第14章:密林の迷宮と太陽の鏡
第14章:密林の迷宮と太陽の鏡
一
南米、アマゾン熱帯雨林。
うだるような湿気と、むせ返るような緑の匂いが、蓮たちの体力を容赦なく奪っていく。
「……暑い。エジプトの砂漠よりキツいぞ、これ」
蓮が、巨大なシダの葉を共鳴剣で切り払いながらぼやく。
彼の黒いコートは、すでに汗と湿気で重くまとわりついていた。
「……文句を言わないでください。虫除けの結界は張っていますが、物理的な暑さはどうにもなりません」
結月が、蓮の背後を歩きながら言う。
彼女の周囲には微かな冷気が漂っているが、アマゾンの圧倒的な熱気の前では焼け石に水だった。
「……ねえ、アラン君。本当にこの道で合ってるの?」
凛音が、巨大な対物ライフルを背負いながら、最後尾を歩くアランに尋ねる。
「……僕のGPSと魔力探知を疑うのか? 遺跡の入り口までは、あと二キロだ。……はぁ、はぁ……」
アランは、重いバックパックを背負い、息も絶え絶えに答えた。
普段は冷暖房完備の対魔局本部に引きこもっている彼にとって、この過酷な環境は地獄そのものだった。
「……ほら、荷物半分持ってやるよ。倒れられたら面倒だからな」
蓮が、アランのバックパックに手を伸ばす。
「……触るな! これは僕の商売道具だ。精密機器が詰まってるんだぞ!」
アランが、蓮の手をピシャリと叩く。
「……可愛くないガキだな」
蓮が、呆れたように肩をすくめる。
「……まあまあ、二人とも。……あ、見てください。あれが遺跡の入り口かもしれません」
結月が、前方を指差す。
鬱蒼とした木々の隙間から、苔むした巨大な石造りのピラミッドが姿を現した。
マヤやアステカの遺跡に似ているが、表面には見たこともない奇妙な幾何学模様が刻まれている。
「……着いたわね。教団の連中の姿は?」
凛音が、ライフルを構えながら周囲を警戒する。
「……外にはいない。だが、内部から複数の魔力反応がある。すでに中に入っているはずだ」
アランが、タブレットの画面を確認しながら言う。
「……よし、突入するぞ。アラン、お前は俺のすぐ後ろを歩け。絶対に離れるなよ」
蓮が、共鳴剣を顕現させる。
「……言われなくても分かってるよ」
アランが、タブレットを抱え直す。
四人は、ピラミッドの暗い入り口へと足を踏み入れた。
二
遺跡の内部は、外の湿気が嘘のように乾燥しており、ひんやりとしていた。
壁面には、外側と同じ奇妙な幾何学模様がびっしりと刻まれており、微かに青白い光を放っている。
「……この模様、ただの装飾じゃない。魔力回路の役割を果たしている」
アランが、壁面の模様をタブレットでスキャンしながら言う。
「……罠か?」
蓮が、警戒して立ち止まる。
「……いや、罠というよりは、遺跡全体を稼働させるためのシステムだ。……おそらく、この遺跡自体が巨大な魔法具なんだ」
アランの言葉に、蓮たちは顔を見合わせた。
「……巨大な魔法具……。教団は、これをどうする気だ?」
凛音が、眉をひそめる。
「……分からない。だが、最深部にある『太陽の鏡』が、このシステムのコアになっている可能性が高い」
アランが、タブレットの画面を操作する。
「……急ごう。教団に鏡を奪われる前に」
蓮が、先頭に立って歩き出す。
しばらく進むと、通路が三つに分かれている場所に辿り着いた。
「……アラン、どっちだ?」
蓮が尋ねる。
「……待て。魔力反応が分散している。……教団の連中も、道に迷っているのかもしれない」
アランが、タブレットの画面を睨みつける。
「……罠の可能性もあるわね。分かれて進むのは危険よ」
凛音が、周囲を警戒する。
「……だが、このままじゃ埒が明かない。……アラン、一番魔力反応が強いのはどっちだ?」
蓮が、決断を促す。
「……真ん中の通路だ。だが、その奥から、とてつもなく嫌な魔力を感じる」
アランが、顔をしかめる。
「……行くぞ」
蓮は、迷わず真ん中の通路へと足を踏み入れた。
三
真ん中の通路を進むにつれて、壁面の青白い光が徐々に赤みを帯びてきた。
そして、空気もじっとりと重くなり、血の匂いが漂い始める。
「……血の匂い……。教団の連中が、何かと戦ったのか?」
蓮が、共鳴剣を構え直す。
通路を抜けると、巨大な円形の広間に出た。
広間の床には、黒いローブを着た教団員たちの死体が無数に転がっていた。
「……ひどい有様ね」
凛音が、顔をしかめる。
「……彼らを殺したのは、一体……」
結月が、周囲を警戒する。
「……ようこそ、対魔局の諸君。……そして、愚かな教団のネズミども」
広間の奥から、低く響く声が聞こえた。
声の主は、巨大な石の玉座に座っていた。
身長は二メートルを超え、全身を緑色の鱗に覆われた、半人半蛇の怪物だった。
「……お前は、誰だ?」
蓮が、共鳴剣を向ける。
「……我は、この遺跡の守護者、ククルカン。……太陽の鏡を求める者たちに、試練を与える者だ」
怪物が、ゆっくりと立ち上がる。
「……試練だと? 教団の連中を皆殺しにしたのが、お前の試練か?」
蓮が、怒りを込めて睨みつける。
「……彼らは、試練に耐えられなかっただけだ。……力なき者は、鏡に触れる資格はない」
ククルカンが、巨大な蛇の尾を床に叩きつける。
「……アラン、こいつの魔力波長は?」
蓮が、インカム越しに尋ねる。
「……測定不能だ。……遺跡のシステムと完全に同化している。……まともにやり合ったら、勝ち目はないぞ」
アランの声が、震えている。
「……やるしかないだろ。鏡を渡すわけにはいかない」
蓮が、一歩前に出る。
「……威勢がいいな、人間の子供よ。……ならば、お前たちの力、見せてもらおう」
ククルカンが、両手を高く掲げる。
すると、広間の壁面に刻まれた幾何学模様が赤く輝き出し、無数の炎の矢が蓮たちに向かって降り注いだ。
「『残響』――風壁!」
蓮が風の壁を展開し、炎の矢を防ぐ。
「……凛音、結月、援護を頼む!」
「はい!」
「任せて!」
結月が氷の槍を放ち、凛音がレールガンを構える。
しかし、ククルカンは蛇の尾を一振りし、氷の槍を粉々に砕き散らした。
「……遅い!」
ククルカンが、目にも留まらぬ速さで蓮の懐に飛び込んでくる。
「……くっ!」
蓮は、咄嗟に共鳴剣で防御するが、ククルカンの圧倒的な怪力に弾き飛ばされ、壁に激突した。
「……雨宮隊員!」
結月が、悲鳴を上げる。
「……次は、お前だ」
ククルカンが、結月に向かって巨大な爪を振り下ろす。
絶体絶命の危機。
その時、広間の入り口から、一筋の閃光が放たれた。
四
閃光は、ククルカンの爪を正確に撃ち抜き、その軌道を逸らした。
「……なっ!?」
ククルカンが、驚愕の声を上げる。
「……遅れてごめんなさい。……でも、間に合って良かったわ」
広間の入り口に立っていたのは、対魔局局長、神宮寺紗綾だった。
彼女の手には、白銀に輝く細身の剣が握られている。
「……局長! なぜ、ここに!?」
蓮が、壁から身を起こしながら叫ぶ。
「……あなたたちだけじゃ、心配だったからね。……それに、この遺跡の守護者は、私の因縁の相手でもあるの」
紗綾が、ククルカンを睨みつける。
「……神宮寺紗綾……。かつて、私に傷を負わせた小娘か」
ククルカンが、忌々しそうに言う。
「……ええ。あの時は逃がしてしまったけれど、今日は確実に仕留めるわ」
紗綾が、白銀の剣を構える。
「……局長の魔法は……」
結月が、驚いたように紗綾を見つめる。
「……私の代償は『味覚の喪失』。そして魔法は『光の切断』よ。……いかなる魔力障壁も、私の剣の前には無意味」
紗綾が、一瞬でククルカンの懐に飛び込む。
「……小賢しい!」
ククルカンが、炎の矢を放つ。
しかし、紗綾の白銀の剣は、炎の矢を光の軌跡と共に切り裂き、そのままククルカンの胸に深い傷を負わせた。
「……ぐあああっ!」
ククルカンが、苦痛の叫びを上げる。
「……蓮、結月、凛音! 今よ!」
紗綾が叫ぶ。
「……行くぞ!」
蓮が、再び共鳴剣を顕現させる。
「『氷結』――絶対零度!」
結月が、ククルカンの足元を凍らせ、動きを封じる。
「『雷撃』――超電磁砲!」
凛音が、レールガンでククルカンの魔力回路をショートさせる。
「『残響』――共鳴剣・雷炎!」
そして、蓮の雷炎の刃が、ククルカンの首を刎ね飛ばした。
「……見事だ……。お前たちなら、鏡を……」
ククルカンの首が、床に転がりながら呟き、そのまま光の粒子となって消滅した。
「……終わったわね」
紗綾が、白銀の剣を収める。
「……局長、助かりました」
蓮が、深く頭を下げる。
「……いいのよ。……それより、急ぎましょう。太陽の鏡は、この奥よ」
紗綾が、広間の奥にある重厚な扉を指差す。
五人は、扉を開け、遺跡の最深部へと足を踏み入れた。
五
遺跡の最深部は、天井から太陽の光が差し込む、神聖な空間だった。
中央の祭壇には、黄金の縁取りが施された、巨大な鏡が安置されている。
「……あれが、太陽の鏡……」
結月が、息を呑む。
「……アラン、鏡の解析を」
蓮が、アランに指示を出す。
「……分かってる。……すごい魔力だ。この鏡自体が、太陽の光を魔力に変換する巨大なジェネレーターになっている」
アランが、タブレットで鏡をスキャンしながら言う。
「……これを教団に渡せば、大いなる門を開くための莫大なエネルギー源になるわね」
紗綾が、険しい顔をする。
「……破壊しますか?」
凛音が、レールガンを構える。
「……待て。この鏡は、遺跡のシステムと完全にリンクしている。……下手に破壊すれば、遺跡全体が爆発する可能性がある」
アランが、制止する。
「……じゃあ、どうすればいいんだ?」
蓮が、焦燥感を募らせる。
「……鏡の魔力回路を、僕がハッキングして書き換える。……教団が使えないように、ロックをかけるんだ」
アランが、タブレットを鏡の台座に接続する。
「……頼むぞ、アラン」
蓮が、アランの背中を守るように立つ。
アランの指が、タブレットの画面を猛スピードで叩き始める。
「……くそっ、セキュリティが複雑すぎる。……古代の魔法言語と現代の暗号化技術が混ざり合ってる……」
アランの額に、汗が滲む。
「……アラン君、頑張って!」
結月が、祈るように手を組む。
その時、遺跡の入り口の方から、複数の足音が聞こえてきた。
「……教団の増援か!」
凛音が、入り口に銃口を向ける。
現れたのは、黒いローブを着た数十人の教団員たちだった。
そして、その先頭に立っていたのは、真っ白なローブを着た少女――「神の代行者」だった。
「……また、お前か」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……太陽の鏡は、神の計画に必要なものです。……お返しなさい」
少女が、静かに言う。
「……返すわけないだろ。……アラン、まだか!」
蓮が叫ぶ。
「……あと少しだ! 持ち堪えてくれ!」
アランが、必死にタブレットを操作する。
「……邪魔をするなら、排除します」
少女が、右手を上げる。
圧倒的なプレッシャーが、再び蓮たちを襲う。
「……みんな、下がって!」
紗綾が、白銀の剣を抜いて前に出る。
「……局長!」
「……この子の相手は、私がするわ。……あなたたちは、アラン君を守りなさい!」
紗綾が、少女に向かって突進する。
「……無駄です」
少女が、右手から眩い光の奔流を放つ。
「『光の切断』!」
紗綾の剣が、光の奔流を真っ二つに切り裂く。
「……なっ!?」
少女の無表情な顔に、初めて驚きの色が浮かんだ。
「……私の剣は、いかなる魔力も切り裂く。……あなたの圧倒的な魔力も、例外じゃないわ」
紗綾が、少女の懐に飛び込み、剣を振り下ろす。
しかし、少女は間一髪で攻撃を躱し、後方へと跳躍した。
「……厄介な能力ですね。……ですが、私を止めることはできません」
少女の周囲に、無数の光の球体が浮かび上がる。
「……蓮、結月、凛音! 教団員たちを抑えて!」
紗綾が叫ぶ。
「はい!」
蓮たちは、教団員たちとの乱戦に突入した。
六
「『残響』――雷炎刃!」
蓮の剣が、教団員たちを次々と切り伏せていく。
「『氷結』――氷刃乱舞!」
結月の氷の刃が、教団員たちの動きを封じる。
「『雷撃』――超電磁砲!」
凛音のレールガンが、教団員たちの魔力回路をショートさせる。
三人の連携は完璧だった。
しかし、教団員たちの数は多く、倒しても倒しても次から次へと湧いてくる。
「……くそっ、キリがない!」
蓮が、舌打ちをする。
一方、紗綾と少女の戦いも、熾烈を極めていた。
少女の放つ無数の光の球体が、紗綾を包み込もうとする。
紗綾は、白銀の剣で光の球体を次々と切り裂きながら、少女へと肉薄していく。
「……あなたの魔力は強大だけれど、実戦経験が足りないわね」
紗綾が、少女の隙を突いて剣を突き出す。
「……くっ!」
少女が、光の障壁を展開して防御するが、紗綾の剣は障壁を容易く切り裂き、少女の肩に浅い傷を負わせた。
「……神の代行者とはいえ、血は流れるのね」
紗綾が、冷たく笑う。
「……私は、神の器。……この程度の傷、すぐに治ります」
少女の肩の傷が、光に包まれて瞬時に塞がっていく。
「……超再生能力か。厄介ね」
紗綾が、舌打ちをする。
「……終わったぞ!」
その時、アランの叫び声が響いた。
「……鏡の魔力回路の書き換え、完了した! これで、教団は鏡を使えない!」
アランが、タブレットを高く掲げる。
「……よくやった、アラン!」
蓮が、歓喜の声を上げる。
「……チッ。……遅かったか」
少女が、忌々しそうに舌打ちをする。
「……撤退します。……太陽の鏡は、いずれ必ず手に入れます」
少女が、右手を高く掲げる。
すると、少女と教団員たちの足元に、巨大な転移魔法陣が浮かび上がった。
「……逃がすか!」
蓮が、共鳴剣を振り下ろそうとするが、転移魔法陣の光が彼らの視界を奪った。
光が収まると、少女と教団員たちの姿は、跡形もなく消え去っていた。
「……逃げられたか」
蓮が、悔しそうに剣を収める。
「……でも、鏡は守り抜いたわ。……アラン君のおかげよ」
紗綾が、アランに向かって微笑む。
「……ふん。当然だ。僕の天才的な頭脳にかかれば、古代のセキュリティなんて赤子の手をひねるようなもんだ」
アランが、得意げに鼻を鳴らす。
「……生意気なガキだ」
蓮が、苦笑しながらアランの頭を撫でる。
「……触るな!」
アランが、顔を赤らめて蓮の手を振り払う。
「……ふふっ。本当に、いいチームになったわね」
紗綾が、優しく微笑む。
南米アマゾンでの任務は、太陽の鏡の防衛という形で成功を収めた。
しかし、神の代行者との戦いは、まだ終わっていない。
教団の「大いなる門」の計画を阻止するため、蓮たちの戦いは続く。
【第14章終了】
【第14章登場魔法・用語解説】
「ククルカン」:アマゾンの遺跡を守護する半人半蛇の怪物。遺跡のシステムと同化しており、圧倒的な怪力と炎の魔法を操る。
「光の切断」:神宮寺紗綾の魔法。いかなる魔力障壁や魔法攻撃も、光の軌跡と共に物理的に切り裂くことができる。彼女の代償は「味覚の喪失」。
「太陽の鏡のロック」:アランが遺跡のシステムをハッキングし、太陽の鏡の魔力回路を書き換えた状態。これにより、教団は鏡の魔力を引き出すことができなくなった。
七
太陽の鏡のロックに成功した蓮たちは、遺跡の最深部で一息ついていた。
天井から差し込む光が、黄金の鏡を神々しく照らし出している。
「……それにしても、局長が直々に前線に出てくるなんて驚きました」
蓮が、持参した水筒の水を飲みながら言う。
「……言ったでしょう? この遺跡の守護者は、私の因縁の相手だったのよ」
紗綾は、白銀の剣の手入れをしながら静かに答えた。
「……因縁、ですか?」
結月が、不思議そうに首を傾げる。
「ええ。私がまだ、あなたたちと同じ特務調査員だった頃の話よ。……この遺跡の調査任務で、私はかつてのチームを全滅させられたの。ククルカンにね」
紗綾の言葉に、蓮たちは息を呑んだ。
普段は冷静沈着な局長の過去に、そんな壮絶な悲劇があったとは想像もしていなかった。
「……だから、今回は絶対に自分の手で決着をつけたかった。……私情を挟んでしまって、局長としては失格ね」
紗綾が、自嘲気味に笑う。
「……そんなことありません。局長が来てくれなかったら、俺たち全滅してましたよ」
蓮が、真剣な顔で言う。
「……そうね。局長の『光の切断』、本当に凄かったわ。あんなデタラメな魔法、初めて見た」
凛音も、感嘆の声を上げる。
「……ありがとう。でも、私の魔法は『切る』ことしかできない。……あなたたちのように、想いを繋いだり、誰かを守ったりすることはできないのよ」
紗綾の瞳に、一瞬だけ寂しげな色が浮かんだ。
「……局長……」
結月が、何かを言いかけるが、言葉を見つけられずに俯く。
「……さて、感傷に浸っている暇はないわ。……アラン君、鏡のロックは完璧なのよね?」
紗綾が、表情を引き締めてアランに向き直る。
「……ああ。僕の暗号化技術は世界一だ。教団の連中が何年かけても、絶対に解除できない」
アランが、胸を張って答える。
「……頼もしいわね。……これで、教団は『太陽の鏡』を大いなる門のエネルギー源として使うことはできなくなった。……彼らの計画は、大きく狂ったはずよ」
紗綾が、満足そうに頷く。
「……でも、まだ『箱舟の跡地』の施設が残っています。……あそこを叩き潰さない限り、根本的な解決にはなりません」
蓮が、気を引き締める。
「ええ、その通りよ。……本部に戻り次第、箱舟跡地への総攻撃作戦を立案するわ。……これが、黒の教団との最終決戦になるかもしれない」
紗綾の言葉に、蓮たちの顔に緊張が走る。
「……最終決戦……」
結月が、小さく呟く。
「……絶対に、勝とうな。……舞の仇を討つためにも」
蓮が、結月の手をしっかりと握る。
「……はい」
結月が、蓮の手を握り返し、力強く頷いた。
八
数日後、対魔局本部。
地下の巨大な作戦会議室には、紗綾局長をはじめ、蓮たち特務調査員、そして各部隊の隊長たちが集結していた。
正面の巨大なモニターには、太平洋上の「箱舟跡地」の衛星画像が映し出されている。
「……これより、黒の教団の拠点『箱舟跡地』への総攻撃作戦、コードネーム『オペレーション・サンライズ』のブリーフィングを開始する」
紗綾の凛とした声が、会議室に響き渡る。
「……衛星画像による解析の結果、教団は箱舟跡地に、巨大な海上プラントを建設していることが判明した。……これが、『大いなる門』を開くための儀式場よ」
モニターの画像が拡大され、海上に浮かぶ巨大な要塞のような施設が映し出される。
「……デカいな。一つの街くらいあるぞ」
蓮が、驚きの声を上げる。
「……ええ。しかも、プラントの周囲には、強力な魔力障壁が展開されている。……通常のミサイルや魔法攻撃では、傷一つつけられないわ」
紗綾が、厳しい顔で説明する。
「……じゃあ、どうやって攻め込むんですか?」
凛音が尋ねる。
「……内部からの破壊工作よ。……プラントの動力炉を破壊し、魔力障壁を無効化する。……その後、主力部隊が突入し、教団を制圧する」
紗綾が、作戦の概要を説明する。
「……動力炉の破壊……。つまり、潜入任務ですね」
蓮が、確認する。
「ええ。……この最も危険な任務を、雨宮隊員、柊隊員、九条隊員、そしてアラン君の四人に任せたい」
紗綾が、蓮たちを真っ直ぐに見つめる。
「……俺たちに?」
蓮が、驚いたように紗綾を見返す。
「……あなたたちは、これまで数々の困難な任務を乗り越えてきた。……教団の幹部たちを打ち倒し、聖遺物を守り抜いた実績がある。……この任務を任せられるのは、あなたたちしかいないの」
紗綾の言葉に、蓮たちは顔を見合わせた。
「……分かりました。やります」
蓮が、力強く頷く。
「……私も、行きます」
結月も、決意を込めて言う。
「……当然、私も行くわよ。……あいつらには、借りがあるからね」
凛音が、不敵に笑う。
「……ふん。僕のハッキング技術がなきゃ、動力炉の破壊なんて不可能だからな。……仕方ない、付き合ってやるよ」
アランが、腕を組みながら言う。
「……ありがとう。……作戦の開始は、明日の〇六〇〇(マルロクマルマル)。……各自、準備を怠らないように」
紗綾が、会議を締めくくる。
いよいよ、黒の教団との最終決戦が幕を開けようとしていた。
蓮たちは、それぞれの想いを胸に、決戦の地へと向かう準備を始めた。
【第14章終了】
【第14章登場魔法・用語解説】
「ククルカン」:アマゾンの遺跡を守護する半人半蛇の怪物。遺跡のシステムと同化しており、圧倒的な怪力と炎の魔法を操る。
「光の切断」:神宮寺紗綾の魔法。いかなる魔力障壁や魔法攻撃も、光の軌跡と共に物理的に切り裂くことができる。彼女の代償は「味覚の喪失」。
「太陽の鏡のロック」:アランが遺跡のシステムをハッキングし、太陽の鏡の魔力回路を書き換えた状態。これにより、教団は鏡の魔力を引き出すことができなくなった。
「オペレーション・サンライズ」:対魔局による、黒の教団の拠点「箱舟跡地」への総攻撃作戦。蓮たちが内部に潜入して動力炉を破壊し、魔力障壁を無効化した後、主力部隊が突入する計画。
ここまで読んでくれてありがとうございました!
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