第三悩
BARロベルタ。
行きつけの酒場だ。
流れるような疾走感の曲が心を躍らせる。
どうやらピアノという楽器らしく、この世界にはまだ存在しない。
再現しようにも構造を完全に理解している異世界人がいないようで、
その完成が待ち遠しい。いつか生演奏を聴いてみたいものだ。
今日は月に一度のタコパの日だ。
圧倒的人気を誇るジャンクフード、たこ焼きではない。
タコスと呼ばれる肉・野菜を生地で挟んだ軽食の事だ。
客自身が好きな具材を盛り付けて食べるスタイルが好評を博している。
辛味と酸味のホットソースがこれまた素晴らしく、ビールが止まらない。
普段来店しない客もこの日だけは足を運ぶというケースも見られる。
「なあ、お前リオンだろ? 俺はアレン 戦士だ」
目つきの鋭い男が話しかけてきた。
彼はたしか相当な剣の達人と噂の人物だ。
「バッカスんとこのパーティーをクビになったんだって?
災難だったな あいつは人を見る目ねえからな
…ところで俺のパーティーに加わらねえか?
うちはいつも魔法使いが不足しててよ あんたなら大歓迎だぜ」
スカウトだった。
ただ、情報がかなり古い。
俺が追放されたのはだいぶ前だし、
その後すぐに自分のパーティーを結成していた。
「……えっ!? マジかよ… すまねえ、邪魔したな」
アレンは肩を落として仲間の席へと戻っていった。
「よう、リオン 今のってあれだよな?
たしか凄腕の剣士だよな 逆に誘ってみちゃどうだ?
戦力アップでテレジアの尻拭いが楽になるんじゃないか?」
食いしん坊のライルだ。
奴の皿にはタコスが山積みになっている。
そこから一つを手に取ると、一口でペロリと平らげた。
食べ放題の日だから構わないが、やはりこいつは食い意地が張っている。
「…人が増えれば楽になる まあ、それが普通の考え方だよな
ただし俺みたいな付与術士や、回復術士のような支援職は逆なんだ
仲間が多いほどその負担が大きくなって手が回らなくなる
以前所属してたパーティーは15人いて、そりゃもう大変だったぜ
あのアレンって戦士のパーティーもかなりの大所帯だ
しかも魔法使い不足ときてる もうあんな思いはしたくないね」
誰かが悪いわけではない。相性の問題だ。
俺は今の3人パーティーでちょうどいいと思っている。
一人当たりの強化魔法が最大パフォーマンスを発揮できるし、
そのおかげで俺自身もある程度戦える余裕ができて効率がいい。
「ふーん、そんなもんかね
まあリーダーはお前だし、判断は任せるぜ」
そう言ってライルは空の皿を補充しに向かった。
お気に入りの店員さんが追加の具材を運んできた。
店内の客たちが歓声を上げて出迎える。
彼女は恥ずかしそうにお辞儀を繰り返した。
その姿も小動物のようで愛らしい。
ビールサーバーは店長ではない男が担当していた。
臨時で雇われた元冒険者のアルス。
彼は敏腕アルバイターとして有名であり、
そのどこでも通用する器用さを買われて重宝されている人物だ。
彼が注ぐビールと泡は7:3の黄金比を作り出し、見た目にも美しい。
人によっては8:2、9:1が至高と言う場合もあるが、俺はこれでいい。
そんな黄金ビールに口をつけていると、よく見知った男が話しかけてきた。
「よお…… 久しぶりだな」
「……バッカス」
かつて俺が所属していたパーティーのリーダー、戦士バッカスだ。
「なあ、リオン……
こんな事言える立場じゃねえのはわかってるが、
俺のパーティーに戻ってきてくれないか?
お前を追い出してからの俺たちは現状維持で精一杯でよ…
お前がいかに激務をこなしてたか、ようやく理解できたぜ……」
ばつが悪そうに話すバッカス。
俺はこいつを恨んではいないし、むしろ早めに切ってくれて感謝している。
さっきのアレンもそうだが、「戦士」という肩書きの冒険者は
戦闘での実力は高くても情報収集能力が低いように思える。
きっと戦いに明け暮れて周りに目を向ける暇がないのだ。
「バッカス、お前自身が言ってただろ?
『代わりなんていくらでもいる』ってさ…
実際その通りなんだよ アイテムを使えよ
照明も空調も、異世界人が開発した道具でカバーできるぞ?
全部を穴埋めできるわけじゃないけど、それで負担は減るはずだ」
その助言に目を丸くするバッカス。
やはり昔ながらのやり方に固執しているようだ。
俺の本職は付与術士だが、探索術士としての役割も果たしていた。
そしてそれは異世界人が開発する便利グッズで代用できる。
そのせいで探索術士の立場が危ぶまれているらしいが、
時代は変わるものだ。それに順応できるかどうかだ。
俺はおすすめのリサイクルショップの地図を渡し、
バッカスは希望に満ち溢れた表情で酒場を後にした。




