第41話 それは夜の中で
部屋へと戻った俺を部屋着に着替えた二人が出迎えた。
二人ともどこか不機嫌そうな表情だが、こればかりは譲れない。
「……じゃあ俺も着替えるか」
二人からの視線から逃げつつ、俺も荷物を纏めながら着替えを取り出す。
こういう着替えの時男って楽だなとつくづく思う、女性と違って恥ずかしい事も無いしある程度気にせずに脱げるし、アーリアさんは別としてだけど。
それにこっちの世界はそんなに服装に気を遣わなくてもいいという点でも楽である、下はそのままで上着だけ着替える。
「もう一枚……」
「アーリアさん?」
「……何でも無いわ」
笑いながら低い声で言うとアーリアさんは目を逸らした。
別にそのままでいいし、いくら何でも女性の前で下まで脱ぐ訳が無い。
アーリアさんは残念そうだがそれでも俺の上半身をガン見している、エミリアも顔を赤らめながらチラチラと盗み見る様にしてるし。
どちらかと言えばエミリアの反応の方が初々しくていいかな……っていかんいかん、そんな考えをしていたらアーリアさんと変わらない。
駄目だな、俺の中でのアーリアさんの印象が変態になってる、少し前までは尊敬出来て頼りになる格好良い師匠だったのに。
いや今でも尊敬してるし頼りになるんだけど、性格が残念過ぎる。
もっとおしとやかな感じだったら幾分かは……これ以上は考えないでおこう。
その後着替えを終え、三人で一階に向かって夕食を取った。
夕食はパンとたっぷりの野菜が入ったシチューの様な料理だった。
どうやらこの宿の食事は日替りで女将さんが献立を考えているらしく、何と言うかお袋の味と言えばいいのだろうか? 優しい味でとても美味しかった。
他の客が満足そうな表情をしていたのも理解出来る。
夕食を取った後は部屋に戻り、今日は早めに休む事にした。
暗くなった部屋のベットの上で横になりながら、俺は今日一日の事を思い返していた。
やっと冒険者になれた事、魔剣士の称号を手に入れた事、そしてオルガに負け剣を折られた事。
恥じる事は無い、そう言われたが悔しさだけがあれからずっと胸の中で渦巻いていた。
殺しは無しだった事を踏まえても、オルガと違って俺はずっと本気だった。
それなのに、オルガにまるで歯が立たなかった。
経験の差、それが一番大きな違いだろう。
オルガと違って俺はまだ子供だ。 精神的には大人だろうけども、それだって戦闘に関しては素人同然である。
経験を積む、それしか方法は無いか……額を押さえながら小さく溜息を吐く。
その時、隣から何かが動く気配がした。
アーリアさんか? 一瞬身構えるが、気配がしたのはアーリアさんの寝ているベットからでは無かった。
つまりは……。
「アル……まだ、起きてる……?」
エミリアが、小さな声で尋ねて来た。
「エミリア? どうしたんだ?」
「あ、あのね、えっと……一緒に寝ても、良い?」
思考が止まった。
一緒に寝る? 何故? 同じベットで?
一瞬何を言ってるんだと叫びそうになったが、ふと旅の途中の事を思い出す。
そういえば、ずっとエミリアは眠る時に俺の傍で寝ていた。
膝枕だったり、直ぐ隣でだったり、それは何故か?
その疑問は、うっすらと見えるエミリアの顔を見れば簡単だった。
そうだ、エミリアはまだ子供、いくら一緒に旅をする事を決意したと言っても、自分の知らない土地に来て不安なのだ。
「だ、駄目……だよね……」
「いいよ、ほら」
少し体を横に移動させ、スペースを空ける。
途端に表情をパアッと明るくさせながら、エミリアがベットに入って来た。
隣で横になるエミリアの頭を、優しく撫でてやる。
「ごめんね、アル……」
「大丈夫、エミリアが眠れるまで起きてるから」
「うん、ありがと……」
そう言うと、エミリアが体を寄せて来る。
温もりを感じる事で安心したのか、直ぐに小さな寝息を立てて眠りに就いてしまった。
そっと撫でていた手を離し、少し体を離そうかと思ったが出来なかった。
撫でていた方とは逆の手を、エミリアはしっかりと抱き締めていたのだ。
その行動に思わず笑みが浮かぶ。
諦めてそのまま天井を仰ぎ見る。
「……今日は、徹夜かな」
腕に当たる柔らかい感触からなるべく意識を遠ざけながら、俺は諦めて天井を隅々まで観察する事にした。
翌朝、起きたアーリアさんが俺の隣で眠るエミリアを見て半狂乱になりながら『狡い! 羨ましい! 私だって我慢したのに!』等と騒いだのは言わずもがな。




