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残響魔術(エコー・コード)  作者: 天音シオン
第二部 特異点と教団

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第33章 裏切り者

第33章 裏切り者



「第十二の歪み」の消滅から数日が経過した。

世界中を脅かしていた未曾有の魔法災害は、特務部隊の活躍によって完全に鎮圧された。

対魔局本部では、連日のように祝勝ムードが漂い、職員たちの顔にも安堵の色が浮かんでいた。


しかし、蓮たちの表情は晴れなかった。


「……政府のスパイ、か」


蓮は、対魔局本部の屋上で、どんよりと曇った空を見上げながら呟いた。

手には、先日シロが解析したデータ端末が握られている。


「……ええ。……歪み封印作戦の最中、私たちの行動データが、外部のサーバーにリアルタイムで送信されていました。……その送信元は、対魔局内部の端末です」


シロが、蓮の隣で静かに報告する。


「……つまり、俺たちの仲間の中に、政府の犬が紛れ込んでいるってことだな」


凛音が、舌打ちをしながらレールガンを肩に担ぐ。


「……信じられません。……あんなに一緒に戦ってきたのに……」


結月が、悲しげに目を伏せる。


「……でも、事実です。……しかも、そのスパイは、かなり高い権限を持っているはずです。……作戦の全容を把握し、セキュリティを掻い潜ってデータを送信できる人物……」


透が、冷静に分析する。


「……心当たりは、あるのか?」


蓮が、シロに尋ねる。


「……送信元の端末は特定できました。……しかし、その端末は、複数の職員が共有で使用しているものでした。……特定には、もう少し時間がかかります」


シロが、申し訳なさそうに答える。


「……そうか。……焦る必要はない。……必ず、尻尾を掴んでやる」


蓮が、端末を強く握りしめる。


その時、屋上のドアが開き、一人の男が姿を現した。


「……お前たち、こんなところで何をしている?」


厳しい声が響く。

そこに立っていたのは、蓮たちの訓練教官であり、特務部隊の指揮官でもある桐島きりしまだった。


「……桐島教官……」


蓮が、振り返る。


桐島は、歴戦の猛者といった風貌の、筋骨隆々とした男だ。

かつては対魔局のトップエースとして活躍し、数々の難事件を解決してきた伝説の魔法士でもある。

蓮たちにとっては、厳しくも頼りになる恩師だった。


「……歪みの封印が終わったからといって、気を抜くな。……魔法犯罪が完全に無くなったわけではない。……常に警戒を怠るな」


桐島が、鋭い視線で蓮たちを睨みつける。


「……はい、分かっています」


蓮が、姿勢を正す。


「……それと、蓮。……後で俺の執務室に来い。……少し、話がある」


桐島が、そう言い残して、屋上から去っていく。


「……話、ですか?」


透が、首を傾げる。


「……なんだろうな。……まあ、行ってみるさ」


蓮が、桐島の背中を見送る。


その時、蓮の「残響」が、微かに反応した。

桐島の背中から、ほんの僅かな、しかし確かな「焦燥」の感情が伝わってきたのだ。


(……教官が、焦っている……?)


蓮は、微かな違和感を覚えた。



数時間後。

蓮は、桐島の執務室を訪れた。


「……失礼します」


蓮が、ドアをノックして中に入る。


執務室は、薄暗く、タバコの煙が充満していた。

桐島は、デスクの奥で、深く椅子に腰掛けていた。


「……来たか、蓮」


桐島が、タバコを灰皿に押し付ける。


「……話とは、何でしょうか?」


蓮が、桐島の前に立つ。


「……お前たち、最近、何か妙な動きをしていないか?」


桐島が、探るような目で蓮を見る。


「……妙な動き、ですか?」


蓮が、とぼける。


「……とぼけるな。……シロを使って、局内の通信記録を調べているだろう」


桐島が、核心を突く。


蓮は、一瞬だけ表情を硬くしたが、すぐに平静を装った。


「……セキュリティの定期点検です。……歪み封印作戦で、外部からのハッキングの痕跡があったので」


蓮が、嘘をつく。


「……そうか。……ならいい」


桐島が、深くため息をつく。


「……教官、何か隠していませんか?」


蓮が、単刀直入に尋ねる。


「……何のことだ?」


桐島が、眉をひそめる。


「……俺の『残響』は、感情を読み取ることができます。……教官から、強い焦燥感と……罪悪感を感じます」


蓮が、桐島の目を見据える。


桐島は、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。


「……お前の『残響』は、本当に厄介だな」


桐島が、自嘲気味に笑う。


「……教官……まさか……」


蓮が、息を呑む。


「……ああ。……お前たちの行動データを政府に流していたのは、俺だ」


桐島が、あっさりと認めた。


「……なっ……!?」


蓮が、絶句する。


「……なぜですか!? ……教官は、俺たちの恩師じゃないですか! ……対魔局の誇りじゃないですか!」


蓮が、激昂して叫ぶ。


「……誇り、か。……そんなものは、とうの昔に捨てたよ」


桐島が、力なく笑う。


「……どういうことですか……」


蓮が、拳を握りしめる。


「……俺の家族が、政府に人質に取られているんだ」


桐島が、重い口を開く。


「……家族が……人質に……?」


蓮が、驚愕する。


「……俺の妻と娘は、魔法適性がない『無能力者』だ。……政府は、彼女たちを保護するという名目で、秘密施設に隔離している。……そして、俺にスパイを強要した」


桐島が、苦渋の表情を浮かべる。


「……そんな……」


蓮が、言葉を失う。


「……俺は、家族を守るために、お前たちを裏切った。……対魔局を裏切った。……俺は、最低のクズだ」


桐島が、顔を覆う。


「……教官……」


蓮は、桐島の悲痛な告白に、胸が締め付けられる思いだった。

桐島が、どれほどの苦悩を抱えていたのか。

家族を守るために、教え子を裏切らなければならなかったその絶望は、計り知れない。


「……蓮。……俺を、殺せ」


桐島が、顔を上げ、蓮を見つめる。


「……え……?」


蓮が、耳を疑う。


「……俺は、もう限界だ。……これ以上、お前たちを裏切り続けることはできない。……だが、俺が自首すれば、家族は殺される。……だから、お前が俺を殺してくれ。……任務中の事故として処理すれば、家族は助かるかもしれない」


桐島が、懇願する。


「……ふざけるな!」


蓮が、桐島の胸ぐらを掴む。


「……俺に、恩師を殺せって言うのか!? ……そんなこと、できるわけないだろう!」


蓮が、涙を流しながら叫ぶ。


「……蓮……」


桐島が、悲しげに蓮を見る。


「……教官の家族は、俺たちが助け出します! ……だから、死ぬなんて言わないでください!」


蓮が、桐島を強く揺さぶる。


「……無理だ。……政府の秘密施設は、鉄壁の防御を誇っている。……お前たちでも、突破は不可能だ」


桐島が、首を振る。


「……やってみなきゃ分からないだろう! ……俺たちは、十二の歪みを封印したんだぞ! ……不可能なんて、ない!」


蓮が、力強く宣言する。


桐島は、蓮の真っ直ぐな瞳を見て、微かに目を見開いた。


「……お前は、本当に……馬鹿な奴だな」


桐島が、涙ぐみながら微笑む。


「……教官。……俺たちを、信じてください」


蓮が、桐島の手を握る。


「……分かった。……お前たちに、賭けてみる」


桐島が、力強く頷いた。



蓮は、桐島から聞いた情報を元に、仲間たちを緊急招集した。


「……桐島教官が、スパイだったなんて……」


結月が、ショックで言葉を失う。


「……でも、家族を人質に取られていたなら、仕方ないわ。……教官も、苦しかったはずよ」


凛音が、同情的な表情を浮かべる。


「……政府の秘密施設『タルタロス』。……そこに、教官の家族が囚われています。……私たちの目的は、彼女たちを救出することです」


シロが、モニターに施設の立体マップを表示する。


「……タルタロス……。かつて、危険な魔法犯罪者を収容していた監獄ですね。……今は、政府の極秘研究施設として使われていると聞いています」


透が、眉をひそめる。


「……ああ。……警備は厳重だ。……だが、俺たちなら必ず突破できる」


蓮が、仲間たちを見回す。


「……ええ。……教官の家族を、絶対に助け出しましょう!」


結月が、決意を込めて頷く。


「……当然よ。……政府の連中に、目に物見せてやるわ!」


凛音が、レールガンを構える。


「……僕も、全力でサポートします!」


透が、拳を握る。


「……よし。……作戦開始だ!」


蓮が、号令をかける。


特務部隊は、夜の闇に紛れて、タルタロスへと向かった。


タルタロスは、絶海の孤島に建設された巨大な要塞だった。

周囲は高い壁で囲まれ、無数の監視カメラと自動迎撃システムが配置されている。


「……シロ、アラン。……システムのハッキングを頼む」


蓮が、通信機で指示を出す。


「……了解しました。……セキュリティの突破には、約三分かかります」


シロが、答える。


「……三分か。……その間、俺たちが陽動を引き受ける」


蓮が、共鳴剣を抜く。


「……行くわよ!」


凛音が、レールガンを構え、施設の正門に向かって突撃する。


「……『雷撃』――超電磁砲・連射!」


凛音が、レールガンを乱射し、正門の警備ドローンを次々と破壊していく。


「……侵入者だ! ……迎撃しろ!」


施設内から、武装した警備兵たちが続々と現れる。


「……『氷結』――絶対零度・氷槍雨!」


結月が、無数の氷の槍を作り出し、警備兵たちに降り注がせる。


「……『事象の地平』――空間断裂!」


透が、空間を切り裂き、警備兵たちの退路を断つ。


「……『残響』――全式共鳴・斬撃!」


蓮が、共鳴剣を振り下ろし、警備兵たちの武器を破壊していく。


特務部隊の圧倒的な力の前に、警備兵たちは次々と倒れていく。


「……蓮さん、セキュリティの突破に成功しました! ……内部へのルートを開きます!」


シロの声が響く。


「……よし、突入するぞ!」


蓮が、開かれたゲートから施設内部へと突入する。


施設内部は、迷路のように入り組んでいた。

蓮たちは、シロのナビゲートに従って、教官の家族が囚われている地下の収容区画へと向かう。


「……この先に、収容区画があります。……しかし、強力な魔力反応が複数……」


シロが、警告する。


「……構うもんか。……突破する!」


蓮が、扉を蹴り破る。


そこには、政府の特殊部隊「猟犬ハウンド」が待ち構えていた。

彼らは、全員が強力な魔法適性を持つエリート部隊だ。


「……対魔局の特務部隊か。……ここから先へは通さん」


猟犬のリーダーが、冷酷な声で言う。


「……どけ。……俺たちは、教官の家族を助けに来たんだ」


蓮が、共鳴剣を構える。


「……反逆者め。……ここで始末してやる」


猟犬たちが、一斉に魔法を発動する。


炎、氷、雷、風。

様々な属性の魔法が、蓮たちに襲いかかる。


「……『氷結』――絶対零度・氷結防壁!」


結月が、氷の壁を作り出し、魔法の雨を防ぐ。


「……『雷撃』――超電磁砲・極光!」


凛音が、最大出力のレールガンを放ち、猟犬の陣形を崩す。


「……『事象の地平』――空間圧縮!」


透が、猟犬たちの周囲の空間を圧縮し、動きを封じる。


「……『残響』――全式共鳴・絶華・氷炎!」


蓮が、結月の冷気と自身の魔力を融合させ、猟犬たちを一網打尽にする。


激しい戦闘の末、蓮たちは猟犬部隊を撃破した。


「……やったわね!」


凛音が、息をつく。


「……急ごう。……教官の家族が待っている」


蓮が、収容区画の奥へと進む。


最奥の牢獄。

そこに、桐島の妻と娘が囚われていた。


「……あなたたちは……?」


桐島の妻が、怯えた表情で蓮たちを見る。


「……桐島教官の教え子です。……助けに来ました」


蓮が、牢獄の鍵を破壊し、二人を救出する。


「……パパの……?」


桐島の娘が、蓮を見上げる。


「……ああ。……パパは、君たちをずっと心配していたよ。……さあ、帰ろう」


蓮が、優しく微笑む。


「……ありがとうございます……!」


桐島の妻が、涙を流して感謝する。


「……脱出ルートを確保しました。……急いでください!」


シロが、通信機で叫ぶ。


蓮たちは、桐島の家族を連れて、施設からの脱出を図る。


しかし、その時。

施設全体に、けたたましい警報が鳴り響いた。


「……なんだ!?」


蓮が、周囲を警戒する。


「……蓮さん! ……施設の自爆システムが起動しました! ……あと五分で、施設全体が爆発します!」


シロが、焦燥した声で報告する。


「……自爆システムだと!? ……政府の連中、証拠隠滅を図る気か!」


凛音が、激怒する。


「……急ぐぞ! ……全力で走れ!」


蓮が、桐島の娘を抱きかかえ、走り出す。


結月、凛音、透も、それに続く。


崩れ落ちる瓦礫を避けながら、蓮たちは必死に出口を目指す。


「……あと一分です!」


シロのカウントダウンが響く。


「……出口が見えた!」


蓮が、叫ぶ。


しかし、出口の前に、巨大な防爆扉が立ち塞がっていた。


「……くそっ! ……開かない!」


蓮が、防爆扉を叩く。


「……『雷撃』――超電磁砲!」


凛音が、レールガンを撃ち込むが、防爆扉は傷一つ付かない。


「……私の『絶対零度』でも、凍らせて砕くには時間がかかります……!」


結月が、焦る。


「……あと三十秒!」


シロの声が、絶望的に響く。


「……俺が、やる」


蓮が、共鳴剣を構える。


「……蓮! ……無茶よ!」


結月が、止める。


「……やるしかないんだ! ……『残響』――限界突破!」


蓮が、自身の魔力を極限まで引き上げる。

代償である「記憶の消失」が進行し、頭に激痛が走る。


(……ぐぁぁぁぁっ……!)


蓮は、激痛に耐えながら、共鳴剣に魔力を集中させる。


「……全式共鳴・一刀両断!」


蓮が、渾身の力で共鳴剣を振り下ろす。


凄まじい魔力の刃が、防爆扉を真っ二つに切り裂いた。


「……開いた! ……行け!」


蓮が、叫ぶ。


仲間たちと桐島の家族が、切り裂かれた防爆扉の隙間から脱出する。


「……蓮! ……早く!」


結月が、蓮に手を伸ばす。


蓮は、結月の手を取り、施設から飛び出した。


その直後。

タルタロスは、大爆発を起こし、海へと沈んでいった。


「……はぁ……はぁ……」


蓮が、地面に倒れ込む。


「……蓮! ……大丈夫!?」


結月が、蓮を抱き起こす。


「……ああ。……なんとか、な……」


蓮が、微かに微笑む。


「……パパ!」


桐島の娘が、駆け寄ってきた桐島の胸に飛び込む。


「……ああ……! ……無事でよかった……!」


桐島が、妻と娘を強く抱きしめ、号泣する。


その光景を見て、蓮たちは安堵の息をついた。


「……教官。……約束、守りましたよ」


蓮が、立ち上がる。


「……蓮……。お前たちには、一生かかっても返しきれない恩ができた。……本当に、ありがとう」


桐島が、深く頭を下げる。


「……気になさらないでください。……俺たちは、仲間ですから」


蓮が、微笑む。


こうして、蓮たちは桐島の家族を救出し、政府の陰謀を一つ阻止することに成功した。

しかし、政府の闇は深く、本当の戦いはこれから始まることを、彼らはまだ知らなかった。



タルタロスからの帰還後、対魔局本部は騒然としていた。

政府の極秘施設を独断で襲撃し、破壊したという事実は、隠し通せるものではなかった。


「……お前たち、自分が何をしたか分かっているのか!」


紗綾さあや局長が、局長室で蓮たちを怒鳴りつける。

普段は冷静沈着な彼女も、今回ばかりは怒りを隠せない様子だった。


「……申し訳ありません。……ですが、教官の家族を見殺しにはできませんでした」


蓮が、真っ直ぐに紗綾の目を見て答える。


「……気持ちは分かる。……だが、政府の施設を襲撃したとなれば、対魔局そのものの存続に関わる大問題だ。……政府は、これを口実に対魔局を解体しようとするだろう」


紗綾が、頭を抱える。


「……局長。……責任は、全て俺にあります。……俺が、独断で指示を出したことにしてください」


桐島が、前に出る。


「……桐島。……お前が政府に脅されていたことは、私も薄々感づいていた。……もっと早く対処できていれば、こんなことには……」


紗綾が、悔しそうに唇を噛む。


「……いいえ。……俺の弱さが招いた結果です。……どんな処分も受け入れます」


桐島が、深く頭を下げる。


「……処分については、上層部と協議して決める。……それまで、お前たちは謹慎だ。……局外への外出は一切禁ずる」


紗綾が、厳しい声で言い渡す。


「……はい」


蓮たちは、大人しく引き下がった。


謹慎期間中、蓮たちは対魔局本部の地下にある訓練施設で過ごしていた。


「……はぁ……。まさか、こんなことになるとはね」


凛音が、訓練用のダミー標的をレールガンで撃ち抜きながら、ため息をつく。


「……でも、教官の家族が助かって、本当によかったです」


結月が、氷の魔法でダミー標的を凍らせながら言う。


「……ええ。……僕も、そう思います」


透が、空間魔法でダミー標的を圧縮しながら同意する。


「……問題は、これからだ。……政府は、確実に俺たちを潰しに来る」


蓮が、共鳴剣を素振りしながら呟く。


「……蓮さん。……政府の動きについて、少し気になる情報があります」


シロが、端末を操作しながら蓮に近づく。


「……なんだ?」


蓮が、剣を止める。


「……タルタロスのデータサーバーから回収した情報の中に、『プロジェクト・アーク』という言葉が頻繁に出てきます。……どうやら、政府が極秘に進めている計画のようです」


シロが、モニターにデータを表示する。


「……プロジェクト・アーク……? 箱舟計画か」


蓮が、眉をひそめる。


「……詳細は不明ですが、魔法適性者と無能力者を『選別』するための計画のようです。……桐島教官の家族が収容されていたのも、その計画の一環だった可能性があります」


シロが、推測を述べる。


「……選別……。まるで、神にでもなったつもりか」


凛音が、吐き捨てるように言う。


「……政府の中に、調律者と繋がっている人間がいるのかもしれません」


透が、鋭い指摘をする。


「……調律者……。魔法発現の真実を知る、世界の影の支配者……」


結月が、不安そうに呟く。


「……ああ。……俺たちが戦うべき本当の敵は、教団でも政府でもなく、その『調律者』なのかもしれない」


蓮が、拳を握りしめる。


その時、訓練施設のドアが開き、アランが駆け込んできた。


「……みんな! ……大変だ!」


アランが、息を切らしながら叫ぶ。


「……どうした、アラン?」


蓮が、尋ねる。


「……桐島教官が……! ……教官が、政府の査問委員会に連行された!」


アランが、焦燥した声で報告する。


「……なんだと!?」


蓮が、驚愕する。


「……査問委員会って、事実上の異端審問じゃない! ……教官を、どうする気なの!?」


凛音が、顔色を変える。


「……おそらく、タルタロス襲撃の責任を全て教官に押し付け、極刑にするつもりです……!」


アランが、悔しそうに言う。


「……そんなこと、させるか!」


蓮が、訓練施設を飛び出そうとする。


「……待って、蓮! ……謹慎中よ! ……今動けば、対魔局全体が反逆罪に問われるわ!」


結月が、蓮の腕を掴む。


「……だからって、教官を見殺しにするのか!? ……俺たちを庇ってくれた教官を!」


蓮が、結月を振り払おうとする。


「……私も、教官を助けたい! ……でも、無計画に突っ込んでも、犬死にするだけよ!」


結月が、涙ながらに訴える。


蓮は、結月の言葉にハッとして、足を止めた。


「……結月の言う通りだ。……冷静になれ、俺」


蓮が、深呼吸をして自分を落ち着かせる。


「……アラン。……査問委員会の場所は分かるか?」


蓮が、アランに向き直る。


「……はい。……政府の地下施設『パンデモニウム』です。……タルタロス以上に、警備が厳重な場所です」


アランが、端末にマップを表示する。


「……パンデモニウム……。悪魔の巣窟か。……上等だ」


蓮が、不敵な笑みを浮かべる。


「……蓮さん、行く気ですか?」


透が、尋ねる。


「……ああ。……俺たちは、仲間を見捨てない。……それが、俺たちのやり方だ」


蓮が、仲間たちを見回す。


「……ふふっ。……そうこなくちゃね」


凛音が、レールガンを構え直す。


「……私も、行きます。……蓮と一緒に」


結月が、決意の表情で頷く。


「……僕も、お供します」


透が、空間魔法の準備をする。


「……シロ、アラン。……サポートを頼む」


蓮が、二人に指示を出す。


「……了解しました。……システムのハッキング準備、完了しています」


シロが、答える。


「……通信回線、確保しました! ……いつでも行けます!」


アランが、叫ぶ。


「……よし。……教官を、奪還するぞ!」


蓮が、号令をかける。


特務部隊は、謹慎命令を破り、再び政府の施設へと向かった。


パンデモニウムは、東京の地下深くに建設された巨大な要塞だった。

タルタロスとは比較にならないほどの、厳重なセキュリティと強力な魔法結界が張り巡らされている。


「……シロ、結界の解除は可能か?」


蓮が、通信機で尋ねる。


「……解析中ですが、非常に複雑な術式です。……解除には、少なくとも十分はかかります」


シロが、答える。


「……十分か。……待っていられないな」


蓮が、共鳴剣を抜く。


「……強行突破する気?」


凛音が、呆れたように言う。


「……ああ。……俺の『残響』で、結界の波形を乱す。……その隙に、突入する」


蓮が、結界の前に立つ。


「……無茶よ! ……そんな強力な結界に干渉したら、魔力の逆流で蓮が……!」


結月が、止める。


「……大丈夫だ。……俺を信じろ」


蓮が、結月に微笑みかける。


蓮は、共鳴剣を結界に突き立て、魔力を注ぎ込む。


「……『残響』――波形干渉・強制解除!」


蓮の魔力が、結界の術式と衝突し、激しい火花を散らす。


「……ぐぁぁぁぁっ!」


蓮が、魔力の逆流に苦悶の声を上げる。


「……蓮!」


結月が、蓮を支えようとする。


「……来るな! ……もう少しで……!」


蓮が、歯を食いしばり、さらに魔力を押し込む。


パァァァァン!


結界の一部が、ガラスのように砕け散った。


「……開いた! ……行け!」


蓮が、叫ぶ。


特務部隊は、砕け散った結界の隙間から、パンデモニウムの内部へと突入した。


内部は、無機質な金属の壁で覆われた、迷路のような空間だった。


「……侵入者だ! ……排除しろ!」


警備兵たちが、次々と現れる。


「……邪魔よ!」


凛音が、レールガンで警備兵たちを吹き飛ばす。


「……『氷結』――絶対零度・氷槍雨!」


結月が、氷の槍で警備兵たちの動きを封じる。


「……『事象の地平』――空間断裂!」


透が、空間を切り裂き、警備兵たちの武器を破壊する。


蓮たちは、圧倒的な力で警備兵たちを蹴散らし、地下深くへと進んでいく。


「……蓮さん、査問委員会の会場は、最下層の『審判の間』です! ……急いでください!」


シロの声が響く。


「……分かった!」


蓮が、最下層へと続くエレベーターに飛び乗る。


エレベーターが、猛スピードで降下していく。


「……教官、無事でいてくれ……」


蓮が、祈るように呟く。


エレベーターが最下層に到着し、扉が開く。


そこには、巨大な円形の部屋「審判の間」が広がっていた。

部屋の中央には、拘束衣を着せられた桐島が立たされている。

そして、その周囲を、黒いローブを着た査問委員たちが取り囲んでいた。


「……桐島。……貴様の罪は万死に値する。……よって、ここに極刑を言い渡す」


査問委員長が、冷酷な声で宣告する。


「……待てぇぇぇぇっ!」


蓮が、審判の間に飛び込む。


「……何者だ!?」


査問委員たちが、驚愕して振り返る。


「……対魔局特務部隊、神代蓮! ……教官を、返してもらう!」


蓮が、共鳴剣を構え、査問委員たちを睨みつける。


「……貴様ら、謹慎中のはずでは……! ……反逆罪に問われるぞ!」


査問委員長が、激怒する。


「……反逆罪だろうが何だろうが、知ったことか! ……俺たちは、仲間を見捨てない!」


蓮が、桐島の元へ駆け寄る。


「……蓮……。お前たち、なぜ来た……」


桐島が、驚きと感動の入り混じった表情で蓮を見る。


「……迎えに来ましたよ、教官。……一緒に帰りましょう」


蓮が、共鳴剣で桐島の拘束衣を切り裂く。


「……馬鹿野郎……。お前たちまで、巻き添えになるぞ……」


桐島が、涙ぐむ。


「……巻き添え上等です。……俺たちは、運命共同体ですから」


蓮が、不敵に笑う。


「……貴様ら、生かして帰すと思うな! ……『猟犬』部隊、出番だ!」


査問委員長が、叫ぶ。


審判の間の奥から、タルタロスで戦った『猟犬』部隊の残党が現れる。

さらに、パンデモニウムの防衛システムが起動し、無数の自動砲台が蓮たちに狙いを定める。


「……囲まれたわね」


凛音が、レールガンを構える。


「……望むところです」


結月が、氷の短剣を生成する。


「……全力で、突破します」


透が、空間魔法の準備をする。


「……行くぞ、みんな! ……ここを突破して、教官を連れて帰る!」


蓮が、共鳴剣を高く掲げる。


「……おおぉぉぉぉっ!」


特務部隊の雄叫びが、審判の間に響き渡る。


政府の闇の奥深くで、蓮たちの新たな戦いが幕を開けた。

彼らの絆は、どんな困難にも屈しない。

真実を求め、仲間を守るための戦いは、まだ終わらない。





【第33章終了】





【第33章登場魔法・用語解説】


「プロジェクト・アーク」:政府が極秘に進めている「箱舟計画」。魔法適性者と無能力者を選別し、新たな社会秩序を構築しようとする非人道的な計画。調律者の思想と深く結びついていると推測される。


「パンデモニウム」:東京の地下深くに建設された政府の巨大要塞。査問委員会や極秘会議が行われる「悪魔の巣窟」。タルタロスを凌ぐ厳重なセキュリティと強力な魔法結界で守られている。



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