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6 イノシシの次はウサギかよ!

 祭壇の間から地元に戻ったわたしとレイナちゃんはさっそく作戦会議を開きました。


「やっぱ二人で魔王の城に忍び込むのがベストじゃないかな」


「でも……魔王との婚約を破棄したばかりの私を魔族達は目の敵にしております。そこに私が現れでもしたら……」


「ああそうか。そんなんなったら捕虜になっちゃうか、そのまま戦争が始まっちゃうかもしれないよね。うーん……」


 竜族の族長になったばかりで『いやー、魔王城忍び込んだら戦争になっちゃった☆』なんて言ったらみんなにボコられそうだし……。


「……あ。いいこと思いついた」


「え?」


「レイナちゃんは目立つし魔王城に向かうのは危ないからここで待ってて。あとはわたしが何とかするから。他のひとに聞かれたら『ちょっと散歩にいくって言ってました』って伝えておいて」


「え? え?」


 キョトンとしているレイナちゃんをそのままにし、わたしは族長の部屋から外に向かった。


 目指す場所はただひとつ――。





「これはこれは族長どの。こんな場所に何の用――」


「えい! 《魔術消去》!」


「……はい?」


 警備兵に突然の不意打ちをかける。

 究極魔術が発動し、兵士の魔力を全て奪いとった。


「…………ぱたり」


 そしてそのまま気絶してしまった兵士。

 筋肉モリモリのマッチョ兵士があら不思議。

 小さなショタ竜になっちゃいました。


「ごめんね。ちょっとだけ力を借りるね。……返さないかもだけど」


 倒れたショタ竜を抱き起し、監視部屋の中にある仮眠用のベッドに寝かせる。

 そしていちおう文字稼ぎ……こほん。現状の強さを把握するためにステータスを呼び出す。


「ステータスオープン!」



ユー・キハラ LV195

経験値:1247000

職業:無職

特殊能力:等価交換++、技術吸収+、過去の水鏡、ステータスチェック、幸運付与、魔術消去、ぼっち++、飲酒覚醒《極》



「経験値が125万かぁ。やっぱワグナの強さが飛び抜けてるんだなぁ」


 恐らくワグナ以外の竜族はみんなこれくらいの強さなのだろう。

 レイナちゃんはもっと強そうな感じがするけれど。


「でもこれくらいレベルがあれば滅多なことがなければ死なないっしょ」


 そのまま監視室を出て捕虜が捕えられている牢に向かう。


 無数の牢には様々な種族の捕虜が捕えられていた。

 その中で人間族の捕虜を探す。


「はい、注目ー。えー、この中でカレンさんってひといますかー?」


 探すのが面倒くさくなったわたしは目的の人物の名をあげた。

 捕虜達は憎しみの籠った眼差しをわたしに向けるばかり。


 そして数秒の静寂の後、ひとりの女性が口を開いた。


「……カレンは私だ。貴様は……誰だ? 私に何の用だ」


 声のした方に視線を向ける。

 そこには両手両足を頑丈な錠と鎖で固定された女性がいる。

 長い黒髪で顔が隠れていてよく分からないが、スタイルは抜群だし確かにレイナちゃんに近い容姿かも。


「あ、ええと、このたび竜族の族長に強制的に任命されました結城原といいます」


 わたしがそう口を開くと捕虜達が一斉にざわつき始めた。

 ……うん。

 余計なことを口走った感が半端ない……。


「……くく……くくく……」


「?」


「族長自ら私を処刑しにきたというわけか……。くく……くははは! いいぞ! さっさと殺せ! 捕虜として辱めを受けるよりよっぽど良い! さあ、やれ! さっさと殺れ!」


 鎖をガシャンガシャンと鳴らし猟奇的な表情で叫ぶカレン。

 あれ……?

 なんか勝手に勘違いしてる……?


 説明するのも面倒くさいわたしはそのまま牢の錠を外し扉を開いた。

 そしてそのまま彼女を拘束している鎖の錠も解く。


「……あ?」


 唐突に解放されたカレンは口を開いたままわたしをマジマジと眺めている。

 うん。やっぱり綺麗な子だ。

 この子だったら魔王との交渉も問題ないかもしれない。


「わたしと一緒に付いてきて欲しい。悪いようにはしないからさ」


 監視室から持ってきた清潔なタオルをカレンの肩にかけてやる。

 年頃の女の子がこんな不衛生な場所に閉じ込められてたらあまりにも可哀想だ。

 出掛ける前にシャワーも浴びさせてあげよう。

 彼女の持ち物はたぶんさっきの監視室の中に保管してあるだろう。


「……お前は一体――」


 そうカレンが言いかけた瞬間。

 となりの牢に閉じ込められていた一匹の獣族が声を荒げた。


「へいへい、そこの二人! 話は聞かせてもらった! 魔王城に行くんなら、私も連れていきやがれ!」


「……うん?」


 牢にしがみ付き叫んでいるのは、兎型の獣族のようだ。

 どんな悪いことをしたのか知らないけど、用もない捕虜を連れていくわけにはいかない。

 カレンを連れていくのだって、ワグナや宰相達に見つかったら超怒られるだろうし。


「私はタクーボっつうんだ! 魔王の野郎には恨みがあってな! 私をこんな姿に変えた恨みを晴らすまでは死んでも死にきれねぇ!」


「え? 君は獣族じゃないの?」


「違うに決まってるだろ! 頼むから私もここから出してくれ! 魔王城の場所は知っているから道案内くらいは出来るぜ!」


「うーん」


 魔王に姿を変えられたタクーボという兎型の獣族。

 口は悪そうだが、魔王城までの経路はわたしも知らないし……。

 ていうかどうやって魔王城までコッソリ行こうか考えてなかった……


「……よし。ええと、タクーボ君だっけ? 道案内、お願いします」


「マジか! 言ってみるもんだな!」



 カレンに続きタクーボ兎を解放したわたしは、三人揃って監獄をそっと抜け出したのでした――。





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