第36話 挑戦
あれから部屋を後にした俺達は再びギルドの一階へと戻って来た。
先頭は再びマリーさん、そしてエミリアとアーリアさんなのだが、なぜか俺の両サイドに並んでそれぞれ俺の腕を掴んでいた。 アーリアさんは俺より背が高いから歩き辛いと思うのだが……。
いやまあ、こんな綺麗な女性二人と、ましてやこんな風に腕を組むのは嬉しいよ? ただ酒場にいる男の冒険者からの視線がとてつもなく痛い。
何かもう視線だけで殺しそうな程の殺気が込められているから恐い。
ちなみに先程絡んで来た四人は自力で帰ったのか誰かが運んだのか知らないが姿は無かった。
そのまま受付まで戻って来てからマリーさんが俺達に向き直る。
「えっと、それでは三人は今日からFランク冒険者とし登録されましたので依頼を受ける事が出来ます。 依頼はあちらにある掲示板にランクごとに張り出されていますから、用紙を受付まで持って来て頂くと受ける事が出来ます。 詳しい仕組みはアーリアさんが知っていると思いますが……」
「えぇ、問題無いわ」
「それでは以上で終了となります。 お疲れ様でした」
マリーさんへとお礼を述べてから俺達は酒場の空いた席へと移動した。
「さて、先ず二人は晴れて今日から冒険者よ、おめでとう」
アーリアさんからの祝福の言葉に俺とエミリアは揃って頭を下げる。
「それでこれからの予定なんだけど、明日からいきなり依頼を受ける様な事はせずに先ずは必要な物を揃えましょう」
成る程、つまりは買い物か。 旅をするのに色々な物を持って来たが冒険者には他にも必要な物が増えるのだから当然だろう。
「それに体を休めるのも必要だから二、三日は買い物とこの都市の観光をしましょう」
「観光……確かに色々と見て回りたいですね」
これだけ大きな都市だ。 冒険者として依頼を受けるのも大事だがそれだけじゃあ勿体無い。 村には無い物があるだろうから楽しみだ。
「とりあえず今日はこのまま宿を探しましょう。 ちょっと待ってて、受付に宿の事を聞いて来るから」
そう言ってアーリアさんは立ち上がり、受付へと向かった。
テーブルに俺とエミリアが残される。
「あの、アル?」
「ん?」
「えっとね、さっきはごめんなさい。 私の為に試験を受けられなくて……」
「大丈夫だよ、さっき言った通りエミリアも一緒じゃないと意味が無いだろ? それに急ぐ訳でも無いし時間はまだあるんだから」
「うん……ありがとう」
「お礼なんていいって、それより今日から冒険者なんだからもっと特訓に力を入れるから頑張ろうな?」
「うん! よろしくね、アル!」
眩しいと思える程に笑顔になるエミリアに釣られて俺も自然と笑みが浮かぶ。
「よお、お前がさっき四人を伸した新入りだな?」
突然、後ろから声を掛けられた。
驚いた。 会話の最中も周囲の気配を気にしていたのに、後ろに立たれた事に気付けなかった。
後ろを振り返ると、一人の男が立っていた。
かなり大柄で優に二メートルを超す巨体、前に組まれた太くたくましい腕、金色の短髪にコバルトブルーの瞳は好奇心に満ちていた。
「……何ですか?」
「質問したのは俺だ。 お前がさっきの新入りだな?」
「……そうですけど、何か?」
「はははっ! 子供なのに中々胆が座ってるじゃねぇか! 面白い、気に入った!」
何が面白いのか、男は豪快に大声で笑い始めた。
端から見れば不審者にしか見えないが、この男……かなり強い。
しばらく笑っていた男が真っ直ぐに俺を見る。
「俺はオルガってんだ! お前は?」
「……アルファンドです」
「アルファンドか! 良い名前だな!」
「どうも」
わからない……こいつ、オルガだったか? 何を考えているのか全く見当もつかない。
しかし名が知れてるのか、周りのテーブルに座っている他の冒険者達のほとんどがオルガを見てこそこそと話している。
「聞いたぞ! お前新入りなのに四人、しかもDランクパーティーの奴らを相手に勝ったんだってな! その強さが本物か見てみたい!」
「はい?」
「ちょっと付き合え! 演習場に行くぞ!」
「いやいや、いきなり何を言ってるんですか? そもそも俺に何の得があるんですか?」
「得ならあるぞ! 自慢じゃないが”Aランク”の俺と戦える!」
「なっ!?」
耳を疑った。 Aランクだって? こいつが?
確かに只者で無いのは感じていたが、こいつがアーリアさんと同じAランク?
道理で周りの冒険者の視線を集める訳だ。
「とは言ってもついこの間Aランクに上がったばかりだけどな! それより悪い話じゃないだろ?」
「……そうですね」
興味が沸いた。
Aランクになったばかりだと言ったが、それだけの実力を持っているって事だ。
今の俺が、Aランク相手にどこまで通用するのか試してみたい。
「わかりました、行きます」
「アル!?」
「大丈夫だよエミリア、ちょっと行ってくる」
心配そうな表情を浮かべるエミリアを宥めながら立ち上がるとオルガは満足そうに頷いて歩き始め、俺もその後ろを追って歩き出した。
話を聞いていた周りの冒険者達が互いに顔を見合せ、ぞろぞろと俺の後ろに着いてくる。
どうやら俺とオルガの戦いに興味を持ったらしい、つまりは野次馬だ。
まあこの際後ろの奴らは気にしない、今は目の前を堂々とした足取りで歩くAランク冒険者、オルガだけに集中する。
上等だ、やってやるよ。




