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第五悩

BARロベルタ。

今日は夕方の開店時間に合わせて来店した。

仕事が休みというわけではない。早く終わったのでもない。

ただの猫探しがドラゴン退治に発展して()()()()のだ。


「まったく冗談じゃねえぞ……

 どうして俺たちのパーティーはいつもこうなんだ……」


徹夜の戦闘で魔法を使い過ぎて頭がふらふらする。

早く宿を取ってベッドに沈みたい。

それでもこの店で飲まないと今日が終わらない。

店員さんの太い足を眺めて癒されたい。


「よう、リオン お疲れさん

 この時間帯に来るのは久しぶりだな

 やっぱ深夜と違って子供や家族連れが結構いるな」


「ライルお前…… また途中で逃げ出しやがって…

 いっつも始末書丸投げされる身にもなれよ

 大体、お前が引き受けた仕事だろうが……」


「ははは、いつもの事じゃないか

 ビール注文してやるから勘弁してくれよ」


「注文するだけじゃなくて奢れよ」


そんなやり取りをしていると制服姿の5人組が来店した。

その中の1人がこちらを見ると「あっ!」と声を上げて駆け寄ってきた。


「兄上! お久しぶりです!

 元気にしていましたか? 僕は元気です!」


「おっ、ユリウスじゃないか!

 先月会ったばかりだろ? こっちは変わりないよ」


どうやらライルの弟らしい。

話には聞いていたが実際目にするのは初めてだ。

魔術学園の最上級生にしては随分と幼い印象を受ける。

背は低いが、横幅は俺2人分ありそうだった。


ライルは地方領主の長男として生まれ育ったが、

貴族の身分を捨てて冒険者になった男だ。

その決心をするまでは父親と仲違いしていたそうだが、

今ではたまに実家に帰って団欒を取るまでに回復したらしい。


兄弟がたわいない談笑をしていると、

ユリウスの同級生が割り込んできた。

彼らは制服を着崩しており、真面目な生徒には見えなかった。


「おいユリウスぅ まだかかんのかァ?

 俺たちゃ腹減ってんの我慢してんだよなァ…」


「あっ、ごめんね! 今行くよ…

 兄上、僕は友達との約束があるのでこれで失礼します!」


ユリウスは一礼すると彼らの席へと向かった。

個別に頭を下げ、店員さんを呼び寄せて注文をした。


「おい、ライル… お前の弟……」


「…ああ、そうだろうな あいつは優しい奴だからな

 悪い奴から理不尽な事をされても反撃しない

 今までは俺が代わりにシメていたけど、

 あいつももうすぐ成人だ 俺はもう手出ししない」


これも兄としての優しさなのだろう。

いつまでも守られていては強くなれない。

彼は名家の次期当主として成長せねばならない。


俺たちはユリウスを気にしないフリをしつつ、

向こうの席の様子を伺いながら食事を取った。


ハンバーガーにフライドポテト、アップルパイなど

若者が好きな定番メニューがテーブル一杯に並べられ、

待ってましたと言わんばかりの勢いで一斉に貪り始めた。

どうも彼らは本当に空腹を我慢していたようだ。


その中でも特にユリウスの食欲は凄まじく、

ハンバーガーを2〜3口で処理して次の獲物に手をつけた。

その勢いに負けじと他の4人も口一杯にポテトを頬張り咀嚼した。


テーブルはあっという間に空になり、

追加のハンバーガーが運ばれて山盛りに積まれた。

その異様な光景に他の客たちも注目し、

いつしか彼らのテーブルの周りには人だかりが出来ていた。


「おい、ライル… お前の弟……」


「…ああ、俺の勘違いだったかもな

 あいつは今…… 戦っているんだ…!」


フードファイト。

最近貴族の間で流行している遊びだ。

ルールは単純明快で、誰が一番多く食べたかを競う競技だ。

あれだけの量だ。事前に予約をしていたのだろう。

制服を着崩しているのも、空腹だったのもこのためだったのだ。


「頑張れユリウス! 俺が応援しているぞ!」


「兄上…! はい、頑張ります!」


その声援でペースアップし、ユリウスはハンバーガー二刀流の奥義を編み出した。

早食いではなく大食いを競っているので意味はないが、ギャラリーは喜んだ。

ここで脱落者が1名。短髪の生徒が腹をさすってソファーで横になる。

健闘を讃えて拍手が巻き起こる。彼は照れ臭そうに笑ってお辞儀で応えた。


2人目は長髪で、3人目は特徴のない生徒だった。

そして残る2人の一騎討ちに会場は熱気に包まれた。

大柄な彼はユリウスと互角の勝負をしていたが、

100個を過ぎたあたりで限界を感じてギブアップを宣言した。


大きな拍手が会場に響き渡った。

ユリウスはもう、弱い弟ではない。

ライルはそう実感し、成長を喜んだ。


ユリウスは自分が勝利した事に気づいておらず、まだ食べ続けていた。

その食べ物に執着する姿がライルと重なった。やっぱりこいつら兄弟だ。

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