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第二悩

BARロベルタ。

伝説的な強さを持つ女傑の名を冠した酒場だ。


それはさておき、異世界から持ち込まれたビリヤードという遊びが

この店でも出来るようになり、これがなかなか面白い。

常連特典として初回無料でやらせてもらったが、

これはもう来店する度にプレーしてしまいそうだ。


ルール説明で実演してくれた店員さんには感謝しかない。

俺は彼女の後ろ姿が好きなのだ。前もいい。


そんな至福のひと時を邪魔する客が来店した。


「よう、リオン 面白そうな事やってんな?

 それってビリヤードだろ? 俺も混ぜてくれよ」


パーティー仲間のライルだ。

そいつは俺の返事を待たずに慣れた手つきでキューを磨き、

店員さんは本来の仕事へと戻っていった。


彼女の後ろ姿をもっと堪能したかったが、

男二人で遊ぶのもまあ悪くはなかった。

経験者の雰囲気はあったが、奴の実力は俺とそんなに変わらなかった。

考えてみれば当然だ。この遊びが実装されたのはつい先月の事だ。


そしてもう一人、招かれざる客がやってきた。


「あの…… 少しだけでいいんです……

 誰かこの子のために食べる物を下さい……!」


そこには夜の酒場に似つかわしくない、年端も行かない少女の姿があった。

この子、というのは彼女が連れている魔物“触手スライム”の事だ。

そのいたいけな姿に心を打たれたのか、ライルは財布に手を伸ばした。


「やめとけ、ライル

 騙されるな あれは演技だ

 一度でも餌付けすれば骨の髄までしゃぶり尽くされるぞ」


「餌付けってお前…… あんな小さい子が困ってるんだぞ?

 たとえ嘘だとしても放ってはおけないだろ……」


すると少女はこちらに駆け寄り、瞳を潤わせながら語りかけた。


「お兄さん! これで最後にしますから、また奢ってくれませんか!?」


「……な?」


ライルは経験者の言葉に納得した。


結局リオンはなすがままに食事を注文し、ついでに自分の分も頼んだ。

天丼。素晴らしい異世界料理がカウンターに4つ並んだ。

箸、箸、スプーン、触手でそれぞれ醤油の効いた米を口に運ぶ。

絶妙な塩気が舌を喜ばせる。サクサクの衣に海老の暴力。

芋、イカ、かぼちゃ…… 異世界人のおかげでその魅力を引き出された食材は多い。


「…つうかお前、たしか逮捕されたんじゃなかったか?

 なんでこんな所にいるんだよ…… 脱獄でもしたのか?」


その質問に少女は答えなかった。

彼女は子供ながらも冒険者ギルドでは有名人であり、要注意人物だった。

どうせまたギャンブルで全額失ったのだろう。いつもの事だ。


「しっかしまあ、こんな小さな子が犯罪者だなんて

 にわかには信じ難い話だよなぁ 具体的には何をしたんだ?」


「詳しくは知らんけど硬貨の偽造で捕まったはずだ

 もう関わりたくないから本当にこれで最後にしろよ?」


「お兄さん…… 私を見捨てるの……?

 両親もお兄ちゃんも死んじゃって、私は一人ぼっちなんだよ……?」


「あのなぁ、その泣き落としは俺には通用しないぞ

 俺もスラム出身だって事を忘れるんじゃない

 騙すならこっちの元貴族をターゲットにしろよ」


「そっちのお兄さん、貴族出身なの…!?」


少女は目の色を変えた。この図太さがあれば長生きできるだろう。


「おい、待てよリオン さっきは止めてくれたじゃないか

 なんで俺を売るような発言をするんだよ……」


「そりゃあ、お前が特上を注文したからだ

 どうせ俺の奢りだと思ったんだろ?

 残念だったなあ!? 自腹で食えよライルさんよお!!」


「リオン……! 俺を嵌めたのか!?

 仲間を裏切るつもりなのか……!?」


「ピスタチオとビリヤードの恨みを思い知れ!

 あと枝豆もなあ!! 俺は執念深いぞ!?」


「ビリヤードは一緒に楽しんでただろ!?」


ライルとはいつもこんなやり取りをしている。

悪い奴じゃないんだが、食い意地が張ってやがる。


「あの、お兄さん…! 持ち帰りを注文してもいいですか?

 実は今、家にお客さんが来てるんです」


「はっはっはー! ライル以外には奢ってやるよ!

 なんでも好きなもん頼んでいいぞ!」


「くっ……! 結局その子の思う壺じゃないのか!?

 目を覚ませ! お前は操られてる! 俺にも奢れ!」


後で思い返せば俺は馬鹿な事をしたと思う。

ライルは自分の金で飯を食っただけだし、

俺は自分含めて8杯の天丼を注文して

今日の稼ぎを全部使い切ってしまった。

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