第31章:目覚めと決断
第31章:目覚めと決断
一
意識が、深い海の底からゆっくりと浮上してくるような感覚だった。
耳鳴りがする。全身の筋肉が悲鳴を上げている。
「……ん……」
蓮が重い瞼を開けると、そこは見慣れない白い天井だった。
消毒液の匂いが鼻を突く。
「……蓮! 気がついたのね!」
すぐ横から、切羽詰まったような声が聞こえた。
視線を向けると、結月がベッドの脇に座り込み、蓮の手を両手で強く握りしめていた。
彼女の瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。
「……結月……。ここは……?」
蓮が、掠れた声で尋ねる。
「……対魔局の医療施設よ。……プロト・デウスの爆発の後、紗綾局長が私たちを救出してくれたの」
結月が、安堵の涙を拭いながら答える。
「……そうか……。マスターキーは……?」
蓮が、体を起こそうとするが、激痛が走って顔をしかめる。
「……無理しないで。……マスターキーは無事よ。紗綾局長が厳重に保管しているわ」
結月が、蓮の肩を優しく押さえてベッドに寝かせる。
「……他の皆は?」
「……凛音も透くんも、別の病室で手当てを受けているわ。……アランとシロは、マスターキーの解析を手伝っている」
結月が、状況を説明する。
「……そうか。……よかった」
蓮が、深く息を吐く。
「……蓮……。私を庇って……ごめんなさい。……私がもっとしっかりしていれば……」
結月が、俯いて声を震わせる。
「……馬鹿言うな。……お前が無事なら、それでいいんだ」
蓮が、結月の頭を優しく撫でる。
「……蓮……」
結月が、蓮の胸に顔を埋め、静かに泣き始めた。
蓮は、結月の背中をゆっくりと撫でながら、彼女の温もりを感じていた。
しばらくして、病室の扉が開き、紗綾局長が入ってきた。
「……気がついたようね、蓮」
紗綾が、安堵の笑みを浮かべる。
「……局長。……助けていただいて、ありがとうございます」
蓮が、ベッドの上で頭を下げる。
「……礼を言うのは私の方よ。……あなたたちがマスターキーを回収してくれたおかげで、強硬派の連中を抑え込むことができたわ」
紗綾が、ベッドの脇の椅子に腰掛ける。
「……強硬派は、どうなったんですか?」
蓮が、尋ねる。
「……東郷理事官をはじめとする強硬派の幹部たちは、反逆罪で拘束されたわ。……プロト・デウスの無断開発や、強化兵士の非人道的な実験が明るみに出たことで、彼らは完全に失脚したの」
紗綾が、冷ややかな声で言う。
「……そうですか。……これで、少しは対魔局もまともになりますね」
蓮が、皮肉っぽく笑う。
「……ええ。……でも、喜んでばかりはいられないわ。……マスターキーの解析結果が出たの」
紗綾の表情が、急に険しくなる。
「……解析結果……。どうだったんですか?」
蓮が、身を乗り出す。
「……マスターキーは、確かに十二箇所の『歪み』を封印する力を持っているわ。……でも、それを使用するためには、膨大な魔力が必要なの」
紗綾が、言葉を濁す。
「……膨大な魔力……。どれくらいですか?」
蓮が、嫌な予感を覚えながら尋ねる。
「……特異点一人の、全生命力に匹敵する魔力よ」
紗綾が、重々しい声で告げる。
病室に、重苦しい沈黙が落ちた。
「……つまり……。透かアリスのどちらかを、犠牲にしなければならないってことですか……?」
結月が、震える声で尋ねる。
「……ええ。……マスターキーは、特異点の命を代償にして、初めて起動するシステムなのよ」
紗綾が、苦しげに目を伏せる。
「……ふざけるな! ……そんなこと、絶対に認めない!」
蓮が、ベッドの柵を強く叩く。
「……蓮、落ち着いて。……私も、そんな残酷な選択はしたくないわ。……でも、他に方法がないのよ」
紗綾が、蓮を宥める。
「……他に方法がないって……。じゃあ、透かアリスに死ねって言うんですか!?」
蓮が、紗綾を睨みつける。
「…………」
紗綾は、何も答えられなかった。
「……俺は、誰も犠牲にしない。……絶対に、別の方法を見つけてみせる」
蓮が、強い決意を込めて言う。
「……蓮……」
結月が、蓮の手を強く握りしめる。
「……分かったわ。……私も、ギリギリまで別の方法を探してみる。……でも、時間が残されていないことだけは、忘れないで」
紗綾が、立ち上がり、病室を後にした。
二
数日後、蓮たちは対魔局の会議室に集まっていた。
全員の怪我は完治していないが、事態は一刻を争う状況だった。
「……現在、世界中の十二箇所の『歪み』は、急速に拡大を続けています。……このままでは、あと一週間で限界点に達し、第二の魔法災害が発生します」
シロが、大型モニターに世界地図を映し出しながら説明する。
「……一週間……。それまでに、マスターキーを起動させなきゃならないってことか」
凛音が、腕を組みながら顔をしかめる。
「……でも、マスターキーを起動させるには、透くんかアリスちゃんの命が必要なんでしょう……?」
アランが、沈痛な面持ちで言う。
「……俺が、やります」
透が、静かに手を挙げる。
「……透!」
蓮が、透を睨みつける。
「……蓮さん、俺は……今までずっと、自分の存在意義が分からなかった。……でも、もし俺の命で世界が救えるなら……それは、俺が生まれてきた意味なんだと思います」
透が、真っ直ぐな瞳で蓮を見つめる。
「……馬鹿なこと言うな! ……お前が死んで、世界が救われて、それで誰が喜ぶんだ!」
蓮が、怒鳴りつける。
「……でも、他に方法がないじゃないですか!」
透が、悲痛な声で叫ぶ。
「……あるはずだ。……絶対に、あるはずだ」
蓮が、拳を強く握りしめる。
「……蓮さん……」
透が、俯く。
「……私も、透くんの意見には反対よ。……誰かの犠牲の上に成り立つ平和なんて、間違っているわ」
結月が、静かに、しかし力強く言う。
「……結月……」
蓮が、結月を見る。
「……でも、どうすればいいのよ。……マスターキーのシステムを書き換えるなんて、不可能に近いわ」
凛音が、頭を抱える。
「……シロ、アラン。……マスターキーのシステムを、俺の『残響』で上書きすることはできないか?」
蓮が、二人に尋ねる。
「……『残響』で上書き……ですか?」
シロが、目を丸くする。
「……ああ。……俺の『残響』は、他人の魔法をコピーし、共鳴させる力だ。……もし、マスターキーのシステムそのものを俺の『残響』に取り込み、俺自身の魔力で起動させることができれば……」
蓮が、自分の考えを説明する。
「……理論上は、不可能ではありません。……しかし、マスターキーのシステムは、エーテル社の最高機密技術で作られています。……それを『残響』で取り込むには、蓮さんの精神と肉体に、想像を絶する負荷がかかります」
シロが、警告する。
「……最悪の場合、蓮さんの魔力回路が完全に焼き切れ、命を落とす危険性があります」
アランが、青ざめた顔で付け加える。
「……構わない。……透やアリスを犠牲にするくらいなら、俺がやる」
蓮が、迷いのない声で言う。
「……蓮! ……そんな無茶なこと、絶対に駄目よ!」
結月が、蓮の腕を掴む。
「……結月、分かってくれ。……俺は、もう誰も失いたくないんだ」
蓮が、結月の目を見つめる。
「……でも……あなたが死んでしまったら、私は……」
結月が、涙ぐむ。
「……死なないさ。……俺は、お前たちと一緒に生きていくって約束しただろ」
蓮が、結月の涙を指で拭う。
「……蓮……」
結月が、蓮の胸に顔を埋める。
「……蓮、本気なのね」
凛音が、真剣な表情で蓮を見る。
「……ああ。……本気だ」
蓮が、頷く。
「……分かったわ。……あなたがそこまで言うなら、私たちも全力でサポートする」
凛音が、覚悟を決めたように言う。
「……ありがとうございます、凛音さん」
蓮が、微笑む。
「……シロ、アラン。……マスターキーのシステムを『残響』で取り込むための準備を進めてくれ」
蓮が、二人に指示を出す。
「……了解しました。……すぐに解析とシミュレーションを開始します」
シロが、携帯端末を操作し始める。
「……蓮さん、絶対に死なせないように、俺たちも頑張りますからね!」
アランが、力強く言う。
「……頼むぞ」
蓮が、二人に頷く。
蓮は、自らの命を懸けて、マスターキーのシステムを書き換えるという危険な賭けに出る決断を下した。
それは、仲間を守るため、そして世界を救うための、彼なりの答えだった。
三
翌日、対魔局の地下にある特別実験室。
部屋の中央には、マスターキーが設置された巨大な装置が置かれていた。
蓮は、装置の前に立ち、深く息を吸い込む。
「……準備はいいか、蓮」
ガラス張りの制御室から、紗綾局長がマイク越しに尋ねる。
「……ああ、いつでもいける」
蓮が、頷く。
「……蓮さん、マスターキーのシステムへの接続を開始します。……精神への負荷が限界を超えたら、すぐに強制切断しますからね」
シロが、制御パネルを操作しながら言う。
「……分かってる。……頼むぞ」
蓮が、マスターキーに手を伸ばす。
「……接続、開始!」
シロが、エンターキーを叩く。
その瞬間、マスターキーから眩い光が放たれ、蓮の全身を包み込んだ。
「……ぐぁぁぁぁっ!」
蓮が、激痛に叫び声を上げる。
頭の中に、膨大なデータと魔力の奔流が流れ込んでくる。
それは、まるで脳を直接かき回されているような感覚だった。
「……蓮!」
結月が、制御室のガラスに張り付き、悲痛な声を上げる。
「……蓮さんのバイタルサイン、急激に低下しています! ……魔力回路の負荷が、危険領域に達しました!」
アランが、モニターを見ながら叫ぶ。
「……くそっ……。負けるもんか……!」
蓮が、歯を食いしばり、マスターキーのシステムに自分の『残響』を同調させようとする。
しかし、マスターキーのシステムは、蓮の『残響』を異物として拒絶し、激しい反発を引き起こす。
「……がはっ……!」
蓮が、血を吐き、膝をつく。
「……もう駄目です! ……強制切断します!」
シロが、強制切断のボタンに手を伸ばす。
「……待て! ……まだだ……!」
蓮が、血まみれの顔を上げ、叫ぶ。
「……でも、このままでは蓮さんが……!」
シロが、躊躇する。
「……俺を……信じろ……!」
蓮が、再びマスターキーに手を伸ばし、魔力を極限まで集中させる。
「……『残響』――全式共鳴・限界突破!」
蓮の全身から、青白いオーラが立ち上る。
それは、蓮の生命力そのものを燃やして生み出された、究極の魔力だった。
青白いオーラが、マスターキーの光を包み込み、徐々に同調していく。
「……蓮さんの魔力波形が、マスターキーのシステム波形と一致し始めています……!」
アランが、驚愕の声を上げる。
「……いけ……! いけぇぇぇぇっ!」
蓮が、魂の底から叫ぶ。
パァァァァン!
実験室全体が、目も眩むような閃光に包まれた。
光が収まると、そこには、静かに輝くマスターキーと、その前に倒れ伏す蓮の姿があった。
「……蓮!」
結月が、制御室から飛び出し、蓮の元へ駆け寄る。
「……蓮、しっかりして! ……蓮!」
結月が、蓮を抱き起こし、必死に呼びかける。
「……ははっ……。やったぞ……」
蓮が、微かに目を開け、力なく微笑む。
「……ええ、やったわ。……あなたが、マスターキーのシステムを書き換えたのよ」
結月が、涙を流しながら蓮を抱きしめる。
「……蓮さん、バイタルサイン安定しています。……魔力回路も、深刻なダメージは受けていません」
シロが、安堵の息を吐きながら報告する。
「……よかった……。本当によかった……」
凛音が、その場にへたり込む。
「……蓮さん、無茶しすぎですよ……」
透が、涙ぐみながら言う。
「……悪いな。……でも、これで……誰も犠牲にならずに済む」
蓮が、結月の腕の中で静かに目を閉じる。
蓮の危険な賭けは、見事に成功した。
マスターキーは、特異点の命ではなく、蓮の『残響』を動力源として起動するシステムへと生まれ変わったのだ。
しかし、彼らに休む暇はなかった。
世界中の十二箇所の『歪み』は、依然として拡大を続けている。
「……局長。……マスターキーの準備は整いました。……すぐに、封印作戦を開始しましょう」
蓮が、ベッドの上で身を起こし、紗綾局長に告げる。
「……ええ。……でも、その体で大丈夫なの?」
紗綾が、心配そうに尋ねる。
「……問題ありません。……俺には、こいつらがついてますから」
蓮が、結月たちを見回して微笑む。
「……分かったわ。……『オペレーション・エデン』を発動する。……目標は、世界十二箇所の『歪み』の同時封印よ」
紗綾が、力強く宣言する。
世界を救うための最終作戦が、今、幕を開けようとしていた。
四
「オペレーション・エデン」の発動に伴い、対魔局は全戦力を世界十二箇所の「歪み」へと派遣する準備を進めていた。
蓮たち特務部隊は、最も歪みの規模が大きいとされる、ユーラシア大陸中央部の「第一の歪み」を担当することになった。
「……蓮、本当に大丈夫なの?」
出発前の格納庫で、結月が心配そうに蓮の顔を覗き込む。
蓮の顔色はまだ蒼白で、立っているのがやっとの状態だった。
「……ああ、平気だ。……少し魔力を使いすぎただけさ」
蓮が、強がって笑う。
「……嘘ばっかり。……さっきも、歩く時にふらついていたじゃない」
結月が、蓮の腕を支える。
「……結月さんの言う通りですよ、蓮さん。……無理は禁物です」
透が、心配そうに言う。
「……分かってる。……でも、俺が行かなきゃ、マスターキーは起動しないんだ」
蓮が、マスターキーの入ったケースを軽く叩く。
「……蓮さん、第一の歪み周辺には、教団の残党が多数集結しているという情報があります。……激しい戦闘になることは避けられません」
シロが、タブレット端末を見ながら報告する。
「……教団の残党か。……しぶとい連中だ」
凛音が、レールガンを肩に担ぎながら舌打ちする。
「……でも、やるしかないわ。……これが、最後の戦いになるんだから」
結月が、決意を込めた瞳で前を見据える。
「……ああ。……絶対に、全員で生きて帰るぞ」
蓮が、仲間たちを見回して頷く。
「……特務部隊、搭乗準備完了しました。……いつでも出発できます」
アランが、輸送機のタラップから声をかける。
「……よし、行くぞ!」
蓮の号令と共に、特務部隊のメンバーは輸送機へと乗り込んだ。
輸送機は、轟音を立てて空へと舞い上がり、ユーラシア大陸中央部を目指して飛行を始めた。
機内では、それぞれが最後の戦いに向けて、静かに準備を整えていた。
結月は魔法義肢の調整を行い、凛音はレールガンの弾薬を点検し、透は目を閉じて精神を集中させている。
蓮は、窓の外に広がる雲海を見つめながら、これまでの戦いを振り返っていた。
魔法が現れた日。結月や凛音との出会い。舞の死。そして、数々の強敵との死闘。
多くのものを失い、多くのものを得てきた。
(……舞。……俺は、お前の分まで生きる。……そして、この世界を守ってみせる)
蓮は、心の中で舞に誓う。
「……蓮」
結月が、蓮の隣に座る。
「……どうした?」
蓮が、結月を見る。
「……少し、怖いなって思って」
結月が、自分の手を握りしめる。
「……怖い?」
「……ええ。……もし、この作戦が失敗したら……世界は終わってしまう。……それに、あなたがまた無茶をして、死んでしまうんじゃないかって……」
結月が、震える声で言う。
「……結月……」
蓮が、結月の手を優しく握る。
「……俺は死なない。……お前を一人残して、死ぬわけにはいかないからな」
蓮が、結月の目を見つめて微笑む。
「……蓮……」
結月が、蓮の肩に頭を預ける。
「……約束する。……絶対に、一緒に帰ろう」
蓮が、結月の髪を撫でる。
「……ええ。……約束よ」
結月が、小さく頷く。
数時間の飛行の後、輸送機は目的地の「第一の歪み」上空に到達した。
「……目標地点に到着しました。……降下準備に入ります」
パイロットのアナウンスが機内に響く。
「……よし、行くぞ!」
蓮が、立ち上がる。
輸送機の後部ハッチが開き、冷たい風が機内に吹き込んでくる。
眼下には、荒涼とした大地と、その中心で禍々しい紫色の光を放つ巨大な「歪み」が広がっていた。
「……あれが、第一の歪み……」
透が、息を呑む。
「……すごい魔力反応です。……周辺の空間が、完全に歪んでいます」
シロが、モニターを見ながら報告する。
「……教団の残党も、うじゃうじゃいるわね」
凛音が、スコープ越しに地上を観察する。
「……強行突破するしかない。……凛音、結月、露払いを頼む」
蓮が、指示を出す。
「……了解!」
「……任せて!」
凛音と結月が、同時に頷く。
「……降下!」
蓮の合図と共に、特務部隊のメンバーは次々と輸送機から飛び降りた。
「……『雷撃』――超電磁砲・拡散雨!」
凛音が、空中でレールガンを乱射し、地上にいる教団の残党を牽制する。
「……『氷結』――絶対零度・氷結領域!」
結月が、着地と同時に広範囲に氷の魔法を展開し、敵の動きを封じる。
「……『事象の地平』――空間圧縮!」
透が、残った敵を空間ごと圧縮して無力化する。
「……よし、道は開けた! ……一気に歪みの中心へ向かうぞ!」
蓮が、マスターキーのケースを抱え、歪みの中心に向かって走り出す。
しかし、その行く手を阻むように、巨大な影が立ち塞がった。
「……なんだ、あれは……!?」
アランが、驚愕の声を上げる。
それは、歪みの魔力を吸収して巨大化した、異形の魔法生物だった。
全身が紫色の水晶で覆われ、四本の腕と三つの頭を持っている。
「……歪みの守護者……といったところか」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……蓮さん、あの魔法生物の魔力反応は、プロト・デウスに匹敵します! ……正面からの攻撃は危険です!」
シロが、警告する。
「……分かってる。……でも、倒さなきゃ進めない!」
蓮が、魔法生物に向かって跳躍する。
「……『残響』――全式共鳴・絶華!」
蓮が、共鳴剣を振り下ろす。
しかし、魔法生物は四本の腕で共鳴剣を受け止め、そのまま蓮を弾き飛ばした。
「……ぐはっ……!」
蓮が、地面に叩きつけられる。
「……蓮!」
結月が、蓮の元へ駆け寄る。
「……くそっ……。硬いな……」
蓮が、口元の血を拭いながら立ち上がる。
「……私が援護するわ! ……『氷結』――絶対零度・氷結破城!」
結月が、魔法生物の足元を凍らせ、動きを封じようとする。
「……『雷撃』――超電磁砲・極光!」
凛音が、最大出力のレールガンを魔法生物の胸部に撃ち込む。
しかし、魔法生物の紫色の水晶装甲は、結月の氷も凛音の雷撃も弾き返してしまった。
「……駄目だ、攻撃が通じない!」
凛音が、舌打ちする。
「……どうすれば……」
透が、焦燥感を滲ませる。
「……蓮さん、あの魔法生物の装甲は、魔力を反射する性質を持っています。……しかし、物理的な衝撃には弱い可能性があります」
シロが、分析結果を伝える。
「……物理的な衝撃……。でも、俺たちの攻撃じゃ、あの装甲を砕くほどの衝撃は与えられないぞ」
蓮が、顔をしかめる。
「……俺が、やります」
透が、前に出る。
「……透?」
「……俺の『事象の地平』で、あの魔法生物の周囲の空間を極限まで圧縮し、一気に解放します。……その反動で生じる物理的な衝撃なら、装甲を砕けるかもしれません」
透が、作戦を提案する。
「……でも、それは透くんへの負担が大きすぎるわ! ……最悪の場合、空間の反動で透くん自身が……」
結月が、止める。
「……大丈夫です。……俺は、もう逃げないって決めたから」
透が、力強く微笑む。
「……透……。分かった、お前に任せる。……俺たちは、お前が魔法を発動するまでの時間を稼ぐ」
蓮が、頷く。
「……ありがとうございます!」
透が、魔法生物に向かって両手を突き出す。
「……『事象の地平』――極限圧縮!」
透の周囲の空間が歪み、魔法生物の周囲に目に見えない球体の結界が形成される。
「……オォォォォォ……!」
魔法生物が、結界に閉じ込められ、もがき苦しむ。
「……今だ、透!」
蓮が、叫ぶ。
「……解放!」
透が、両手を勢いよく開く。
その瞬間、極限まで圧縮されていた空間が一気に解放され、凄まじい衝撃波が発生した。
ガァァァァン!
衝撃波が魔法生物を直撃し、紫色の水晶装甲が粉々に砕け散る。
「……よし、装甲が剥がれた!」
蓮が、共鳴剣を構え、魔法生物の懐に飛び込む。
「……これで、終わりだ! ……『残響』――全式共鳴・絶華・絆!」
蓮が、仲間たちの想いを乗せた一撃を、魔法生物の剥き出しになったコアに叩き込む。
「……ギャァァァァァ……!」
魔法生物が、断末魔の叫びを上げながら、光の粒子となって消滅した。
「……やった……!」
透が、その場にへたり込む。
「……よくやった、透」
蓮が、透の肩を叩く。
「……さあ、急ぎましょう。……歪みの中心は、もう目の前です」
シロが、促す。
蓮たちは、魔法生物が消滅した跡を通り抜け、ついに「第一の歪み」の中心へと辿り着いた。
そこには、空間が裂け、異次元の闇が覗いているような、禍々しい亀裂が存在していた。
「……これが、歪みの中心……」
結月が、息を呑む。
「……マスターキーを起動する。……シロ、アラン、サポートを頼む」
蓮が、マスターキーのケースを開け、輝く水晶を取り出す。
「……了解しました。……マスターキーのシステム、正常に稼働しています」
シロが、端末を操作する。
「……蓮さん、魔力の供給ルート、確保しました。……いつでもいけます!」
アランが、叫ぶ。
「……よし。……『残響』――マスターキー・起動!」
蓮が、マスターキーを歪みの中心に向かって掲げ、自身の魔力を注ぎ込む。
マスターキーから眩い光が放たれ、歪みの亀裂を包み込んでいく。
「……ぐっ……!」
蓮が、顔を歪める。
マスターキーを通じて、歪みの強大な魔力が逆流してくるのだ。
「……蓮!」
結月が、蓮の背中に手を当て、自身の魔力を送り込む。
「……私たちも、手伝うわ!」
凛音と透も、蓮に魔力を送り込む。
仲間たちの魔力が、蓮の『残響』を通じてマスターキーへと流れ込み、光はさらに強さを増していく。
「……いけぇぇぇぇっ!」
蓮が、魂の底から叫ぶ。
パァァァァン!
マスターキーの光が、歪みの亀裂を完全に覆い尽くし、そして……。
光が収まると、そこには、元の荒涼とした大地が広がっていた。
禍々しい紫色の光も、空間の亀裂も、完全に消滅していた。
「……第一の歪み、封印完了しました!」
シロが、歓喜の声を上げる。
「……やった……! やったぞ!」
アランが、飛び跳ねて喜ぶ。
「……ははっ……。なんとかなったな……」
蓮が、その場に座り込む。
「……蓮、お疲れ様」
結月が、蓮の隣に座り、優しく微笑む。
「……ああ。……でも、まだ十一箇所残ってる。……休んでる暇はないぞ」
蓮が、立ち上がり、仲間たちを見回す。
「……ええ。……最後まで、一緒に戦い抜きましょう」
結月が、力強く頷く。
世界を救うための戦いは、まだ始まったばかりだった。
【第31章終了】
【第31章登場魔法・用語解説】
「全式共鳴・限界突破」:蓮が使用した「残響」の究極形態。自身の生命力を燃やして極限の魔力を生み出し、本来なら同調不可能なシステムや魔法すらも強制的に上書き・共鳴させる。使用後は極度の疲労と魔力枯渇に陥る。
「オペレーション・エデン」:対魔局が立案した、世界十二箇所の「歪み」を同時封印する最終作戦。書き換えられたマスターキーを使用し、蓮の「残響」を起点として世界中の歪みを浄化する。
「極限圧縮」:透が使用した「事象の地平」の応用技。対象の周囲の空間を極限まで圧縮し、一気に解放することで、凄まじい物理的衝撃波を発生させる。魔力反射装甲を持つ敵に対して有効な手段となった。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!
☆☆☆☆☆→★★★★★
評価して頂けると、ものすごく喜びます!




