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残響魔術(エコー・コード)  作者: 天音シオン
第一部 覚醒と喪失

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第12章:目覚めと新たな影

第12章:目覚めと新たな影



プラハでの任務を終え、日本に帰還した蓮と結月は、対魔局本部の医療区画へと向かっていた。


「……凛音さん、目を覚ましたそうですね」


結月が、少しだけ早足になりながら言う。


「ああ。紗綾局長からの連絡だと、意識ははっきりしているらしい。ただ、魔力回路のダメージがどこまで回復しているかは、まだ分からないそうだ」


蓮も、自然と歩くペースが速くなっていた。


病室の扉を開けると、ベッドの上で凛音がタブレットを操作していた。

頭に巻かれていた包帯は取れ、顔色も以前よりずっと良くなっている。


「……凛音」


蓮が声をかけると、凛音はタブレットから顔を上げ、小さく微笑んだ。


「……遅いわよ、二人とも。私が寝ている間に、ヨーロッパまで旅行に行ってたんでしょ?」


「旅行じゃない。任務だ」


蓮が苦笑しながら、ベッドのそばの椅子に座る。


「……凛音さん、お身体の具合は?」


結月が、心配そうに尋ねる。


「まあ、ぼちぼちね。魔力回路はまだボロボロだけど、日常生活には支障ないわ。……それより、舞のことは……」


凛音の表情が、少しだけ曇る。


「……ああ。俺たちが、助けられなかった」


蓮は、静かに答えた。


「……そう。……ごめんね、蓮。私が、もっとしっかりしていれば……」


凛音が俯く。


「お前のせいじゃない。神崎の『支配』は、俺たちでも防げなかった。……それに、舞は、俺たちが前に進むことを望んでくれたんだ」


蓮は、凛音の手を優しく握った。


「……だから、お前も自分を責めるな。お前が生きていてくれて、本当に良かった」


「……蓮……」


凛音の瞳から、涙がこぼれ落ちた。


「……泣かないでください、凛音さん。私たちが、舞さんの分まで、あなたを守りますから」


結月も、凛音のもう片方の手を握りしめた。


「……ありがとう、二人とも。……私、絶対に元通りになって、またあなたたちのサポートをするから。だから、それまで死なないでよ」


凛音は、涙を拭いながら力強く微笑んだ。


「ああ。約束する」


蓮と結月も、微笑み返した。


凛音の目覚めは、舞を失った悲しみに沈んでいた二人の心に、確かな希望の光を灯してくれた。






数日後。

蓮と結月は、紗綾局長から新たな任務のブリーフィングを受けていた。


「……黒の教団の動きが、活発化しているわ」


紗綾は、モニターに世界地図を映し出した。

地図上のあちこちに、赤いマーカーが点滅している。


「プラハでの『賢者の石』の一件以降、彼らは世界各地で『聖遺物』の探索を急いでいる。その目的は依然として不明だけど、彼らが集めている聖遺物は、どれも強大な魔力を秘めた危険なものばかりよ」


「……次は、どこですか?」


蓮が尋ねる。


「日本よ」


紗綾の言葉に、蓮と結月は顔を見合わせた。


「日本に、聖遺物があるんですか?」


結月が驚いたように聞く。


「ええ。京都の山奥にある、古い神社。そこに『天叢雲剣あめのむらくものつるぎ』と呼ばれる聖遺物が封印されているという情報が入ったわ」


紗綾は、モニターの画像を切り替えた。

鬱蒼とした森の中に建つ、古びた神社の写真が映し出される。


「天叢雲剣……神話の剣ですか」


「名前はね。でも、実際は旧時代の強力な魔法具よ。教団は、すでに日本に部隊を送り込んでいる可能性が高いわ」


紗綾は、二人を真っ直ぐに見つめた。


「あなたたちには、教団より先に天叢雲剣を回収、あるいは破壊してもらう。……これは、国内での任務よ。対魔局の総力を挙げてサポートするわ」


「了解しました」


蓮と結月は、敬礼した。


「……それと、もう一つ」


紗綾が、少しだけ表情を険しくした。


「教団の部隊を率いているのは、『白夜びゃくや』と呼ばれる幹部らしいわ。彼は、かつて対魔局に所属していた、優秀な魔法使いだった」


「……元対魔局の人間が、教団に?」


蓮が眉をひそめる。


「ええ。彼の代償は『記憶の改竄』。他者の記憶を操作し、自分の都合の良いように書き換えることができる。……非常に厄介な相手よ。気をつけて」


「……記憶の改竄……」


蓮は、プラハでの賢者の石の幻影を思い出した。

精神に干渉する魔法は、物理的な攻撃よりも遥かに恐ろしい。


「……分かりました。警戒を怠りません」


蓮と結月は、執務室を後にし、京都へと向かう準備を始めた。






京都の山奥。

鬱蒼とした森の中を、蓮と結月は慎重に進んでいた。


「……静かですね。鳥の鳴き声一つしません」


結月が、周囲を警戒しながら言う。


「ああ。魔力で結界が張られているんだろう。教団の連中、すでに神社に到着しているかもしれない」


蓮は、共鳴剣の魔力を練り上げながら、先を急いだ。


森を抜けると、古びた神社の鳥居が見えてきた。

しかし、その周囲には、黒いローブを着た教団員たちの姿はなかった。


「……誰もいませんね」


結月が、不思議そうに首を傾げる。


「……いや、いるぞ」


蓮が、神社の本殿の方を睨みつけた。


本殿の扉がゆっくりと開き、中から一人の男が現れた。

真っ白なローブを着た、銀髪の青年だった。


「……ようこそ、対魔局の諸君。私が『白夜』だ」


青年は、優雅にお辞儀をした。


「……お前が、白夜か。天叢雲剣はどこだ?」


蓮が、共鳴剣を構える。


「剣なら、すでに私が回収したよ。……素晴らしい力だ。これがあれば、我々の悲願は達成される」


白夜は、腰に差した古びた剣をポンポンと叩いた。


「……悲願だと? お前たちの目的はなんだ!」


「『救済』だよ。この腐りきった世界を、神の力で浄化する。……君たちも、対魔局の腐敗は嫌というほど見てきただろう?」


白夜は、薄く笑った。


「……だからといって、お前たちの狂った思想に賛同する気はない」


蓮が、一歩前に出る。


「……そうか。それは残念だ。君の『残響』は、我々の計画に役立つと思ったのだが」


白夜が、ゆっくりと剣を抜いた。

その刀身からは、凄まじい魔力が放たれている。


「……来るぞ、柊!」


「はい!」


蓮と結月は、同時に魔法を放った。


「『残響』――雷炎刃!」


「『氷結』――氷槍雨!」


雷と炎の刃、そして無数の氷の槍が、白夜に向かって殺到する。


しかし、白夜は剣を一振りしただけだった。


「『白夜』――記憶の忘却」


その瞬間、蓮と結月の魔法が、空中で掻き消えた。


「なっ……!?」


蓮が驚愕の声を上げる。


「……魔法が、消えた……?」


結月も、信じられないものを見るような目で白夜を見つめた。


「……私の魔法は『記憶の改竄』。君たちが『魔法を発動した』という記憶そのものを、消し去ったのだよ」


白夜は、涼しい顔で言った。


「……ふざけるな!」


蓮が、再び共鳴剣を顕現させようとする。

しかし、魔力が全く練り上がらない。


「……どうした? 魔法の使い方を、忘れてしまったのかな?」


白夜が、嘲笑うように言う。


「……くそっ……!」


蓮は、自分の両手を見つめた。

魔法を発動する感覚が、すっぽりと抜け落ちている。


「……雨宮隊員、私も……魔法が使えません」


結月が、青ざめた顔で言う。


「……これが、天叢雲剣の力と、私の魔法の融合だ。君たちはもう、ただの無力な人間だよ」


白夜が、ゆっくりと二人に近づいてくる。


「……さあ、君たちの記憶を全て書き換え、我々の忠実な下僕にしてあげよう」


白夜が、剣を高く振り上げた。


絶体絶命の危機。

魔法を奪われた蓮と結月は、白夜の刃の前に為す術もなく立ち尽くしていた。




白夜の振り上げた天叢雲剣が、蓮の脳天に向かって振り下ろされる。

魔法の使い方を忘れ、身体が鉛のように重い。回避することすら不可能に思えた。


「……雨宮隊員!」


結月が、蓮を突き飛ばすようにして前に出た。


「柊!」


白夜の剣が、結月の肩を浅く切り裂く。

鮮血が舞い、結月が苦痛に顔を歪めて倒れ込んだ。


「……ほう。魔法が使えなくても、身体は動くか。健気なことだ」


白夜は、剣についた血を払いながら冷たく笑った。


「……柊! 大丈夫か!」


蓮が這いずるようにして結月に駆け寄る。


「……私は、平気です。……でも、このままでは……」


結月は肩を押さえながら、荒い息を吐いた。


「……君たちの絆は美しい。だが、それも今日で終わりだ。私が、君たちの記憶から互いの存在を完全に消し去ってあげよう」


白夜が、再び剣を構える。


「……ふざけるな。俺たちの記憶は、俺たちのものだ!」


蓮は、必死に頭の中で「魔法」という概念を呼び起こそうとする。

炎の熱さ、風の冷たさ、雷の激しさ。

かつて自分がどうやってそれらを操っていたのか。


しかし、記憶の糸はプツリと途切れており、何も引き出すことができない。


「……無駄だよ。私の『改竄』は、天叢雲剣の力で絶対的なものになっている。君たちの脳のシナプスから、魔法に関する情報だけを正確に切断したのだから」


白夜が、ゆっくりと歩み寄ってくる。


「……雨宮隊員。……思い出して、ください」


結月が、蓮の腕を強く握った。


「……魔法の『使い方』は忘れても……魔法を『使った時の感情』は、残っているはずです」


「……感情……?」


「……はい。あなたが、舞さんを助けようとした時の怒り。私を助けようとしてくれた時の優しさ。……それらは、記憶ではなく、あなたの『心』に刻まれているはずです」


結月の言葉が、蓮の胸の奥に響く。


(……そうだ。俺は、魔法を単なる技術として使っていたわけじゃない)


蓮は、目を閉じた。

魔法の理論やコードの構造は思い出せない。

だが、炎を放った時の「守りたい」という熱い想い。

風を纏った時の「前に進む」という強い意志。

それらは、確かに彼の中に存在していた。


「……『残響』は、想いを繋ぐ力……」


蓮の身体から、微かに純白の光が漏れ出し始める。


「……なんだと? 記憶を消されたはずなのに、なぜ魔力が……」


白夜が、驚愕に目を見開く。


「……俺の魔法は、頭で覚えるもんじゃない。心で刻むもんだ!」


蓮が目を開くと、その瞳には強烈な光が宿っていた。


「……うおおおおっ!」


蓮は、両手に純白の光を集中させ、白夜に向かって突進した。


「……バカな! 魔法の形すら成していない、ただの魔力の塊だぞ!」


白夜が天叢雲剣で迎撃しようとする。


しかし、蓮の純白の光は、剣の刃をすり抜け、白夜の胸に直接叩き込まれた。


「……がはっ……!」


白夜が、大きく吹き飛ばされ、神社の石段に激突する。


「……やったか……」


蓮は、荒い息を吐きながら膝をついた。

魔法の形を成していない純粋な魔力の放出は、彼の肉体に多大な負担をかけていた。


「……雨宮隊員!」


結月が、痛む肩を押さえながら駆け寄る。


「……大丈夫だ。……それより、白夜は……」


蓮が視線を向けると、白夜はゆっくりと立ち上がっていた。


「……素晴らしい。記憶を消されてなお、感情だけで魔力を引き出すとは。……君の『残響』は、私の想像を超えている」


白夜は、口元の血を拭いながら、不気味に笑った。


「……だが、それもここまでだ。次は、君たちの『感情』そのものを消し去ってあげよう」


白夜が、天叢雲剣を高く掲げる。

剣から放たれる魔力が、周囲の空間を歪め始めた。






「……まずい。奴の魔力が、さっきより膨れ上がっている」


蓮が、結月を庇うように前に出る。


「……雨宮隊員、私の魔力も……少しだけ戻ってきました」


結月が、蓮の背中に手を当てる。

彼女の手から、微かな冷気が伝わってくる。


「……柊。お前も、感情で魔力を引き出したのか」


「……はい。あなたを失いたくないという『恐怖』が、私に力をくれました」


結月は、静かに微笑んだ。


「……そうか。なら、俺たちの『想い』を重ねれば、あいつの改竄なんてぶち破れるはずだ」


蓮は、結月の手をしっかりと握った。


「……無駄な足掻きを。消え去れ!」


白夜が、天叢雲剣を振り下ろす。

凄まじい魔力の波が、蓮と結月に向かって襲いかかる。


「……行くぞ、柊!」


「はい!」


二人は、互いの手を握ったまま、残された全ての魔力を解放した。


純白の光と、青白い冷気が交じり合い、巨大な渦となって白夜の魔力波と激突する。


「……なっ……!? 私の改竄が、押し返されている……!?」


白夜が、驚愕の声を上げる。


「……俺たちの記憶は、お前なんかに消させない!」


蓮と結月の魔力の渦が、白夜の魔力波を完全に飲み込み、彼自身へと迫る。


「……バカな! 天叢雲剣の力が、こんな……!」


白夜は、剣を盾にして防御しようとするが、二人の共鳴した魔力は、剣ごと彼を吹き飛ばした。


「……ぐあああっ!」


白夜は、神社の本殿の壁を突き破り、奥深くへと叩きつけられた。


「……はぁ、はぁ……」


蓮と結月は、その場に崩れ落ちた。

魔力を完全に使い果たし、指一本動かす力も残っていない。


「……やりましたね、雨宮隊員」


結月が、荒い息を吐きながら微笑む。


「……ああ。お前のおかげだ、柊」


蓮も、力なく笑い返した。


その時、本殿の奥から、瓦礫を退ける音が聞こえてきた。


「……まだ、生きてるのか……」


蓮が、絶望的な声で呟く。


瓦礫の中から姿を現したのは、白夜だった。

彼の真っ白なローブはボロボロに引き裂かれ、全身傷だらけだったが、その手にはしっかりと天叢雲剣が握られていた。


「……素晴らしい。本当に、素晴らしいよ」


白夜は、狂気じみた笑みを浮かべながら、ゆっくりと近づいてくる。


「……君たちの絆は、本物だ。だからこそ、壊し甲斐がある」


白夜が、再び剣を振り上げる。


蓮と結月には、もう抵抗する力は残っていなかった。


(……ここまでか……)


蓮が、静かに目を閉じた、その時。


「……待たせたわね、二人とも」


空から、聞き覚えのある声が響いた。


蓮が目を開けると、上空に漆黒のステルスヘリがホバリングしていた。

そして、開いたハッチから、一人の女性が飛び降りてきた。


「……凛音!」


蓮が叫ぶ。


凛音は、風の魔法で着地の衝撃を和らげ、蓮と結月の前に降り立った。

彼女の手には、巨大な対物ライフル型の魔法具が握られている。


「……凛音さん、魔力回路は……」


結月が驚いて尋ねる。


「完全じゃないけど、一発くらいなら撃てるわ。……それに、可愛い後輩たちがピンチなのに、寝てなんかいられないでしょ」


凛音は、ライフルを白夜に向けた。


「……増援か。だが、その程度の魔法具で、天叢雲剣を防げると思っているのか?」


白夜が、冷たく笑う。


「……防ぐんじゃないわ。ぶち抜くのよ」


凛音が、ライフルの引き金を引いた。


「『雷撃』――超電磁砲レールガン!」


凄まじい轟音と共に、極太の雷のレーザーが放たれる。


「……無駄だ!」


白夜が天叢雲剣でレーザーを切り裂こうとする。


しかし、凛音の放ったレーザーは、剣の刃に触れた瞬間、無数の細い雷の糸に分裂し、白夜の全身に絡みついた。


「……なっ!? これは……!」


「……私の魔法具は、ただ威力が高いだけじゃないの。相手の魔力回路に直接干渉して、ショートさせる特殊仕様よ」


凛音が、得意げに笑う。


「……ぐあああっ!」


白夜の全身から火花が散り、彼はついにその場に倒れ込んだ。

天叢雲剣が、彼の手から離れ、地面に転がる。


「……やったわね」


凛音が、ライフルを下ろして息をつく。


「……助かったよ、凛音」


蓮が、安堵の表情を浮かべる。


「……本当ですね。ありがとうございます、凛音さん」


結月も、深く頭を下げた。


「……お礼は後でいいわ。それより、その剣を回収して、早く帰りましょう。紗綾局長が首を長くして待ってるわよ」


凛音が、天叢雲剣を指差す。


蓮は、ゆっくりと立ち上がり、剣を拾い上げた。

剣からは、先ほどまでの禍々しい魔力は消え失せ、ただの古びた鉄の塊に戻っていた。


「……終わったな」


蓮が呟く。


「ええ。でも、黒の教団との戦いは、これからが本番よ」


凛音が、空を見上げながら言う。


「ああ。分かってる」


蓮と結月も、空を見上げた。


新たな仲間と共に、彼らの戦いは次のステージへと進んでいく。

過去の記憶を乗り越え、未来を切り開くために。





【第12章終了】





【第12章登場魔法・用語解説】


超電磁砲レールガン」:凛音が使用する対物ライフル型の魔法具。極太の雷のレーザーを放つだけでなく、対象の魔力回路に干渉してショートさせる特殊な機能を持つ。凛音の魔力回路が完全に回復していないため、一発撃つのが限界だった。






対魔局本部への帰還後、蓮たちは紗綾局長の執務室で報告を行っていた。


「……天叢雲剣の回収、ご苦労様。白夜の身柄も、無事に拘束できたわ」


紗綾は、机の上に置かれた古びた剣を見つめながら言った。


「……局長、白夜の尋問は?」


蓮が尋ねる。


「現在、特務尋問班が当たっているわ。ただ、彼の『記憶の改竄』能力は非常に厄介でね。自分自身の記憶すら書き換えている可能性があるから、情報の裏付けには時間がかかりそうよ」


紗綾は、小さくため息をついた。


「……黒の教団の目的は、本当に『救済』なのでしょうか?」


結月が、静かに問いかける。


「……彼らの言う『救済』が何を意味するのかは分からない。でも、彼らが集めている聖遺物が、世界を滅ぼしかねない力を持っていることは確かよ」


紗綾は、モニターに新たな資料を映し出した。


「……これは?」


凛音が、モニターを覗き込む。


「教団が次に狙っていると推測される聖遺物のリストよ。……世界各地に散らばっているわ」


モニターには、エジプトのピラミッド、南米の古代遺跡、そして北極の氷床など、様々な場所が示されていた。


「……世界中を飛び回ることになりそうね」


凛音が、苦笑しながら言う。


「ええ。あなたたちには、引き続き『特務調査員』として、教団の動向を追ってもらうわ。……ただし、今回はサポートメンバーをつける」


紗綾が、執務室の扉の方を見た。


扉が開き、一人の少年が入ってきた。

年齢は十五、六歳くらいだろうか。金髪で、どこか生意気そうな顔つきをしている。


「……紹介するわ。技術開発部の天才児、アラン・スミスよ」


「……よろしく。僕が、あんたたちの新しいオペレーターだ」


アランは、ポケットに手を入れたまま、ぶっきらぼうに言った。


「……子供じゃないか」


蓮が、眉をひそめる。


「子供扱いするなよ。僕のハッキング技術と情報処理能力は、対魔局でもトップクラスだ。あんたたちみたいな脳筋魔法使いには、僕みたいな優秀な頭脳が必要だろ?」


アランが、鼻で笑う。


「……なんだと?」


蓮が、ムッとして一歩前に出る。


「……まあまあ、雨宮隊員。落ち着いてください」


結月が、蓮をなだめる。


「……アラン、口の利き方には気をつけなさい。彼らは、実戦経験豊富な優秀な隊員よ」


紗綾が、アランをたしなめる。


「……分かってるよ。まあ、せいぜい僕の足を引っ張らないようにしてくれよな」


アランは、肩をすくめた。


「……生意気なガキだ」


蓮が、舌打ちをする。


「……でも、頼りになりそうね。よろしく、アラン君」


凛音が、アランに向かって微笑む。


「……ふん。よろしく」


アランは、少しだけ顔を赤らめてそっぽを向いた。


新たな仲間、アランを加えた特務調査チーム。

彼らの次なる目的地は、灼熱の砂漠、エジプトだった。






数日後。

蓮たちは、エジプトの首都カイロに到着していた。


「……暑いですね」


結月が、日傘を差しながら言う。


「ああ。日本の夏とは、また違った暑さだ」


蓮も、汗を拭いながら答える。


「……文句を言わないの。ほら、アラン君からの通信よ」


凛音が、耳に付けたインカムを指差す。


『……聞こえるか、脳筋チーム。目標の聖遺物「オシリスの杖」は、王家の谷の地下遺跡に隠されている可能性が高い』


アランの声が、インカムから聞こえてくる。


「……了解した。教団の動きは?」


蓮が尋ねる。


『……すでに、遺跡の周辺に教団の部隊が展開している。数は約三十。……気をつけろよ、今回は「砂漠の死神」と呼ばれる幹部が指揮を執っているらしい』


「……砂漠の死神、か。厄介そうだな」


蓮が、気を引き締める。


「……行きましょう。教団より先に、オシリスの杖を回収しなければ」


結月が、日傘をしまい、魔法具の杖を構える。


「ええ。私のレールガンも、調整バッチリよ」


凛音も、対物ライフルを背負い直す。


三人は、王家の谷へと向かうジープに乗り込んだ。


灼熱の太陽が照りつける砂漠。

その地下深くで、新たな死闘が幕を開けようとしていた。





【第12章終了】





【第12章登場魔法・用語解説】


「オシリスの杖」:エジプトの王家の谷に隠されているとされる聖遺物。死と再生を司る神オシリスの名を冠しており、強力な治癒能力、あるいは死霊操作の能力を持つと推測されている。


「アラン・スミス」:対魔局技術開発部に所属する天才ハッカー。15歳という若さながら、卓越した情報処理能力を持ち、蓮たちの新たなオペレーターとしてチームに加わった。生意気な性格だが、実力は確か。



「記憶の改竄かいざん」:白夜の代償であり、魔法。対象の記憶を操作し、特定の出来事や知識を消去したり、偽の記憶を植え付けたりすることができる。今回は「魔法を発動した」という直近の記憶と、「魔法の使い方」という知識を一時的に消去することで、蓮と結月を無力化した。


天叢雲剣あめのむらくものつるぎ」:日本に封印されていた聖遺物。強大な魔力を秘めており、白夜の「記憶の改竄」の能力を大幅に増幅させている。




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