第四悩
BARロベルタ。
今日はプログレというジャンルの曲がかかっており、
変速、変拍子の嵐に脳が追いつかない。
ただ独特の気持ち良さはあり、何度も聴けば慣れそうな気もした。
ちなみに俺が好きな5拍子の曲も変拍子だったそうだ。
あまりにも自然に入ってきたもんで気が付かなかった。
4人の屈強な男が来店しており、店員さんは彼らを警戒しているようだった。
どういうことか尋ねると、彼らは過去にこの店で暴れた事があるそうだ。
俺も冒険者だ。もしそうなったら俺が仲裁すると宣言してしまった。
「よう、リオン そんな約束していいのか?
相手は戦士4人だぜ? まず体格が違いすぎるだろ…」
唐揚げを齧るライルの言う通り、彼らは全員ゴツかった。
ただ、俺も考えなしに仲裁役を申し出たわけではない。
俺は付与術士だ。最大限の強化魔法を自分一人に集中させれば
一時的にそこらへんの戦士より身体能力が高くなる。
ただし反動でめっちゃ筋肉痛になるので奥の手だ。
「みんなすまん……
俺、またお前らの給料を横領しちまった…」
早速不穏なワードが飛び出した。
どこの誰かは知らないが、そりゃあ喧嘩にもなるわ。
「お前…! 借金完済したばっかだろうが!!
また同じ事を繰り返すつもりなのか!?」
一番腕の太い男が怒鳴る。
これ、殴らせてもいいのでは?
「それで…… いくら抜いたんだ?
また闇金に手を出したのか?」
七三分けの男が問い詰める。
横領男は外には聞こえないように、仲間たちに耳打ちした。
それを聞いた眼鏡の男が横領男の足の甲に杖を突き立てた。
……今のはセーフか?偶然当たったようにも見える。
「仕方がなかったんだ……
推しの踊り子が仕事辞めたがってて、
事務所を去るには多額の違約金が必要だって言われてさ……
それとご両親が病気で、あと弟の進学費用も必要らしくてさ……」
「お前それ騙されてるよおお!!
金欲しいだけだよその女ああ!!」
剛腕男が声を荒げた。
これは出番か、と立ち上がったが剛腕男はそのまま何もしなかった。
「それだけじゃないんだ
彼女は事務所の金を横領してたらしくてさ、
とても個人で返せる額じゃなくなって困ってたんだ
俺も経験者として気持ちがわかるからさ、つい……」
「この馬鹿野郎がっ!!」
七三男が勢いよく立ち上がった。
今度こそ出番か、と魔法の準備をしたが彼も暴れはしなかった。
眼鏡男が横領男の足の甲に杖を突き立てた。
やっぱりあいつわざとだ。そして、暴れてるとは言えない絶妙な攻撃だ。
店員さんに判定を求めると今のはセーフ扱いのようだった。
「そんなわけで、みんな……
また借金返済のために力を貸してくれるよな?」
呆れてものが言えないとはこの事だ。
あいつの味方になる奴がいるとは思えない。
これは一発ずつ殴らせてもいい案件だと思う。
「……誰が協力するかこのゴミ野郎!!」
「お似合いの女が見つかってよかったな!!」
「お前とはもうこれで終わりだよ!!」
「えっ……!? みんな、どうして…!?
俺たち同郷の親友じゃないか……!!
死ぬ時は一緒だって誓い合ったじゃないか……!!」
「度が過ぎてんだよ!! わかんねえのか!?」
「一緒に死んでたまるか!! 誓いは撤回だ!!」
「足の爪潰すぞテメエよぉ!?」
彼らは横領男を取り囲むが、暴言はあれど暴力はなかった。
いくら謝り倒しても許される事はなく、やがて3人は退店していった。
店員さんを見ると、彼女は安堵の溜息を吐いていた。
結局俺は力になれなかったが、大ジョッキを一杯サービスしてくれた。
「いいな〜 お前だけサービスされてずるいな〜」
「いや、お前は唐揚げ食ってただけだろ…
つうか俺の分は…… うん、残ってないな」
半分ずつという取り決めで注文したのだが、目を離すとすぐこれだ。
冷めたらいけない、と気を遣って食べ尽くしてくれたらしい。
どんだけ腹ペコなんだこいつは……。
改めて唐揚げを注文し直そうとしたが
どうせなら違う物をと思い、鳥ではなくタコの唐揚げを頼んだ。
海産の旨味に気持ち良い歯応え。ビールが進むのも無理はない。
そして当然のようにライルが箸を伸ばしてきたので
皿を持ったまま体の方向を変えて死守した。
「え〜… 一個くらい分けてくれよ〜」
「このタコカラは絶対にやらん
欲しけりゃ自分で注文しろ」
さっきの戦士たちは金の問題で解散したようだが、
俺たちが別れる時はきっと食い物が原因になるのかもしれない。




