第十悩
BARロベルタ。
素敵な酒、素敵な音楽、そして素敵な店員さんがいる最高の酒場だ。
俺はこの場所が大好きだし、離れる気は一切ない。
「──冒険者リオン、君をメスキア大陸調査団の一員に任命する!」
ふざけるな。
酒場には冒険者ギルド長、ヤンディール国王、チルトランド国王などの
錚々たる顔ぶれが集結していた。
取り囲んでる連中も名の知れた上級冒険者や、
名門貴族やらなんやらで酒場の外まで人が溢れていた。
どうしてこんな事になっているのかというと、
調査団に参加するはずだったメンバーに欠員が出たからである。
魔法剣士アルディン。
美男子として有名で、彼を取り巻く女性冒険者の間で流血沙汰があったらしい。
それを止めるために身を張って重症を負ってしまったそうだ。
命に別状はないそうだが、しばらくは動かせる状態ではないらしい。
冒険者ギルドでは“冒険者ランキング”なる物が存在するらしく、
どういうわけか俺がトップに記載されていたようで
アルディンの代わりとして俺に白羽の矢が立ったそうだ。
非常に迷惑極まりない話だ。
「やっとお前と組めるな! 期待してるぜ!」
戦士アレンが話しかけてきた。歓迎しないでくれ。
「君も器用なタイプらしいね よろしくな!」
アルバイターのアルスだ。うるさい。
「またお前と冒険できるなんて光栄だぜ!」
かつての冒険者仲間、バッカス。複雑な気分だ。
「フフッ 楽しい旅になりそうだよ」
煙のルークだ。気味が悪い。
「やっぱりお兄さんは来てくれると思いました!」
元凶のローラだ。お前のせいだ。
「リオンさん! よろしくお願いします!」
元勇者のアレックスだ。元犯罪者とは思えない好青年だ。
「リオン…… やっぱりわたくしたちは
離れられない運命にあるのかしら……?」
脳筋お嬢様、ドラゴンスレイヤーのテレジア。
これまでの冒険者人生の中で最も付き合いの長い仲間だ。
「よう、リオン ……頼りにしてるぜ?」
唐揚げ横取り野郎のライル。
ここしばらくはお互い避けてきたのに、よく平気で喋れるな…。
かくして俺はメスキア大陸調査団とかいう公共事業に強制参加させられた。
その成否に関わらず、参加した時点で上級冒険者を名乗る資格を得られるそうだが
それこそ俺が最も恐れていた事である。
これからは最強生物のドラゴンを勝手に退治したとしても、
他の上級冒険者パーティーから文句を言われる筋合いがなくなる。
早い者勝ちの世界に踏み込んでしまうのである。
テレジアはドラゴン狩りをやめないだろうし、ライルも同調するだろう。
そして文句を言いつつも連中をサポートしちまう俺自身の性格が恨めしい。
何よりも、この大陸を離れなければならない。
そしていつ戻れるのか確証がない。
俺はここを離れたくない。
悩める俺に一杯のドリンクが差し出された。
緑茶。
異世界人たちが改良に改良を重ね、未だ究極の味に辿り着けていない飲料だ。
俺たちからすると充分に味わい深いものだが、彼らは納得していないらしい。
俺が注文したわけではない。
例の店員さんからの特別な計らいだった。
「リオンさん、おめでとうございます!
大変な任務でしょうけど、無事に帰ってきて下さいね!」
彼女は俺の名前を知っていた。
俺は彼女の名前を知らない。
帰ってきたら勇気を出して聞こうと思う。




