向けながら泣きじゃくる。
「……ごめんね。……俺たちが、不甲斐ないばかりに……」
蓮が、桐島の娘の目線に合わせてしゃがみ込み、謝罪する。
「……ううん。……パパは、蓮お兄ちゃんたちを助けたんでしょ? ……パパは、ヒーローだもん……」
桐島の娘が、涙を拭いながら気丈に言う。
その言葉に、蓮は再び涙を堪えきれなくなった。
「……ああ。……教官は、最高のヒーローだ」
蓮が、桐島の娘を優しく抱きしめる。
葬儀が終わり、皆が立ち去った後も、蓮は一人で慰霊碑の前に立ち尽くしていた。
「……教官。……俺、強くなります。……もう二度と、大切な人を失わないために」
蓮が、慰霊碑に向かって誓う。
「……蓮」
背後から、結月の声が聞こえた。
振り返ると、黒い喪服を着た結月が立っていた。
「……結月。……どうしたんだ?」
蓮が、尋ねる。
「……蓮を、一人にしておけなくて」
結月が、蓮の隣に並ぶ。
「……ありがとう。……でも、大丈夫だ。……俺は、もう迷わない」
蓮が、前を向く。
「……蓮。……私、あなたに伝えたいことがあるの」
結月が、真剣な眼差しで蓮を見つめる。
「……伝えたいこと?」
蓮が、首を傾げる。
「……私、ずっと自分の感情が分からなかった。……『絶対零度』の代償で、感情を失ってしまったから。……でも、蓮と出会って、一緒に戦って、少しずつ感情を取り戻してきた」
結月が、自分の胸に手を当てる。
「……ああ。……結月は、よく笑うようになったし、怒るようにもなった」
蓮が、微笑む。
「……桐島教官が亡くなった時、私、すごく悲しかった。……胸が張り裂けそうなくらい、痛かった。……そして、蓮が泣いているのを見て、もっと痛くなった」
結月が、涙ぐむ。
「……結月……」
蓮が、結月の名前を呼ぶ。
「……私、蓮がいなくなるのが怖い。……蓮が傷つくのが、怖い。……この感情が何なのか、ずっと考えていたの」
結月が、蓮の手を握る。
「……そして、分かったの。……私、蓮のことが……好きです」
結月が、真っ直ぐに蓮の目を見て、告白した。
蓮は、結月の突然の告白に、驚きで言葉を失った。
「……え……?」
蓮が、目を丸くする。
「……蓮のことが、好き。……誰よりも、大切なの。……だから、もう一人で抱え込まないで。……悲しい時は、一緒に泣かせて。……苦しい時は、一緒に戦わせて」
結月が、蓮の胸に顔を埋める。
蓮は、結月の温もりを感じながら、自分の心の中にある感情と向き合った。
結月は、いつも自分の隣にいてくれた。
不器用だけど、誰よりも優しくて、強くて、美しい。
彼女の存在が、どれほど自分の支えになっていたか。
「……結月。……俺も、お前が好きだ」
蓮が、結月を強く抱きしめ返す。
「……蓮……」
結月が、嬉し涙を流す。
「……俺は、記憶を失っていく。……いつか、お前のことも忘れてしまうかもしれない。……それでも、いいのか?」
蓮が、不安そうに尋ねる。
「……構わないわ。……蓮が忘れてしまったら、私が何度でも教える。……私たちが一緒に過ごした時間を、何度でも」
結月が、蓮の顔を見上げて微笑む。
「……ありがとう、結月。……俺は、お前を絶対に守る。……この命に代えても」
蓮が、結月の唇に、そっとキスをした。
冷たい風が吹く慰霊碑の前で、二人は互いの想いを確かめ合った。
悲しみを乗り越え、新たな絆を結んだ二人は、これから待ち受ける過酷な運命に立ち向かう覚悟を決めた。
三
蓮と結月が想いを確かめ合っていた頃。
対魔局本部の屋上で、凛音は一人、タバコを吹かしていた。
「……ふぅ……」
凛音が、紫煙を空に吐き出す。
「……凛音さん。……こんなところにいたんですね」
アランが、屋上にやってくる。
「……アランか。……どうしたの?」
凛音が、振り返る。
「……いえ、凛音さんが落ち込んでいるんじゃないかと思って……」
アランが、心配そうに言う。
「……落ち込んでるわよ。……教官が死んで、悲しくないわけないじゃない」
凛音が、自嘲気味に笑う。
「……それだけじゃ、ないですよね?」
アランが、鋭く指摘する。
「……何が言いたいの?」
凛音が、眉をひそめる。
「……蓮さんと結月さんのこと、ですよね」
アランが、遠慮がちに言う。
凛音は、一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐにため息をついた。
「……バレてたか。……まあ、アランには隠し事できないわね」
凛音が、タバコを灰皿に押し付ける。
「……凛音さんは、蓮さんのことが好きなんですよね?」
アランが、尋ねる。
「……ええ、好きよ。……でも、蓮の隣は、結月の場所だから。……私は、一歩引いて見守るって決めたの」
凛音が、寂しそうに微笑む。
「……それで、いいんですか?」
アランが、食い下がる。
「……いいのよ。……私は、裏社会で生きてきた人間。……蓮みたいな真っ直ぐな奴には、結月みたいな純粋な子が似合ってる。……私は、蓮の背中を守る『戦友』で十分」
凛音が、強がるように言う。
「……凛音さん……」
アランが、切なそうな顔をする。
「……それに、私にはアランがいるじゃない。……可愛い弟分がね」
凛音が、アランの頭を撫でる。
「……弟分、ですか……」
アランが、少し不満そうに呟く。
「……何よ、不満なの?」
凛音が、笑う。
「……いえ、不満じゃないですけど……。僕だって、いつかは凛音さんを守れるくらい、強い男になりますから!」
アランが、顔を赤くして宣言する。
「……ふふっ。……期待してるわよ、アラン」
凛音が、優しく微笑む。
凛音は、自分の恋心を胸の奥にしまい込み、仲間として蓮たちを支え続けることを改めて決意した。
彼女の強さと優しさは、特務部隊にとって欠かせないものだった。
四
数日後。
対魔局本部に、緊急の警報が鳴り響いた。
「……何事だ!?」
蓮が、指令室に駆け込む。
「……蓮さん! ……本部が、何者かの襲撃を受けています!」
シロが、モニターを見ながら叫ぶ。
「……襲撃!? ……政府の連中か!?」
凛音が、レールガンを構える。
「……いえ、違います! ……この魔力波形は……教団です!」
シロが、顔色を変える。
「……教団だと!? ……なぜ、今頃になって……」
蓮が、驚愕する。
「……正面ゲートが突破されました! ……敵の数は不明ですが、強力な魔法士が複数います!」
アランが、報告する。
「……迎え撃つぞ! ……みんな、出撃だ!」
蓮が、号令をかける。
特務部隊は、指令室を飛び出し、正面ゲートへと向かった。
正面ゲートは、完全に破壊され、瓦礫の山と化していた。
そして、その瓦礫の上に、一人の男が立っていた。
黒いローブを身に纏い、顔には不気味な仮面をつけている。
その全身から放たれる魔力は、かつて戦った黒崎ジンや、教皇すらも凌駕するほどに強大だった。
「……お前が、教団の……」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……初めまして、特異点の器よ。……私は、黒の教団を統べる者。……『使徒』と呼ばれている」
男――使徒が、低く響く声で名乗る。
「……使徒……。お前が、教団の真の黒幕か」
蓮が、使徒を睨みつける。
「……黒幕、という表現は正確ではありませんね。……私はただ、この狂った世界を正すために行動しているだけです」
使徒が、両手を広げる。
「……狂った世界を正すだと? ……無関係な人々を巻き込んでおいて、よく言うぜ!」
凛音が、レールガンを使徒に向ける。
「……多少の犠牲は、大義のための必要悪です。……あなたたち対魔局も、政府の犬として多くの命を奪ってきたではありませんか」
使徒が、冷笑する。
「……俺たちは、誰も殺したくて殺してるわけじゃない! ……お前たちのような悪党から、人々を守るために戦ってるんだ!」
蓮が、叫ぶ。
「……守る、ですか。……滑稽ですね。……あなたたちが守ろうとしているこの世界が、どれほど腐敗しているか、まだ気づいていないのですか?」
使徒が、哀れむような目で蓮を見る。
「……どういう意味だ?」
蓮が、眉をひそめる。
「……魔法発現の真実。……そして、調律者の存在。……あなたたちは、何も知らないまま、踊らされているだけなのです」
使徒が、意味深な言葉を口にする。
「……調律者……。お前も、奴らのことを知っているのか?」
蓮が、驚く。
「……ええ。……私は、調律者を滅ぼすために教団を作りました。……そのためには、特異点の力が必要なのです」
使徒が、蓮を指差す。
「……俺の力を、利用する気か」
蓮が、警戒する。
「……利用するのではありません。……導くのです。……さあ、私と共に来なさい。……真実の世界へ」
使徒が、蓮に手を差し伸べる。
「……断る! ……俺は、お前のような奴とは絶対に手を組まない!」
蓮が、共鳴剣を振り下ろす。
「……交渉決裂ですね。……残念です」
使徒が、指を鳴らす。
その瞬間、使徒の背後から、無数の黒い影が飛び出してきた。
それは、教団が作り出した異形の魔法生物たちだった。
「……来るわよ!」
結月が、氷の壁を作り出す。
「……蹴散らす!」
凛音が、レールガンを乱射する。
「……『事象の地平』――空間断裂!」
透が、空間を切り裂き、魔法生物を両断する。
「……お前の相手は、俺だ!」
蓮が、魔法生物の群れを抜け、使徒に斬りかかる。
「……『虚無』――絶対消去」
使徒が、軽く手を振る。
蓮の共鳴剣が、使徒に触れる直前で、音もなく消滅した。
「……なっ……!?」
蓮が、驚愕する。
「……私の魔法は『虚無』。……あらゆる事象を無に帰す力です。……あなたの『残響』でも、無を共鳴させることはできませんよ」
使徒が、冷酷に笑う。
「……くそっ……!」
蓮が、後退する。
使徒の圧倒的な力の前に、蓮たちはかつてない危機に直面していた。
教団の真の黒幕との戦いが、今、幕を開けた。
【第34章終了】
【第34章登場魔法・用語解説】
「機巧兵」:政府が極秘に開発していた対魔法士用のサイボーグ兵器。魔法に対する異常な耐性と、自己修復機能を備える。物理的な破壊以外に倒す方法がない厄介な敵。
「鋼体」:桐島教官の魔法適性。自身の肉体を鋼のように硬化させ、あらゆる物理・魔法攻撃を弾き返す絶対防御の魔法。限界突破することで、自身の命と引き換えに大爆発を起こす「自壊爆散」が可能。
「虚無」:教団の長「使徒」の魔法適性。触れたあらゆる事象(物質、魔法、エネルギー)を無に帰す、究極の消去魔法。防御や回避が不可能に近い。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
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