第33話 返り討ち
声を掛けて来たのは、四人の男達だった。
こいつら、確か入口に一番近いところで酒を飲んでいた奴らだったな。
表情を見る限り、どうやら初めから俺達に絡むつもりだったらしい。
「……何か用ですか?」
「はっ、何か用ですかだぁ? あのな、ここはお前みたいながガキが来るところじゃないんだよ」
顔を寄せて来てそう告げる男、かなり酒臭い。
何だよ、ただの酔っ払いか。
「ガキはガキらしく家に帰ってママに甘えてればいいんだよ」
その言葉に大きな笑い声を上げる男達、かなり不快だ。
更に男達は俺達を囲む様に動いた。
アーリアさんも不快に思っているのか、冷めた目を男達に向けている。
エミリアは恐がって俺の傍に寄り添って来る。
「悪いけど、冒険者になるのに年齢は関係無いんじゃない? それに貴方に決められる筋合いは無いと思うわよ?」
アーリアさんが男へと鋭い視線を向ける。
「おぉっ!? こりゃあ上玉の女じゃねぇか! どうだ? 俺達と一緒にパーティーを組まないか? 色々と満足すると思うぜ?」
アーリアさんの顔を見て、その不快な顔を更ににやにやとした表情にしながら舐め回す様にアーリアさんの体を眺める。
そんな男に対し、アーリアさんは表情を変える事無く男の顔から足下まで眺め、そして鼻で笑った。
うわ、結構ダメージが大きいやつだこれ。
「貴方如きに満足する訳が無いでしょう? 寝言は寝て言いなさい」
……格好いいですアーリアさん。
アーリアさんの発した言葉に男は顔を真っ赤にさせ、激昂して詰め寄って来る。
「おいこら、そりゃあどういう意味だ? あぁ?」
「さあ? それは自分の体に聞いてみたら?」
「……知ってるか? 冒険者同士の争いにギルドは介入出来ないんだよ、つまりお前が今からどうなろうと誰も助けないって事だぜ?」
「あら? 私より自分の心配をしたらどうかしら?」
「この女!!」
男の怒りが最高潮に達したらしく、腰に携えた剣へと手を伸ばした。
うーん、アーリアさんなら心配はいらないとは思うんだけど、女性に暴力を振るう男は個人的に許せないんだよな。
仕方ない……。
「剣を抜けば、死にますよ?」
男が剣を抜くより速く、男の首筋に刃を当てた。
突然の事に、男は動きを止める。
酒場で事の成り行きを見ていた他の冒険者達のどよめく声が広がる。
「なっ、てめぇガキ、いつの間に……!?」
「別にそれはいいじゃないですか、それより女性に暴力を振るうのは見過ごせません」
俺の言葉に、アーリアさんが何故か嬉しそうに両手で頬を押さえながら体をくねくねと動かしている。
アーリアさん、俺は至って真面目に対処してるんですから隣で変な動きしないで下さい。
更には『そこは俺の女に手を出すなって言われたかったわ』なんて事まで言ってる。
やめて下さい。
「……このまま引いてくれるのでしたら俺も許しますけど、どうしますか?」
「このガキが……生意気なんだよ! おい!」
男が声を上げると、周りに立っていた男達が俺達に剣を抜き放った。
エミリアの口から恐怖で短い悲鳴が漏れる。
おい、せっかく見逃してやろうと思ったのに、しかもエミリアに手を出そうとしやがったな?
……ぶっ飛ばす。
手を翳してエミリアに近い男へとウィンドショックをぶつける。
その瞬間、男はまるで小石を蹴ったかの様に簡単に、入口の扉を突き破って外へと吹き飛んだ。
そのままエミリアを片腕で抱き寄せ、後ろに庇う様にして残りの男達を睨む。
「な、何だこいつ!?」
「今のは魔法か!?」
慌てて俺に対して剣を構える二人の男へと一瞬で間合いを詰め、一人に対して剣の鞘で思い切り殴り付けた。
「ぐぎゃっ!?」
数本の歯を飛ばしながら、男はその場に倒れ伏した。
仲間が倒れた事で慌てるもう一人の男の顔に手を翳す。
「アクアホールド」
水の塊が、男の顔を覆い尽くした。
水から逃れようとする男だが、流れる水を掴む事が出来ない様に顔を覆う水は取れず、逃れる事は出来ない。
呼吸が出来ずにもがく男から視線を外し残る一人、初めに絡んで来た男へと近付く。
「て、てめぇ……何者だ……!?」
「別に、ただの見習い冒険者だよ」
剣を構え、男の首筋へと狙いを定める。
その視線に気付いたのか、男が慌てて剣を投げ捨てた。
「ま、待て! 俺が悪かった! 命だけは……」
「確か、冒険者同士の争いは、誰にも介入されないんだったよな?」
「ひ、ひぃいいいっ!?」
剣を男の首筋目掛けて振り抜く……事は無かった。
刃は男の首筋ギリギリのところで止めた。
男は恐怖のあまり気絶した様で、白目を向いて倒れてしまった。
「……大の大人が、情けないな」
「アルファンド君が強すぎるのよ」
アーリアさんは苦笑しながらそう言って、倒れている男から俺の使ったアクアホールドを解除している。
あ、忘れてた……まあいいか。
「それにしても、冒険者ってこんな奴らばかりなんですか?」
「血気盛んな人は多いけど、こういう事をするのは極一部よ」
極一部って、何人かはいるんだな。
溜息を吐きながらエミリアへと近付く。
「ごめんなエミリア、恐かったよな? 大丈夫か?」
「う、うん……大丈夫……」
安心させる様に頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細めた。
何だか小動物みたいだ。
「あ、あの~」
「えっ?」
後ろから声を掛けられた。
振り向くと、俺達の対応をしていた受付嬢だった。
「何ですか? 別にこれは冒険者同士の事ですから何も問題じゃないですよね?」
「あ、違うんです! その、ギルドマネージャーが三人をお呼びしてまして、一緒に来て頂けますか……?」
受付嬢の言葉に、俺達は黙って顔を見合わせるのだった。




