表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響魔術(エコー・コード)  作者: 天音シオン
第二部 特異点と教団

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/62

第21章:古都の追撃

第21章:古都の追撃



ヨーロッパ某国、古都の街並み。

石畳の路地を、蓮と結月がアリスを連れて急ぎ足で歩いていた。


「……蓮、急ぎましょう。……教団の魔力波長が、複数接近しています」


結月が、タブレットを確認しながら言う。


「……ああ。……アリス、走れるか?」


蓮が、アリスの手を引く。


「……うん……」


アリスが、不安そうに頷く。


三人は、入り組んだ路地を抜け、街の外れにある廃教会へと向かった。

そこは、対魔局が用意した一時的なセーフハウスだった。


「……ここなら、少しは時間を稼げるはずだ」


蓮が、廃教会の重い扉を閉める。


「……シロ、アラン。……聞こえるか? セーフハウスに到着した」


蓮が、インカム越しに報告する。


『……確認しました。……しかし、教団の部隊はすでに街を包囲しています。……脱出ルートの確保には、少し時間がかかりそうです』


シロの冷静な声が響く。


『……くそっ! ……現地のセキュリティシステムが、教団にハッキングされてる! ……復旧させるから、少し待っててくれ!』


アランの焦った声が続く。


「……分かった。……こっちは、なんとか持ち堪える」


蓮が、インカムを切る。


「……蓮……。こわい……」


アリスが、蓮のコートの裾を掴む。


「……大丈夫だ、アリス。……俺たちが、絶対に守るから」


蓮が、アリスの頭を撫でる。


「……ええ。……安心してください」


結月が、アリスに微笑む。


その時、廃教会のステンドグラスが、けたたましい音を立てて砕け散った。


「……来たか!」


蓮が、共鳴剣を構える。


砕け散ったステンドグラスの向こうから、黒いローブを着た数人の男たちが姿を現した。


「……見つけたぞ。……特異点候補の少女だ」


男の一人が、不気味な笑みを浮かべる。


「……お前ら、教団の連中だな。……アリスには、指一本触れさせねえぞ!」


蓮が、男たちを睨みつける。


「……異端者め。……神の御心に逆らう者は、死あるのみだ」


男たちが、一斉に杖を構える。


「『爆炎』――火球!」


男たちの杖から、無数の火球が放たれる。


「『氷結』――氷壁!」


結月が、瞬時に氷の壁を作り出し、火球を防ぐ。


「……蓮、ここは私が防ぎます。……アリスを連れて、奥へ!」


結月が、叫ぶ。


「……分かった! ……無理はするなよ!」


蓮が、アリスを抱き抱え、廃教会の奥へと走る。


「……逃がすか!」


男の一人が、蓮を追おうとする。


「……させません!」


結月が、氷の短剣を構え、男の前に立ち塞がる。


「『氷結』――絶対零度・氷槍!」


結月が、無数の氷の槍を放ち、男たちを牽制する。


「……小癪な! ……『雷撃』――落雷!」


男たちが、氷の槍を雷撃で破壊しながら、結月に迫る。


結月は、一人で数人の男たちを相手に、激しい攻防を繰り広げていた。






一方、蓮はアリスを連れて、廃教会の地下室へと逃げ込んでいた。


「……ここまで来れば、少しは安全なはずだ」


蓮が、アリスを下ろす。


「……蓮……。あの女の人、だいじょうぶ……?」


アリスが、結月のことを心配する。


「……ああ。……結月は強いからな。……絶対に大丈夫だ」


蓮が、アリスに微笑む。


しかし、蓮の内心は焦っていた。

結月一人で、あの数の教団兵を相手にするのは、いくら彼女でも厳しいはずだ。


「……シロ、アラン。……脱出ルートはまだか!」


蓮が、インカム越しに叫ぶ。


『……申し訳ありません。……教団のハッキングが予想以上に強力で、システムの復旧に手間取っています』


シロの声が、少しだけ申し訳なさそうに響く。


『……くそっ! ……あと少しなんだ! ……あと少しで、裏口のロックを解除できる!』


アランが、必死にキーボードを叩く音が聞こえる。


「……分かった。……急いでくれ!」


蓮が、インカムを切る。


その時、地下室の扉が、激しい音を立てて吹き飛ばされた。


「……なっ!?」


蓮が、共鳴剣を構える。


土煙の中から現れたのは、先ほどの男たちとは違う、異様な雰囲気を纏った大男だった。


「……見つけたぞ。……特異点候補」


大男が、低い声で呟く。


「……お前は……!」


蓮が、大男を睨みつける。


「……俺は、教団の『使徒』に仕える者。……名を、ガルドという」


大男が、巨大な戦斧を肩に担ぐ。


「……使徒……? 教団の幹部か!」


蓮が、警戒する。


「……大人しく少女を渡せば、命だけは助けてやる」


ガルドが、戦斧を蓮に向ける。


「……ふざけるな! ……アリスは、絶対に渡さねえ!」


蓮が、共鳴剣を構え、ガルドに向かって突進する。


「『残響』――瞬動!」


蓮は風の魔法で加速し、ガルドの懐に飛び込む。


「……遅いな」


ガルドが、戦斧を軽く振るう。


「……ぐっ!」


蓮は、戦斧の風圧だけで吹き飛ばされ、壁に激突する。


「……蓮!」


アリスが、悲鳴を上げる。


「……なんて馬鹿力だ……。魔法を使わずに、これかよ……!」


蓮が、口から血を流しながら立ち上がる。


「……俺の魔法は『身体強化』だ。……俺の肉体は、鋼よりも硬く、大砲よりも重い」


ガルドが、不敵な笑みを浮かべる。


「……身体強化か。……厄介な能力だな」


蓮が、共鳴剣を強く握りしめる。


「……死ね」


ガルドが、戦斧を振り上げ、蓮に向かって跳躍する。


「『残響』――風壁!」


蓮は風の壁を展開し、ガルドの攻撃を防ごうとする。


しかし、ガルドの戦斧は、風の壁を容易く切り裂き、蓮に迫る。


「……くそっ!」


蓮は、間一髪で戦斧を躱すが、その衝撃波で再び吹き飛ばされる。


「……蓮……!」


アリスが、涙ぐむ。


「……大丈夫だ、アリス。……俺は、負けねえ……!」


蓮が、フラフラと立ち上がる。


しかし、蓮の体力は限界に近づいていた。






「……しぶとい奴だ。……だが、これで終わりだ」


ガルドが、再び戦斧を振り上げる。


その時、地下室の天井が崩落し、誰かが飛び降りてきた。


「……待たせたわね、蓮!」


凛音が、レールガンを構えながら着地する。


「……凛音! ……遅えよ!」


蓮が、安堵の笑みを浮かべる。


「……ごめんなさい。……外の連中を片付けるのに、少し手間取っちゃって」


凛音が、ガルドを睨みつける。


「……増援か。……だが、何人来ようと同じことだ」


ガルドが、戦斧を凛音に向ける。


「……それはどうかしら? ……『雷撃』――超電磁砲!」


凛音が、レールガンを発射する。


極太のレーザーが、ガルドに向かって放たれる。


「……甘いな」


ガルドが、戦斧でレーザーを弾き飛ばす。


「……嘘でしょ!? ……超電磁砲を弾くなんて……!」


凛音が、驚愕の声を上げる。


「……言っただろう。……俺の肉体は、鋼よりも硬いと」


ガルドが、不敵な笑みを浮かべる。


「……くそっ! ……どうすりゃいいんだ!」


蓮が、舌打ちをする。


『……蓮、凛音。……ガルドの身体強化は、魔力によって維持されています。……魔力の供給を断てば、彼の肉体は元に戻るはずです』


シロの冷静な声が、インカム越しに響く。


「……魔力の供給を断つ? ……どうやって!」


蓮が、尋ねる。


『……彼の戦斧が、魔力の供給源になっているようです。……戦斧を破壊するか、彼の手から離せば……』


シロが、分析結果を伝える。


「……なるほどな。……戦斧を狙えばいいのか」


蓮が、共鳴剣を構え直す。


「……凛音、俺が囮になる。……お前は、あいつの戦斧を狙え!」


蓮が、凛音に指示を出す。


「……分かったわ。……任せて!」


凛音が、レールガンの出力を調整する。


「……行くぞ!」


蓮が、再びガルドに向かって突進する。


「……無駄な足掻きだ」


ガルドが、戦斧を振り下ろす。


「『残響』――幻影!」


蓮は、光の屈折を利用して自身の幻影を作り出し、ガルドの攻撃を躱す。


「……チッ! ……小賢しい真似を!」


ガルドが、舌打ちをする。


「……今よ!」


凛音が、レールガンを発射する。


「『雷撃』――超電磁砲・一点集中!」


レーザーが、ガルドの戦斧の柄に命中する。


「……ぐおっ!?」


ガルドが、戦斧を取り落とす。


「……やった!」


凛音が、歓声を上げる。


「……これで、終わりだ!」


蓮が、共鳴剣を構え、ガルドに向かって跳躍する。


「『全式共鳴』――絶華!」


蓮の共鳴剣から放たれた光の刃が、ガルドの胸を切り裂く。


「……ガアアアアアッ……!」


ガルドが、悲鳴を上げながら倒れ込む。


「……ふう。……なんとかなったな」


蓮が、荒い息を吐きながら共鳴剣を下ろす。


「……ええ。……お疲れ様、蓮」


凛音が、微笑む。


「……蓮!」


アリスが、蓮に抱きつく。


「……大丈夫だ、アリス。……もう、怖くないぞ」


蓮が、アリスの頭を撫でる。


その時、地下室の奥から、結月が姿を現した。


「……蓮、凛音。……無事ですか?」


結月が、少しだけ息を切らしながら尋ねる。


「……ああ。……お前も、無事だったか」


蓮が、結月に微笑む。


「……ええ。……外の教団兵は、全て無力化しました」


結月が、淡々と報告する。


『……蓮、裏口のロックを解除した! ……早く脱出してくれ!』


アランの声が、インカム越しに響く。


「……よし。……行くぞ、みんな」


蓮が、アリスの手を引き、裏口へと向かう。






廃教会の裏口から脱出した蓮たちは、対魔局が用意したステルス車両に乗り込んだ。


「……ふう。……なんとか逃げ切れたな」


蓮が、座席に深く腰掛ける。


「……ええ。……でも、教団の動きが早すぎます。……私たちの情報が、漏れているのかもしれません」


結月が、タブレットを確認しながら言う。


「……情報漏洩か。……対魔局の内部に、スパイがいるってことか?」


凛音が、顔をしかめる。


「……その可能性は高いですね。……紗綾局長に報告して、調査を依頼しましょう」


結月が、言う。


「……ああ。……頼む」


蓮が、頷く。


蓮の隣では、アリスが疲れ果てて眠っていた。


「……アリス……。こんな小さな子が、教団に狙われるなんて……」


蓮が、アリスの寝顔を見つめる。


「……彼女の力は、それだけ危険だということでしょう。……事象の地平……。世界を書き換える力……」


結月が、静かに言う。


「……世界を書き換える力か。……そんな力、誰にも渡さねえよ」


蓮が、アリスの頭を優しく撫でる。


「……ええ。……私たちが、守り抜きましょう」


結月が、蓮に微笑む。


「……ちょっと、二人とも。……またイチャイチャしてるの?」


凛音が、運転席から振り返る。


「……だから、イチャイチャしてないって!」


蓮が、慌ててアリスから手を離す。


「……ふふっ。……相変わらずね」


凛音が、呆れたように笑う。


ステルス車両は、夜の闇に紛れて、対魔局のヨーロッパ支部へと向かっていた。


しかし、彼らはまだ知らなかった。

教団の真の恐ろしさを。

そして、アリスの力がもたらす、世界の亀裂を。


第二部「特異点と教団」。

新たな戦いの幕が、今、切って落とされた。






対魔局ヨーロッパ支部、地下の医療区画。

蓮たちは、アリスを精密検査にかけるため、医療スタッフに引き渡していた。


「……アリスの魔力波長は、今のところ安定しています。……ただ、精神的な疲労が激しいようです」


医療スタッフの報告に、蓮は安堵の息を吐いた。


「……そうか。……ゆっくり休ませてやってくれ」


蓮が、ガラス越しに眠るアリスを見つめる。


「……蓮、少し休んだ方がいいわ。……ガルドの攻撃で、肋骨にヒビが入っているんでしょう?」


凛音が、蓮の脇腹を指差す。


「……ああ、これくらい大したことねえよ。……結月の治癒魔法で、痛みは引いてるしな」


蓮が、強がるように笑う。


「……無理は禁物です。……蓮が倒れたら、誰がアリスを守るんですか」


結月が、少しだけ厳しい口調で言う。


「……分かってるよ。……少しだけ、仮眠を取る」


蓮が、苦笑しながら医療区画のソファに腰を下ろす。


「……私も、少し休みます。……魔力の消耗が激しいので」


結月が、蓮の隣に座る。


「……じゃあ、私はシロとアランのところに行ってくるわ。……情報漏洩の件、少し調べてみる」


凛音が、足早に医療区画を後にする。


静まり返った医療区画で、蓮と結月は並んで座っていた。


「……結月」


蓮が、ぽつりと口を開く。


「……はい。……何ですか?」


結月が、蓮の方を向く。


「……さっき、ガルドと戦ってた時……。お前が一人で教団兵を抑えてくれてたから、俺はアリスを守れた。……ありがとうな」


蓮が、結月の目を見つめて言う。


「……お礼を言われるようなことではありません。……それが、私の任務ですから」


結月が、少しだけ顔を伏せる。


「……任務だけじゃないだろ。……お前は、俺たちを守ろうとしてくれた」


蓮が、結月の手をそっと握る。


「……蓮……」


結月が、驚いたように蓮を見る。


「……お前が感情を取り戻し始めてから、俺は……お前が傷つくのが、前よりもずっと怖くなった」


蓮が、正直な気持ちを打ち明ける。


「……私も……同じです。……蓮が傷つくのを見ると、胸の奥がギュッと締め付けられるように痛いんです」


結月が、蓮の手を握り返す。


「……そっか。……俺たち、似た者同士だな」


蓮が、優しく微笑む。


二人の間に、穏やかな時間が流れる。

戦いの緊張から解放され、互いの温もりを感じ合う時間。


しかし、その平穏は長くは続かなかった。






「……蓮! 結月! 起きて!」


凛音の切羽詰まった声で、蓮は目を覚ました。


「……どうした、凛音。……何かあったのか?」


蓮が、ソファから跳ね起きる。


「……教団の連中が、この支部に侵入したわ! ……しかも、かなりの数よ!」


凛音が、息を切らしながら報告する。


「……なんだと!? ……どうやって、この地下施設に……!」


蓮が、顔をしかめる。


「……内部のセキュリティが、完全に掌握されてるの。……アランが必死に抵抗してるけど、時間の問題よ」


凛音が、レールガンを構える。


「……やっぱり、内部にスパイがいるのか……!」


蓮が、共鳴剣を抜く。


「……アリスは!?」


結月が、医療区画の奥を見る。


「……まだ眠っています。……医療スタッフが、避難カプセルに移動させているところです」


結月が、状況を確認する。


「……よし。……俺たちがここで食い止める。……アリスを絶対に守り抜け!」


蓮が、医療区画の入り口に立つ。


直後、医療区画の扉が爆破され、黒いローブを着た教団兵たちが雪崩れ込んできた。


「……特異点候補を渡せ!」


教団兵たちが、一斉に魔法を放つ。


「『残響』――風壁!」


蓮が風の壁を展開し、魔法の雨を防ぐ。


「『氷結』――絶対零度・氷結領域!」


結月が、入り口付近の空間を凍結させ、教団兵たちの動きを封じる。


「……そこよ! 『雷撃』――超電磁砲・拡散!」


凛音が、レールガンから無数のレーザーを放ち、凍結した教団兵たちを粉砕する。


三人の連携は完璧だった。

次々と押し寄せる教団兵たちを、確実に仕留めていく。


しかし、敵の数は一向に減る気配がなかった。


「……くそっ! ……キリがねえぞ!」


蓮が、共鳴剣を振り回しながら叫ぶ。


「……蓮、魔力の消耗が激しいです。……このままでは、ジリ貧です」


結月が、息を切らしながら言う。


「……分かってる! ……でも、ここで引くわけにはいかねえんだ!」


蓮が、歯を食いしばる。


その時、教団兵たちの奥から、一人の男がゆっくりと歩み出てきた。


「……ほう。……なかなかやるな、対魔局の犬ども」


男が、冷酷な笑みを浮かべる。


「……お前は……!」


蓮が、男を睨みつける。


男は、黒いローブではなく、純白の法衣を身に纏っていた。

その顔には、奇妙な幾何学模様の刺青が刻まれている。


「……俺は、教団の『使徒』。……名を、ルシフェルという」


男が、優雅にお辞儀をする。


「……使徒……! ガルドの親玉か!」


蓮が、警戒を強める。


「……ガルドは、ただの駒に過ぎない。……俺が直々に、特異点候補を迎えに来てやったのだ」


ルシフェルが、右手を軽く上げる。


直後、蓮たちの周囲の空間が、ぐにゃりと歪んだ。


「……なっ!? ……体が、重い……!」


蓮が、その場に膝をつく。


「……これは……『重力操作』の魔法……!」


結月が、苦しそうに顔を歪める。


「……くっ……! レールガンが、持ち上がらない……!」


凛音が、床に這いつくばる。


「……圧倒的だろう? ……これが、神に選ばれし者の力だ」


ルシフェルが、冷酷に見下ろす。


「……ふざけるな……! ……アリスは、渡さねえ……!」


蓮が、必死に立ち上がろうとする。


しかし、ルシフェルの重力魔法は強力で、蓮の体はピクリとも動かなかった。


「……無駄な抵抗はやめろ。……お前たちの命など、俺には何の価値もない」


ルシフェルが、蓮の頭を踏みつける。


「……ぐっ……!」


蓮が、痛みに顔を歪める。


「……蓮!」


結月が、悲痛な声を上げる。


「……さて、特異点候補はどこかな?」


ルシフェルが、医療区画の奥へと歩き出す。


「……待て……! ……行かせるか……!」


蓮が、血を吐きながら叫ぶ。


しかし、ルシフェルは振り返ることなく、アリスのいる避難カプセルへと近づいていく。


絶体絶命の危機。

蓮たちは、この圧倒的な力を持つ「使徒」を前に、どう立ち向かうのか。


第二部の真の脅威が、今、その牙を剥いた。






「……見つけたぞ。……特異点候補」


ルシフェルが、避難カプセルの中で眠るアリスを見下ろす。


「……やめろ……! ……アリスに触るな……!」


蓮が、重力に押し潰されながらも、必死に手を伸ばす。


「……うるさい蠅だ。……少し黙っていろ」


ルシフェルが、蓮に向かって指を弾く。


直後、蓮の周囲の重力がさらに増し、床のタイルがひび割れる。


「……ガハッ……!」


蓮が、大量の血を吐き出す。


「……蓮!」


結月が、悲鳴を上げる。


「……さて、この少女を連れて帰るとしよう。……我らが『神』のために」


ルシフェルが、避難カプセルのロックを解除しようと手を伸ばす。


その時だった。


「……蓮を……いじめないで……!」


避難カプセルの中から、小さな声が響いた。


「……ん?」


ルシフェルが、眉をひそめる。


カプセルの中で眠っていたはずのアリスが、目を覚ましていた。

その青い瞳は、怒りと悲しみに満ちていた。


「……ほう。……目覚めたか」


ルシフェルが、興味深そうにアリスを見る。


「……蓮を……はなして……!」


アリスが、カプセルのガラスを叩く。


直後、アリスの周囲の空間が、激しく歪み始めた。


「……なっ……!?」


ルシフェルが、驚愕の声を上げる。


アリスの周囲から発生した空間の歪みは、ルシフェルの重力魔法をあっさりと打ち消してしまった。


「……重力が……消えた……?」


蓮が、信じられないという表情で立ち上がる。


「……これが、特異点の力……。事象の地平……!」


結月が、息を呑む。


「……馬鹿な……。俺の重力操作を、無意識のうちに上書きしたというのか……!」


ルシフェルが、初めて焦りの表情を見せる。


「……蓮……。だいじょうぶ……?」


アリスが、カプセルの中から蓮を見つめる。


「……ああ。……大丈夫だ、アリス。……よくやってくれた」


蓮が、アリスに微笑む。


「……小癪な真似を……! ……大人しくついて来い!」


ルシフェルが、アリスに向かって手を伸ばす。


「……させねえよ!」


蓮が、共鳴剣を構え、ルシフェルとアリスの間に立ち塞がる。


「……邪魔をするな!」


ルシフェルが、再び重力魔法を放とうとする。


しかし、アリスの「事象の地平」の影響で、ルシフェルの魔法はうまく発動しない。


「……今だ! 結月、凛音!」


蓮が、叫ぶ。


「『氷結』――絶対零度・氷結領域!」


結月が、ルシフェルの足元を凍結させる。


「『雷撃』――超電磁砲・最大出力!」


凛音が、レールガンから極太のレーザーを放つ。


「……チッ……!」


ルシフェルが、舌打ちをして後方に跳躍する。


レーザーは、ルシフェルが立っていた場所を消し飛ばした。


「……逃がすか!」


蓮が、ルシフェルを追撃しようとする。


「……今日はここまでにしておこう。……だが、忘れるな。……我々は必ず、その少女を手に入れる」


ルシフェルが、不敵な笑みを浮かべる。


直後、ルシフェルの姿が、空間の歪みと共に消え去った。


「……逃げられたか……」


蓮が、悔しそうに共鳴剣を下ろす。


「……でも、アリスは守れました。……蓮のおかげです」


結月が、蓮のそばに歩み寄る。


「……いや、アリスが助けてくれたんだ。……あの子の力がなきゃ、俺たちは全滅してた」


蓮が、カプセルの中のアリスを見つめる。


アリスは、力を使い果たしたのか、再び深い眠りについていた。


「……アリス……。ありがとうな」


蓮が、カプセルのガラス越しに、アリスの頭を撫でる。


「……蓮、早くここから脱出しましょう。……教団の増援が来るかもしれないわ」


凛音が、周囲を警戒しながら言う。


「……ああ。……シロ、アラン。……聞こえるか? ルシフェルは撤退した。……脱出ルートを確保してくれ」


蓮が、インカム越しに指示を出す。


『……了解しました。……裏口のルートは確保済みです。……急いでください』


シロの声が響く。


蓮たちは、眠るアリスを抱き抱え、崩壊しつつある医療区画から脱出した。






数時間後。

対魔局ヨーロッパ支部の別の隠し施設。

蓮たちは、ようやく一息ついていた。


「……ふう。……なんとか生き延びたな」


蓮が、ソファに深く腰掛ける。


「……ええ。……でも、教団の『使徒』……。あんな化け物がいるなんて」


凛音が、疲れた表情で言う。


「……ルシフェルの重力操作は、規格外でした。……アリスの力がなければ、私たちは間違いなく殺されていました」


結月が、冷静に分析する。


「……ああ。……でも、アリスの力も危険だ。……あんな力を使い続ければ、あの子自身が壊れちまうかもしれない」


蓮が、隣の部屋で眠るアリスを心配そうに見つめる。


「……ええ。……特異点の力は、諸刃の剣です。……私たちが、彼女を正しく導かなければなりません」


結月が、力強く言う。


「……そうだな。……俺たちが、アリスを守るんだ」


蓮が、頷く。


その時、部屋のモニターに、紗綾局長の顔が映し出された。


『……蓮、結月、凛音。……無事のようね』


紗綾が、少しだけ安堵した表情を見せる。


「……局長。……情報漏洩の件は、どうなりましたか?」


蓮が、尋ねる。


『……現在、内部調査を進めているわ。……でも、教団のハッキング技術は、私たちの予想を遥かに超えている。……アランでも、完全に防ぐのは難しいかもしれない』


紗綾が、厳しい表情で言う。


「……アランでも防げないハッキング……。教団には、とんでもない技術者がいるってことか」


蓮が、顔をしかめる。


『……ええ。……だから、あなたたちには、しばらくヨーロッパに留まってもらうわ。……アリスの保護と、教団の動向調査を続けてちょうだい』


紗綾が、指示を出す。


「……了解しました。……アリスは、俺たちが絶対に守ります」


蓮が、力強く答える。


『……頼んだわよ。……それから、もう一つ情報があるの』


紗綾が、少しだけ声を潜める。


「……情報?」


『……日本国内で、第二の特異点候補と思われる魔力波長が確認されたわ』


紗綾の言葉に、蓮たちは息を呑んだ。


「……第二の特異点候補……!?」


蓮が、驚愕の声を上げる。


『……ええ。……教団も、すでにその情報に気づいているはずよ。……日本の方も、かなりきな臭くなってきたわ』


紗綾が、モニター越しに蓮たちを見つめる。


「……日本にも、特異点候補が……。こりゃ、休む暇もねえな」


蓮が、苦笑する。


「……ええ。……私たちの戦いは、これからが本番のようです」


結月が、凛とした表情で言う。


アリスという第一の特異点候補。

そして、日本に現れた第二の特異点候補。

教団の「使徒」たちとの、世界を巻き込んだ壮絶な戦いが、今、本格的に始まろうとしていた。





【第21章終了】





【第21章登場魔法・用語解説】


「身体強化」:教団の幹部ガルドが使用した魔法。魔力を用いて自身の肉体を極限まで強化し、鋼のような硬度と大砲のような破壊力を得る。魔力の供給源(この場合は戦斧)を断たれると効果が切れる。


「事象の地平」:特異点候補であるアリスが、無意識のうちに作り出した精神世界。彼女の感情にリンクしており、不安定になると現実世界にも影響を及ぼす。世界を書き換える力とも言われている。


「重力操作」:教団の「使徒」ルシフェルが使用した魔法。指定した空間の重力を自在に操り、対象を押し潰したり、浮遊させたりすることができる。極めて高度な魔法であり、使用者は限られている。



ここまで読んでくれてありがとうございました!


まだ【評価】と【ブクマ】が済んでいないという方がいましたら、どうかお願いします!

☆☆☆☆☆→★★★★★

評価して頂けると、ものすごく喜びます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ