episode:王芳
こんにちは! ここ、ちょっと入り組んでますね、すぐ分かりました?
こっちに来てもらって、助かりました。
葛西さんだね? どうもこんにちは、M大学で中国語を教えてる王芳です。
日本語が上手って、まあ、そうですね、そう。日本に来てもう三〇年は経ってるからね。
私、二二歳で日本来て、最初大阪! 大阪に行きました。それから東京に来たんです。東京、いいね。とても都会。
注文するね。
アイスコーヒーの大きいやつ。そう、大きいやつ。それで、シロップとミルク多めに持ってきて。
そう、ポーション。ポーションのシロップと、ミルク。
葛西さん知ってますか、ポーションシュガーって日本で産まれたんですよ、アイスコーヒーも。
私、日本に来た時感激しちゃって。
そうなんですよ。コーヒーって言うと熱いやつって意識があったから、街中歩いてる人が大人も子供もジュースのボトルみたいなの持って歩いてるの、びっくりしましたよ。
大人もジュース飲むの? なんて笑ってたら、冷たいコーヒーなんですよね。
ほんとびっくりして。
どうも。アイスコーヒーを発明したのは、日本の最も誇れるところだと思いますよ。
そういえば、葛西さんはタピオカミルクティー飲まれました? あれ、中国の飲み物なんですよ。台湾? まあ、……中国の飲み物なんです。
中国って昔からお茶文化があったので、それとタピオカが結び付いたのって天才的ですよね。
私も最近飲んだんですけど、すごく美味しいですよ。甘さが強くて。
……斎藤くん? あー、そういえば彼の話を聞かせて欲しいって言ってましたね。
でも彼のことって言ってもあまり浮かばなくて。いつも最前列の窓際に座って、ノートを出してはいたんですけど、目立つような生徒じゃなかったですね。
必ず拼音の練習で読んでもらうんですけど、斎藤くんは声が小さくてあまりそういう授業が得意じゃなさそうでしたね。自己主張も強くなくて、友達なんかも少なそうでした。
中国ではそういう人は声音小と言われて自信が無くて消極的っていう印象があるんであまり好かれないんですよね。
私も、斎藤くんのことはそういうタイプと思ってました。
でも、容姿はすごく良かったですよ。中国も韓国や日本と同じで容姿をすごく大事にします。
例えば、肌白いとか、黒い髪とか、細くとがった顔とか。
中国では面子と言って、他人より優れてることをとても重視します。最近では特に、それは顔立ちの良さなんです。
中国人にとって面子は個人の命より重要です。だから中国人はみんな、声大きくて自分のこと主張するんですよ。
斎藤くんは、何してても面子より他人重要でした。一度叱ったことがあります。
人の出席表、出したので。
私は斎藤くん、それはしてはいけない、中国人は面子大事にする。でもそれは、その場限りのものじゃなくて、自己の能力を信じて他人より自分は優れてる、そういう自信です。
斎藤くんはそれが無かった。
だから私は斎藤くん叱りましたし、あまり好きな生徒じゃなかったです。でも、彼は試験だけは良かったです。
アイスコーヒー無くなりました、いいですか? アイスコーヒーもう一杯、大きいの。大きいのですよ! 氷少なくして。さっきの、氷多かった。
それから、シロップ二個。ミルクはさっきと同じ。それだけでいいよ。
日本のコーヒー、少し濃いですね。アメリカンくらいが私は好きです。でも、アメリカンでも酸っぱいのはあんまり。
日本人は酸っぱいコーヒーをフルーティーって言いますけど、私はあんまりそう感じないです。
日本人の良くないものを良いように言い換える姿勢、悪いことじゃないけど良いことでもないと思います。
斎藤くんもそういうところありましたね。授業中とか、対面になって二人で読んでもらう授業もありました。私、よくそれします。
その時に読み方間違ってる生徒に斎藤くんは「それもいいと思うけど、拼音はこうだから、こう発音したらもっといいかも」と言いますね。
でも、違います。だって拼音の読み方間違ってると通じない。どこか別のところの方言かと思われます。
どうも、シロップもう一個! ありがとね!
そう、だからそこでも私言いました。
斎藤くん、そういう言い方良くないって。間違ってるは、間違ってる。間違ってるは正解してるにはならないよって。そしたら斎藤くん、「そうですよね」って、また小さい声で言う。
彼は、とても消極的。とても良くなかった。
日本ではそういう人が好かれる。でも、私はそれを良いとは思わない。
人をちゃんと注意できることが優しいし、いいことだと私は思ってます。
そういえば葛西さん、このカーフェイはトイレも綺麗なんですよ。中国、あんまり綺麗なトイレ、恥ずかしいけど無いから。よく詰まるし。でも綺麗だからびっくりして。
せっかくだから来たら絶対トイレ行きます。勿体ないからね、行かずに帰ったら。
私この後授業あるから、これで帰ります。
葛西さんさよなら! 再见!




