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残響魔術(エコー・コード)  作者: 天音シオン
第一部 覚醒と喪失

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第17章:大いなる門と記憶の海

第17章:大いなる門と記憶の海



アルプス山脈の隠し砦、最上階の大礼拝堂。

祭壇の奥にある巨大なステンドグラスが砕け散り、その向こう側に、空間そのものを切り裂いたような漆黒の「門」が姿を現した。


「……これが、大いなる門……」


蓮が、圧倒的なプレッシャーに息を呑む。

門の向こう側には、星空のような無数の光の粒子が渦巻いているのが見えた。


「……門が開きました。……これで、世界は初期化されます」


神の代行者である少女が、両手を広げて門に向かって歩き出す。

彼女の身体から、莫大な魔力が門へと吸い込まれていく。


「……待て! 行かせるか!」


蓮が、共鳴剣を構えて少女に向かって突進する。


「……無駄です。……門の引力は、誰にも止められません」


少女が、振り返らずに言う。


「『光の切断』!」


紗綾局長が、白銀の剣で門の引力を切り裂こうとするが、剣閃は門に吸い込まれて消滅してしまった。


「……くっ、私の魔法が通じない……!」


紗綾が、舌打ちをする。


「……局長! どうすればいいんですか!」


凛音が、レールガンを構えたまま叫ぶ。


「……門を閉じるには、鍵である彼女を破壊するしかないわ。……でも、今の彼女は門と完全に同化している。……物理的な攻撃は届かない」


紗綾が、厳しい顔で言う。


「……じゃあ、どうするんだよ!」


蓮が、焦燥感を募らせる。


「……一つだけ、方法があります」


結月が、静かに口を開いた。


「……結月?」


蓮が、結月を見る。


「……門の向こう側、『アカシックレコード』に直接アクセスし、彼女の魔力供給を断ち切るのです。……そうすれば、門は閉じます」


結月が、淡々と説明する。


「……アカシックレコードにアクセスする? そんなこと、できるのか?」


蓮が尋ねる。


「……理論上は可能です。……ですが、アカシックレコードは世界の全ての記憶が渦巻く場所。……生身の人間が足を踏み入れれば、膨大な情報量に精神が崩壊する危険性があります」


結月が、無表情のまま警告する。


「……精神が崩壊する……」


蓮が、息を呑む。


「……それでも、行くしかないだろ。……お前の記憶を取り戻すためにもな」


蓮が、決意を込めて結月を見る。


「……私の記憶など、どうでもいいことです。……私は、対魔局の兵器として……」


「……兵器じゃないって言ってるだろ!」


蓮が、結月の言葉を遮る。


「……俺は、お前を助ける。……絶対にだ」


蓮が、結月の手を強く握る。


結月は、一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに元の無表情に戻った。


「……分かりました。……私も、同行します」


結月が、蓮の手を握り返す。


「……蓮、結月! 私も行くわ!」


凛音が、二人の隣に並ぶ。


「……ダメだ、凛音。……お前は、ここで局長と一緒にアランを守ってくれ。……門が閉じた後、脱出するためのサポートが必要だ」


蓮が、凛音を制止する。


「……でも……!」


「……頼む。……お前がいなきゃ、俺たちは帰ってこれない」


蓮が、真剣な顔で言う。


「……分かったわ。……絶対に、生きて帰ってきなさいよ」


凛音が、涙ぐみながら頷く。


「……ああ。……行くぞ、結月!」


蓮と結月は、互いの手を強く握りしめ、漆黒の門へと飛び込んだ。






門の向こう側は、光と闇が入り混じる、果てしない空間だった。

無数の光の粒子が、まるで川のように流れている。


「……ここが、アカシックレコード……」


蓮が、周囲を見渡す。


「……はい。……この光の粒子一つ一つが、世界の記憶です」


結月が、淡々と答える。


「……すごい情報量だ。……頭が、割れそうになる……」


蓮が、頭を押さえる。

他人の記憶、歴史の記憶、世界の法則。

あらゆる情報が、直接脳内に流れ込んでくる感覚だった。


「……蓮、しっかりしてください。……意識を保たないと、記憶の海に飲み込まれます」


結月が、蓮の手を強く握る。


「……ああ、分かってる。……でも、どうやってあの少女の魔力供給を断ち切るんだ?」


蓮が、痛みを堪えながら尋ねる。


「……彼女の記憶の核を見つけ出し、そこに干渉するのです。……彼女がなぜ、世界を初期化しようとしているのか。……その理由を知る必要があります」


結月が、光の粒子の流れを見つめる。


「……彼女の記憶の核……」


蓮も、光の粒子の流れに意識を集中させる。


すると、無数の光の粒子の中から、一際強く輝く赤い光の塊が見えた。


「……あれか!」


蓮が、赤い光の塊を指差す。


「……おそらく。……行ってみましょう」


結月が、赤い光の塊に向かって進み始める。


二人が赤い光の塊に近づくと、周囲の景色が歪み、一つの映像が浮かび上がった。


それは、燃え盛る街の映像だった。

空には無数の魔法陣が浮かび、人々が逃げ惑っている。


「……これは……」


蓮が、息を呑む。


「……魔法災害の記憶です。……魔法が現れた日、世界中で起きた惨劇……」


結月が、静かに言う。


映像の中で、一人の幼い少女が泣き叫んでいた。

彼女の目の前で、両親が魔法の炎に包まれて死んでいく。


「……あの少女は……『神の代行者』か……」


蓮が、幼い少女の顔を見て気づく。


「……はい。……彼女は、魔法災害で全てを失ったのです」


結月が、淡々と説明する。


映像は続く。

孤児となった少女は、黒の教団に拾われ、「神の器」として過酷な実験と訓練を強いられる。

彼女の莫大な魔力は、教団の実験によって人工的に植え付けられたものだった。


「……ひどい……。こんなの、ただの虐待じゃないか……」


蓮が、拳を握りしめる。


「……彼女は、魔法という力そのものを憎むようになった。……だから、世界を初期化し、魔法のない世界を創り出そうとしているのです」


結月の言葉に、蓮は深く頷いた。


「……気持ちは分かる。……でも、だからって世界を滅ぼしていい理由にはならない」


蓮が、赤い光の塊に向かって手を伸ばす。


「……彼女の記憶に干渉し、魔力供給のリンクを断ち切ります」


結月も、赤い光の塊に手を伸ばす。


二人の手が赤い光の塊に触れた瞬間、強烈な拒絶反応が二人を襲った。


「……ぐあああっ!」


蓮が、苦痛の叫びを上げる。


「……蓮!」


結月が、蓮を支えようとするが、彼女自身も強烈な痛みに顔を歪める。


「……邪魔を、しないでください」


赤い光の塊の中から、少女の声が響いた。






「……お前を、止める! ……世界を、終わらせはしない!」


蓮が、痛みに耐えながら叫ぶ。


「……なぜですか? ……この世界には、悲しみしかありません。……魔法がある限り、人は争い続ける。……だから、全てを無に還すのです」


少女の声は、悲痛な響きを帯びていた。


「……悲しみだけじゃない! ……魔法があったから、俺は仲間に出会えた。……結月に出会えたんだ!」


蓮が、結月の手を強く握る。


「……仲間……。そんなものは、幻想です。……いずれ失われる、儚いもの……」


少女の声が、冷たく響く。


「……失われない! ……俺たちの想いは、残響となって繋がり続けるんだ!」


蓮が、共鳴剣を顕現させる。


「『残響』――全式共鳴!」


蓮が、共鳴剣に全ての想いを込める。

結月の氷の魔力、凛音の雷の魔力、アランの分析力、そして、死んでいった舞の炎の魔力。

全ての想いが、純白の光となって共鳴剣に宿る。


「……無駄です。……私の絶望は、そんな光では消せません」


少女が、赤い光の塊から無数の黒い刃を放つ。


「……消してみせるさ!」


蓮が、共鳴剣を振り下ろす。


純白の光の刃が、黒い刃を次々と切り裂き、赤い光の塊へと迫る。


「……やめて……!」


少女の悲鳴が響く。


「……お前の悲しみは、俺が断ち切る!」


蓮の共鳴剣が、赤い光の塊を真っ二つに切り裂いた。


その瞬間、赤い光の塊は砕け散り、無数の光の粒子となって消滅した。


「……はぁ、はぁ……」


蓮が、荒い息を吐きながら共鳴剣を消滅させる。


「……魔力供給のリンクが、断ち切られました。……門が、閉じ始めます」


結月が、周囲の空間が歪み始めているのを見て言う。


「……よし、脱出するぞ!」


蓮が、結月の手を引いて走り出す。


しかし、その時。

周囲の光の粒子が、突然激しく渦を巻き始めた。


「……なっ!? なんだ、これ……!」


蓮が、足を止める。


「……アカシックレコードの防衛システムが作動しました。……異物である私たちを、排除しようとしています」


結月が、無表情のまま警告する。


無数の光の粒子が、巨大な竜巻となって蓮たちに襲いかかる。


「……くそっ、ここまで来て……!」


蓮が、風の壁を展開しようとするが、魔力が足りない。


「……蓮、私に掴まってください」


結月が、蓮の前に立つ。


「……結月?」


「『氷結』――絶対零度・防壁!」


結月が、残された全ての魔力を振り絞り、巨大な氷のドームを展開する。


光の竜巻が氷のドームに激突し、凄まじい衝撃音が響く。


「……結月、無理するな! お前の魔力回路が……!」


蓮が、結月の肩を掴む。


「……問題ありません。……私は、対魔局の兵器ですから」


結月が、淡々と答える。


「……だから、兵器じゃないって……!」


蓮が、叫ぶ。


「……蓮……」


結月が、ゆっくりと振り返る。

その瞳には、かつてのような微かな温もりが戻っていた。


「……結月……? お前、記憶が……」


蓮が、息を呑む。


「……分かりません。……でも、あなたが傷つくのは、嫌です。……胸が、痛いんです」


結月が、自分の胸を押さえる。


「……結月……!」


蓮が、結月を強く抱きしめる。


「……蓮……温かい……」


結月が、蓮の背中に腕を回す。


その瞬間、氷のドームが砕け散り、光の竜巻が二人を飲み込んだ。






「……蓮! 結月!」


凛音の叫び声が、大礼拝堂に響く。


漆黒の門が、凄まじい音を立てて閉じようとしていた。


「……くそっ、二人がまだ戻ってきてないのに!」


アランが、タブレットを叩きつける。


「……局長、どうにかしてください!」


凛音が、紗綾にすがりつく。


「……私にも、どうすることもできないわ。……門の引力が強すぎる」


紗綾が、悔しそうに唇を噛む。


門が、完全に閉じようとした、その時。


「……うおおおおっ!」


門の隙間から、純白の光が溢れ出した。


「……蓮!」


凛音が、叫ぶ。


純白の光の中から、蓮が結月を抱き抱えて飛び出してきた。


直後、漆黒の門は完全に閉じ、ステンドグラスの破片だけが床に散らばった。


「……はぁ、はぁ……」


蓮が、床に倒れ込み、荒い息を吐く。


「……蓮! 結月!」


凛音とアランが、二人に駆け寄る。


「……無事か、二人とも!」


アランが、涙目で叫ぶ。


「……ああ。……なんとか、な」


蓮が、力なく笑う。


「……結月は?」


凛音が、蓮の腕の中で目を閉じている結月を見る。


「……気を失ってるだけだ。……でも、あいつ……」


蓮が、結月の顔を見つめる。


「……記憶が、戻ったの?」


紗綾が、静かに尋ねる。


「……完全じゃないかもしれません。……でも、俺のことを、思い出してくれました」


蓮が、嬉しそうに微笑む。


「……そう。……よかったわね」


紗綾が、少しだけ口角を上げる。


祭壇の方を見ると、「神の代行者」である少女が、糸が切れた操り人形のように倒れていた。


「……あの少女は……」


凛音が、少女に近づく。


「……生きてるわ。……でも、魔力を完全に使い果たしている。……もう、脅威にはならないでしょう」


紗綾が、少女の首筋に触れて確認する。


「……教団の計画は、これで完全に阻止できたってことだな」


アランが、安堵のため息をつく。


「……ええ。……私たちの、勝利よ」


紗綾が、白銀の剣を鞘に収める。


「……終わった……」


蓮が、天井を見上げる。

長い、長い戦いだった。

多くのものを失い、傷つきながらも、彼らは世界を守り抜いたのだ。


「……帰ろう。……俺たちの、居場所に」


蓮が、結月を抱き抱えて立ち上がる。


「……ええ。……帰りましょう」


凛音が、笑顔で頷く。


五人は、朝日が差し込む大礼拝堂を後にした。






数日後。

対魔局本部の屋上で、蓮は一人、風に吹かれていた。


「……ここにいたのね」


背後から、凛音が声をかける。


「……ああ。……結月の様子は?」


蓮が、振り返る。


「……さっき、目を覚ましたわ。……局長の検査でも、記憶の修復が確認されたみたい。……まだ少し混乱してるみたいだけど、あなたのことは、ちゃんと覚えてるわよ」


凛音が、嬉しそうに言う。


「……そうか。……よかった」


蓮が、安堵の笑みを浮かべる。


「……でも、油断は禁物よ。……教団の残党はまだ世界中に散らばってるし、あの少女の処遇も決まってない。……私たちの戦いは、まだ終わってないわ」


凛音が、表情を引き締める。


「……分かってる。……でも、今は少しだけ、休ませてくれ」


蓮が、再び空を見上げる。


「……そうね。……お疲れ様、蓮」


凛音が、蓮の隣に並ぶ。


「……ああ。……お前もな、凛音」


蓮が、凛音に微笑みかける。


その時、屋上のドアが開き、結月が姿を現した。


「……蓮」


結月が、静かに蓮の名前を呼ぶ。


「……結月。……もう、起きて大丈夫なのか?」


蓮が、結月に駆け寄る。


「……はい。……ご心配をおかけしました」


結月が、深く頭を下げる。


「……謝るなよ。……お前が無事で、本当によかった」


蓮が、結月の肩に手を置く。


「……蓮。……私、思い出しました。……あなたが、私に言ってくれた言葉。……私を、兵器じゃないって言ってくれたこと」


結月の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。


「……結月……」


「……私、感情を喪失しているはずなのに……。今、とても嬉しいです。……胸が、温かいです」


結月が、自分の胸を押さえる。


「……それは、お前がちゃんと心を持ってる証拠だ。……お前は、ただの人形じゃない。……俺の大切な、パートナーだ」


蓮が、結月を強く抱きしめる。


「……はい。……これからも、よろしくお願いします。……蓮」


結月が、蓮の背中に腕を回し、微笑む。


凛音が、その様子を少しだけ寂しそうに、でも嬉しそうに見守っていた。


灰色都市の空に、一筋の光が差し込む。

彼らの戦いは、これからも続いていく。

だが、彼らの心には、確かな希望の光が灯っていた。




数週間後。

対魔局本部の地下深くにある特別面会室。

厳重な魔力封じの結界が張られたガラスの向こう側に、「神の代行者」だった少女が座っていた。


蓮と紗綾局長が、ガラス越しに彼女と対峙している。


「……体調は、どうだ?」


蓮が、マイク越しに尋ねる。


「……問題ありません。……魔力は完全に枯渇し、ただの人間になりました」


少女が、淡々と答える。

その瞳には、かつてのような虚無感はなく、どこか憑き物が落ちたような穏やかさがあった。


「……教団の残党についての尋問は、あらかた終わったわ。……あなたの証言のおかげで、いくつかの拠点を潰すことができた」


紗綾が、タブレットを見ながら言う。


「……私は、教団に利用されていたに過ぎません。……彼らの真の目的は、世界を初期化することではなく、アカシックレコードの力を独占し、自らが新世界の神となることでした」


少女が、静かに語る。


「……だろうな。……あいつらが、純粋な救済なんて考えてるわけがない」


蓮が、鼻を鳴らす。


「……あなたには、感謝しています。……あの時、私の記憶の核を切り裂いてくれたこと。……おかげで、私は過去の呪縛から解放されました」


少女が、蓮に向かって深く頭を下げる。


「……気にするな。……俺は、結月を助けたかっただけだ」


蓮が、少し照れくさそうに頭を掻く。


「……あなたの処遇についてだけど」


紗綾が、冷徹な声で切り出す。


「……教団の幹部として、数々の魔法災害に関与した罪は重い。……本来なら、極刑は免れないわ」


紗綾の言葉に、蓮は顔をしかめた。


「……局長、あいつは教団に操られていただけだ! ……情状酌量の余地はあるはずだ!」


蓮が、紗綾に詰め寄る。


「……分かっているわ。……だから、上層部と交渉したの」


紗綾が、蓮を制止する。


「……交渉?」


「……ええ。……彼女の持つ、教団の内部情報と、アカシックレコードに関する知識は、今後の対魔局にとって極めて重要よ。……だから、彼女を『特務監視対象』として、対魔局の管理下に置くことで合意したわ」


紗綾が、少女を見る。


「……特務監視対象……。つまり、対魔局で働くってことか?」


蓮が、驚いた顔をする。


「……そういうこと。……もちろん、自由はないし、常に監視の目が光ることになる。……それでも、生き延びる道はこれしかないわ」


紗綾が、冷たく言い放つ。


「……構いません。……私は、自分の罪を償うために、残りの人生を捧げます」


少女が、静かに頷く。


「……そうか。……よかったな」


蓮が、安堵の笑みを浮かべる。


「……ところで、あなた、名前は?」


紗綾が尋ねる。


「……名前……。教団では『代行者』としか呼ばれていませんでした。……本当の名前は、もう思い出せません」


少女が、少し寂しそうに伏し目がちになる。


「……じゃあ、俺がつけてやるよ」


蓮が、思いつきで言う。


「……あなたが?」


少女が、不思議そうに蓮を見る。


「……ああ。……『シロ』なんてどうだ? お前、いつも真っ白な服着てるし」


蓮が、笑いながら言う。


「……シロ……。犬みたいですね」


少女が、初めて微かに微笑んだ。


「……悪かったな、ネーミングセンスがなくて」


蓮が、苦笑する。


「……いいえ。……気に入りました。……今日から、私はシロです」


シロが、嬉しそうに頷く。


「……一件落着ね。……さあ、行くわよ、雨宮隊員。……次の任務が待っているわ」


紗綾が、背を向けて歩き出す。


「……えっ、もう次の任務ですか!? 俺、まだ休暇中なんですけど!」


蓮が、慌てて紗綾の後を追う。


「……対魔局に休暇なんて言葉はないわ。……さっさと準備しなさい」


紗綾の冷たい声が、地下通路に響き渡った。






対魔局本部のブリーフィング・ルーム。

蓮、結月、凛音、アランの四人が集まっていた。


「……次の任務は、南米のジャングルに現れた新種の魔法生物の討伐よ」


凛音が、モニターに資料を映し出しながら説明する。


「……またジャングルかよ。……虫が多いから嫌なんだよな」


アランが、露骨に嫌な顔をする。


「……文句を言わないの。……今回は、シロも後方支援として参加するわ」


凛音が、タブレットを操作する。


「……シロが? あいつ、魔力がないのに大丈夫なのか?」


蓮が尋ねる。


「……彼女のアカシックレコードに関する知識は、魔法生物の生態分析に役立つらしいわ。……アラン君のサポート役ね」


凛音が、アランを見る。


「……ふん。僕の天才的な頭脳があれば、サポートなんて必要ないけどな」


アランが、強がって鼻を鳴らす。


「……まあ、仲良くやれよ」


蓮が、苦笑する。


「……蓮」


結月が、蓮の袖を軽く引く。


「……ん? どうした、結月」


蓮が、結月を見る。


「……今回の任務、私も全力でサポートします。……だから、絶対に無事で帰ってきてください」


結月が、真剣な顔で言う。


「……ああ、分かってる。……お前も、無理はするなよ」


蓮が、結月の頭を優しく撫でる。


結月は、以前のように避けることはなく、少しだけ顔を赤らめて蓮の手にすり寄った。


「……ちょっと、二人とも。……ブリーフィング中にイチャイチャしないでよね」


凛音が、呆れたようにため息をつく。


「……イチャイチャなんてしてないだろ!」


蓮が、慌てて手を引っ込める。


「……ふふっ。……さあ、行くわよ。……私たちの、新しい戦いが始まるわ」


凛音が、笑顔で立ち上がる。


「……ああ。……行くぞ!」


蓮が、力強く頷く。


四人は、新たな任務に向けて、ブリーフィング・ルームを後にした。


灰色都市の空は、今日もどんよりと曇っている。

だが、彼らの心には、確かな希望の光が灯っていた。

魔法という不完全な力がもたらす悲劇は、これからも続くだろう。

しかし、彼らは決して諦めない。

想いを繋ぎ、残響を響かせながら、彼らは戦い続けるのだ。





【第17章終了】





【第17章登場魔法・用語解説】


「アカシックレコード」:世界の全ての記憶が記録されているとされる概念的な場所。膨大な情報量を持つため、生身の人間がアクセスすると精神が崩壊する危険性がある。


「神の代行者シロ」:大いなる門を開くための最後の鍵だった少女。魔力を失い、対魔局の特務監視対象として蓮たちのサポートを行うことになる。


「全式共鳴」:蓮の「残響」の最大出力。仲間の想いと魔力を極限まで高め、全てを切り裂く純白の光の刃を放つ。今回は、結月、凛音、アラン、そして舞の想いが込められた。



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