第6話 理解者
あれから数分後、俺は替えの服を受け取り今はエミリアの部屋でお茶を貰って二人で飲んでいた。
レイシーさんは夕食の買い出しに出掛けている。
ちょっと、いやかなり安心したのは内緒だ。
「……ねぇアル」
「ん? 何?」
「えっとね、さっきは庇ってくれてありがとう」
頬を赤らめ、もじもじとしながらエミリアが礼を言ってきた。
「いやいや、当たり前のことをしただけだし、エミリアに怪我が無くて良かったよ」
「でも、あんなアル初めて見た」
うっ……。
「……ごめん、恐かったよな?」
「ちょっと恐かった……でも、格好良かったよ?」
うわっ、その上目遣いは反則だろ。
しかも格好良かったって……。
「ま、まあつい頭に来ちゃってさ、初めてあんなに怒ったけど」
「えっとね、いつもの優しいアルも格好良いんだけど、いつもと違う所が見れて……ちょっと嬉しいな」
……エミリア、さっきからめちゃくちゃ俺にダメージを与えている。
美少女だから確かに可愛いんだけど、さっきから仕草とか言葉が俺にジャストミートしてる。
何て言うんだっけ? 萌え?
そう、萌えだ。
前の世界では何だよそれって思ってたけど、今になってわかった。
「ありがとな……けど今日みたいなことがこの先もあると思う、俺は他の人と違うからさ」
髪を指差して言った。
「だから、もしエミリアが恐いって思ったら俺とはもう……」
「どうして?」
「えっ?」
「私はアルのその髪と目の色、綺麗で……好き」
「エミリア……」
「だから、他の人がどう思ったって私はずっとアルと一緒にいる!」
真っ直ぐに俺を見ながら、エミリアはそう言った。
嬉しかった。
今まで両親だけが俺の姿を何とも思わずに受け入れてくれていた。
エミリアも確かに受け入れてくれたけど、今日の出来事で距離が出来てしまうのではと思った。
でも、エミリアはずっと一緒にいると言ってくれた。
本当に、嬉しい。
「……あ、ありがとう」
あ、駄目だ。
我慢出来ずに涙が溢れた。
多分、相当ストレスになってたんだろうな。
前の世界と変わらないから気にならないと思ってた。
けど思い返せば初めて家を出た時に向けられたあの不躾な視線にトラウマになりかけたんだから、心の何処かで気にしてたんだ。
「アル!? どうしたの!? 何処か痛いの!?」
「違う……嬉しい、んだ……エミリアが、そう……言ってくれて……」
「アル……」
温かさに包まれた。
エミリアが、俺を優しく抱き締めてくれたのだ。
その温かさに身を委ね、俺はずっと泣き続けた。
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エミリア視点
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初めて、アルの怒った姿を見た。
私の大切な友達で、好きな男の子、それがアル。
見たことの無いまるで夜空の様な黒い髪と目の色、他の人は不気味だなんて言ってたけど私はそう思わなかった。
友達になりたい、近くにいたいと思った。
直ぐに声を掛けて、仲良くなった。
ウィルと友達になったのも同じ頃、私と同じでアルと仲良くなりたいと思ったらしい。
アルは私と同い年なのに色んなことを知っていた。
いつも教えて貰っている計算や、大人が知らないことを沢山。
それにお父さんから剣術を教えて貰っているからとっても強い。
ウィルと打ち合いという剣の練習をしているけど、負けた所は一度も見たことが無い。
今日だって、あの二人を簡単にやっつけてしまった。
でも、そんなに凄いのにちっとも威張ったりしない、いつも優しかった。
ウィルと違って計算が苦手な私に、いつも分かりやすく教えてくれた。
答えが分かって正解した時に褒められて、とても嬉しかった。
最初は憧れてたんだけど、いつからかそれが好きという気持ちに変わった。
だから、アルの言葉を遮って私の気持ちを正直に伝えた。
アルのその黒い髪と目が好きだと、ずっと一緒にいたいと。
その瞬間、アルが急に泣き出してしまった。
慌てた私にアルは嬉しいと言った。
それでわかった。
アルは確かに凄い、だけど私と同じ七歳の子供なんだ。
それなのに今までずっと周りの人から不気味とか言われて、我慢してたんだと思う。
どうしてそうしたのかわからないけど、私はアルを抱き締めた。
アルに聞こえちゃうんじゃないかと思う程心臓が高鳴り、顔も赤くなっているのがわかる。
でも、放さなかった。
アルが泣き止むまで、ずっと抱き締めていた。
私がアルの為に出来ることは、恩返し出来ることは、これくらいしか無いから……。
その後、帰ってきたお母さんに散々からかわれた。
でも何故か不機嫌そうにしてアルのことを見ていたのを不思議に思った。