第13章:砂漠の死神とオシリスの杖
第13章:砂漠の死神とオシリスの杖
一
エジプト、王家の谷。
見渡す限りの荒涼とした岩山と砂漠が広がる中、蓮たちはジープを降り、徒歩で地下遺跡の入り口へと向かっていた。
「……暑い。干からびそうだ」
蓮が、額の汗を拭いながらぼやく。
「……文句を言わないでください。水分補給はこまめに」
結月が、蓮に水筒を手渡す。
彼女の周囲には、微かに冷気が漂っており、砂漠の熱気を和らげていた。
「……お前はいいよな、氷の魔法が使えて」
蓮が、水筒を受け取りながら恨めしそうに言う。
「……私の魔法は、クーラー代わりではありません」
結月が、少しだけむっとした顔をする。
「……まあまあ、二人とも。喧嘩してる場合じゃないわよ」
凛音が、苦笑しながら二人をなだめる。
『……おい、脳筋チーム。遺跡の入り口に到着したか?』
インカムから、アランの声が聞こえてくる。
「ああ。今、入り口の前にいる。……教団の連中の姿は見えないな」
蓮が、周囲を警戒しながら答える。
『……油断するな。衛星画像によると、遺跡の内部に多数の熱源反応がある。すでに中に入っているはずだ』
「……了解した。突入する」
蓮は、共鳴剣の魔力を練り上げながら、遺跡の暗がりへと足を踏み入れた。
二
遺跡の内部は、外の暑さが嘘のようにひんやりとしていた。
壁面には、古代エジプトの象形文字がびっしりと刻まれている。
「……アラン、この文字、読めるか?」
凛音が、タブレットのカメラで壁面を映しながら尋ねる。
『……少し待て。画像解析にかける。……ふむ、どうやらこの遺跡は、死と再生の神オシリスを祀るための神殿らしい。「死を乗り越えし者のみが、真の力を得る」……そんなようなことが書かれている』
「……死を乗り越えし者、ね。教団の連中が好きそうな言葉だ」
蓮が、鼻で笑う。
三人がさらに奥へと進むと、開けた空間に出た。
そこには、巨大な石の扉があり、その前に黒いローブを着た教団員たちが十数人、立ち塞がっていた。
「……来たな、対魔局のネズミども」
教団員の一人が、杖を構える。
「……そこをどけ。オシリスの杖は、俺たちが回収する」
蓮が、共鳴剣を顕現させる。
「……愚かな。この扉の奥には、我らが幹部『砂漠の死神』様がいらっしゃる。お前たちなど、死神様の生贄になるのが関の山だ」
教団員たちが、一斉に魔法を放ってきた。
「『残響』――風壁!」
蓮が風の壁を展開し、魔法の雨を防ぐ。
「……凛音、結月、一気に片付けるぞ!」
「はい!」
「任せて!」
結月が無数の氷の槍を放ち、凛音がレールガンで教団員たちの魔力回路を次々とショートさせていく。
蓮も、風壁を解除すると同時に前線に飛び出し、共鳴剣で教団員たちを切り伏せていった。
「……くそっ! なんだこいつら、強すぎる……!」
教団員たちが、次々と倒れていく。
「……これで終わりだ!」
蓮が、最後の教団員を気絶させ、石の扉の前に立った。
「……アラン、この扉、開けられるか?」
蓮が、インカムに向かって尋ねる。
『……物理的な鍵じゃない。魔力で封印されている。……結月、扉の表面にある魔法陣に、魔力を流し込んでみてくれ。波長を合わせれば、開くはずだ』
「……分かりました」
結月が、扉の魔法陣に手を触れ、静かに魔力を流し込む。
すると、魔法陣が青白く光り輝き、重い音を立てて石の扉がゆっくりと開き始めた。
三
扉の奥は、広大な地下空洞になっていた。
中央には巨大な祭壇があり、その上に、黄金に輝く杖が安置されている。
「……あれが、オシリスの杖……」
結月が、息を呑む。
そして、祭壇の前に、一人の男が立っていた。
褐色の肌に、鋭い眼光。全身に包帯を巻き、その上から黒いローブを羽織っている。
「……よくここまで来たな、対魔局の諸君。私が『砂漠の死神』、アヌビスだ」
男が、低くしゃがれた声で言った。
「……お前が、幹部か。その杖を渡してもらおうか」
蓮が、共鳴剣を構える。
「……渡す? 冗談を。この杖は、我々の『救済』に不可欠なものだ。……それに、お前たちの命も、この杖の贄として捧げさせてもらう」
アヌビスが、両手を広げる。
すると、地下空洞の地面の砂が蠢き始め、無数のミイラのような化け物が這い出してきた。
「……なっ!? なんだこいつら!」
蓮が、驚愕の声を上げる。
「……オシリスの杖の力の一部だ。死霊を操り、砂の兵士として使役する。……さあ、死神の軍勢の前に、ひれ伏すがいい」
アヌビスが、冷酷に笑う。
「……ふざけるな! こんな化け物ども、全部ぶっ壊してやる!」
蓮が、砂の兵士たちに向かって突進する。
「『残響』――雷炎刃!」
蓮の雷炎の刃が、砂の兵士たちを切り裂く。
しかし、切り裂かれた兵士たちは、すぐに砂となって崩れ落ち、再び元の姿へと再生していく。
「……くそっ! キリがない!」
蓮が、舌打ちをする。
「……雨宮隊員、物理攻撃は無意味です! 砂の結合を解かなければ!」
結月が、氷の魔法で砂の兵士たちを凍らせようとするが、砂漠の熱気とアヌビスの魔力によって、すぐに氷が溶かされてしまう。
「……私のレールガンも、砂相手じゃ効果が薄いわね」
凛音が、舌打ちをしながらライフルを構え直す。
「……無駄な足掻きだ。お前たちは、ここで砂に埋もれて死ぬ運命なのだ」
アヌビスが、祭壇の上のオシリスの杖に手を伸ばす。
「……させない!」
蓮が、アヌビスに向かって跳躍する。
しかし、アヌビスの周囲の砂が巨大な壁となって立ち上がり、蓮の行く手を阻んだ。
「……ぐっ!」
蓮は、砂の壁に弾き飛ばされ、地面に叩きつけられた。
「……雨宮隊員!」
結月が、蓮に駆け寄る。
「……大丈夫だ。……だが、あの砂の壁、硬すぎる。どうすれば……」
蓮が、荒い息を吐きながら立ち上がる。
『……おい、脳筋チーム。聞こえるか?』
インカムから、アランの声が響いた。
「……アラン! 何かいい方法はないのか!」
蓮が叫ぶ。
『……ある。あの砂の兵士たちと砂の壁は、アヌビスの魔力とオシリスの杖の魔力が共鳴して作られている。……つまり、その共鳴を断ち切ればいい』
「……共鳴を断ち切る? どうやって?」
『……結月の「絶対零度」だ。砂の結合を解くのではなく、砂に含まれる微量の水分を完全に凍結させ、魔力の伝導を遮断するんだ』
「……なるほど。でも、この熱気の中で、それだけの広範囲を凍らせるのは……」
結月が、不安そうに言う。
『……一人じゃ無理でも、蓮の「残響」で魔力を増幅させれば可能だ。……やれるか?』
「……やるしかないだろ!」
蓮が、結月に向かって手を差し出す。
「……はい!」
結月が、蓮の手をしっかりと握る。
二人の魔力が交わり、純白と青白の光が地下空洞を照らし出す。
「……何をする気か知らんが、無駄だ!」
アヌビスが、砂の兵士たちを一斉に突撃させる。
「……行くぞ、柊!」
「『氷結』――絶対零度・共鳴拡張!」
蓮と結月の魔力が爆発し、凄まじい冷気の嵐が地下空洞を吹き荒れた。
四
凄まじい冷気の嵐が、地下空洞の熱気を一瞬にして奪い去る。
砂の兵士たちは、突撃の姿勢のまま完全に凍りつき、ピシリ、ピシリと音を立てて崩れ落ちていった。
「……なっ!? 私の砂の軍勢が……!」
アヌビスが、驚愕に目を見開く。
彼を守っていた巨大な砂の壁も、凍結して脆くなり、自重に耐えきれずに崩壊した。
「……今だ、凛音!」
蓮が叫ぶ。
「……任せて!」
凛音が、崩れ落ちる砂の壁の隙間を縫うように、レールガンの銃口をアヌビスに向ける。
「『雷撃』――超電磁砲!」
極太の雷のレーザーが、アヌビスに向かって一直線に放たれる。
「……おのれぇぇっ!」
アヌビスは、咄嗟に祭壇の上のオシリスの杖を掴み、盾のように構えた。
轟音と共に、レーザーが杖に激突する。
しかし、オシリスの杖は黄金の輝きを放ち、レールガンの威力を完全に相殺してしまった。
「……嘘でしょ!? 私のレールガンが防がれた!?」
凛音が、信じられないという顔をする。
「……ふははは! 見たか、これがオシリスの杖の力だ! いかなる魔法も、この杖の前には無力!」
アヌビスが、狂気じみた笑い声を上げる。
「……くそっ、厄介な代物だな」
蓮が、舌打ちをする。
「……雨宮隊員、杖そのものが強大な魔力障壁を展開しています。遠距離からの魔法攻撃は、全て弾かれる可能性が高いです」
結月が、タブレットで魔力波長を分析しながら言う。
「……なら、接近戦で杖ごとぶっ叩くしかないな」
蓮は、共鳴剣を構え直し、アヌビスに向かって駆け出した。
「……愚かな。近づけば、杖の呪いを受けることになるぞ!」
アヌビスが、杖を蓮に向かって突き出す。
杖の先端から、黒い霧のようなものが噴き出し、蓮を包み込もうとする。
「……蓮、気をつけて! その霧、生命力を奪う呪いよ!」
凛音が叫ぶ。
「……分かってる!」
蓮は、風の魔法で黒い霧を吹き飛ばそうとするが、霧は風に逆らって蓮にまとわりついてくる。
「……ぐっ……!」
蓮の動きが鈍る。
身体から力が抜け、視界がぼやけ始める。
「……雨宮隊員!」
結月が、氷の槍を放ってアヌビスを牽制しようとするが、やはり杖の障壁に弾かれてしまう。
「……無駄だと言っただろう。お前はここで、干からびて死ぬのだ」
アヌビスが、杖を高く振り上げる。
絶体絶命の危機。
しかし、蓮の瞳の光は失われていなかった。
「……俺は、こんなところで……死ぬわけにはいかないんだよ!」
蓮は、残された全ての魔力を共鳴剣に集中させた。
純白の刃が、眩いほどの光を放ち始める。
「……なっ!? 呪いを受けているはずなのに、なぜそれほどの魔力が……!」
アヌビスが、驚愕の声を上げる。
「……俺の『残響』は、想いを繋ぐ力だ。……舞の想いも、結月の想いも、凛音の想いも……全部、俺の力になる!」
蓮は、呪いの霧を強引に振り払い、アヌビスの懐へと飛び込んだ。
「……消えろぉぉっ!」
蓮が、共鳴剣を全力で振り下ろす。
「……させん!」
アヌビスが、オシリスの杖で共鳴剣を受け止める。
純白の刃と黄金の杖が激突し、凄まじい衝撃波が地下空洞を揺るがした。
五
「……ぐおおおおっ!」
蓮とアヌビス、二人の魔力が激しくぶつかり合う。
共鳴剣の純白の光が、オシリスの杖の黄金の輝きを少しずつ押し返していく。
「……バカな! 聖遺物の力が、ただの魔法使いに押し負けるだと!?」
アヌビスの顔に、焦りの色が浮かぶ。
「……ただの魔法使いじゃない。俺は、対魔局特務調査員、雨宮蓮だ!」
蓮が、さらに魔力を込める。
ピキッ……。
オシリスの杖の表面に、小さな亀裂が入った。
「……なっ!?」
アヌビスが、信じられないものを見るように目を見開く。
「……いっけええええっ!」
蓮の咆哮と共に、共鳴剣がオシリスの杖を真っ二つに叩き割った。
「……ああっ! 私の、私の杖が……!」
アヌビスが、絶望の叫びを上げる。
杖が破壊された瞬間、アヌビスを覆っていた魔力障壁が消滅し、彼自身の魔力も急速に失われていった。
「……これで、終わりだ」
蓮が、共鳴剣の峰でアヌビスの鳩尾を強打する。
「……がはっ……!」
アヌビスは、白目を剥いてその場に崩れ落ちた。
「……はぁ、はぁ……」
蓮は、荒い息を吐きながら、共鳴剣を消滅させた。
呪いの影響で、立っているのもやっとの状態だった。
「……雨宮隊員!」
結月が駆け寄り、蓮の身体を支える。
「……大丈夫か、蓮!」
凛音も、心配そうに駆け寄ってくる。
「……ああ。なんとか、な。……杖は、壊しちゃったけど」
蓮が、真っ二つに割れたオシリスの杖を見ながら苦笑する。
「……構わないわ。教団の手に渡るよりは、ずっとマシよ」
凛音が、安堵のため息をつく。
『……おい、脳筋チーム。無事か?』
インカムから、アランの声が聞こえてくる。
「……ああ。アヌビスは倒した。杖も破壊したぞ」
蓮が答える。
『……そうか。よくやった。……だが、喜ぶのはまだ早いぞ』
アランの声が、少しだけ険しくなる。
「……どういうことだ?」
『……遺跡の奥から、別の強大な魔力反応が近づいてきている。……アヌビスとは比べ物にならないレベルだ』
「……なんだと?」
蓮たちが、遺跡の奥の暗闇へと視線を向ける。
暗闇の中から、ゆっくりと足音が近づいてくる。
そして、姿を現したのは、真っ白なローブを着た、一人の少女だった。
年齢は、結月と同じくらいだろうか。
透き通るような白い肌に、銀色の長い髪。
その瞳は、感情の欠片も感じさせない、虚ろな色をしていた。
「……誰だ、お前は」
蓮が、警戒しながら尋ねる。
少女は、蓮の問いには答えず、真っ二つに割れたオシリスの杖を見つめた。
「……壊れてしまったのですね。残念です」
少女の声は、鈴を転がすように澄んでいたが、どこか冷たかった。
「……お前も、教団の人間か?」
凛音が、レールガンを構える。
「……私は『神の代行者』。教団を導く者です」
少女が、静かに答える。
「……神の代行者……?」
蓮が、眉をひそめる。
「……あなたたちの力、見せてもらいました。素晴らしい『共鳴』ですね。……でも、神の計画を邪魔することは、許されません」
少女が、ゆっくりと右手を上げる。
その瞬間、地下空洞の空気が一変した。
圧倒的なプレッシャーが、蓮たちを押し潰そうとする。
「……なっ!? なんだ、この魔力は……!」
蓮が、息を呑む。
アヌビスや白夜とは次元が違う。ジンすらも凌駕するかもしれない、底知れぬ魔力だった。
「……さあ、神の裁きを受けなさい」
少女の右手から、眩い光が放たれようとした、その時。
『……伏せろ!』
インカムから、アランの叫び声が響いた。
直後、遺跡の天井が凄まじい轟音と共に崩落し、大量の岩石が少女と蓮たちの間に降り注いだ。
【第13章終了】
【第13章登場魔法・用語解説】
「神の代行者」:黒の教団を導く謎の少女。圧倒的な魔力を持ち、その存在は教団の幹部たちからも恐れられている。彼女の目的や正体は、まだ謎に包まれている。
六
轟音と共に崩れ落ちた天井の岩石が、もうもうと土煙を巻き上げる。
蓮たちは咄嗟に結月の氷の盾で身を守ったが、視界は完全に遮られてしまった。
「……ゲホッ、ゲホッ……アラン、何をした!」
蓮が、土煙の中で咳き込みながらインカムに向かって叫ぶ。
『……遺跡の構造データを解析して、天井の脆い部分を爆破したんだ。……あの少女の魔力反応、異常すぎる。まともにやり合ったら、あんたたち全滅してたぞ』
アランの声には、珍しく焦りが混じっていた。
「……確かに、あのプレッシャーは尋常じゃなかったわ。……でも、これで逃げられたのかしら?」
凛音が、警戒しながら周囲を見渡す。
土煙が徐々に晴れていくと、そこには巨大な岩の山ができあがっており、少女の姿はどこにもなかった。
「……魔力反応、消失しました。……おそらく、崩落を避けて撤退したのだと思います」
結月が、タブレットを確認しながら言う。
「……助かったな。アラン、ナイスサポートだ」
蓮が、安堵のため息をつく。
『……ふん。僕の計算通りだ。……それより、早くそこから脱出しろ。遺跡全体が崩壊し始めている』
アランの言葉通り、地下空洞のあちこちから、ピキピキと岩が割れるような不気味な音が聞こえ始めていた。
「……急ぎましょう!」
結月が、蓮の腕を引く。
三人は、崩れ落ちる岩を避けながら、来た道を全力で引き返した。
七
遺跡から脱出し、ジープで安全な場所まで離れた後、蓮たちは砂漠の夜空を見上げていた。
エジプトの夜は、昼間の暑さが嘘のように冷え込む。
「……神の代行者、か。とんでもないバケモノが現れたな」
蓮が、焚き火に当たりながら呟く。
「ええ。あの魔力……ジンや神崎とは比べ物にならないわ。教団の真の恐ろしさは、あの少女にあるのかもしれない」
凛音が、深刻な顔で頷く。
「……彼女の目的は、一体何なのでしょうか。なぜ、聖遺物を集めているのか……」
結月が、膝を抱えながら火を見つめる。
『……それについては、少し分かったことがある』
インカムから、アランの声が聞こえてきた。
「……アラン、何か分かったのか?」
蓮が尋ねる。
『……ああ。教団の通信記録をハッキングして解析した結果だ。……彼らは、集めた聖遺物を使って、「大いなる門」を開こうとしているらしい』
「……大いなる門?」
『……詳細は不明だが、おそらく、異次元や別の世界と繋がるゲートのようなものだろう。……そして、その門を開くための「鍵」となるのが、あの「神の代行者」と呼ばれる少女だ』
アランの言葉に、三人は顔を見合わせた。
「……異次元の門を開いて、どうする気だ? まさか、本当に世界を滅ぼす気か?」
蓮が、眉をひそめる。
『……「救済」という言葉を使っている以上、彼らなりの大義名分はあるんだろう。だが、それが我々にとっての破滅を意味することは間違いない』
「……止めなきゃならないわね。絶対に」
凛音が、決意を込めて言う。
「ああ。……教団の野望は、俺たちが打ち砕く」
蓮も、力強く頷いた。
「……私も、共に戦います」
結月が、蓮の隣で静かに微笑む。
エジプトでの任務は、オシリスの杖の破壊という形で一応の成功を収めた。
しかし、新たな敵「神の代行者」の出現と、「大いなる門」という謎の計画の存在が、彼らの前に立ちはだかる。
戦いは、さらに激しさを増していく。
蓮たちは、次なる聖遺物を求めて、再び世界を駆け巡ることになる。
八
翌日、蓮たちは対魔局本部へと帰還し、紗綾局長にエジプトでの任務の報告を行っていた。
「……オシリスの杖の破壊、そしてアヌビスの撃破。よくやってくれたわ」
紗綾は、報告書に目を通しながら頷いた。
「……しかし、局長。あの『神の代行者』と呼ばれる少女……彼女の魔力は、我々の想像を遥かに超えていました」
蓮が、深刻な表情で報告する。
「ええ。アラン君からの報告も受けているわ。……『大いなる門』の鍵となる少女。教団の真の目的は、そこにあるようね」
紗綾は、モニターに新たな資料を映し出した。
「……これは、世界各地で観測されている、異常な魔力波長の分布図よ」
モニターには、地球儀の上に無数の赤い点が点滅していた。
「……これ、全部教団の動きですか?」
凛音が、驚いたように尋ねる。
「そうよ。彼らは、残りの聖遺物を手に入れるため、なりふり構わず動き始めている。……そして、その中心にいるのが、あの少女よ」
紗綾は、地球儀の中心、太平洋上の空白地帯を指差した。
「……ここは?」
結月が尋ねる。
「……かつて、新星の拠点『箱舟』があった場所よ。……教団は、あそこに何か巨大な施設を建設しているらしいわ」
「……箱舟の跡地に?」
蓮が、眉をひそめる。
「ええ。おそらく、そこが『大いなる門』を開くための儀式場になるはずよ。……私たちは、彼らが全ての聖遺物を集める前に、その施設を叩き潰さなければならない」
紗綾の言葉に、蓮たちは力強く頷いた。
「……分かりました。次の任務は?」
蓮が尋ねる。
「……南米、アマゾンの奥地よ。そこに『太陽の鏡』と呼ばれる聖遺物が隠されているという情報が入ったわ」
紗綾は、モニターの画像を切り替えた。
鬱蒼としたジャングルの中に、古代のピラミッドのような遺跡が映し出される。
「……また、暑そうな場所ね」
凛音が、苦笑しながら言う。
「……文句を言わないの。今回は、アラン君も現地に同行してもらうわ」
紗綾の言葉に、蓮たちは驚いた。
「……アランが? 現地に?」
蓮が、信じられないという顔をする。
「ええ。遺跡のセキュリティが非常に強固で、遠隔からのハッキングでは限界があるの。……彼の技術が、どうしても必要なのよ」
紗綾が説明する。
「……ふん。僕の出番ってわけだ。……足手まといにならないように、しっかり守ってくれよな、脳筋チーム」
執務室の隅でタブレットを操作していたアランが、得意げに笑う。
「……誰が脳筋だ。お前こそ、ジャングルで泣き言を言うなよ」
蓮が、呆れたように言い返す。
「……まあまあ、二人とも。仲良くしましょうね」
結月が、苦笑しながら二人をなだめる。
新たな仲間と共に、次なる目的地は南米アマゾン。
黒の教団との戦いは、いよいよ最終局面へと向かおうとしていた。
【第13章終了】
【第13章登場魔法・用語解説】
「太陽の鏡」:南米アマゾンの奥地に隠されているとされる聖遺物。強大な光の魔力を秘めており、大いなる門を開くための重要なパーツの一つと推測されている。
「箱舟の跡地」:かつて新星の拠点があった太平洋上の空白地帯。黒の教団が、ここに大いなる門を開くための巨大な施設を建設していることが判明した。
「砂の兵士」:アヌビスがオシリスの杖の力を利用して作り出した、砂でできた死霊の兵士。物理攻撃を受けてもすぐに再生するため、通常の戦闘方法では倒すことができない。
「絶対零度・共鳴拡張」:結月の「絶対零度」を、蓮の「残響」によって広範囲に増幅させた合体魔法。砂に含まれる微量の水分を完全に凍結させることで、アヌビスの魔力伝導を遮断し、砂の兵士たちを無力化する狙いがある。
「大いなる門」:黒の教団が聖遺物を集めて開こうとしている謎のゲート。異次元や別の世界と繋がっていると推測されており、開かれれば世界に破滅をもたらす可能性がある。
「神の代行者(追記)」:大いなる門を開くための「鍵」としての役割を担っていることが判明した。彼女自身の意思で動いているのか、教団に利用されているだけなのかは不明。




