第40話 宿
「着いたわよ」
パンケーキを食べ終え、暫く歩いた所でアーリアさんが足を止めた。
それ程大きくは無いがここが宿らしく、看板には『そよ風の憩い亭』と書かれている。
うん、いかにも寛げそうな宿らしいネーミングだ。
早速中へ入ると入口の直ぐ近くに受付と階段、奥には食事を取る為だろう幾つかのテーブルが置いてあった。
テーブルには既に数人の宿泊客がいて食事や酒を楽しんでいる。
受付へと向かうと四十代程の女性が笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、宿泊ですか?」
「えぇ、ギルドでこの宿を紹介されたの、長期の宿泊を希望するわ」
「かしこまりました、長期滞在ですと一ヶ月からになります。 代金は先払いで一人90000ギルですがよろしいでしょうか?」
90000ギル、結構高い……いや、宿泊だけじゃなくて食事も付くだろうから安いのか? 単純計算で一泊食事付きで3000ギルだから格安だな。
でもお金はアーリアさんが支払う訳だし俺がとやかく言う権利は無いけど。
「構わないわ、じゃあ先払いで三人分ね」
アーリアさんが女性に三人分の代金を支払う。
「あ、申し訳ありません、お部屋は何部屋ご用意しますか? 部屋数によっては代金が変わりますが……」
そりゃそうか、流石に一人一部屋でその金額は宿が破産してしまう。
普通に考えて二部屋、男女で別れるだろう。
「それなら一部屋でお願い」
「えっ!?」
思わず大きな声を出してしまった。
受付の女性とアーリアさん、エミリアが驚いて俺を見る。
「どうしたのアルファンド君?」
「あ、いや、流石に同じ部屋はちょっと……」
「私は構わないわよ? それに少しでも節約しないと、お金が無尽蔵って訳じゃないんだから」
「うっ……」
そう言われると何も言い返せない、俺とエミリアは無一文な訳でアーリアさんしかお金を払えない。
そんな状況で、部屋を分けてくれなど言える訳が無い。
だけど俺だって男で、こんな綺麗な女性二人と同室なんて生殺しと同じだ。
いや、別に何もしないけど、逆に考えれば何も出来ないって事なんだけど。
「アル? 同じ部屋じゃ、駄目なの……?」
そしてここでエミリアの涙目攻撃、これはもう……断れない。
「……大丈夫、です」
いいさ、我慢出来なくなったらトイレとか風呂場とか、一人になれる場所ぐらいあるさ……何をするのかは言わない、年頃の男には色々と事情があるんだ。 あるったらあるんだ!
「あ、ちなみにキングサイズのベットがある部屋があったらその部屋に……」
「ベットが二つ以上ある部屋で!!」
先程よりも数倍大きな声でアーリアさんの言葉を遮った。
目の前にいる女性が驚いて目を見開き、奥に座っていた宿泊客の視線が俺に集まったが気にしていられない。
これだけは、譲れない。
「うわぁ! 広い部屋!」
エミリアが部屋に入って開口一番にそう叫んだ。
三人一部屋にしては確かに広く、ベットはきちんと三つある。
しかもちゃんとキッチンもあって自炊も出来る様になっているし日当たりも良く、掃除が隅々まで行き届いていて綺麗な部屋だった。
本当にこれで一泊3000ギルなのかと疑ってしまう程だ。
エミリアが興奮を隠せずにベットに飛び込んで行く。
「エミリア、はしゃぐ気持ちもわかるけど先ずは荷物を置いて、着替えてからにしなよ」
「はーい!」
ベットに横になったまま無邪気な笑顔で手を挙げるエミリア。
うわ、ヤバい、今の凄く可愛かった……。
今日からずっと同じ部屋だけど、大丈夫かな俺?
「アルファンド君の言う通りね、先ずは着替えましょうか」
言うや否や、アーリアさんはポーチ等の荷物を置き、中から着替えを取り出す。
そしていきなり服を脱ぎ始めた。
うん、何をしているんですか?
「ちょっとアーリアさん!!」
「何かしら?」
「着替えるなら言って下さい! 俺一度部屋の外に出ますから!」
「気にしなくても大丈夫よ?」
「気にします!」
会話の最中も着替える手を止めない辺り、アーリアさんの俺に対する羞恥心は微塵も無いのだと伺える。
「これくらいで気にしていたらこれから先辛いわよ? 慣れていかないと」
慣れてたまるか! ただでさえ同じ部屋というだけでも色々と辛いのに、こんな事が毎日続いたら俺の理性が持たないわ!
「わ、私も、着替えようかな」
エミリアがベットの上でやや恥ずかしがりながらも服を脱ぎ出した。
その際横目で何度もアーリアさんを伺っている。
変な所でアーリアさんに張り合わなくていいよ! 恥ずかしいならやめなさい!
「っ……俺、一度外にいますから!」
二人から目を背けながら俺は部屋から急いで退散した。
どうしよう、これから先、不安しか無いんだけど……。
部屋から出た俺は後ろ手に扉を閉めて重い溜息を吐いた。
「あらあら、大変そうねぇ」
いつからいたのか、廊下に受付にいた女性、先程話を聞いたらこの宿の女将さんが口元を隠しながらクスクスと笑っていた。
そしてその後ろには一階で食事を取っていた宿泊客の大半が集まっていた。
……誰か、助けて。




