第19章:狂気の産物と氷の決意
第19章:狂気の産物と氷の決意
一
エーテル社本社ビル、地下五階の培養プラント。
カプセルから目覚めた黒崎ジンは、かつての面影を残しながらも、その肉体は異形のキメラへと変貌していた。
右腕は硬質な甲殻に覆われ、背中からは蝙蝠のような黒い翼が生えている。
「……アアアアアアアアッ!」
ジンが、獣のような咆哮を上げる。
その声には、かつての知性や狂気すらなく、ただ純粋な破壊衝動だけが込められていた。
「……ジン……。お前、本当にジンなのか……?」
蓮が、共鳴剣を構えながら、信じられないものを見るような目でジンを見つめる。
「……無駄だ、雨宮蓮。……彼はもう、かつての黒崎ジンではない。……私の最高傑作、キメラ・ジンだ」
御堂が、白衣のポケットに手を入れたまま、狂気じみた笑みを浮かべる。
「……ふざけるな! ……死んだ人間を弄り回して、何が最高傑作だ!」
蓮が、怒りに任せて御堂に向かって突進する。
「『残響』――瞬動!」
蓮の姿がブレたかと思うと、次の瞬間には御堂の目の前に迫っていた。
「……遅いな」
御堂が、指を鳴らす。
直後、キメラ・ジンが蓮の前に立ち塞がり、その硬質な右腕で蓮の共鳴剣を受け止めた。
ガキィィィン! という甲高い金属音が響く。
「……くっ……! 重い……!」
蓮が、顔をしかめる。
キメラ・ジンの右腕は、蓮の共鳴剣の斬撃を完全に防いでいた。
「……アアアアッ!」
キメラ・ジンが、左手で蓮の腹部を殴りつける。
「……がはっ!」
蓮は、強烈な一撃を食らい、後方に吹き飛ばされた。
「……蓮!」
結月と凛音が、蓮に駆け寄る。
「……大丈夫だ……。肋骨が何本かイカれたかもしれないがな」
蓮が、口から血を流しながら立ち上がる。
「……シロ、奴のデータは?」
凛音が、インカム越しに尋ねる。
『……分析中……。……キメラ・ジンは、複数の魔法生物の細胞を移植されており、物理的な耐久力と魔力回復力が異常に高いです。……さらに、かつてのジンの魔法である「空間歪曲」と「崩壊」も使用可能なようです』
シロの冷静な声が、絶望的な事実を告げる。
「……空間歪曲と崩壊が使える上に、あのバカみたいな耐久力かよ。……冗談じゃないぜ」
蓮が、舌打ちをする。
「……どうするの? ……まともにやり合っても、勝ち目はないわよ」
凛音が、レールガンを構えながら言う。
「……やるしかないだろ。……ここで奴を止めなきゃ、東京が火の海になる」
蓮が、再び共鳴剣を構える。
「……私が、奴の動きを止めます。……その隙に、蓮と凛音で一気に決めてください」
結月が、氷の短剣を両手に構え、前に出る。
「……結月、無理はするなよ」
蓮が、結月の背中に声をかける。
「……問題ありません。……私は、対魔局の兵器ですから」
結月が、淡々と答える。
「……だから、兵器じゃないって……」
蓮が、苦笑する。
「……行くぞ!」
蓮の合図と共に、三人はキメラ・ジンに向かって一斉に攻撃を仕掛けた。
二
「『氷結』――絶対零度・氷柱!」
結月が、キメラ・ジンの足元から無数の氷の柱を突き出させる。
「……ガアアアッ!」
キメラ・ジンは、氷の柱を硬質な右腕で次々と粉砕しながら前進してくる。
「……硬い……! なら、これならどう!」
凛音が、レールガンを発射する。
「『雷撃』――超電磁砲!」
極太のレーザーが、キメラ・ジンの胸部に直撃する。
しかし、キメラ・ジンは少しだけ後退したものの、すぐに体勢を立て直した。
レーザーが直撃した胸部の装甲は、瞬く間に再生していく。
「……嘘でしょ!? 超電磁砲が効かないなんて……!」
凛音が、驚愕の声を上げる。
「……再生能力まであるのかよ! ……バケモンが!」
蓮が、共鳴剣を振り下ろす。
「『残響』――風刃・乱れ桜!」
無数の風の刃が、キメラ・ジンに襲いかかる。
しかし、キメラ・ジンは背中の黒い翼を広げ、風の刃を全て弾き落とした。
「……アアアアアアッ!」
キメラ・ジンが、翼を羽ばたかせて上空に舞い上がる。
「……上か!」
蓮が、上空を見上げる。
キメラ・ジンが、右手を蓮たちに向ける。
その手のひらに、漆黒の魔力が収束していく。
「……まずい! 『崩壊』が来るぞ!」
蓮が、叫ぶ。
「『残響』――風壁!」
蓮が、全力で風の壁を展開する。
直後、キメラ・ジンの手から、漆黒の光線が放たれた。
漆黒の光線は、蓮の風の壁に直撃し、凄まじい衝撃波を発生させる。
「……ぐあああっ!」
蓮が、衝撃波に耐えきれず、膝をつく。
風の壁は、漆黒の光線によって徐々に削り取られていく。
「……蓮!」
結月が、蓮の前に飛び出し、氷の防壁を展開する。
「『氷結』――絶対零度・防壁!」
氷の防壁が、風の壁と重なり、漆黒の光線をなんとか防ぎ切る。
「……はぁ、はぁ……。助かった、結月」
蓮が、荒い息を吐きながら言う。
「……油断しないでください。……奴は、まだ本気を出していません」
結月が、上空のキメラ・ジンを睨みつける。
「……素晴らしい。……私の最高傑作の力、存分に味わってくれたかな?」
御堂が、培養プラントの奥から拍手をしながら歩いてくる。
「……御堂……! お前、ジンをどうするつもりだ!」
蓮が、御堂を睨みつける。
「……どうするも何も、彼は私の兵器だ。……この東京を、いや、世界を私の思い通りに作り変えるためのな」
御堂が、狂気じみた笑みを浮かべる。
「……そんなこと、させるか!」
蓮が、立ち上がる。
「……無駄な抵抗だ。……キメラ・ジン、奴らを始末しろ」
御堂が、冷酷に命令を下す。
キメラ・ジンが、再び漆黒の魔力を収束させ始める。
「……シロ! 何か手はないのか!」
蓮が、インカムに向かって叫ぶ。
『……分析中……。……キメラ・ジンの再生能力は、胸部にあるコアから供給される魔力に依存しています。……コアを破壊すれば、再生能力を無効化できるはずです』
シロの冷静な声が響く。
「……胸部のコアか。……でも、あんな硬い装甲、どうやって貫くんだよ!」
蓮が、顔をしかめる。
『……結月隊員の「絶対零度」で装甲を脆くし、その直後に凛音隊員の「超電磁砲」を撃ち込めば、貫通できる可能性があります』
シロが、作戦を提示する。
「……なるほど。……結月、凛音、聞こえたか!」
蓮が、二人に声をかける。
「……ええ。……やるしかないわね」
凛音が、レールガンの出力を最大まで引き上げる。
「……了解しました。……私が、奴の装甲を凍らせます」
結月が、氷の短剣を強く握りしめる。
「……よし、行くぞ!」
蓮が、再びキメラ・ジンに向かって突進した。
三
「……アアアアッ!」
キメラ・ジンが、漆黒の光線を放つ。
「『残響』――瞬動!」
蓮は、風の魔法で加速し、漆黒の光線を紙一重で躱す。
「……こっちだ、バケモン!」
蓮が、キメラ・ジンの背後に回り込み、共鳴剣を振り下ろす。
キメラ・ジンは、背中の翼で蓮の斬撃を防ぎ、振り返りざまに右腕を振り回す。
「……ぐっ!」
蓮は、共鳴剣で右腕の攻撃を受け止めるが、その圧倒的なパワーに押し込まれる。
「……今です!」
結月が、キメラ・ジンの足元に滑り込む。
「『氷結』――絶対零度・氷葬!」
結月が、両手をキメラ・ジンの胸部に押し当てる。
凄まじい冷気が、キメラ・ジンの胸部の装甲を急激に凍結させていく。
「……ガアアアアッ!」
キメラ・ジンが、苦痛の叫びを上げる。
「……凛音、撃て!」
蓮が、叫ぶ。
「……消し飛べえええっ!」
凛音が、レールガンを発射する。
「『雷撃』――超電磁砲・最大出力!」
極太のレーザーが、凍結して脆くなったキメラ・ジンの胸部の装甲に直撃する。
パキィィィン! という音と共に、装甲が砕け散り、レーザーがキメラ・ジンの胸部を貫通した。
「……ギイイイイイイッ……!」
キメラ・ジンは、断末魔の叫びを上げ、その場に崩れ落ちた。
「……やったか!」
蓮が、荒い息を吐きながらキメラ・ジンを見つめる。
キメラ・ジンの胸部には、ぽっかりと大きな穴が開き、そこから緑色の体液が流れ出していた。
再生能力は、完全に失われているようだった。
「……ふぅ。……なんとか、なったわね」
凛音が、レールガンを下ろす。
「……ええ。……シロの分析のおかげです」
結月が、立ち上がる。
「……馬鹿な……。私の最高傑作が……こんなにあっさりと……」
御堂が、信じられないものを見るような目で、キメラ・ジンの死骸を見つめる。
「……お前の悪ふざけも、ここまでだ。……大人しくお縄につけ、御堂」
蓮が、共鳴剣を御堂に向ける。
「……ふん。……私を捕まえられると思っているのか?」
御堂が、不敵に笑う。
「……何?」
蓮が、眉をひそめる。
「……私は、まだ負けていない。……この研究所ごと、お前たちを吹き飛ばしてやる!」
御堂が、白衣のポケットから起爆装置を取り出す。
「……自爆する気か!?」
凛音が、顔を青ざめさせる。
「……さらばだ、対魔局の猟犬共!」
御堂が、起爆装置のスイッチを押そうとする。
しかし、その時。
「……させません」
結月が、氷の短剣を投げつける。
氷の短剣は、御堂の手首を正確に貫き、起爆装置を弾き飛ばした。
「……ぐあああっ!」
御堂が、手首を押さえてうずくまる。
「……チェックメイトだ」
蓮が、御堂の首筋に共鳴剣を突きつける。
「……くそっ……! 離せ!」
御堂が、抵抗しようとするが、蓮の力には敵わない。
「……シロ、起爆装置の解除はできるか?」
蓮が、インカム越しに尋ねる。
『……はい。……アランが、すでにメインサーバーから起爆プログラムを停止させました。……爆発の危険はありません』
シロの冷静な声が響く。
「……よし。……これで、完全に終わりだ」
蓮が、安堵のため息をつく。
「……お疲れ様、蓮」
凛音が、微笑む。
「……ああ。……帰ろうぜ」
蓮が、御堂を拘束しながら言う。
三人は、御堂を連行し、培養プラントを後にした。
四
対魔局本部への帰還後。
蓮たちは、紗綾局長の執務室で任務の報告を行っていた。
「……御堂の身柄は、地下の特別拘置所に移したわ。……これから、厳しい尋問が待っているでしょうね」
紗綾が、報告書に目を通しながら言う。
「……ええ。……彼が知っている情報を全て吐かせれば、エーテル社の闇も、教団の残党の居場所も分かるはずです」
結月が、淡々と報告する。
「……それにしても、ジンをキメラにして蘇らせるなんて。……御堂の奴、本当に狂ってるぜ」
蓮が、顔をしかめる。
「……魔法という力は、時に人を狂わせる。……私たちは、その狂気と戦い続けなければならないのよ」
紗綾が、静かに言う。
「……分かってます。……俺たちは、絶対に諦めません」
蓮が、決意を込めて言う。
「……頼もしいわね。……今日は、ゆっくり休みなさい。……明日から、また忙しくなるわよ」
紗綾が、微笑む。
「……はい。……失礼します」
蓮たちが、執務室を退出する。
廊下を歩きながら、蓮は結月に声をかけた。
「……結月。……今日はお疲れ様。……お前がいなきゃ、ジンには勝てなかった」
蓮が、結月に微笑む。
「……いえ。……私は、私の仕事をしただけです」
結月が、淡々と答える。
「……またそれかよ。……お前は、もっと自分の感情に素直になってもいいんだぜ」
蓮が、苦笑する。
「……感情……。私には、まだよく分かりません。……でも、蓮と一緒にいると、胸が温かくなるのは事実です」
結月が、自分の胸を押さえる。
「……そっか。……なら、それでいいさ。……ゆっくり、思い出していこうぜ」
蓮が、結月の頭を優しく撫でる。
結月は、少しだけ顔を赤らめて、蓮の手にすり寄った。
「……ちょっと、二人とも。……またイチャイチャしてるの?」
凛音が、呆れたようにため息をつく。
「……だから、イチャイチャしてないって!」
蓮が、慌てて手を引っ込める。
「……ふふっ。……さあ、ご飯でも食べに行きましょう。……お腹空いちゃった」
凛音が、笑顔で歩き出す。
「……ああ。……行くか」
蓮が、結月と凛音の後を追う。
灰色都市の空は、今日もどんよりと曇っている。
だが、彼らの心には、確かな希望の光が灯っていた。
狂気と絶望が渦巻く世界で、彼らは互いの絆を信じ、戦い続ける。
残響魔術の物語は、まだ終わらない。
五
数日後。
対魔局本部の地下深くにある特別拘置所。
厳重な魔力封じの結界が張られた独房の中で、御堂は拘束衣を着せられ、虚ろな目で壁を見つめていた。
蓮と紗綾局長が、ガラス越しに彼と対峙している。
「……御堂。……エーテル社の裏帳簿と、教団の残党との通信記録は全て押収したわ。……もう、言い逃れはできないわよ」
紗綾が、冷徹な声で切り出す。
「……ふん。……好きにしろ。……私の研究は、すでに次の段階に入っている。……私一人を捕まえたところで、何も変わらない」
御堂が、不敵な笑みを浮かべる。
「……次の段階だと? ……まだ何か企んでるのか!」
蓮が、ガラスを叩く。
「……教えてやろう。……キメラ計画は、ほんの序章に過ぎない。……真の目的は、『人工特異点』の創造だ」
御堂の言葉に、蓮と紗綾は息を呑んだ。
「……人工特異点……。まさか、舞のような存在を、人工的に作り出そうというのか?」
紗綾が、顔をしかめる。
「……その通りだ。……特異点とは、世界の法則を書き換える究極の力。……それを人工的に制御できれば、私は神になれる」
御堂の瞳には、狂気が宿っていた。
「……ふざけるな! ……舞の力を、そんなくだらない野望のために利用しようとするなんて!」
蓮が、怒りに震える。
「……くだらない野望? ……人類の進化を否定するのか、雨宮蓮。……お前たちのような凡人には、私の崇高な理想は理解できないだろうな」
御堂が、嘲笑う。
「……理解したくもないね。……お前の野望は、俺たちが必ずぶっ潰す」
蓮が、御堂を睨みつける。
「……やってみるがいい。……だが、もう遅いかもしれないぞ。……『人工特異点』のプロトタイプは、すでに起動している」
御堂が、意味深な言葉を残す。
「……プロトタイプが起動している? ……どこでだ!」
紗綾が、問い詰める。
「……さあな。……自分で探してみるんだな、対魔局の猟犬共」
御堂は、それ以上何も語ろうとしなかった。
「……くそっ! ……局長、どうしますか?」
蓮が、紗綾を見る。
「……シロとアランに、エーテル社の通信記録を再解析させるわ。……『人工特異点』のプロトタイプの居場所を、何としても突き止めるのよ」
紗綾が、厳しい顔で指示を出す。
「……了解しました」
蓮が、頷く。
二人は、特別拘置所を後にした。
六
対魔局本部のオペレーションルーム。
シロとアランが、無数のモニターに囲まれながら、キーボードを叩いていた。
「……どうだ、アラン。……何か分かったか?」
蓮が、オペレーションルームに入ってくる。
「……今、エーテル社の隠しサーバーの暗号を解読しているところだ。……もう少し待ってくれ」
アランが、画面から目を離さずに答える。
「……シロ、そっちはどうだ?」
蓮が、シロに尋ねる。
「……アカシックレコードの記憶と、エーテル社のデータを照合しています。……『人工特異点』に関する記述が、いくつか見つかりました」
シロが、淡々と報告する。
「……本当か!? ……どんな内容だ?」
蓮が、身を乗り出す。
「……『人工特異点』の創造には、莫大な魔力と、特定の波長を持つ人間の魂が必要です。……御堂は、教団の残党から提供された魔力と、誘拐した魔法適性者の魂を使って、プロトタイプを作り出したようです」
シロの言葉に、蓮は顔を青ざめさせた。
「……誘拐した魔法適性者の魂……。まさか、ノクスが誘拐していたのは、そのためだったのか……!」
蓮が、拳を握りしめる。
「……その可能性が高いです。……そして、プロトタイプの起動場所ですが……」
シロが、モニターの一つを指差す。
そこには、東京湾に浮かぶ巨大な人工島の地図が映し出されていた。
「……ここは……。エーテル社の、海上プラントか」
蓮が、地図を見る。
「……はい。……現在、この海上プラントから、異常な魔力波長が検出されています。……おそらく、プロトタイプはここにいます」
シロが、断言する。
「……よし、場所は分かった。……すぐに突入するぞ!」
蓮が、踵を返す。
「……待って、蓮。……私も行くわ」
凛音が、オペレーションルームに入ってくる。
「……凛音。……お前、怪我は大丈夫なのか?」
蓮が、凛音の腕の包帯を見る。
「……これくらい、かすり傷よ。……それに、こんな面白そうな任務、私抜きでやるなんて許さないわよ」
凛音が、ニヤリと笑う。
「……分かった。……結月も呼んでこい。……全員で、海上プラントに乗り込むぞ」
蓮が、力強く頷く。
「……了解!」
凛音が、結月を呼びに走る。
「……蓮。……私も、サポートします。……気をつけてください」
シロが、蓮を見つめる。
「……ああ、頼むぜ、シロ。……お前のナビゲートが頼りだ」
蓮が、シロに微笑む。
「……はい!」
シロが、嬉しそうに頷く。
蓮たちは、新たな脅威「人工特異点」を破壊するため、東京湾の海上プラントへと向かった。
七
東京湾、海上プラント。
夜の闇に紛れて、対魔局のステルスヘリがプラントの屋上に着陸した。
「……着いたぞ。……ここから先は、敵のテリトリーだ。……気を引き締めていけ」
蓮が、ヘリから飛び降りながら指示を出す。
「……了解。……シロ、プラント内の構造は分かる?」
凛音が、レールガンを構えながらインカム越しに尋ねる。
『……はい。……プラントの最下層に、巨大な魔力反応があります。……おそらく、そこがプロトタイプの起動施設です』
シロの冷静な声が響く。
「……最下層か。……エレベーターは使えるか?」
蓮が尋ねる。
『……メインエレベーターはロックされています。……非常階段を使って、下へ降りてください』
シロが、ルートを指示する。
「……分かった。……行くぞ」
蓮が、非常階段の扉を開ける。
三人は、薄暗い非常階段を、足音を殺して降りていった。
プラント内は、不気味なほど静まり返っていた。
警備員の姿もなく、機械の稼働音だけが響いている。
「……静かすぎるわね。……罠かしら」
凛音が、周囲を警戒する。
「……油断するな。……いつ敵が現れてもおかしくない」
蓮が、共鳴剣の柄に手をかける。
「……蓮。……下から、複数の魔力反応が近づいてきます」
結月が、氷の短剣を構える。
直後、非常階段の下から、異形の姿をした魔法生物たちが這い上がってきた。
「……またキメラか! ……どんだけ作り出してるんだよ!」
蓮が、舌打ちをする。
「……数は十体以上。……一気に片付けるわよ!」
凛音が、レールガンを発射する。
「『雷撃』――超電磁砲・拡散!」
無数のレーザーが、キメラたちに降り注ぐ。
「……ギャアアアッ!」
数体のキメラが、レーザーに貫かれて階段から転げ落ちる。
「……残りは俺がやる! 『残響』――風刃・乱れ桜!」
蓮が、共鳴剣から無数の風の刃を放ち、キメラたちを切り裂く。
「……私も。……『氷結』――絶対零度・氷槍雨!」
結月が、無数の氷の槍を生成し、キメラたちに突き刺す。
三人の連携攻撃により、キメラたちはあっという間に全滅した。
「……ふぅ。……とりあえず、第一陣は片付いたな」
蓮が、荒い息を吐きながら言う。
「……急ぎましょう。……プロトタイプが完全に起動する前に、破壊しなければ」
結月が、階段を降り始める。
三人は、キメラの死骸を乗り越え、さらに下へと進んでいった。
そして、ついに最下層の扉の前に辿り着いた。
「……この奥か」
蓮が、扉に手をかける。
「……気をつけて、蓮。……扉の向こうから、とてつもない魔力を感じるわ」
凛音が、緊張した面持ちで言う。
「……ああ、分かってる。……行くぞ!」
蓮が、扉を蹴り開ける。
扉の向こうには、巨大な空間が広がっていた。
中央には、巨大な培養カプセルが設置されており、その中には、一人の少女が浮かんでいた。
「……あれが、人工特異点のプロトタイプ……」
蓮が、息を呑む。
少女の姿は、かつて蓮たちが失った仲間、舞に酷似していた。
「……舞……? 嘘だろ……」
蓮が、信じられないものを見るような目で、カプセルの中の少女を見つめる。
「……蓮、騙されないで! あれは舞じゃないわ! ……ただの、作られた人形よ!」
凛音が、叫ぶ。
「……分かってる……。分かってるけど……!」
蓮が、共鳴剣を握る手が震える。
その時、カプセルの中の少女が、ゆっくりと目を開けた。
その瞳は、舞のような温かい光ではなく、冷たく虚ろな光を放っていた。
「……排除……シマス……」
少女が、機械的な声で呟く。
直後、カプセルが砕け散り、少女が蓮たちの前に降り立った。
「……来るぞ!」
蓮が、共鳴剣を構える。
人工特異点との、悲しくも過酷な戦いが、今始まろうとしていた。
【第19章終了】
【第19章登場魔法・用語解説】
「キメラ・ジン」:御堂によって魔法生物の細胞を移植され、蘇った黒崎ジン。圧倒的な耐久力と再生能力を持ち、「空間歪曲」と「崩壊」の魔法も使用可能。
「超電磁砲・最大出力」:凛音のレールガンの最大火力。結月の「絶対零度」で脆くなったキメラ・ジンの装甲を貫通し、コアを破壊した。
「人工特異点」:御堂が、莫大な魔力と誘拐した魔法適性者の魂を用いて創造しようとしている、究極の兵器。プロトタイプは、死んだ舞の姿に酷似している。
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