第57話 それは本心から
「それで? 私のいない間にいつの間にかいるそれは何なの?」
その子ではなく"それ"と言ったアーリアさんはジュリを面白くなさそうに見ている。
あれから俺達は周囲の野次馬から逃げる様に演習場を後にして一階へとやって来た。
何故かエミリアは警戒する様にジュリを睨みながら俺の腕を取ってくっついて歩き、対するジュリはその視線を流しながら俺の直ぐ隣を歩く……正直歩き辛い。
そして空いていたテーブルに座ってアーリアさんが戻ってくるのを待ち、やって来たアーリアさんが俺の隣に座るジュリを見て先程の言葉となるのだが。
「とりあえず今すぐアルファンド君の隣から移動しなさい、そして私に譲りなさい」
「いや、そんな事より他にあるんじゃないですか?」
「むぅ……」
俺の言葉にアーリアさんは頬を脹らませる。
しかしジュリは渋々とだが席を立ち上がると俺の向かいの席に移動した。
途端に俺の隣に来て場所を陣取るアーリアさん、何だか大人げないな。
「……それで? 貴女は?」
ようやくアーリアさんが俺の望んでいた会話を始めた。
話を振られたジュリは背筋を伸ばしてアーリアさんに向き直る。
「私はジュリ、Eランク冒険者よ」
「ふぅん……それで? そんな低ランク冒険者が私達に何の用なのかしら?」
「っ……! た、確かに私はまだEランクだけどあんただってFランクじゃないの!?」
まるで興味を示さないアーリアさんの言葉に、ジュリは椅子から立ち上がって猛抗議する。
俺とオルガの戦いを見ていたのならオルガを止めたアーリアさんの実力がわかっていると思うのだが、どうやら無駄に高いプライドがそれを許さなかったらしい。
しかしアーリアさんはそんなジュリを冷めた目で見ているだけだった。
「そうね、だけど私は貴女より強いわよ? 貴女が気付かない内にその首を撥ね飛ばせるくらいには」
そう言ったアーリアさんの目に何かを察したのだろう、ジュリは口を閉じて座り直した。
額からは一筋の汗が流れている。
横目でアーリアさんを見ると、僅かだが魔力が立ち上り小さな風の渦が頭上に作られている。
あぁ、これは確かに口を閉じる筈だ。
「物分かりの良い子は嫌いじゃないわ、それより貴女がアルファンド君達と何があったのか聞かせて貰えるかしら? 貴女が言いにくいなら二人から直接聞くけど?」
表情は笑みを浮かべながらも目は全く笑っていないアーリアさんの問いに、何とも気まずそうに俯くジュリ。
まあそうだよな、エミリアに喧嘩を吹っ掛けて怪我をさせ、それを俺に見付かって殺され掛けましたなんて説明、誰だって出来ないだろう。
そんな様子を見かねてエミリアが控え目に口を開いた。
「あの、アーリアさん……元は私が原因で……」
「エミリアちゃんが? どういう事?」
エミリアはジュリを、そして俺を見ると話し始めた。
話を聞く内にアーリアさんの表情は段々と厳しいものに変わって行く。
そして話が終わった頃には鋭い目でジュリを睨み付けていた。
「……成る程ね、一応アルファンド君がそれ相応のケジメをつけたみたいだけど、それで私が許すとでも思ったのかしら?」
そう言った途端、アーリアさんから僅かだが殺気が放たれた。
「ひっ……!!」
体をびくりと震わせるジュリ、エミリアがあたふたとアーリアさんとジュリを交互に見る。
「私はね、二人の事をとても大切な仲間と思っているの、そして私は大切な人を傷つけられるのが何よりも許せないのよ」
「っ……本当に、ごめんなさい……」
「謝って済む問題じゃないのはわかっているわね? もしアルファンド君が駆け付けるのが遅れたら、エミリアちゃんは大怪我……下手をすれば命に関わっていたのよ?」
アーリアさんの言う通りだ。
だからこそ俺はジュリを殺そうとした、エミリアに止められなかったら間違い無くだ。
だから俺はアーリアさんを止める事無く、黙って成り行きを見ていた。
「本当なら今すぐにでもその首を撥ね飛ばしたい所だけど、エミリアちゃんはそれを望んでいないのよね?」
「あ、だ、駄目です! 私は、もう気にしていないですし、彼女も反省してるんですから!」
「……エミリアちゃん、貴女は少し、いいえかなりお人好しが過ぎるわよ?」
「それは……! 自分でも、わかっています。 でも、彼女が言った事は事実で、私みたいに弱い癖にアルやエミリアさんと一緒にいるなんて……」
「エミリア、いい加減にしろよ?」
エミリアとアーリアさんの会話を遮り、俺は口を開いた。
黙っていようと思ったが、もう我慢の限界だ。
「弱い癖に? 誰がそんな事を決めたんだよ? そんな事決められる筋合いなんて無いしエミリアは弱くなんて無い、それに俺はエミリアにはずっと一緒にいて欲しいんだよ、それともエミリアは一緒にいるのが嫌なのか?」
「そんな事無い!!」
エミリアが発した大声に、受付や周りのテーブルにいた冒険者からの視線が集まる。
「私はアルとずっと一緒にいたいよ!? だけど、私はアルやアーリアさんみたいに強く無いし、一緒にいても足手まといになるだけなの……」
「足手まといなんて誰が言ったんだよ? それに強く無いだって? それは違う、俺はあの時のエミリアの言葉に救われたんだ……エミリアは弱くなんて無い、とても強い俺の大切な仲間だよ」
それは俺の本心からの気持ちだ。
あの時、エミリアの家で言われた言葉に救われた、だから俺は恩返しの為にこれから先エミリアを守ると決めたんだから。
「だからそんな事言わないでくれ、俺やアーリアさんはエミリアの事をそんな風に思わないし、これから先もずっと一緒にいて欲しいんだよ」
「アル……」
「俺だって最初から何でも出来た訳じゃ無いんだから、エミリアもこれから頑張ればいくらでも強くなれる、俺に出来る事なら何でも教えるから一緒に頑張ろう? いつまでも俺は一緒にいるからさ」
「っ……アル!!」
突然エミリアが抱き付いて来た。
目には涙を浮かべてはいるが、それは嬉しさからだろう事は表情を見ればわかる。
抱き付いて来たエミリアの背中を優しく撫でてやった。
「アル……ありがとう……ありがとう……!!」
「大丈夫だよ、大丈夫」
そのまま撫でていると、周りから段々と拍手が鳴らされた。
ふと我に返って周りを見ると、他の冒険者と受付嬢達が俺達を見て微笑ましいものを見る目で拍手を送っていた。
おっと……これはちょっと目立ち過ぎたか……?
「……アルファンド君? エミリアちゃん? 随分と見せ付けてくれるわね?」
隣からいつもより数段低い声が掛けられた。
視線を向けると、アーリアさんがジト目で俺達を見ていた、というか睨んでいた。
そして向かいのジュリはどこか羨ましそうな目でエミリアを見ている。
……アーリアさんはいつもの事だからわかる、だが何故ジュリまでそんな目をしているんだ?
混乱する俺を他所に、周りからの拍手は鳴り止む事無くギルドに暫くの間鳴り響くのだった。




