第43話 頑固な鍛冶職人
通りを大分奥まで来た所まで足を進めると、周りの店が賑わいを見せる中で誰も立ち寄っていない店があった。
あぁ、やっぱりこういう所もあるんだな、そりゃこれだけ競争率の激しそうな通りで全ての店が繁盛する訳無いか。
「相変わらずね……アルファンド君、エミリアちゃん、ここがそのお店よ」
……何だって?
思わず耳を疑った。
そんな馬鹿な、ここが、アーリアさんの言ってた店なのか?
もしかして最近になって客足が遠退いたとか……いや、今アーリアさんは相変わらずと言ってた。 つまり昔からこんな感じなのか。
不安しか感じないのだが、アーリアさんと共に店の扉を開いた。
「おぉ……」
「うわぁ……沢山ある……」
思わず俺とエミリアは口を開けたまま店内を呆然と眺めた。
店の中は壁一面に様々な武器や防具が掛けられており、置いてある棚にはびっしりと他の商品が並んでいた。
しかし何でだ? こんなに品揃えが良さそうなのに誰も客が来ていないのは。
「何だ、冷やかしに来たならさっさと出てけ」
二人できょろきょろと見回していると、奥から低い声でそう言いながら男が出てきた。
特徴的な長い髭、背は低いががっしりとした体つき、初めて見るがドワーフの男だった。
つうか客に対して何で喧嘩腰なんだよ……あ、だから誰も来ないのか?
「店は相変わらず繁盛してないみたいね」
「何だとてめぇ……ってお前、アーリアか!?」
アーリアさんをギロリと睨む男だったが、顔を見た途端に表情が驚きに染まった。
「えぇそうよ、久しぶりねダグ」
「こいつは驚いた! いつ戻って来たんだ!?」
「昨日よ、また冒険者になるから買い物をしに来たの」
会話を聞いていると二人が旧知の仲だと直ぐにわかった。
先程までの喧嘩腰が嘘の様に饒舌に話すドワーフの男、ダグさんって名前だったか? 来る客にその饒舌を聞かせてやればもっと繁盛するのでは?
「今日来たのは買い物もそうだけど、彼の剣を直して欲しいのよ」
「この坊主の剣を?」
ダグさんはその言葉に俺を真っ直ぐ見つめて来た。
鋭い眼光に一瞬緊張する。
「悪いが、俺は実力のある奴しか依頼は受けない、いくらあんたの頼みと言っても……わかるだろ?」
「えぇ勿論知ってるわ、その上で頼んでいるの」
「あぁ? つまりこの坊主にそれだけの実力があるってか? 冗談はよせアーリア、こんな坊主にそんな実力ある訳無いだろ?」
「むっ……アルは強いんだから!」
ダグさんの言葉にエミリアが声を荒げた。
「嬢ちゃん、そんなに言うならこの坊主の実力を見せてみろや」
ふむ、つまり実力をわかってくれれば剣を直してくれるって事だな?
でもどうやって見せればいいのだろうか?
「あの、具体的に何をすれば?」
「そうだな、ならこいつでどうだ?」
そう言ってダグさんは俺に手近にあった、元は槍だったであろう途中で折れた最早ただの棒を投げて寄越した。
とりあえずそれを掴んだが、どういう事だ?
そんな疑問を抱く俺を他所に、ダグさんは一本の槍を手に取った。
「そいつでこの槍を切ってみろ、それが出来ればお前の実力を認めてやるよ」
「ちょっとダグ? いくら何でもそれは無いんじゃないの? 折るんじゃ無くて切れだなんて」
アーリアさんが低い声でダグさんに言うが、全く気にした様子も無く俺を見ていた。
成る程、つまり俺は子供だからって舐められてるって事だな?
こんな棒切れで切れる訳が無い、初めから俺の剣を直す気は無いと。
成る程ね、ふーん……うん、ちょっと頭に来た。
「まあこれくらい出来ねぇなら大したこと無いんだろ? 諦めて別の所にでも行くんだな……」
手にした棒を一閃、正確にはもう一度切り返して二度振るった。
突然店内に響いた風切り音に、三人は目を見開く。
そして一拍置いてから槍が半ばから切れて床に甲高い音と共に落ち、ダグさんの履いているズボンのベルトが金具ごと切れた。
突然の事に口をぽかんと開けるダグさんに微笑みかける。
「これで俺の実力がどれくらいかわかって貰えたと思いますけど、どうでしょうか?」
俺の言葉に、ダグさんはしばらくの間何も言えずに手にした半分の長さになった槍と途中で切れて最早使い物にならなくなったベルト、そして俺の顔を交互に見ていた。
「いや、本当にすまなかった」
深々と下げられた頭に、俺は手を横に振った。
「そんな事ありませんよ、ダグさんの反応が当然ですし、槍はともかくベルトまで切ってしまってすみませんでした」
「いやいや、ベルトなんてどうでもいいんだ。 お前なら俺の首だって取れた筈だろう?」
いや、別にちょっとキレてしまっただけだし、流石にそんな事で命までは取らないって。
「だから言ったじゃない! アルは強いんだから!」
うん、エミリア? どうして君が胸を張って偉そうにしてるのかな?
「えっと、それで剣の方は直して貰えますか?」
「勿論だ! お前程の実力の奴ならいくらでも直してやる!」
「良かった……これなんですけど」
そう言って俺は剣を鞘に納めたままダグさんに手渡した。
ダグさんは剣を受け取ると鞘から抜き放ち、折れた刀身を鋭い目付きで眺めた。
「……こいつは良い剣だ。 だが何をすればこんな見事に折れるんだ?」
うっ、やっぱり聞かれるのか、隠してもしょうがないから正直に昨日の出来事を事細かに話した。
話しを聞く内に、段々とダグさんの目が見開かれて行く。
「つう事はお前、Aランク相手に喧嘩を売ったのか!?」
「売ってません! ただちょっと成り行きというか、興味本位というか……」
「とやかく言うつもりは無ぇけどよ、聞いた事無ぇぞ? 冒険者になったその日にAランクに喧嘩を売るなんて」
「だから違いますって、でも考えが甘かったのは事実ですね、俺の実力不足で剣がこんな事になったので」
「アルファンド君? 昨日も言ったけど貴方は全然実力不足なんかじゃないわよ?」
うーん、アーリアさんはそう言ってくれるけど、俺としてはやはり納得いかないんだよな。
「だがそれを聞いて益々気に入った! 見上げた根性だ! よし、この剣は俺が責任を持って直してやる!」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
直して貰える、それを聞いて安心した。
ダグさんに、俺は深々と頭を下げるのだった。




