第六悩
BARロベルタ。
素敵な店員さん目当てで通っている男はきっと俺だけではないだろう。
あと音楽のチョイスが素晴らしい。JAZZに出会えて俺は幸せだ。
「不幸だ……」
今日もまたドラゴンを退治した。
湖の水質調査のクエストだったはずが、なぜかこうなった。
本来ドラゴンは上級冒険者たちが徒党を組んで倒すレイドボスだ。
たった3人の俺たちが行き当たりばったりで戦う相手じゃない。
命懸けだし、始末書の作成も面倒臭い。
脳筋お嬢様のテレジアは剣の心得があるとは聞いていたが、
まさか2メートルの特大剣をぶん回す化け物だとは思っていなかった。
彼女の快進撃は凄まじく、これまでに累計10匹以上のドラゴンを狩っており
“ドラゴンスレイヤー”、“女傑ロベルタの再来”として注目されている。
俺はそんなに目立ちたくない。ドラゴンはもうこりごりだ。
「よう、リオン 先に飲ませてもらってるぜ」
始末書の作成を放棄したライルだ。
呑気にビールなんか飲みやがって……。モツ煮込みまで食いやがって……。
癪に触るがその彩りに負け、俺も今夜はモツ煮込みで一杯やる事にした。
「レイン、お前をパーティーから追放する」
「──えっ?」
奥の席で追放劇が行われている。
あいつもこの店の常連だ。
ただし飲み目的ではなく、あんな風にいつも追放されている男だ。
「レイン… 俺らが初心者だった頃は確かに世話になったけどさ、
お前はあの頃と全然変わらないよな? 今まで何してたんだ?」
「何ってそりゃ…… 探索術士としての腕を磨いて……」
「…それが問題なんだよ
はっきり言うが、探索魔法はほとんど道具で代用できるんだよな
むしろ道具を使った方が高性能・長時間で安定するし、
その余った魔力で戦闘に参加した方がいいとは思わないか?
というか、お前が率先して道具を使ってるよな…
誰が使っても同じ効果なら、ますますお前といる意味がない」
「そう言われても僕にはこれしか……」
「それしかないから外すんだよ わかるよな?」
トドメの一言をもらって押し黙るレイン。
追放を言い渡したリーダーが正しい。
異世界人が開発した照明器具や空調器具は日々改良されており、
探索魔法を使う必要がない時代が訪れている。
前時代的な考え方のパーティーになら受け入れてもらえるだろうが
そんなのは稀で、その枠は既に埋まっている可能性が高い。
ちなみに俺は付与術士だが、一応探索魔法も極めている。
便利グッズを買う金がなかった頃は重宝したが、今ではもう使っていない。
完全に不必要だとは思わないが、現状で探索魔法の価値が低いのは確かだ。
「はぁ…… またクビかぁ……」
いつもなら追放後すぐに酒場を出て行くレインが、今日は居残った。
追放を言い渡したリーダーはまだ食事中で、なんだか気まずそうだ。
レインは頼んだ酎ハイに口をつけながらこちらをチラチラと見ている。
「…何か用か? 先に言っとくがあんたの味方はしないぞ
向こうで座ってる彼の意見に全面的に同意する」
「えっ、そんなあ…! あなた、あのリオンさんですよね!?
付与術士としてだけでなく探索術士としても有名な方でしょう!?
探索魔法を馬鹿にされて悔しくないんですか!?」
「だから… あいつに同意だって言ってるだろ…
便利グッズのおかげで探索魔法を使う必要がなくなった分、
本職の付与魔法に専念できるようになって効率も上がったんだ
あんたも他の役立つ技術を身につけりゃいいじゃないか」
「僕は好きな事以外したくないんです……!」
ライルが咳き込んだ。
俺も吹き出しそうになった。
こいつ、ある意味すげえ。
命懸けの仕事でそれを言うか…。
「…どうしても探索魔法だけで食っていきたいのなら、
初心者パーティー専門の助っ人にでもなったらどうだ?
中級・上級に同行しても足手まといにしかならんぞ」
「初心者ですか…… あの、僕一応20年以上やってるんですけど……?
新人さんたちに混ざって活動するのは恥ずかしいというか……」
嘘だろ… 先輩だったのかよこいつ…。
しかも下手したら俺の倍くらい生きてるぞ…。
「大昔ならともかく、異世界人による技術革新以後の20年で
よく探索魔法だけで生き残れたな……」
「技術革新かぁ… 懐かしいなぁ……
あの当時、探索魔法の使い手として異世界人の方にアドバイスしたんですよ
照明魔法や空調魔法の代わりになるような技術が実現したら冒険が楽になる、
今までより活動の幅が広がって安全になるはずだってね
……彼らは見事に応えてくれました
僕のおかげだとは言いませんが、今ある技術のきっかけになれたのなら
僕の探索術士人生も無駄じゃなかったのかなと思います……!」
探索術士が追いやられてるのはこいつのせいか…… 自業自得じゃん。




