第67話 受難
「こんにちはマリーさん」
「あ、こんにちはです」
受付に行くと丁度マリーさんがいた。
どうやら書類を纏めている様だ。
「すみません、今大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫ですよ?」
「アーリアさんが来てると思うんですけど何か知ってますか?」
「えぇ、アーリアさんなら今ギルドマネージャーとお話をしてますよ」
やっぱりそうだったか、前もそうだったみたいだけど何を話しているんだろうか?
気になるけど、流石にそこまで深入りする訳にはいかないか。
「あらマリー、その子って今噂の黒狼の子よね?」
「えっ!? この子がそうなの!? やだ可愛い~!」
「こんなに小さかったのね?」
突然、後ろにいた他の受付嬢達が集まって来た。
珍しい物を見る様なその視線、何か見世物になった気分だ。
「あ、どうも……」
「名前は?」
「可愛い~! ねぇねぇ抱っこしても良い!?」
「何歳なの?」
見事な質問攻め、しかもその内の一人は中々にとんでも無い事を言っている。
愛想笑いで誤魔化すが、どうやってこの状況から抜け出そうか。
「ちょ、ちょっと皆、困ってるから止めてよ」
おぉマリーさん、助かります。
「えぇ~? でもマリーだってこの間弟みたいで可愛い、抱っこしたいって言ってたじゃ~ん」
「わっ、ちょっと!? それは内緒にしててよ!?」
マリーさん? さっきの俺の感謝の気持ちを返して欲しいんですけど?
さて、本格的にどうしよう? 先程からとんでも無い事を言っている一人が確実に距離を詰めて来ようとしている。
「貴女達、何をしてるの?」
後ろから、突然抱き締められた。
後ろに立った事を気付かせない見事な気配の消し方、そして後頭部に当たる柔らかい感触、間違い無いアーリアさんだ。
後ろを振り返るとアーリアさんが絶対零度の視線で受付嬢達を睨んでいる。
「貴女達? 仕事はきっちりやりなさい」
隣からはフロワさんもやって来て集まっていた受付嬢達に同じくこちらは違う理由から冷たい視線を向けていた。
「フロワさん、こんにちは」
「久しぶり、相変わらずアーリアは貴方にべったりみたいね?」
「失礼ね、私だけじゃ無くてアルファンド君も私にべったりよ」
嘘は良くないと思うんですよ俺は。
いつ俺がアーリアさんにべったりしたのか教えて貰いたい。
「お話は終わったんですか?」
「えぇ、ついさっき終わったわよ、アルファンド君は剣を受け取って来た?」
「はい、途中でマイラさんと会って、さっきまでエミリアとジュリも一緒に訓練をしてました」
「……一応聞くけど、訓練って剣の訓練よね?」
「……他に何が?」
「ならいいのよ……ちなみに私とは夜の訓練をする?」
「しません、終わったのなら向こうに皆いますから行きましょう?」
「もういけずねぇ、まあいいわ、じゃあ行きましょうか」
いけずじゃない、その訓練はするつもりは無い。
溜息を我慢しつつ、抱き付いたアーリアさんをそのまま誘導しながら皆の元へと向かうのだった。
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マリー視点
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まるで嵐の様に去って行った二人に、思わず残された私達は呆然と固まってしまった。
「あの、ギルドマネージャー? あの二人って付き合っているんですか?」
集まっていた同期の娘が、皆の疑問を代表してギルドマネージャーに尋ねた。
「……そう思うのも無理は無いわね、でも違うわ」
「「「えぇっ!?」」」
驚く三人、私だって最初は驚いた。
それなら一緒にいた女の子、確かエミリアちゃん、あの子が本命かと思ったけど彼はそれも違うと言ってた。
そしてついこの間、あのギルド所属の冒険者で問題児、狂犬と呼ばれるジュリちゃんを同じパーティーに入れるという偉業をやってのけた。
更にAランク冒険者のオルガさんも彼を大いに気に入っている。
彼には人を魅了する力でもあるんだろうか? そんな疑問さえ抱いてしまう。
「あれはどう見ても恋人同士のやりとりですよね!?」
「結局抱き締めたまま行っちゃいましたよ!?」
「いいな~私もしたいな~」
「わ、私も……」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「あ、い、今のは違うの!」
しまった、つい口に出してしまった。
でも、本当に弟みたいに可愛いと思うんだもん、仕方ないじゃない。
「ほら、いい加減遊ぶのは止めて仕事をしなさい、私はもう戻るから」
ギルドマネージャーはそう言って二階に戻って行った。
その後ろ姿を見送ってから一度大きく溜息を吐く。
「……ほら皆、怒られるから仕事をしよう?」
「……ねぇねぇ、さっきギルドマネージャーと話していた人って片想いかな?」
「えっ? ちょっと仕事……」
「うーん、あの子も気はあると思うけどあれは……」
「多分、他にも気になる娘がいるわね……」
「気になるというか何人も好意を寄せてる娘がいるから迷ってるとか、恐らくそんなとこね」
鋭い、びっくりする程に鋭い。
どうしてそんな事まで分かるんだろうか?
私も気になると言えば気になるけど、本当にちゃんと仕事をしないと今度こそ本格的に怒られる。
「ねぇ! 仕事しようよ!」
「マリーは何か知らないの?」
「あの子の好みとか」
「やっぱり男の子だからおっぱいかな!?」
私の訴えを聞かず騒ぐ三人。
「もうっ! 仕事しようよ!?」
私の叫びは受付だけで無くギルドに響き渡り、周囲の視線を集めてしまった。




