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第八悩

BARロベルタ。

落ち着いた照明に素敵なBGM、そして上質な酒を提供する大人の社交場だ。


そんな場所に似つかわしくない幼女が一人。

硬貨偽造で逮捕された後に脱獄し、紆余曲折あって釈放されたローラだ。

北の港町で起きた戦いで活躍して報奨金をもらったはずだが、

いつも通りギャンブルで溶かして無一文の身となったらしい。


「よう、リオン 俺にも奢ってくれよ」


「冗談じゃない… つうか、たまにはお前が奢ったらどうなんだ

 子供の前だぞ 大人の男をアピールするチャンスだぞ」


「いやあ、遠慮しとくよ

 お前の役割を奪うのは悪いしさ…」


ライルの奴め… 最近、図々しさに拍車が掛かってきたように思える。

パーティーに加わった頃はもっと貴族然とした常識人だったんだが、

打ち解けていくうちに本性を表すようになって今じゃこのザマだ。


「あの、お兄さんたち… カツ丼を頼んでもいいですか?」


「ほら、『たち』って言ってるぞ

 逃げ場はねえぞライルさんよぉ…」


「くっ……! お前らグルかよ…!」


リクエストに応えてカウンターにカツ丼が4つ並ぶ。

丼モノには味噌汁とお新香もついてきてお得感が高いが、

それだけじゃまだ栄養バランスが悪いと思ったので野菜炒めも追加した。


ローラはタダ飯だけが目当てで来たわけではなく、ある相談を持ち掛けてきた。


「今、ヤンディール王国の上層部と話し合ってるんですけど、

 メスキア大陸の調査団を結成しようって流れになってて、

 優秀な冒険者を紹介してくれないかって言われてるんですよね」


嫌な予感しかしない。

それ以上は聞きたくない。


「…それで、お兄さんたちのパーティーを紹介しようと思うんですけど

 いいですか? いいですよね? 大出世のチャンスですよ!」


「へぇ、ありがたい話じゃないか!

 リオン、もちろん受けるよな!?

 これって上級冒険者への最短距離だよな!

 もう勝手にドラゴン狩っても文句言われなくなるぞ!」


「いや、断るに決まってんだろ……

 鎖国して10年、謎に包まれた地だ…

 絶対碌な目に合わないだろうよ

 第一、上級冒険者になる気はないし

 ドラゴンとは戦いたくて戦ってるわけじゃないぞ……」


俺は今のままでいい。今のままがいい。

たまにドラゴンと戦わされるが概ね安定した生活を送れているし、

この都市やこの店の雰囲気が好きだ。ここを離れる気はない。


「…そんなわけで俺は不参加だ

 俺より優秀で出世したい奴なんてゴロゴロいるだろう

 そういう人たちにチャンスを与えてやってくれ」


「え〜! 蹴っちゃうのかよ、もったいない!

 国…、いや大陸の代表だぜ? 名声が欲しくないのか!?」


今まで気にしないようにしていた話題をしなければならなくなった。

ライルとはくだらない口喧嘩をする程度の仲でいたかったのだが、

もし険悪になるとしてもこれに関しては黙っていられなかった。


「……そこが俺とお前の違う点だよな

 お前は『冒険者になりたい』という気持ちで踏み込んだんだろうが、

 俺は『冒険者になるしかなかった』側の人間なんだよ

 欲しいのは肩書きや名声じゃない 安定した収入と美味い飯だ」


「飯なら食えてるだろ?

 それに、上級冒険者になって高ランクのクエストをこなせば

 もっといい物が食えるようになるんじゃないか?」


「俺は現状で満足してるんだ…

 これ以上の贅沢は求めてない

 そんなに出世したいならお前は行ってこいよ

 おそらくテレジアも喜んで参加するだろうな

 2人とも代表に恥じない実力はあるし問題ないはずだ」


「おい、それって…… 俺たちをパーティーから外すって事か…?

 リーダーはお前だから決定権はそっちが握ってんだろうけど、

 考え直せよ… 今まで3人で頑張ってきたじゃないか……

 これからも3人で生きていくんじゃなかったのか……!?」


3人か…。

思い返してみる。


ライルが楽そうなクエストを引き受け、テレジアが勝手に人助けを始めて、

俺が始末書を書かされ、上級冒険者の仕事を台無しにした事を謝る日々。

謝って済めばいいが、大掛かりな準備をしていたパーティーへの補填は

冒険者ギルドがどうにかするわけではなく、当事者同士で解決する問題だ。


ドラゴンを退治する度に貯金が消えてゆく。

ライルとテレジアは貴族側の人間なので給料なしでも平気だが、俺は違う。


「ライル、お前をパーティーから追放する!」


「──えっ?」

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