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episode:山里小百合

 こんばんは、初めまして。

 ええと……お名前、ああ、すみません。お伺いしたのに忘れてしまって。名刺まで、ありがとうございます。

 葛西さん、ですね。

 私は斎藤くんの友人……だった山里小百合です。


 すみません、突然友達だったなんて……本当に友達かは分からないんですけど、多分従兄弟のようなもので、すみません親戚の呼び方をよく理解してなくて。

 母の義理の弟の、子供……でしょうか。


 私にとって斎藤くんは、不思議な人でした。母方の実家にお盆や法事で帰るといる男の子で、私は親戚とかじゃなくて友達だと思ってました。

 全然、家族の誰とも顔が似ていなかったからかもしれません。


 多分、斎藤くんの母方のご家族とお顔が似ていたのかもしれません。でも、彼の家はお母さんが早くに亡くなってて後妻を貰っていたので、すごく……肩身が狭そうでした。

 でも妹さん……斎藤めぐみちゃんのことはすごく大切にしてました。

 いつも「めぐ、めぐ」って呼んでて、お兄ちゃんが妹をいじめるみたいな話を聞くけど、そんなことも無くて……。


 あ、すみません。何か頼まないとですね。水だけって、喫茶店に嫌がられちゃいますね。

 お願いしまーす、アイスカフェオレをひとつと、葛西さんどうします? それじゃあ、ブレンドをひとつで。はい、それで大丈夫です。


 すみません、話の腰を折ってしまって。

 そうなんですよ、めぐちゃん……すごく可愛くて。長い黒髪とぐりぐりとした大きな黒目で、肌は白くて華奢でした。

 そういうところは斎藤くんにすごく似てましたね。母親が違うなんて全然、そんなこと思いませんでした。


 あ、すみません。気になりますか? 私、昔キャバクラで働いてて……その時の癖で水滴やテーブルをすぐに拭いちゃって……直したいんですよね、この癖。

 すぐにキャバクラで働いてるって分かっちゃうじゃないですか。

 めぐみちゃんは……少し前に亡くなってしまって、だからお話を聞くのは難しいと思います。


 あ、ありがとうございます。カフェオレって私大好きで。喫茶店に行くと必ず頼んでるんですよね。

 実家の近く……滋賀の、私の実家の近くにすごくカフェオレが美味しいお店があって、私はそこが大好きでした。

 家に帰りたくない日は、いつもそこに行って時間を潰してました。


 ……めぐみちゃんが亡くなってから、斎藤くん酷く憔悴しちゃって。言葉を失って、その頃からずっと寝不足みたいで、時々会う母方の実家でもずっとしんどそうで。

 どうしたのって聞いたら、何かしてないとめぐみちゃんのことを思い出しちゃうからって泣いて……。

 めぐみちゃんが亡くなった理由は聞けなくて、でも事故だと母は言ってました。水難事故だって。良く知らないんですけど。


 私と、斎藤くんはすごく、近くて遠かったと思います。もちろん親戚っていうこともあったんですけど、両親同士の仲があまり、良くなくて。

 特に私の母が、斎藤くんのお父さんを……奥様が亡くなった翌月に新しい妻を迎えるなんてと、そう言っていました。


 そう、水難事故の話ですよね。

 でも本当によく知らなくて……。母は、あの売女の娘が死んでって嬉しそうにニヤニヤしてて、人が死んだのにどうしてそんなにと怖くなりました。

 それから、母と距離を置いていて。ずっと一人暮らしをしています。

 ……もう、母方の実家に帰ることもなくなりました。

 だから斎藤くんがどうなっているかも分からなくて。すみません……せっかくお話を聞きたいと言ってくださったのに。


 話せることって、すごく、すごく少ないんです。住んでいた場所も遠いですし。

 斎藤くんは東京に住んでいて、私は滋賀じゃないですか。いまは愛知ですけど。

 そうですね、いまは愛知で普通のお仕事をしています。良いところに拾って頂けて、営業のお仕事をしてますね。

 斎藤くんと会えないのは、少しだけ寂しいんですよね。私は、彼以上にかっこいい人を見たことがないんですよ。……かっこいいって、性格がですよ。もちろん、外見も良かったですけど。


 斎藤くんって、間違っていることには間違ってるって、大人にも言えるような人なんです。でも、それを叱られて、大人に口答えするなって言われて、それでも泣かないように唇を噛んで前を見ていたんですよね。

 そういうところが、私は好きでした。

 斎藤くんがいじめられてるなんて、その時は思ってもなかったんです。

 ……ずっと、斎藤くんって呼んでたんですよ。親戚なのにおかしいですよね、彼の家族はみんな斎藤なのに。


 斎藤くんって、どんな人生を送ってきたんでしょうね。全然、聞かなかったんですよ。学校がどうとか、友達がどうとか、何も聞いてなくて。

 ただ会った時に少し話して、時々ゲームをして、本の話をして、斎藤くんはすごく本のことに詳しかったんですよ。どの本の話をしても、絶対に返してくれて。それだけでも尊敬に値するでしょう。


 でも、本当にそれくらいしか知らないんです。

 すみません、全然話せることが無くて。私はこれで失礼します。カフェオレ、美味しかったです。

 ご馳走様でした。

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