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第九悩

BARロベルタ。

ブルースという、JAZZのルーツとなった音楽が流れている。

感情を揺さぶる音色が今の俺の心境に染み渡る。


「リオン、あれ以来ライルとは口を聞いてないそうね」


「ああ… 店にも来なくなって、ようやく一人で静かに飲めるよ」


先日ライルに追放を言い渡したものの、テレジアに仲裁され保留中だ。

冒険者の仕事は個別に受けて各自で消化している。


「…わたくしとリオンが出会ったのは、あの席だったかしら?」


「ん…… そうだな」


俺たちはカウンター席から思い出のテーブルに目を向けた。

有名な元勇者の青年と屈強な男が話し込んでいるが今はどうでもいい。


あの時は店が混んでて相席をしたっけ。

俺はパーティーから追放、テレジアは婚約破棄を言い渡された。

あの時はテレジアの冒険者デビューを応援するくらいの気持ちでいたが、

まさか1年足らずでドラゴンスレイヤーと呼ばれるまでになるとは思わなかった。


テレジアのすぐ後にライルが加わった。

魔術学園の次席卒業者という事で、魔法剣士として最初から高い実力があった。

首席はテレジアだったと聞き、三人とも同い年だとわかりすぐに打ち解けた。

奴は外面が良く、口下手な俺や高圧的なテレジアに足りない社交性を持っていた。


「この3年、あっという間でしたわ……

 冒険者になってからというもの

 たくさんの敵と戦い、多くの人を助け、

 こんなにも充実した気分になれたのは

 リオン…… あなたのおかげですわ」


「それは… 楽しんでもらえてなによりだ…」


「できればこれからも一緒に冒険したいのだけれど、

 やはり調査団に参加しない意志は変わらないのかしら?」


「…ああ、俺はこの大陸を出る気はない

 お前らとは色々あったが、これでお別れだな

 今まで世話になったな…… ありがとう」


「ちょ…… 何を言ってますの!?

 一時的にここを離れるだけですわ!!

 戻ってきたらあなたのパーティーへ

 再加入するに決まってるでしょう!!」


「いや、俺のパーティーにこだわる必要はないだろ…

 お前もライルも両方どこでも活躍できる人材だ

 俺は上級冒険者になるつもりはないからな…

 今後はちゃんと上の人間同士で組んだ方がいい」


「…リオン、突き放すような言い方はおやめなさい

 本心ではこのわたくしと一緒に冒険を続けたいのでしょう?

 あなたは戦いでは器用でも、人間関係では不器用ですものね!」


「いや、100%本心で言ってるんだが……

 お前らは本来の力を発揮できる上級冒険者になれるし、

 俺は身の丈に合った中級冒険者として無難な生活を送れる

 ……お前らを追放… というかパーティーを解散する事によって、

 俺はドラゴンと戦わない生活に戻れるんだ 引き留めないでくれ」


「ドラゴンがなんだというの!

 それくらい我慢なさい!」


「無茶言うなよ……」


ヒートアップするテレジアと困惑する俺に、一杯ずつカクテルが振る舞われた。

注文はしていないが、どうも店からのサービスらしい。

ふと店員さんの方を見ると、彼女はお盆で顔を隠して奥へ消えてしまった。

これは脈ありと受け取っていいのだろうか。期待が膨らむ。


その一杯のおかげでテレジアも落ち着いたようで、

しばらくは気まずい沈黙が続いた。


「へえ…… 子供が出来たんだ!」


沈黙を切り裂いたのは思い出のテーブルにいる元勇者だった。

彼の名はアレックス。ローラと共に脱獄して、色々あって許された男だ。

“子供が出来た”という幸せそのものな発言が場の雰囲気を明るくしてくれた。

テレジアも興味を持ったようで、彼らの席に目を向けていた。


「しかも2人同時って、すごい偶然だよね!

 父親は誰なの!? 僕の知ってる人かなあ!?」


よくわからんが、彼の知り合いがダブルで幸せになったようだ。

事情を全く掴めない俺たちでも心がほっこりしてきた。

気がつけばテレジアも思わず笑顔を浮かべている。


「父親か…… それは気にしなくていい

 とにかくあいつらは冒険者を引退した」


アレックスの話し相手が流れを切った。

折角のめでたい話をそこで中断されるのは困る。


「え〜! いいじゃないガーレン!教えてよ〜!」


「アレックス、あまり俺を困らせるな……」


ガーレンと呼ばれた屈強な男が頭を抱えた。

まるで父親が誰かを知っていて、それを教えたくないような態度だ。


しばらくはアレックスの質問をはぐらかしていたガーレンだが、

とうとう我慢できなくなって白状した。


「ああ、クソッ……! 俺が父親だよ!!

 遊びのつもりだったのにどうして…… クソがっ!!

 俺の人生メチャクチャじゃねえか……ッ!!!」


……ドブ野郎のせいでその場に居合わせた全員が最低な気分になった。

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