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第一悩

BARロベルタ。

俺はこの店が気に入っている。

異世界人が持ち込んだJAZZという音楽が店内に流れ、

特に5拍子のリズムが心地良い。


俺はリオン。付与術士だ。

本日の仕事を終え、一杯引っかけにこの店へやってきた。

ここは商人ギルドに近い立地で大人の社交場という空気が漂っている。

冒険者ギルド側にある酒場のような賑やかな雰囲気はない。

それがまた心地良い。静かに飲める場所はこの都市では貴重だった。


「よう、リオン お疲れさん」


その先客は同じパーティーに所属する魔法剣士ライルだった。

今日の後処理を俺に丸投げしたふてぶてしい野郎だ。


「お前、ライル… 途中で逃げ出しやがって……

 あ、店員さん、ビールとミックスナッツお願いします」


ふくよかな体型の店員さんがすぐさま持ってきてくれる。

この手際の良さと、いつまでも見ていられる尻が素晴らしい。

それだからこの店が好きなんだ。


「しっかしまあ、なんで簡単な薬草採取のクエストが

 いつのまにかドラゴン退治になっちまうかねぇ……」


ライルは断りもなしに俺が注文したナッツに手をつける。


「お前…、ピスタチオばっか食うなよ!

 欲しけりゃ自分で注文しろよな!」


こいつはいつもこうだ。

元貴族の癖に食い意地が張ってやがる。

放っておくと枝豆だって半分以上食われる。

油断も隙もありゃしない。


「…ドラゴンなぁ お前もわかってんだろ

 全部テレジアのせいだろうがよ あの脳筋お嬢様よぉ……」


テレジア=フレアローズ。

彼女は公爵令嬢であり、王子との婚約が破談になったのをきっかけに

冒険者としてデビューした異色の経歴の持ち主である。

たった半年で中級冒険者にまで駆け上がった逸材だ。

俺たちのパーティーの中心人物と言っても過言ではない。


困っている人を見過ごせない性格というのは立派だが

それがあまりにも行き過ぎており、不必要なトラブルを抱え込む女だった。

ライルが適切な仕事を引き受け、テレジアが他人の事情に首を突っ込み、

俺が尻拭いをする……それが俺たちの日常になりつつあった。


「──いい加減にしやがれ!!

 お前みたいなクズとはもうやってらんねえよ!!」


他の席で怒号を響かせる男がいた。

見たところ戦士風のリーダーが魔法使いを解雇したようだ。

この店ではよくある光景で珍しくはない。

かくいう俺も追放された経験がある身だ。


「そっ、そんなこと言っていいのか!?

 ぼくのパパは偉いんだぞ!? 言いつけてやるからなぁ!?」


その魔法使いには見覚えがあった。

賢者を自称する駆け出し魔法使いで、その実力を偽って

上級者パーティーに潜り込もうとするエリックという男だ。

冒険者ギルドでは要注意人物としてマークされている。


「…エリックさん こっち来いよ

 あんたいい加減、身の振り方覚えた方がいいぜ?」


彼に気を遣ったわけではない。

ただ静かに飲みたいだけだ。

しょっちゅう彼の追放劇で気分を台無しにされるのは我慢の限界に来ていた。


「えっ、なになに? ぼくの実力をちゃんとわかってくれる人!?

 実はぼくには隠れた才能があるって見抜いてくれたんだね!?

 あ、でも女の子いないね…… それじゃあダメだよ……」


なんなんだよこいつは…。

自意識過剰にも程があるぞ。

しかも女目当てって……。


「はっきり言うが、あんたには見込みがない

 冒険者を辞めて自宅で引き篭もるべきだと思う

 現場に出て来られると迷惑なんだよ」


「なっ……!? なんてこと言うんだよおおぉぉ!?

 パパに言うからなぁ!? 絶対後悔するぞお前ええぇぇ!!」


そう捨て台詞を残して彼は酒場から去った。

いっつも聞いてきた常套句であり「パパ」に報告しているのだろうが、

そのパパさんが後日謝りに来るというのが恒例行事と化していた。


「変わんねえな、あいつ……

 どうせ来週にも同じ事してんだろうなあ」


そう言ってライルがカシューナッツを齧る。

気がつけば皿に残っているのはほとんどアーモンドだけになっていた。

アーモンドが悪いわけではないが、バランスがおかしい。


「お前…、ミックスの意味を考えろよ!

 混ざってんだぞ!? この比率はダメだろ!!」


「はは、悪い悪い

 お詫びに枝豆注文するから勘弁してくれよ

 …店員さん、ビールのおかわり2つと枝豆お願いします」


どうせ半分以上は自分で食べるんだろうなと諦めつつ、

リオンは友人と閉店時間まで飲み交わした。

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