第70話 成長
二日後、俺達は先日言われた通りにギルドの地下演習場へとやって来た。
Eランクへの昇格試験を受けるのは俺達以外にもそこそこの人数がいる。
更には試験を見に上のランクの者もいるが、先程から視線を感じているから恐らくは俺を見に来たらしい。
見世物じゃないんだけどなぁ……よく見ればフロワさんやオルガ達までいる。
……暇なのだろうか?
ちなみにジュリもその人だかりのいちばん前に陣取って見ている。
「定刻となった、それでは試験を始める!」
試験官であるギルド職員の言葉に、全員が視線を向ける。
「昇格試験の内容は伝えてある通り、一対一の試合形式で行う! 組み合わせに関しては今からくじによって決める、全員前にある箱から一枚ずつ紙を取れ!」
くじ引きって、適当過ぎないか?
まぁ誰と当たっても文句は無いが、出来ればエミリアとアーリアさんとは当たりたくは無いな。
三人で並び、言われた通りに箱から紙を取る。
二つに折られた紙を開くとそこには数字が書いてあった。
「アルファンド君は何番?」
「俺は四番ですね」
「あら残念、私は三番だったわ」
「残念って……エミリアは?」
「私は一番って書いてあるよ」
良かった、仲間内での試合にはならないって事だな。
しかしエミリアは一番、トップバッターになる訳か、緊張しなければ良いけど。
「それでは試験を始める、一番の者から前へ」
エミリアは緊張していると一目見て分かる程に表情が強張っていた。
やっぱり緊張するか、このままだと不味いな……。
「エミリア、緊張しなくても大丈夫だ」
「う、うん」
「エミリアの実力は俺達が一番分かってる、今のエミリアならこの中の他の冒険者には負けないさ」
「そうよエミリアちゃん、貴女ならきっと大丈夫、一生懸命頑張って来たんだから」
「すぅ……はぁ……はい! 行ってきます!」
一度深呼吸をするとそれまでの緊張は無くなり、落ち着き払った表情となる。
渡されていた模擬剣を手に、エミリアは前へと出る。
相手となる冒険者も前へと出て来た。
「両者、剣を構えろ」
互いに向き合い、剣を両手に構える。
大丈夫、エミリアなら、大丈夫だ。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
エミリア視点
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
緊張で体が震え、口が渇く。
アルとアーリアさんは大丈夫って言ってくれた、その言葉で自信は持てるけど、緊張するかしないかは別だと思う。
以前アルに教わった方法、一度大きく息を吸ってゆっくりと吐き出す。
少しだけ震えが治まった。
もう一度それを繰り返して目の前に視線を向ける。
私の相手は、私より年上の男の人だった。
そもそも女の人は私とアーリアさん以外に試験を受けていないから当然だけど、出来る事なら女の人とやりたかった。
いや、それだとアーリアさんが相手になってしまう……いや、その方が断然良かったかもしれない。
知らない人より信用出来る、気の知れた仲間だから。
男の人は剣を肩に当て、笑いながら私を見ている。
……何か、気持ち悪い。
「お嬢ちゃん、そんな怯えて試験が受けられるのか?」
「だ、大丈夫です……」
「運が悪かったな? まぁ痛い思いはさせない様にしてやるぜ? 後で俺の言う事を聞いてくれりゃあな?」
そう言ってニヤニヤと笑う男の人、他の人も何人か釣られて笑う。
やだ……本当に気持ち悪い……。
さっきとは違う意味で体が震える。
「試験の最中だ、あまり無駄口を叩くんじゃない……それでは両者、剣を構えろ」
両手で剣を構えて強く握る。
大丈夫……アルとアーリアさんが言ってくれたんだから……私は大丈夫……。
「それでは、始め!」
「おらぁっ!」
始まるのと同時に男の人が突っ込んで来た。
目の前まで近付かれて剣が振り上げられ、そのまま剣が振り下ろされ……あれっ?
剣は、私に当たらずに地面を抉った。
「な、糞っ! 力み過ぎたな!」
剣をもう一度構えて再び私に振り下ろして来る。
でも私はそれを目で追って、体を少しずらして避けた。
あれ? どうしてだろう?
模擬剣とは言っても、迫って来るのは恐かった筈なのに、落ち着いて目で追える。
そうだ、この人の剣は、アルとジュリに比べたらとっても遅いんだ。
別に自惚れてる訳じゃないけど、この程度の剣なら、いつまでも避けていられる。
避ける私に、男の人は剥きになって何度も剣を振るう、でも私もそれを何度も避け続ける。
ふと視線を周りに向けると、笑っていた他の冒険者が口を開けて驚いていて、アルとアーリアさんは嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そして遠くから私の試合を見ていたジュリは、まるでそれが当たり前だと言う様に不敵に笑っている。
「あ……」
そうか、アルもアーリアさんも、そしてジュリも、分かっていたんだ。
ずっとアルとジュリから特訓を受けて、アーリアさんも直接手合わせはしないけどこっそりと私に剣士を前にした時の心構えや相手の次の一手を視線や呼吸、踏み込みで予測する方法を教えてくれた。
まだまだ私には力不足で予測なんて出来ない、だけどそれをアルに話したらジュリと協力して予測は出来なくても避ける為の"反射神経"と"反応速度"を鍛える特訓をしてくれた。
そのお陰で以前は避ける事すら出来なかったジュリの剣を、偶然ではなく自分の意思で避ける事が出来たのだ。
勿論、全て避ける事は出来ない、それでも数回に一回は確実に避ける事が出来る様になった。
だから、目の前のこの男の人の剣が、私に届く筈が無い。
「糞っ! 何故、何故当たらない!?」
無茶苦茶に振り回される剣、それを全て避け続ける。
「糞っ……糞糞糞っ!!」
今までよりも一層大きく振りかぶったのを見て、私は初めて剣を構えた。
大振りに振るうのは相手に隙を見せるだけ、アルから何度も教わった事。
だから、今がチャンスだと直ぐに分かった。
「やあっ!!」
掛け声と共に振り抜いた剣は、止められる事無く男の人の脇腹を捉える。
模擬剣だから切れはしない、でも痛いものは痛い、私が良く知っている。
だから、目の前のこの人も、同じ。
「ぐえっ……!?」
苦しそうな声を漏らして、男の人はお腹を押さえながらその場に倒れ込んだ。
「それまで! 勝者、エミリア!」
「あ……やった……やった! アル! やったよ!」
直ぐにアルの所に走って行ってそのまま抱き付いた。
「おめでとう、良い動きだったよ、エミリア」
「うん! アル達のお陰だよ!」
「凄かったわよ、エミリアちゃん」
「アーリアさん、ありがとうございます!」
「ふふっ、流石アルファンド君の一番弟子ね、とても成長したわ」
そう言って頭を撫でてくれるアーリアさん。
アルと一緒に行くと決めて、絶対に足手纏いになりたく無いと思ってた。
だから、こうして認めて貰えて、褒めて貰えてとても嬉しい。
まだまだ皆には及ばないけど、一緒にいても恥ずかしく無いくらいにならなくちゃ。
だから嬉しいけど、まだこれが第一歩。
もっともっと、強くならないと!




