第七悩
BARロベルタ。
しっとりとした音色のピアノ曲が響き渡る。
バラードというジャンルらしい。やはりピアノは素晴らしい。
俺が金持ちなら全力でピアノ開発に投資していただろう。
「よう、リオン …こいつは奢りだ、飲めよ」
そう言ってライルから渡されたのはハーブティー。
こいつの奢りなわけがない。その隣で笑顔を向ける男だろう。
“煙のルーク”の異名で知られる暗殺者だ。
暗殺者とは潜伏や奇襲が得意な軽装戦士という意味で、決して人殺しではない。
この店や冒険者ギルドでも何度か目にした事はあるがいつも単独で行動し、
対人関係は苦手な人物だと思っていたがライルとは普通に談笑していた。
「フフッ 君たちの冒険譚は聞き飽きないね
行きずりでドラゴンを退治しちゃうなんて普通じゃないよ」
「でしょー? まぁ原因は100%テレジアなんですけどね!
あの女、他人のトラブルに首突っ込むのが趣味みたいで
今日なんかゴブリン退治がドラゴン退治になっちゃったわけですよ!」
「…その後処理を全部俺に丸投げして
ベロンベロンに酔っ払ってるわけか…… まったく大した奴だ」
ライルは無責任だが引き際を弁えている男だ。
ここまで酒が回っている姿を見るのは初めてだ。
煙のルークに乗せられたのだろうか。警戒しないと俺もヤバい。
「リオン君、お会いできて光栄だよ
僕はルーク “煙のルーク”と呼ぶ人もいるね
君の友人をこんなに酔わせてしまって悪いね…」
「いえ、気にしないで下さい 友人じゃないんで
それより俺に何か用があって近づいてきたんでしょう?
まどろっこしい事は抜きで、単刀直入にお願いします」
「フフッ ドライな切り返しだねえ…
正直、僕としてはその方がやりやすいよ
実は僕、君たちの関係性を調査しに来たんだ
僕の恋人はテレジアさんの大ファンでね、
そのパーティーの同行が気になって仕方ないみたいなんだ」
「テレジアのファンか……
たしかにあいつは実力も華もあるし、人気が出るのも頷ける
あの女の実態を知らずに弟子入りしたがる新人女も多い
それを説得して諦めさせるのも一苦労だ …って、これは関係ないな」
「いやあ、そういう話をもっと聞かせてよ
できれば表に出回ってない裏話を知りたいんだよね
お礼は弾むよ? こう見えて僕は上級冒険者なんだ」
そう言って財布の中身をチラッと見せられたが、
大量の大正貨でギチギチに詰まっているようだった。
どうやら俺が金で動く人間だと踏んだようだ。
その通りだ。
「…ドラゴンを倒せば名声を得られますが、
そのクエストを引き受けていた上級冒険者たちから顰蹙を買うんですよね
紛れもない横取り行為ですし、準備していた全てが無駄になる
その上『上級冒険者じゃなくても倒せる』という話が広まって
今後の仕事に支障が出る…… 何もいい事はありません
あの女はそこらへんの事情を一切わかってないんですよ」
「へえ、大変だねぇ…
それでも一緒に活動を続けているのはなんでかな?
僕だったらそんなトラブルメーカーはすぐに切り捨てるけどね…」
「情以外の何者でもありません
俺が今も冒険者でいられるのは彼女のおかげです
俺が前のパーティーから追放された時に手を差し伸べてくれたんです
その時に気を許してしまったのが崩落の始まりですね」
「なるほどねぇ 情か…… それは友情?それとも愛情かな?」
「友情…… いや、人情じゃないですかね
あの女に恋愛感情を抱いた事は一度もありません」
「…そっかあ、それは残念
実は君たちの恋愛事情を探るように言われて来たんだけどね
その様子じゃただの冒険仲間って感じだよね
……ライル君も同じような感じかな?」
「えっ、俺ぇ!?
俺だってあんなイノシシはお断りですよ!!
もし万が一、恋愛関係に発展するとしたら
付き合いの長いリオンに全部任せますよ!!」
「なっ…!? ふざけるな!!
どう考えても貴族の作法を心得ているお前の方がお似合いだろうよ!!
仕事ならともかく、私生活でも貧乏くじを引いてたまるか!!」
「おやおや、取り合うのではなく押し付け合う間柄なんだね
フフッ 興味深い…… これはこれでいい収穫だよ
最後にもう一つだけいいかな?
リオン君とライル君の間に何か特別な感情はあるのかな?」
「……は?」
「急に何を言い出すんだ気持ち悪い……」
「…いやいや、ごめんよ
これだけは絶対に聞き出して欲しいって言われてるんだ
びーえる?かっぷりんぐ? …とかいう文化があるらしくてね、
男同士の友情が尊いとか…… 僕もよくわからないんだけどね」
「俺にとってライルは…… ピスタチオ横取り野郎ですかね」
「リオンは文句を言いつつも仕事をこなす優秀な男ですよ
だから安心して面倒な始末書作成を丸投げできるんです」
「へえ、なるほど…」
ルークは勝手に何かを納得したようで、それ以上質問はしなかった。
少しモヤモヤしたが今日の食事を奢ってくれたので深く考えるのはやめた。
思えば恋愛に関する話なんてしたのは初めてだった。
ふと店員さんの方を見て目が合ってしまい、俺は急いで目を逸らした。




