第37話 Aランクの力
二階に行く階段とは別に、地下へと続く階段があった。
階段を降りると、とても地下とは思えない巨大な空間が広がっており、一目でここが演習場であるとわかった。
その中央までやって来ると目の前を歩いていたオルガが立ち止まる。
「それじゃあ始めるか!」
そう言うとオルガは腰のポーチを開け、中から武器を取り出した。
こいつも、マジックポーチを持っているのか……。
オルガがポーチから取り出したのは、自らの体躯と同じくらい長い柄と先端に鋭く光る巨大な刃。
確か、斧槍って言うんだったか?
名前の通り、斧と槍を合わせた形の武器だが、その実用性は高く切る、突く、払うといったそれぞれ斧と槍の長所を合わせた物だ。
しかしその分扱いは難しく、使いこなすには高い技術が必要となる武器だった筈。
オルガは手にした斧槍をまるで軽い棒切れを振るうかの如く軽く一閃させた。
「さてと、やる前に確認だ。 ある程度の怪我なら魔法で治せるから多少本気でやる、だが殺すのは無しだ」
「……わかりました」
オルガに対し、俺も剣を抜いて構える。
「……良い面構えだ」
オルガもまた、斧槍を構え俺を見据えた。
しばしの沈黙が流れる。
……こいつ、ただ突っ立っている様に見えるが隙が全く無い。 迂闊に飛び込むのは危険だ。
別に暑い訳でも無いのに、額から汗が流れる。
確かに危険だけど、このままじゃ埒が開かない……なら、俺から仕掛ける!
一瞬体を沈ませ、一気に踏み出し間合いを詰めた。
小手調べ何て出来ない、だから最初から本気で行く!
オルガが驚きで目を見開く、自分でもかなり納得の行く速さだと感じたがオルガにとってもそうだったらしい。
剣を下段に構え、剣気を纏わせる。
「はあっ!!」
狙うのは、首。
殺しは無し、そうオルガは言ったが殺す気で行かないと不味いと感じたのだ。
その選択が、正しいのか誤りなのかわからなかったが、どうやら正しかった様だ。
俺の剣の一撃を、オルガは”片手”で受け止めたのだ。
「おいおい、殺しは無しって言ったじゃねぇか……よっ!!」
片手のまま、オルガは斧槍を渾身の力で振り抜いた。
だが片手にも関わらず、俺の体は後ろへと吹き飛ばされる。
何だよこの馬鹿力は!?
「今度は俺から行くぞ!」
そう言うと、吹き飛ばされる俺に向かってオルガが突っ込んで来た。
速い……!
地面を思い切り蹴って無理矢理後ろに飛ばされる勢いを殺す。
その時には、既に目の前にオルガが斧槍を構えている。
まともに打ち合ったら部が悪い、なら……。
凄まじい轟音と共に迫る斧槍を身を屈めて避ける。
髪が数本切れて宙を舞う。
しかしオルガの攻撃はまだ続いていた。
振り抜いた斧槍をそのまま回転させ、柄による全力の突きが繰り出された。
「っ……らあっ!!」
迫り来る柄の一撃を、剣で全力で弾いた。
眼前に迫っていた柄はそのまま狙いが逸れて俺の顔の直ぐ横を通り過ぎる。
柄を横目で見送りながらそのまま剣を返し再びオルガへと切りかかるが、オルガは軽く体を反らし俺の一撃を簡単に避けた。
……この野郎、これならどうだ!?
片手をオルガに向けて魔力を込める。
「ウィンドショック!」
風の衝撃波がオルガの土手っ腹にぶち当たる。
「ぐおっ!?」
まともに受け慌てて後ろに距離を取るオルガ。
ちょっと待てよ……加減はしたけど、全然ダメージになって無いのか!?
「おいおい、魔法の無詠唱使用だって? お前、本当に新入りか?」
俺を見ながらそう言うと、やがて新しい玩具を前にした子供の様に満面の笑みを浮かべた。
しかしその目は獲物を見据える獣の様に鋭いものだ。
「気に入った! お前、他の魔法は使えるのか!? もっと楽しませろ!」
斧槍を構え再び迫って来るオルガ、その速さは先程の比では無い。
こいつ、本気を出していなかったって事か!
「アースウォール!」
俺とオルガの間を隔てる様に地面から分厚い土の壁が形成される。
「おらぁっ!」
掛け声と共にオルガが斧槍を振るう、その瞬間壁は意図も容易く真っ二つに切り裂かれた。
壁を砕くのでは無く切ったという事はかなりの剣気だ。
生半可な魔法じゃ駄目だ。 もっと、集中しろ……!
「ウィンドメイル……!」
風が渦巻き、俺の体を包み込んだ。
この魔法は元々ウィンドハイドランスという、相手の動きを阻害する為の魔法なのだが、風の働きを変えれば逆の使い方……瞬発力や筋力の増大も出来るのではと俺が改良したものだ。
向かって来るオルガに俺も突っ込んで行く。
しかしその速度は先程よりも更に速く、一瞬でオルガの懐に入り込み剣を振り抜いた。
驚くオルガ、だが反応速度は目を見張るもので振るった剣は斧槍の柄で止められる。
まだだ!
今オルガは俺の剣を止めるのに両手を使っている、拳を握り締めてがら空きの腹部へと拳を叩き込んだ。
風により威力が格段に上がった拳はオルガの巨体を後方へと吹き飛ばした……が、姿勢を戻してその場に踏み止まった。
俺達の戦いを見ていた野次馬から歓声が上がる。
「今のは効いたぞ……」
不適な笑みを浮かべオルガの雰囲気が変わった。
やはり大したダメージを受けている様子は見られない、この頑丈親父が!
「お前の事をもう新入りとは思わない、俺と対等の、強者として相手をするぞ!」
そう言った瞬間、オルガの姿が消え、気が付いた時には目の前に斧槍が迫っていた。
「っ!?」
咄嗟に後方に下がるが避けきれず、刃が頬を掠り血が吹き出す。
「この野郎……っ!!」
反撃に転じようと剣を振るう。
それに対しオルガもまた斧槍を翻し、刃と刃がぶつかったその瞬間、手にした剣が甲高い音と共に砕け散った。
砕けた刃が振りかかり、更に幾つかの傷が出来る。
しかし感じるのは傷の痛みなどでは無く、手にした剣の軽さだけだった。
嘘だろ……おじさんに貰った剣が……剣気を纏わせていたのに……。
武器が使えなくなったにも関わらず、オルガの攻撃は止まらない。
剣を砕いた刃とは逆の柄の先端が迫る。
あ、不味い……。
砕かれた剣を呆然と見ていたせいで、反応出来なかった。
迫り来る柄をただただ見ている事しか出来ず、訪れる衝撃に身構える。
「そこまでよ」
聞こえた声は俺のよく知る人物のもの、目の前に舞う白銀の長髪。
アーリアさんが凛とした表情で俺とオルガの間に立っていた。




