第30章:帰還と対魔局の闇
第30章:帰還と対魔局の闇
一
太平洋上空を飛ぶ対魔局の専用輸送機。
その機内で、蓮たちは重苦しい沈黙に包まれていた。
「……マスターキーが、東京の旧エーテル社日本支部の地下にあるなんてな」
蓮が、窓の外に広がる雲海を見つめながら呟く。
「……ええ。……しかも、そこは現在、対魔局の厳重な管理下に置かれているわ」
凛音が、腕を組みながら顔をしかめる。
「……対魔局の管理下にあるなら、話は早いんじゃないですか? ……紗綾局長に事情を説明して、マスターキーを回収させてもらえば……」
透が、不思議そうに尋ねる。
「……そう簡単にはいかないわ。……対魔局の上層部は、私たち特務部隊の行動を快く思っていない連中も多いの。……特に、神崎の一件以来、内部の派閥争いが激化しているらしいわ」
結月が、静かに首を振る。
「……神崎……。あの裏切り者の特務監査官か」
蓮が、忌々しそうに舌打ちする。
「……はい。……神崎は死にましたが、彼が所属していた『強硬派』の連中は、今でも対魔局内で強い発言力を持っています。……彼らは、特異点である透くんやアリスちゃんを『危険な兵器』として管理・利用しようと企んでいるはずです」
シロが、冷静に分析する。
「……つまり、俺たちがマスターキーを回収しに行けば、強硬派の連中と衝突する可能性があるってことか」
蓮が、眉間を揉む。
「……その可能性は極めて高いわね。……紗綾局長も、今は上層部の抑え込みで身動きが取れない状態みたいだし」
凛音が、携帯端末の画面を見ながらため息をつく。
「……なら、強行突破するしかねえな。……世界を救うためだ、対魔局だろうがなんだろうが、邪魔する奴はぶっ飛ばす」
蓮が、共鳴剣の柄を握りしめる。
「……蓮さん、無茶はしないでくださいね。……相手は、対魔局の精鋭部隊かもしれませんから」
アランが、心配そうに言う。
「……分かってる。……だが、俺たちには時間がない。……十二箇所の歪みが限界を超える前に、マスターキーを手に入れなきゃならないんだ」
蓮が、強い決意を込めて言う。
数時間後、輸送機は東京の対魔局専用飛行場に着陸した。
タラップを降りた蓮たちを待っていたのは、紗綾局長ではなく、見知らぬ男が率いる武装した部隊だった。
「……お帰りなさい、特務部隊の皆さん。……私は、対魔局保安部の黒田と申します」
黒田と名乗る男が、冷ややかな笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「……保安部? ……紗綾局長はどうした?」
蓮が、警戒しながら尋ねる。
「……紗綾局長は、現在、上層部の査問会議に出席されています。……神崎監査官の不祥事に関する責任を問われているようですね」
黒田が、わざとらしく肩をすくめる。
「……査問会議だと? ……こんな緊急事態に、何やってんだ上層部は!」
凛音が、声を荒らげる。
「……お言葉ですが、緊急事態だからこそ、組織の規律を正す必要があるのです。……さて、皆さんは長旅でお疲れでしょう。……まずは、こちらの施設で休養を取っていただきます」
黒田が、背後の武装部隊に合図を送る。
「……休養? ……冗談じゃない。俺たちは、旧エーテル社日本支部の地下施設に行かなきゃならないんだ」
蓮が、黒田を睨みつける。
「……旧エーテル社日本支部? ……あそこは現在、立ち入り禁止区域に指定されています。……許可なく立ち入ることは、いかなる理由があろうとも認められません」
黒田が、冷酷な声で告げる。
「……許可なら、後で紗綾局長にもらう。……そこをどけ」
蓮が、一歩前に出る。
「……強行突破するおつもりですか? ……それは、対魔局への反逆行為とみなされますよ」
黒田が、腰のホルスターから魔力銃を抜く。
同時に、武装部隊の隊員たちも一斉に銃を構えた。
「……やる気か?」
蓮が、共鳴剣を抜く。
「……蓮、待って。……ここで彼らと戦えば、本当に反逆者になってしまうわ」
結月が、蓮の腕を掴む。
「……だが、このままじゃマスターキーを回収できないぞ!」
蓮が、焦燥感を露わにする。
「……分かっています。……でも、今は引くべきです。……紗綾局長と連絡が取れるまで、大人しく従うふりをしましょう」
シロが、小声で蓮に耳打ちする。
「……チッ……。分かったよ」
蓮が、渋々共鳴剣を鞘に収める。
「……賢明な判断です。……では、ご案内しましょう」
黒田が、満足そうに頷く。
蓮たちは、武装部隊に囲まれながら、対魔局の地下にある隔離施設へと連行された。
二
隔離施設は、窓一つない無機質な部屋だった。
外部との通信は完全に遮断されており、アランの携帯端末も圏外になっていた。
「……完全に軟禁状態ね。……強硬派の連中、最初から私たちを隔離するつもりだったのよ」
凛音が、ベッドに寝転がりながら不満げに言う。
「……紗綾局長の査問会議も、私たちを足止めするための口実かもしれませんね」
シロが、部屋の隅で静かに分析する。
「……どうする、蓮? このままじゃ、歪みが限界を超えちまうぞ」
蓮が、部屋の中を苛立たしげに歩き回る。
「……蓮さん、少し落ち着いてください。……焦っても、状況は良くなりません」
透が、蓮を宥める。
「……分かってる。……分かってるが……!」
蓮が、壁をドンと殴りつける。
その時、部屋の扉が静かに開いた。
入ってきたのは、黒田ではなく、見覚えのある女性だった。
「……紗綾局長!」
蓮たちが、一斉に立ち上がる。
「……無事だったようね。……遅くなってごめんなさい」
紗綾が、疲れたような笑みを浮かべる。
「……局長、査問会議はどうなったんですか?」
凛音が、尋ねる。
「……なんとか切り抜けてきたわ。……でも、上層部の強硬派は、完全に私たちを敵視している。……彼らは、プロジェクト・エデンの存在を知りながら、それを自分たちの権力拡大に利用しようとしているのよ」
紗綾が、苦々しげに言う。
「……権力拡大? ……世界が滅びようとしてるのに、何考えてんだあいつら!」
蓮が、怒りを爆発させる。
「……彼らにとって、世界がどうなるかよりも、自分たちが対魔局の実権を握ることの方が重要なのよ。……彼らは、マスターキーを回収し、それを交渉材料にして世界中の国家を支配しようと企んでいるわ」
紗綾が、恐るべき陰謀を明かす。
「……狂ってる……。教団の連中と変わらないじゃないか」
蓮が、吐き捨てるように言う。
「……ええ。……だから、私たちは彼らより先にマスターキーを回収しなければならない。……でも、旧エーテル社日本支部の地下施設は、強硬派の精鋭部隊『黒の猟犬』が警備しているわ」
紗綾が、厳しい表情で告げる。
「……黒の猟犬……。対魔局の中でも、最も冷酷で戦闘能力が高いと言われている暗殺部隊ですね」
シロが、データバンクの情報を引き出す。
「……ええ。……彼らは、目的のためなら手段を選ばない。……あなたたちでも、無傷で突破するのは難しいかもしれないわ」
紗綾が、蓮たちを心配そうに見つめる。
「……それでも、行くしかない。……俺たちがやらなきゃ、世界が終わるんだ」
蓮が、迷いのない瞳で紗綾を見返す。
「……分かったわ。……私も、できる限りのサポートをする。……この隔離施設のセキュリティは、私が一時的に解除するわ。……その隙に、地下施設へ向かって」
紗綾が、携帯端末を操作する。
「……ありがとうございます、局長」
蓮が、深く頭を下げる。
「……気をつけてね、蓮。……あなたたちは、私の誇りよ」
紗綾が、蓮の肩を優しく叩く。
「……行ってきます」
蓮たちは、紗綾に見送られながら、隔離施設を後にした。
旧エーテル社日本支部は、東京の郊外にある巨大な廃墟だった。
かつては最先端の魔法研究が行われていた場所だが、2032年の魔法災害以降、立ち入り禁止区域として封鎖されていた。
蓮たちは、闇に紛れて廃墟の敷地内に潜入した。
「……シロ、地下施設への入り口は分かるか?」
蓮が、小声で尋ねる。
「……はい。……アランさんが解析したデータによれば、この廃工場の地下三階に、隠しエレベーターが存在するはずです」
シロが、携帯端末のマップを指差す。
「……よし、行くぞ」
蓮を先頭に、五人は廃工場の中へと足を踏み入れた。
廃工場の中は、埃とカビの臭いが充満していた。
あちこちに崩れ落ちた瓦礫や、錆びついた機械が放置されている。
「……静かね。……警備の姿が見当たらないわ」
凛音が、周囲を警戒しながら進む。
「……罠かもしれません。……気をつけてください」
結月が、魔法義肢の右腕に魔力を集中させる。
地下三階に到着すると、そこには巨大な鉄の扉があった。
「……これが、隠しエレベーターの入り口か」
蓮が、扉に手を触れる。
「……ロックがかかっています。……アランさん、解除をお願いします」
シロが、アランに指示を出す。
「……了解です。……少し時間をください」
アランが、携帯端末を扉の電子パネルに接続し、ハッキングを開始する。
数分後、電子パネルのランプが緑色に変わり、重々しい音を立てて鉄の扉が開いた。
「……開きました! ……中に入りましょう」
アランが、エレベーターの中に駆け込む。
蓮たちも後に続き、エレベーターは地下深くへと降下し始めた。
「……このエレベーター、どこまで下りるんだ?」
蓮が、階数表示のパネルを見上げる。
「……地下五十階……。深度五百メートル以上の地下施設です」
シロが、答える。
「……深度五百メートル……。そんな深い場所に、マスターキーを隠していたのか」
凛音が、息を呑む。
エレベーターが停止し、扉が開いた。
そこには、廃工場とは打って変わって、白を基調とした無機質で近代的な空間が広がっていた。
「……ここが、旧エーテル社の地下施設……」
蓮が、警戒しながら通路を進む。
「……蓮さん、前方に複数の生体反応があります! ……武装しています!」
シロが、警告を発する。
通路の奥から、黒い戦闘服に身を包んだ部隊が現れた。
彼らの顔は、不気味な黒いマスクで覆われている。
「……『黒の猟犬』か……!」
蓮が、共鳴剣を抜く。
「……侵入者発見。……排除スル」
黒の猟犬の隊長らしき男が、機械的な声で命令を下す。
隊員たちが一斉に魔力銃を構え、蓮たちに向かって発砲してきた。
「……『氷結』――絶対零度・氷壁!」
結月が、巨大な氷の壁を展開し、銃弾を防ぐ。
「……『雷撃』――超電磁砲・連射!」
凛音が、氷の壁の隙間からレールガンを連射し、反撃する。
「……行くぞ!」
蓮が、氷の壁を蹴り砕き、黒の猟犬の群れの中に飛び込んでいく。
激しい戦闘の火蓋が切って落とされた。
三
「……『残響』――全式共鳴・絶華!」
蓮の共鳴剣が、黒の猟犬の隊員たちを次々と切り裂いていく。
しかし、彼らは痛みを感じないかのように、倒れてもすぐに立ち上がり、無言で襲いかかってきた。
「……こいつら、人間じゃないのか!?」
蓮が、驚愕の声を上げる。
「……彼らは、痛覚を遮断され、命令にのみ従うように精神操作を施された『強化兵士』です。……通常の攻撃では、完全に無力化することは困難です」
シロが、冷静に分析する。
「……精神操作……。対魔局の強硬派は、こんな非人道的なことまでやってるのか!」
凛音が、怒りに震えながらレールガンを放つ。
「……『氷結』――絶対零度・氷結牢!」
結月が、隊員たちの足元を凍結させ、動きを封じる。
「……透くん、彼らの武器を破壊して!」
結月が、透に指示を出す。
「……はい! ……『事象の地平』――空間圧縮!」
透が、凍結した隊員たちの魔力銃を空間圧縮で粉砕する。
「……よし、これで少しは戦いやすくなるわ」
凛音が、安堵の息を吐く。
しかし、黒の猟犬の隊長は、武器を失っても怯むことはなかった。
「……魔法戦ニ移行スル」
隊長が、両手を前に突き出す。
すると、隊長の周囲の空間が歪み、無数の黒い刃が出現した。
「……『暗黒』――漆黒刃!」
隊長が腕を振り下ろすと、黒い刃が雨あられと蓮たちに降り注ぐ。
「……『氷結』――絶対零度・氷盾!」
結月が、氷の盾を展開して黒い刃を防ぐ。
しかし、黒い刃は氷の盾を容易く貫通し、結月の肩を掠めた。
「……くっ……!」
結月が、痛みに顔をしかめる。
「……結月!」
蓮が、結月を庇うように前に出る。
「……あの黒い刃、ただの魔法じゃないわ! ……魔力を切り裂く性質を持っているみたい!」
凛音が、警告する。
「……魔力を切り裂く……。厄介な能力だな」
蓮が、共鳴剣で黒い刃を弾き落としながら舌打ちする。
「……蓮さん、あの隊長の魔法は、イヴの『絶対切断』の劣化版です。……おそらく、イヴの戦闘データを元に開発された魔法だと思われます」
シロが、分析結果を伝える。
「……イヴの戦闘データ……。強硬派の連中、どこまでエーテル社の遺産を悪用する気だ!」
蓮の怒りが頂点に達する。
「……排除スル。……排除スル」
隊長が、機械的な声で繰り返し、さらに多くの黒い刃を出現させる。
「……アラン、シロ! あの隊長の魔法を無効化する方法はないか!?」
蓮が、叫ぶ。
「……黒い刃は、魔力で構成されています。……透くんの『事象の地平』で、刃の存在そのものを空間ごと消滅させれば……!」
シロが、解決策を提示する。
「……透、やれるか!?」
蓮が、透を振り返る。
「……やってみます! ……『事象の地平』――空間消去!」
透が、両手を隊長に向け、魔力を極限まで集中させる。
隊長の周囲の空間が歪み、黒い刃が次々と音もなく消滅していく。
「……ナニ……!?」
隊長が、初めて動揺を見せる。
「……今だ、蓮!」
凛音が、叫ぶ。
「……『残響』――全式共鳴・絶華・絆!」
蓮が、仲間たちの想いを乗せた一撃を、隊長の胸に叩き込む。
ガァァァン!
隊長が吹き飛び、壁に激突して動かなくなる。
「……はぁ、はぁ……。やったか……」
蓮が、荒い息を吐きながら共鳴剣を下ろす。
「……ええ。……他の隊員たちも、隊長が倒れたことで統制を失い、機能停止したようです」
シロが、周囲の状況を確認する。
「……透くん、よくやったわ。……あなたの力、本当に頼りになるわね」
結月が、透に微笑みかける。
「……ありがとうございます。……でも、少し疲れました……」
透が、ふらりとよろける。
「……無理もない。……少し休もう」
蓮が、透を支える。
蓮たちは、黒の猟犬を退け、さらに地下施設の奥へと進んでいった。
最深部にある「保管庫」の扉の前に辿り着いた時、彼らの前に一人の男が立ち塞がった。
「……よくここまで来ましたね、特務部隊の皆さん」
男は、対魔局の制服を着た、冷酷な目つきの中年だった。
「……お前は……強硬派のトップ、東郷理事官か」
蓮が、男を睨みつける。
「……いかにも。……私は、このマスターキーを使って、世界を正しき方向へ導く使命があるのです。……あなたたちのような子供に、邪魔されるわけにはいきません」
東郷が、傲慢な態度で言い放つ。
「……正しき方向だと? ……特異点の命を犠牲にして、自分たちが権力を握ることが正義だっていうのか!」
蓮が、怒鳴りつける。
「……大義のためには、多少の犠牲はつきものです。……それに、特異点という危険な存在を排除できるなら、一石二鳥ではありませんか」
東郷が、冷酷に笑う。
「……ふざけるな! ……透もアリスも、俺たちの仲間だ! ……誰一人、犠牲になんかさせない!」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……愚かな。……ならば、力ずくで排除するまでです。……出なさい、『試作型・神造兵器』!」
東郷が、指を鳴らす。
保管庫の扉が開き、中から巨大な人型の兵器が姿を現した。
その全身は、教皇の「絶対防壁」と同じ、虹色の光を放つ装甲で覆われていた。
「……な、なんだあれは……!」
凛音が、絶望的な声を上げる。
「……教皇の絶対防壁のデータを元に開発された、対魔局の最終兵器です。……あらゆる魔法攻撃を無効化し、圧倒的な破壊力を持っています」
シロが、青ざめた顔で報告する。
「……これが、強硬派の切り札か……」
蓮が、歯を食いしばる。
「……さあ、絶望を味わいなさい。……そして、マスターキーは私がいただきます」
東郷が、狂気に満ちた笑い声を上げる。
蓮たちの前に、かつてない最強の敵が立ち塞がった。
世界を救うための「鍵」を巡る、対魔局内部での死闘が、今、始まろうとしていた。
四
「……試作型・神造兵器……。なんて禍々しい魔力だ」
蓮が、目の前にそびえ立つ巨大な人型兵器を見上げながら、ごくりと息を呑む。
プロト・デウスの全身を覆う虹色の装甲は、教皇の絶対防壁と同じように、周囲の魔力を吸収し、無効化する性質を持っているようだった。
「……蓮さん、プロト・デウスの魔力反応は、教皇のそれに匹敵します。……正面からの魔法攻撃は、全て無効化される可能性が高いです」
シロが、携帯端末の画面を見つめながら、焦燥感を滲ませた声で報告する。
「……なら、どうやって倒せばいいのよ!?」
凛音が、レールガンを構えながら叫ぶ。
「……物理的な破壊しかありません。……しかし、あの装甲の硬度は、通常の物理攻撃では傷一つつけられないでしょう」
シロが、絶望的な分析結果を伝える。
「……物理攻撃……。俺の共鳴剣なら、どうだ?」
蓮が、共鳴剣の刃を見つめる。
「……共鳴剣は、魔力を刃に変換する魔法です。……プロト・デウスの装甲に触れた瞬間、魔力が吸収され、刃が消滅してしまう可能性があります」
シロが、首を振る。
「……くそっ……。どうすりゃいいんだ……!」
蓮が、焦りに顔を歪める。
「……排除スル。……排除スル」
プロト・デウスが、機械的な声を発しながら、巨大な腕を振り上げる。
その腕から、高圧縮された魔力の塊が放たれた。
「……『氷結』――絶対零度・氷盾!」
結月が、咄嗟に氷の盾を展開する。
しかし、魔力の塊は氷の盾を容易く粉砕し、蓮たちに向かって飛んでくる。
「……危ない!」
蓮が、結月を抱き抱えて横に跳ぶ。
魔力の塊は、蓮たちがいた場所を直撃し、巨大なクレーターを作り出した。
「……なんて威力だ……。かすっただけでも致命傷になるぞ」
蓮が、冷や汗を流しながら立ち上がる。
「……蓮、大丈夫?」
結月が、蓮の腕の中で心配そうに尋ねる。
「……ああ、なんとか。……結月は?」
蓮が、結月の顔を覗き込む。
「……私も無事よ。……でも、このままじゃジリ貧だわ」
結月が、プロト・デウスを睨みつける。
「……ふふふ、どうしました? ……特務部隊の精鋭ともあろう者たちが、逃げ回るだけですか?」
東郷が、安全な場所から嘲笑う。
「……黙れ! ……お前たちの野望は、俺たちが必ず阻止する!」
蓮が、東郷に向かって叫ぶ。
「……威勢がいいのは結構ですが、現実を見なさい。……あなたたちに、プロト・デウスを倒す術はない」
東郷が、冷酷に言い放つ。
「……蓮さん、一つだけ、プロト・デウスの装甲を破る方法があるかもしれません」
シロが、決意を秘めた声で言う。
「……本当か、シロ!?」
蓮が、シロを振り返る。
「……はい。……プロト・デウスの装甲は、外部からの魔力を吸収して無効化します。……しかし、内部からの魔力暴走には耐えられないはずです」
シロが、説明する。
「……内部からの魔力暴走? ……どうやって、あいつの内部に魔力を送り込むんだ?」
凛音が、疑問を口にする。
「……透くんの『事象の地平』です。……透くんの魔法で、プロト・デウスの装甲の一部を空間ごと削り取り、そこに蓮さんの『全式共鳴』を叩き込むんです」
シロが、作戦を提案する。
「……なるほど。……装甲に穴を開けて、そこから内部を破壊するってわけか」
蓮が、頷く。
「……でも、透くんの『事象の地平』は、まだ完全にコントロールできていないわ。……プロト・デウスの装甲を正確に削り取るなんて、できるの?」
結月が、心配そうに透を見る。
「……やります。……俺が、皆を守るんだ」
透が、力強く頷く。
「……よし、透。……お前のタイミングに合わせる。……合図をくれ」
蓮が、共鳴剣を構え、プロト・デウスに向かって走り出す。
「……『雷撃』――超電磁砲・連射!」
凛音が、レールガンを連射し、プロト・デウスの注意を引く。
「……『氷結』――絶対零度・氷槍雨!」
結月が、無数の氷の槍を降らせ、プロト・デウスの動きを制限する。
「……今だ、透!」
蓮が、叫ぶ。
「……『事象の地平』――空間切除!」
透が、両手をプロト・デウスの胸部に向ける。
プロト・デウスの胸部の空間が歪み、虹色の装甲の一部が、音もなく消滅した。
「……よし、穴が開いた!」
蓮が、プロト・デウスの胸部に開いた穴に向かって跳躍する。
「……『残響』――全式共鳴・絶華・絆!」
蓮が、仲間たちの想いを乗せた一撃を、プロト・デウスの内部に叩き込む。
ガァァァン!
プロト・デウスの内部で、莫大な魔力が暴走し、爆発を引き起こした。
「……オォォォォォ……!」
プロト・デウスが、苦悶の声を上げながら、その場に崩れ落ちる。
「……やったか……!」
蓮が、着地し、荒い息を吐く。
「……信じられん……。プロト・デウスが、破壊されるなど……!」
東郷が、驚愕の表情で後ずさりする。
「……これで終わりだ、東郷。……マスターキーは、俺たちがもらう」
蓮が、東郷に剣先を向ける。
「……くそっ……。覚えていろ、特務部隊! ……我々強硬派は、決して諦めんぞ!」
東郷が、捨て台詞を吐き、保管庫の奥へと逃げ去っていく。
「……逃がすか!」
蓮が、東郷を追おうとする。
「……蓮さん、待ってください! ……プロト・デウスの魔力炉が暴走しています! ……このままでは、大爆発を起こします!」
シロが、悲痛な声で叫ぶ。
「……なんだと!?」
蓮が、振り返る。
倒れたプロト・デウスの全身から、赤い光が漏れ出し、周囲の空間が激しく振動し始めていた。
「……急いで、ここから離れましょう!」
結月が、叫ぶ。
蓮たちは、保管庫の奥へと続く扉を開け、マスターキーが安置されている部屋へと駆け込んだ。
部屋の中央には、厳重なガラスケースに守られた、小さな水晶のような物体が置かれていた。
「……これが、マスターキー……」
蓮が、ガラスケースを破壊し、マスターキーを手に取る。
その瞬間、背後で凄まじい爆発音が轟いた。
プロト・デウスの魔力炉が限界を超え、大爆発を起こしたのだ。
爆風が、蓮たちを襲う。
「……『氷結』――絶対零度・氷壁!」
結月が、咄嗟に氷の壁を展開し、爆風を防ぐ。
しかし、爆発の威力は凄まじく、氷の壁はひび割れ、崩壊していく。
「……くっ……。耐えきれない……!」
結月が、悲鳴を上げる。
「……結月!」
蓮が、結月を抱きしめ、爆風から守る。
激しい揺れと轟音の中、蓮の意識は暗闇へと沈んでいった。
【第30章終了】
【第30章登場魔法・用語解説】
「漆黒刃」:黒の猟犬の隊長が使用した魔法。周囲の空間を歪め、魔力を切り裂く性質を持った無数の黒い刃を出現させる。イヴの「絶対切断」のデータを元に開発された劣化版。
「黒の猟犬」:対魔局の強硬派が極秘裏に組織した暗殺部隊。痛覚を遮断され、命令にのみ従うように精神操作を施された「強化兵士」で構成されている。
「試作型・神造兵器」:対魔局の強硬派が開発した最終兵器。教皇の「絶対防壁」のデータを元に作られた虹色の装甲を持ち、あらゆる魔法攻撃を無効化する。
「空間切除」:透が使用した「事象の地平」の応用技。対象の空間そのものを削り取り、消滅させる。プロト・デウスの絶対防壁を破るための切り札となった。
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