第65話 複雑
オルガの時と同様マイラさんに隙は無く、互いに牽制を続ける。
しかしオルガの時との違いは、間合いが此方の方が広いという事だ。
その為向こうは迂闊に近付いては来ない、そう考えていた。
しかし、その考えは間違いだった。
「はぁっ!」
マイラさんが一気に距離を詰めて来たのだ。
しかもその速さが尋常じゃ無く速い。
「くっ!?」
何とか剣で防ぐが、此方の剣は一本に対してマイラさんの剣は二本、次の一撃が直ぐに繰り出される。
だが避けれない速さではない、身体を思い切り捻って避けお返しに突きを放つ。
しかし速さは向こうも負けていない、俺の突きを身を捻ってかわすと次の攻撃に移る。
そのまま息つく暇も無く攻防を続ける。
かわす、切る、かわされる、切られる、かわす、切る。
全て考える前に反射的に動く。
間合いを取ろうとは考えていない、それは恐らく向こうも同じ筈だ。
それを証拠に先程から立っている位置はどちらも変わっていない。
その時、拮抗が崩れた。
かわし切れなかった一撃が、浅く俺の頬を裂いた。 その代わり、俺の一撃はマイラさんの肩を同じく浅く切り裂く。
一度大きく飛び退くと、マイラさんは追撃をしてくる様子は無かった。
「……速い、ですね」
思わずそう呟くと、マイラさんは苦笑混じりに口を歪めた。
「貴方がそれを言う? 正直こんなに続くとは思わなかったわよ?」
「まあ、速さにはそれなりに自信はありますけど」
「それなりに、ねぇ? 普通の奴らは今の初めの攻防でだいたい勝負がつくのに剣一本で捌かれるとは思わなかったわ、恐いぐらい速いのね」
「それは、褒められたと捉えて良いんですか?」
「勿論よ、それより……魔法は使わないの? 私、魔法の方にも興味があるんだけど?」
「一応剣の確認ですから、使うつもり無かったんですけど……使わないと不味いですね」
「あら? どうしてそう思うの?」
「……まだ、速くなりますよね?」
「……ふふっ、いいわ、なら続きと行きましょうか!」
再びマイラさんが攻めて来る……だが速さが更に上がった。
一気に距離を詰められ肉薄される。
やはりまだ速くなるか、これで魔法に頼ろうとしたら一撃で仕止められてしまう。
だけどそれは詠唱が必要であるならだ。
繰り出される一撃を捌き、魔力を込める。
「ウィンドメイル!」
魔力により巻き起こる風が身体を包み込み、身体が先程よりも軽くなった。
そのまま剣を一閃する。
「っ!?」
驚くマイラさんだが、その一撃は交差された短剣で止められた。
「凄いわね……! 話には聞いていたけど無詠唱で、しかもこんな魔法初めて見るわ!」
「それはどうも……! けど難なく止めるのも凄いと思いますけど!?」
「結構ギリギリだったわ……よ!!」
剣が上に弾かれた。
その力は中々強く、突然だった事もあって反応に遅れてしまった。
弾いた勢いをそのままに、二振りの刃が襲い掛かる。
不味い、剣は間に合わない……それなら!
右膝に魔力を集中させ、風の鎧を一時的に作り上げた。
一か八かの賭けだが、これしか方法は無い。
「らあっ!」
「きゃっ!?」
迫っていた短剣を膝で思い切り蹴り上げた。
流石に無傷とはいかず切り裂かれるがほとんど問題は無い程浅い、一歩踏み出し横凪ぎに剣を振るった。
「貰った!!」
「甘いわよ!!」
交差する剣、そして決着が着いた。
俺の一撃は、マイラさんの首筋に届くか届かないかの所で止まっている。
そしてマイラさんの剣もまた、俺の首筋に当てられていた。
「……俺の、負けですね」
「惜しかったけど、そうね」
俺の剣は、マイラさんのもう片方の剣により止められていた。
ギリギリの所で防がれたのだ。
「はぁ、参りました」
剣を降ろすとマイラさんも剣を引いた。
悔しかったが負けは負け、あと一歩及ばずだ。
剣を鞘に納めるとエミリアとジュリが駆け寄って来た。
「アル! 大丈夫!?」
「大丈夫だよ、掠り傷だけだから」
「アル様、やはりアル様は素晴らしいです! 速すぎて目で追えなかったです!」
「いや、結果負けたし……」
騒ぐ二人を宥めながらヒールで傷を治しているとマイラさんがどこか浮かない顔をしていた。
「どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも無いわよ……強いとは聞いてたけど、こんな僅差でしか勝てないなんてBランクとして自信無くすわ……」
そう言って頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
何だかマイラさんの所だけ空気がどんよりしている気がする。
「いやいや、僅差でも無いと思いますよ? 完全に俺の負けですから、マイラさんは強いです」
「情けなくなるからフォローの言葉はやめてぇ!!」
本格的に泣き出したマイラさんに、何と声を掛けて良いのか分からず三人で顔を見合わせた。




