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episode:花山晴太

 どうも。……なんか、斎藤の話聞き回ってる奴がいるって聞いてました。

 葛西さん、でしたっけ。俺、花山晴太です。

 斎藤について語れることったって、高校の時同じ天文学部だったことくらいしかないですよ。でもアイツ、幽霊だったんで。

 幽霊、幽霊部員ですよ。


 あ、メニューありがとうございます。

 すいません、りんごジュースを。はは、すみません。実は俺、コーヒーも紅茶もアルコールも飲めなくて。ジュースしか飲めないの、恥ずかしいんですけど、カフェインが駄目なんですかね。


 ああ、斎藤の話でしたね。そうなんですよ、アイツ幽霊部員で。たまに来ては何もせずに帰っていきましたね。

 多分……ちゃんと所属してるってこと示さないと学校から怒られるから顔出しただけなんだろうなっていうのが分かりました。


 だから本当に分からないんですよね。

 俺も天文学部にはたまーに顔だしてダチと喋ったり菓子食ったりするくらいしかしてなくて。

 星のことなんてなんもわかんねーのに、なんで入ったんだって言われたら、ほんと菓子食えるからくらいでしたね。

 ほら、学生って、放課後に友達とダラダラ菓子食ってだべるの、好きじゃないですか。

 それができる場所が校内にあったら最高だよなって感じで。


 だからほんと、斎藤のことで知ってるのって本の虫だったことくらいですよ。私立の高校来てまで毎日、部室来るより図書館行ってた方が多いくらいでした。面白い奴でしょ。

 部室来ても何もせずにただ本読んでましたね。


 そんな早く帰って何すんのって聞いたら、妹の学費で金かかるから、自分の学費は自分で出してるって言ってて。すげー奴だなって思ったのは覚えてます。

 だって、その頃の俺なんて、毎日親のことどう交わしてダチと長く遊ぶかくらいしか考えてなかったんで。


 斎藤って、すごい奴だったんですよね。だって斎藤ってさ、すごいんだよな。俺、その頃って金の心配も住む場所の心配もしたことなくて、学校も親もめんどくさくて、俺の世界って、すごく狭かったんですよね。

 高校生にとって世界って、家族と学校と部活だけじゃないですか。すごく狭い世界の中で。

 斎藤って、そこにバイト先があったんですよね。凄いやつですよ、ほんと。


 あ、ありがとうございます。

 なんか、飲み会行っても俺はジュース飲むことが多くて、ジャスミンティーとか、烏龍茶とか、全部ストロー刺さってるんですよね。

 それがすごく恥ずかしくて。


 斎藤って、いま何やってるんですかね。……あんなすごい奴だから、大成してるかなって思ったんですけど。何も話聞かないんですよね。

 高校の同窓会行ってもアイツ、いないし。

 知ってる奴だって、斎藤のことバカにするんですよ。アイツがすごい奴だって、誰も知らないんですよね。

 みんな、馬鹿ですよね。


 葛西さん、斎藤のことなんか知ってます? ああ、いや、言えないですよね。プライバシーのことだし。

 斎藤のとこ、妹さんが高校の時に亡くなったって聞いて……斎藤、高校休んだことなかったのに、三日だけ休んだんですよ。忌引で。

 俺の、友達とかすげー馬鹿だったから「忌引って誰死んだの? 親?」とか普通に聞くんですよ。みんな、笑いながら「やめなよー」って言ってて。

 でも興味津々なの分かるんですよね。


 高校生にとって死って縁遠いものなんですよね。コメディとかでも結構、死って軽く描かれるから、軽いものだって勘違いして。

 それで、聞いてたんですよね。

 そしたら言ったんですよ、斎藤。


「妹が死んだ」


 ただそれだけ、それだけ言ったんですよ。どう思いますか。

 そんなからかうなとか、酷いことするなとか、そうやって怒ることもなく、静かにそれだけ言ったんです。

 その時、俺ら……いや、俺は、酷いことをしてしまったって思ったんですよね。

 だから、俺は……俺は謝ったんですよ。でも、みんながいる前では謝れなくて、斎藤が帰ろうとしてる時、誰もいない下駄箱で「ごめん」って。一言言ったら、斎藤は何が? って返して、終わりました。


 謝ることって、すごく身勝手ですよね。

 俺、斎藤のあの一言で分かりました。謝るって、加害者が楽になるだけの言葉なんですよね。……それを、被害者が受け取るか受け取らないかは自由なんですよね。

 それをあの時の俺は、理解してなかったんだって思います。


 すみません、なんか……歳ですかね。最近涙腺が緩くて。すぐに涙が出てくるんですよね。ダサくて恥ずいんですけど。

 俺、……斎藤のことほんとに尊敬してるんですけど、あのことがあってから斎藤の顔が見れなくて……結局、話せなくなったんですよね。


 こんだけ経っても話せないままなら、いっそのことちゃんと話せば良かったなって、思うんですよね。

 もし時間が巻き戻るなら、俺はあの日に戻って、みんなの前で斎藤にごめんって言って、それから、それから……斎藤の妹の話、たくさん聞きたいって思うんですよ。


 斎藤の妹がどんな子で、なんて名前で、どういうものが好きで、斎藤のことなんて呼んでて、斎藤が、妹のことをなんて名前で呼んでたのか。

 俺、斎藤のことなんも無かったんですよね。馬鹿だよなぁ。


 すみません、俺、これで。

 この後ちょっと用事があって、人と会うんですよ。小規模な同窓会みたいなもので。失礼します。

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