第34話 ギルドマネージャー
「こちらです」
この受付嬢、先程自己紹介をして貰って名前はマリーさんというらしい。
そういえばマリーさんの特徴、明るい金髪を後ろで一つに纏めた所謂ポニーテールに瞳は淡い紫、身長は俺より少し高いぐらいと女性にしては長身だ。
そしてギルドの制服なのか白と紺を基調としたメイド服の様な服装をしているのだが、デザインに少し問題が。
何て言えばいいのか……ウエストを細く締め付ける様なデザインの為、その、胸が強調されているのだ。
しかもスカートが際どい短さで、正直目のやり場に困る。
どうしたものかと思っていると、アーリアさんとエミリアが無言で俺とマリーさんの間に割り込む様に入って来た。
あ、助かります……そう思ったのだが、二人からジト目で睨まれた。
いや、別にそんな睨まなくてもいいじゃないか。
少々肩身の狭い思いをしながらもマリーさんに案内され、ギルドの二階に連れて来られた俺達はとある一室で足を止めた。
「マリーです、三人をお連れしました」
「入りなさい」
中から聞こえたのは、女性の声だった。
「失礼します」
扉を開けて中へと入る様に促される。
三人の後に部屋へと入ると中は大量の本と資料で埋め尽くされていた。
そして部屋の中央に大きな机があり、そこに一人の女性が座っていた。
初めて見る濃い緑色の髪、こちらを見つめる金色の眼光は鋭く、堂々とした雰囲気がこの人物が只者では無いと感じさせる。
「はじめまして、私はこのカリンティアの冒険者ギルドのギルドマネージャーをしているフロワよ」
フロワと名乗った女性は立ち上がりこちらへと近寄って来る。
そこで気付いた。
彼女は黒いドレスの様な服を着ているのだが胸元と背中が大きく開いており、谷間を強調していた。
更によく見るとスカート部分には深くスリットが入っていて艶かしい脚がチラチラと覗いて見える。
……何だろう、ギルドの関係者はこういう際どい服装が多いのだろうか? もし規則なのだとしたら、即刻考え直して欲しいものだ。
しかし、何だか違和感を感じる……何だ?
やがて彼女は真っ直ぐ俺の目の前へとやって来た。
「貴方がアルファンド君ね?」
「あ、はい、はじめまして」
「そんなに緊張しなくてもいいわ、さっき下で四人の冒険者を相手に一人で伸したと聞いたのだけれど……?」
「まあ、そうですね、でもあの四人って低ランクの冒険者だからだと思いますけど……」
「あら、あの四人は全員Dランクの冒険者よ?」
「えっ!?」
あれで、Dランクなのか? ただの新人いびりをしている低ランク冒険者だとばかり思ってた。
もしかしてこの世界の冒険者って意外と大した事無いのか? いやいや、油断は禁物だ。 あいつらが単に大した事無いだけで他の冒険者はきっと強い筈だ。
「これは中々期待のルーキーが入った様ね……でも本当に貴方にそれだけの実力があるのかしら?」
そんな事言われても、どうやって証明しろと? 確かに言葉だけでなら何とでも言えるけど……っ!?
突然、後ろから殺気を感じた。
反射的に剣を抜き、振り向き様に構えると後ろから降り下ろされていたナイフが目の前に迫っていた。
「っ……このっ!」
迫り来るナイフを剣で受け、そのまま横に受け流しながらナイフを持つ人物へ追撃を狙おうと相手の顔を見た。
「えぇっ!?」
思わず驚いて変な声を出してしまった。
まあそれも仕方ないと思う、だって後ろからナイフで襲って来た相手、ついさっきまで俺の目の前にいた筈のフロワさんだったのだから。
「えっ、な、何で!? さっきまで目の前に……あれっ!?」
「アルファンド君、今のは光魔法を使った幻影よ」
アーリアさんがフロワさんを睨みながらそう教えてくれた。
「光……って事は、光の屈折とかそういう理論ですか?」
「流石アルファンド君、そうよ」
流石と言われたが前の世界で少し習っただけでそんなに専門的な事は知らない。
でもすげぇな、確かに理論上は可能なんだろうけどちょっとやそっとじゃ出来ない芸当だろう。
「……ところでフロワ、どういう事か説明しなさい」
アーリアさんがフロワさんへと尋ねる。
ん? 今フロワって呼び捨てで呼んだよな。
「ふふっ、そんなに怒らなくてもいいじゃない、冒険者をやめた貴女がもう一度ここへ戻って来るなんて耳を疑ったけど……どうやらこの子にはそれに値する価値がある訳ね」
まるで値踏みする様な視線を向けて来るフロワさん。
いやいや待ってくれ、全く理解出来ないから説明して欲しいんだが。
「あの、ギルドマネージャーとアーリアさんは知り合いなんですか?」
「ギルドマネージャーなんて堅苦しい呼び方はしないでフロワで構わないわよ、昔まだアーリアが冒険者だった頃から私はギルドマネージャーをしていたからよく知ってるの、他の冒険者の間で彼女の事を知らない人はいない程有名だったのよ」
「そうなんですか?」
「……別にそんな大した事じゃないでしょ」
アーリアさんの表情は不機嫌そうな、どこか晴れないものだった。
やはり、過去の事は思い出したく無いのだろうか?
「ギルド創設以来最速でAランクまで登り詰めた”白銀の魔女”がよく言うわね……」
「その呼び方はしないで」
突然、アーリアさんから濃密な殺気が放たれた。
その殺気に思わず体が強張る。 隣のエミリアと向かいにいるマリーさんも顔を青白くさせ、エミリアに至っては体を震わせながら俺の腕にしがみついて来る。
「ちょっとアーリア!?」
「昔の事はもう関係無い、私は私、ただのFランク冒険者よ」
「わかったからその殺気を押さえなさい! この子達が辛そうよ!」
「っ!」
フロワさんの一言に、濃密な殺気が嘘の様に消え失せた。
アーリアさんの表情が一変し、俺とエミリアを心配そうな表情で抱き締めた。
「ご、ごめんなさい! 私ったら何て事を!」
「ア、アーリアさん、落ち着いて下さい……エミリアも、もう大丈夫だから安心して」
アーリアさんを宥め、震えるエミリアの背中をゆっくりと擦る。
エミリアはよっぽど恐かったのか、涙目で俺の腕から離れようとしなかった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
「アーリアさん、本当に大丈夫ですから……フロワさん、アーリアさんの言う通りアーリアさんはアーリアさんです。 昔何があったのか俺は知りません、だけどそれがアーリアさんにとって思い出したく無い過去なら、それ以上何も言わないで下さい」
フロワさんの目を真っ直ぐ見詰め、真剣にそう伝えた。
その視線から逃れる様に目を逸らしながらフロワさんは気まずそうに口を開く。
「……悪かったわ、まさかこんな事になるとは思わなくて、ごめんなさい」
フロワさんが深々と頭を下げた。
まあ、これ以上言わないのであれば俺は何も言わないけど……冒険者になって初日でギルドマネージャーに頭を下げさせるって大丈夫なのだろうか?
マリーさんなんて頭を下げるフロワさんを見て目を円くしているし。
何だか、心配になって来た。




