第38話 決意
アーリアさんは迫り来る柄を魔法により弾き、手にした短剣をオルガの首元へと押し当てていた。
「これ以上続けるというのなら、私が相手になるわ」
「……強者と戦うのは歓迎するが、こりゃあ相手が悪いな」
表情は変わらずに笑みを浮かべてはいるものの、額からは一筋の汗が流れている。
オルガは斧槍をポーチに戻すと降参の意を込めて両手を挙げ、それを見届けてからアーリアさんは短剣を引いた。
「……あんた、何者だ? 只者じゃねぇな」
「私はこの子と同じ、今日冒険者になったばかりの新入りよ」
「はっ! あんたが新入り? あんたといいこの坊主といい、面白い新入りが二人も入ったって事か、こりゃあ楽しみだ!」
豪快に笑うオルガに、アーリアさんは冷たい視線を向けて黙っている。
「おぉ、おっかねぇな……坊主、アルファンドだったな? 悪かったな、剣を使い物にならなくしちまって」
「……いえ、俺が、まだ弱かったから、未熟だったから悪いんです」
「弱い事の何が悪い? お前にはまだ先がある、いずれは強者になるだろう」
オルガの言葉に俺は何も言えず、刃の無い剣を手にただただ黙るしか出来なかった。
「……さてと、これ以上いると怒られちまうからな、俺は帰らせて貰うぜ」
アーリアさんからじわじわと滲み出した殺気に、オルガは慌てて俺に背を向けると野次馬の集まる出口へと逃げる様に駆けて行った。
「アルファンド君、大丈夫?」
「……はい、ありがとうございます」
「怪我を見せて」
俺の頬に手を当ててアーリアさんが覗き込む様に顔を寄せて来る。
「光よ、傷付く者に施しと癒しを与えたまえ、ヒーリング」
頬に触れたアーリアさんの手から淡い光が放たれ、顔の傷が瞬く間に消え失せた。
「アルファンド君、何を考えているの? いくら何でもAランク相手に、私が来なかったら大怪我どころか命に関わっていたわよ?」
「……すみません、でした」
責めている訳では無いのは表情を見ればわかる、しかしアーリアさんの一言一言が重くのし掛かる様に感じた。
でも確かに、考えが甘かった。
あの四人は簡単に蹴散らす事が出来たから、Aランクを相手にしても互角とまではいかなくてもそれなりに渡り合えるのでは、そう考えていた。
しかし実際はどうだ? 最初はオルガが手を抜いていたから互角と思ったが、本気を出した途端に手も足も出なかった。
ましてや大事な剣を……。
「……アルファンド君、行きましょう」
俯く俺の手を引きながらそう言ってアーリアさんは歩き出す。
折れた剣を鞘に納め、俺は手を引かれるままに歩いた。
階段に集まっていた冒険者達の視線を感じながら、俺は演習場を後にするのだった。
ギルドを出て俺達は大通りを歩いていた。
あの後エミリアと合流したが、エミリアは俯く俺を心配そうな表情をしながら隣に寄り添っている。
「あの、アル? 大丈夫……?」
控えめに尋ねて来るエミリア、駄目だな俺、エミリアに心配を掛けさせるなんて。
「ごめん、大丈夫だから」
「本当に……?」
「うん、心配してくれてありがとな」
誤魔化す様にエミリアの頭を撫でた。
途端に顔を赤くしながらもご満悦の表情を浮かべるエミリアから視線を外し、アーリアさんへと視線を向ける。
「アーリアさん、すみませんでした」
「謝らなくていいのよ、でもいくらアルファンド君が強くても本当に心配したんだらね?」
「はい……」
「でもさっきのアルファンド君、格好良かったわよ」
クスクスと笑みを浮かべるアーリアさんに、俺は恥ずかしさから顔を俯かせた。
格好良かったって言われても、俺にとってはかなり格好悪い姿を見られたとしか思えないんだよな。
「でも俺、負けましたから」
「何言ってるのよ? 貴方は今日冒険者になったばかりなのよ? それなのにAランク相手にあそこまでやりあってしかも本気を出させた、それがどういう事かわかるかしら?」
「えっと、つまり?」
「私も元Aランクだからわかる事だけど、格下の冒険者にはよく絡まれたわ。 特に私は女だからって弱く見えたみたい、でもその度に返り討ちにしていたんだけど格下は所詮格下、本気を出すまでも無かったわ」
アーリアさんに絡む奴がいたのか、何て命知らずな……って、俺もそいつらと変わらないか。
「それなのに貴方は本気を出させた、つまり貴方にはそれだけの実力があるって事よ? 確かに貴方は負けたかもしれない、だけどそれを恥じる事は無いわ」
恥じる事は無い、か……。
アーリアさんの話を聞けば、確かにオルガに本気を出させたのは凄いのかもしれない、だけどやっぱり勝ちたいよな……。
「……納得は出来ないでしょうけど、それが事実よ。 剣の事は気の毒だけど」
「……はい」
そうだ、先ずは剣をどうにかしないと……この剣は大切な物だ。 だから、出来る事なら加治屋を探して治して貰いたい。
そして、次は絶対に折られない。
もっと、強くなる。




