伝わっていることいないこと
またしても……。
リーとアーキスが紫三番に到着した。
気心知れた同士のふたり旅は本当にあっという間で、もっと遠回りしてくればよかったと、ふたりして本気混じりの冗談を言い合う。
まずはとまっすぐ本部受付に行くと、リリックとコルンが待っていたとばかりに微笑んだ。
「ふたりで組織長室に来るようにって」
居場所を気取られているのもいつものこと、この分だとアーキスと一緒に保安に協力したことも伝わっているのだろう。
「また夜にね」
「ラミエも待ってるわよ」
相変わらずからかってくるふたりにジト目を向けてから礼を言い、本部内へと入る。
「俺も一緒でいいんだ?」
「まぁマルクさんがそう言ってるんだしな」
百番案件の内容はアーキスには話していないが、マルクが一緒でいいというからにはハルヴァリウスたちには話が通っているのかもしれない。
そんなリーの考え通り、組織長室で待っていたマルクには、話してないのかと呆れられた。
アーキスには詳しいことはあとで話すことにして、ディリスを連れてここを出てからドマーノ山へ送り届けるまでのことを報告し、下山してセルジュに協力を要請されへラキアへ向かったことを告げる。
「セルジュ、とは?」
見ていた手元の書類からリーへと視線を上げてマルクが尋ねた。
「ジャイルさんのことですけど……」
どうして今更そんなことを聞くのだろうかと思っていると、見る間に眉間にシワを寄せたマルクがわかったと低く呟く。
(……もしかして言っちゃダメなやつ……か……?)
背に流れる冷や汗を感じながらも今更どうしようもなく。横目でアーキスを見ると、仕方なさそうな顔をされる。
(……やっちまった、んだよな……)
その顔に確信を得るものの、何をもどうなるかもわからずに。ただこの先何事もないようにと祈るしかなかった。
まぁいい、と切り替えたマルクにアーキスと合流してからのことを報告する。
セルジュの言う通り要請自体は先に本部に来ていたらしく、祭り当日までにリーが依頼を終えたらそのまま協力させていいとの許可は本当に出ていたそうだ。
たまたま場所が近かったので事なきを得たのだろうと知り、リーは内心ほっとする。
今更と言われようが、慣れないものは慣れないのだ。龍に乗る機会などなくていい。
話し終えたリーたちに、マルクはカルフシャークの件は依頼として扱わなくていいと告げた。
「こちらも何度も協力してもらっている。それに子どもを散歩に連れていく程度、わざわざ依頼にしなくていい」
(散歩って)
対応についてはもちろん異論はないが、もう少し言い方はあるだろうと思いながら。
最後にふたりとも暫く本部で待機するようにと言われて面会終了となった。
組織長室を出て十二分に離れてから、リーは大きな溜息をつく。
「……知ってるもんだと思うよな?」
「俺たち視点じゃわからないから仕方ないと思うけど」
次にジャイルに会った時には一体何を言われるだろうかと。
今しても仕方ない心配を胸に、リーは再度嘆息した。
まずは宿の部屋を取ったリーたち。まだ急いで夕食に行くような時間でもないので、先にアーキスに百番案件の詳しい話をした。
依頼完了の報告の際に話す許可をくれたというシラーたちと、会ってみたかったと言うアーキスと。
自分が描いたいつかはそう遠くないのかもしれない。
そんなことを思いながら、リーはそのうち紹介するよと返した。
話すべきことは話し終えたふたりは、あとはゆっくりするかと食堂へと向かう。
「いらっしゃい、久し振りね」
出迎えてくれたカレナはどうせ人数が増えるだろうからと、大きなテーブルへと案内してくれた。
先に飲み始めること暫く、ぞろりと目立つ六人が店に入ってくる。
赤毛長身の男を取り巻くように、見目のいい女性が五人。いつも理不尽に絡まれるのは自分だが、いざ傍目に見てみるとその気持ちもわからなくもない。
「おまたせー」
ここで会うのが当然のように近付いてくるエリアに、リーは第一声がそれかと半眼を向ける。
「おかえり。もう来てたんだね」
迷うことなく自分の隣の椅子を引く白い手に、未だに跳ねる鼓動。
「待たせずに済んでよかったよ」
嬉しそうに微笑むラミエを見上げ、リーも口元を緩めた。
自分の隣、時々こちらを気にするように視線を向けては、目が合うとはにかんだ笑みを見せるラミエ。
隣り合う互いの腕は触れるほどではないが、確実に熱を持ち始めている。
ここを出てからひと月近く。道中はあまり感じなかったが、いざ戻ってきてみると思っていたより長かったのだとリーは実感した。
「ふあひいっほはっはんはへ」
次々並べられていく料理をほおばりながら、エリアがいつものようにモゴモゴと話しかけてくる。
「だから食いながら喋んな」
「うん。途中で一緒になったんだ」
「だからなんでお前はわかるんだよ?」
普通に答えるアーキスにツッコんでから溜息をつくリーの隣で、ラミエが楽しそうに笑った。
「よかったわね、ラミエ」
「ずっと寂しそうだったものね」
その様子をからかうリリックとコルン。ティナは我関せずで食べ続け、フェイは一行を眺めながら酒を飲んでいる。
見慣れた光景に日常を感じているとふいに矛先がこちら向いた。
「そういえばラミエって明日休みなのよね」
「ちょうどいいじゃない。一緒にどこかに行ってくれば?」
「ちょっ、やめてよふたりとも」
慌てて止めるラミエ。
まさかの強否定に、リーが内心動揺していると。
「リーは帰ってきたばっかりなのに。無茶言わないで」
続けられた言葉から自分を気遣ってのものだったと知り、一気に驚きに変わる。
寂しい思いをさせているはずなのに、責められることも拗ねられることもなく。
ありがたく嬉しい反面、無理を言わないラミエへの申し訳なさと、そうさせている自分へのふがいなさを感じるのも事実。
それでも自分に何かができるというのなら――。
「ラミエ」
覚えた気持ちのまま名を呼ぶと、いつになく柔らかく。口に出てしまったあとの皆の反応に照れ臭さが増すが、何とか押しきる。
「いいなら行くか」
食事後はいつも通り、ラミエを家へと送るリー。順に皆と別れ、今はふたり手を繋いで歩いている。
敷地内に入ってからフェイにあのあとのことをそれとなく聞くと、特に話すことはないと返ってきた。
カルフシャークの、そして伝わるアディーリアの様子から心配はないと思ってはいたが、こうしてはっきり言葉で聞くとやはり安心できる。
またそのうち様子を見に行こうと考えていると、きゅっと手を握られた。
「……明日、本当にいいの?」
隣を見やると、期待と不安が入り混じる青い瞳がこちらを見つめている。
「待機命令が出てるんでしょ」
「まぁ今日の明日で呼ばれることはないと思うし、どこに行くかをアーキスに伝えておけばいいって」
(そもそも俺のいる場所なんてすぐわかるしな)
要するに龍が感知できる範囲内にいれば問題はない。
迷いない声に安堵したのか、ラミエの表情がふわりと綻んだ。
「よかった。嬉しい」
寄り添うように近付かれ、触れている腕の面積が広くなる。伝わるぬくもりはその言葉を心からのものだと示すものでもあるように思えて、込み上げる喜びを自分も知ってもらいたくなった。
先程までより更に歩幅を狭めたリーに、ラミエの笑みが深くなる。
繋いだ手を腕ごと引かれ、リーの身体がラミエへと傾いた。
頬に当たった温かく柔らかい感触。間違いなく赤くなった顔を隠すように、リーは明後日の方向に目を向ける。
「たっ、ただ遠出は無理だから、どこに行くんだって話になるんだけどな」
そういったことに疎い自分、情けないことに目的地の候補すら出てこない。
慌てるリーにくすりと笑い、それなんだけど、とラミエが告げた。
次話、デート回(予定外)。






